平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会
第12分科会
基調報告
障害者サービスの理念と具体的サービス、この1年の特徴
佐藤 聖一(JLA障害者サービス委員会)
この基調報告では、障害者サービスの理念・基本的な考え方を説明し、具体的なサービスを紹介する。特に、障害者サービスが障害者を対象とした対象者別サービスではなく、もちろん恩恵的なサービスではなく、「すでての人の図書館利用を保障するという、図書館の基本業務であることを解説する。
また、障害者サービスの最近の動向についても説明する。
1 障害者サービスの意味
(1)ノーマライゼーション社会の実現とバリアフリー
ノーマライゼーションとはすべての人が社会で共に生きる社会。その実現のためには、障害者自身の自立と、社会のあらゆる場面での受け入れ体制が必要。
(2)障害者サービスの定義
「図書館利用に障害のある人々へのサービス」
障害者サービスは、障害者に手を差し伸べてあげるというような「恩恵的」なものではない。図書館利用に障害のある人に、図書館のすべてのサービスが利用できるようにするものであり、それは当然図書館自身が行うものである。
(3)障害者サービスの目的
「すべての人にすべての図書館サービス・資料を提供すること」
すべての人にすべての資料を提供するのは、当然図書館がやるべき基本的サービス。障害者や高齢者が来館された時に普通に(障害なく)すべてのサービスが受けられるか。「障害は障害者にあるのではなく、図書館のサービスにこそある。」
2 障害者サービスの対象
(1)「利用に障害のある」とは
身体障害者や高齢者だけではなく、図書館利用に何らかの障害のある人はたくさんいる。
(2)対象
具体的には、様々な身体障害者、精神障害者、知的障害者、学習障害者・ディスレクシア等、高齢者、入院患者、施設入所者、受刑者、外国人、病気等による一時的な障害、妊産婦等が上げられる。
3 障害者サービスの手法
(1)資料を何らかの方法で利用者の手もとにとどけるもの
図書館迄来られないが、資料そのものは利用できる人には、「郵送貸出」「宅配」「施設へのサービス」「入院患者サービス」「受刑者に対するサービス」等の手法がある。
(2)資料を利用者の使え 骭`に変換して提供するもの
視覚障害者等、資料をそのままでは利用できない人には、「拡大・大活字資料」「点字資料」「録音資料」「リライト」「字幕・手話入りDVD・ビデオ」「布の絵本・触る絵本」等に変換したものを提供する。
(3)図書館を利用しやすくするためのもの
サービスそのものではないが、「施設・設備の整備」「図書館が行う催し物への障害者対応」「コミュニケーションの確保(点字・手話・外国語等のできる職員の配置)」「障害者・高齢者に配慮したホームページ、利用者OPAC、コンピュータ」等の配慮が必要である。
4 障害者サービス用資料
(「世界のバリアフリー絵本展、障害者サービス用資料展・機器展」で実物を展示)
(1)点字資料・点字絵本
点字の貸出は横ばい。点字の読める視覚障害者は大変少ない。
(2)録音資料
貸出は年々増加している。従来のカセットテープから急速に(次の)DAISY(デイジー)に移行しつつある。
(3)DAISY資料
音声だけのDAISYとマルチメディアDAISYがある。
- DAISYの特徴 高い検索機能、しおり機能、音の劣化がない、コンパクト等
- DAISYの利用者 視覚障害者、高齢者、手の不自由な人、寝たきりの人、学習障害者等、活字資料をそのままでは利用できない人。
- DAISYの普及状況 5年以内にカセットテープは終焉。録音再生機は非常に安価に入手可能。
- DAISYの製作方法 日本語を音に替えるまでは従来と同じ。音声データをコンピュータに落とし込み、専用ソフトで編集する。(DAISY編集者が必要)
(4)大活字本、拡大写本
弱視者・高齢者等に有効な資料であるが、絶対数が少ない。出版量も非常に少ない。
(5)リライト
やさしく読みやすい表現に書き直した資料。いろいろな障害者に有効であるが、日本ではほとんど製作されていない。
(6)布の絵本、触る絵本
児童サービスで従来からあるものも同じ。だれもが使えるユニバーサルな資料といえる。
(7)字幕・手話入りDVD・ビデオ
聴覚障害者のために大変有効であるが、著作権法のこともあり、日本ではあまり製作されていない。今後の伸展が期待されている。
(8)資料の入手方法
これらの資料はほとんど購入することができない。図書館同志の相互貸借により融通し合っているが、それだけでは利用者の要求に満足に応じることができない。そこで、図書館自ら資料を製作し、「必ず提供する」姿勢がほしい。
5 主な障害者サービス
以下に上げるサービスをすべて行っている図書館はない。各館の実情に応じて実施することになるが、最低限資料の郵送貸出と対面朗読はすべての館で実施してほしい。また可能である。
(1)障害者サービスの方向 相互協力とネットワーク
単館ですべての障害者サービスを行うことはできない。それぞれが実情に応じたサービスを行い、全国的な相互協力体制を組んで、それを補っている。
(2)対面朗読
- 対面朗読とは 広い意味の「閲覧」をすべての人に保障すること。
- 利用対象者 視覚障害者、高齢者、手の不自由な人、学習障害者等
- 対面朗読を行う人 対面朗読者(図書館協力者)と図書館職員が行う方法がある。図書館の責任で、受付・資料の準備・朗読者の手配をすることが重要。
- 注意点・こつ 図書館職員・朗読者・利用者の連携(それぞれの役割)
利用制限(時間・回数)をなくす(開館中は利用できるようにする)
最寄り駅からの送迎(職員または朗読者が行う)
ガイドヘルプ・福祉タクシーの活用(福祉サービスとの連携)
(3)録音資料・点字資料・デイジー資料・CDの郵送貸出
- 郵送貸出の方法 自館で所蔵していないものは他館から借りて提供できる。資料がなくてもサービスは可能。(全国的な相互貸借システム」全国総合目録、「点字図書・録音図書全国総合目録」(国会図書館HP)、「総合ないーぶネット」(点字図書館のデータが中心)
- 読書相談、資料案内テープの作成・配付 視覚障害者等はどんな資料があるかが分からない。こちらから積極的に情報提供をする。
- 録音雑誌の貸出 雑誌を継続的に貸出すサービス。
(4)資料(録音・点字図書等)製作
リクエストされたものを必ず提供する姿勢。全国で200館ほどが実施。
(5)郵送貸出(一般資料)
わずかな予算ですべての館で実施可能。
- 身障者用冊子小包(届け出制) 最寄りの郵便局でOK。
- 郵便料金の支払い 往復とも図書館が負担しているケースが多い。
(6)宅配
職員(一部ボランティア)が直接資料をとどけるサービス。その場で読書相談等も行う。
(7)電話・ファックス・ホームページ・電子メールを使ったレファレンス等のサービス
これらのサービスは障害の有無に関係がない。聴覚障害者のためのメールやファックスによるサービス、視覚障害者のための電話による短時間読み上げ等のサービスもある。
(8)施設へのサービス
- 種々なサービス形態 提起的な訪問・店開き、団体貸出、郵送、BMステーション等。施設と相談して実施する。
(9)入院患者サービス
- 入院患者と情報 患者は医療情報を必要としている。また読書は治療に有効。
- 種々なサービス形態 提起的な訪問・店開き、団体貸出、郵送、BMステーション等。病院と相談して実施する。
(10)受刑者に対するサービス
強制施設の貧弱な資料。団体貸出等で行う。日本では実施館が大変少ない。
(11)高齢者へのサービス
(詳しくは午後の高島先生へ)
- 拡大文字資料、拡大読書機 今後利用が増大する。
- 従来からある障害者サービスの活用 対面朗読、郵送貸出等。
(12)多文化サービス
外国人や、在日の日本以外の国を母国とする人達へのサービス。
外国語の資料だけではなく、日本語の資料についても配慮すべきことが多い。
(13)機器を使ったサービス
- 拡大読書器による閲覧 高齢者にも大変有効
- 音声パソコンによるインターネット・CD―ROM等の利用
- 自動朗読器による閲覧・コピーサービス 対面朗読を補完するもの。
6 障害者サービスの課題
(1)著作権の問題(資料製作やインターネットによる貸出しが自由に行えない)
- 資料製作(=複製)にともなう問題 障害者サービス用資料を製作するためには、著作権者への許諾が必要。実質許諾が得られないケースがある。
- 利用対象者の拡大にともなう問題 視覚障害者以外の利用ができない音声資料がある。活字資料がそのままでは利用できない人が使えるようにしてほしい。
- 貸出方式の多様化にともなう問題 DAISYデータ(音声データ)をインターネットで送信したい。自宅でいつでも利用できる。
- 同一性保持権・翻案権の問題 ビデオへの字幕・手話挿入ができない。
(2)障害者サービスの基本的考え方が正しく理解されていない
- すべての図書館サービスの基礎であることが理解されていない。「障害は障害者にあるのではなく、図書館サービスの方にある」
- 恩恵的サービスのように考えられている(職員・利用者共に誤解している)
(3)図書館協力者(対面朗読者と資料製作者)のあり方とボランティアとの違い
図書館協力者は、本来図書館(またはその職員)が行うべき資料提供(対面朗読・資料製作)をその職員に代わり行うものである。職員は資料変換のための専門技術を有していないため、音訳者等の専門技術者に依頼している。つまり、図書館協力者は、障害者のための活動ではなく、図書館職員の代わりの仕事をしている。そのためボランティアはおかしい。賃金なり謝金の支払いが必要。ボランティアでは利用者の気がねに繋がり、利用を保障したことにはならない。
(4)他の福祉活動・ボランティア活動・点字図書館等との違いが理解されていない
前述のように図書館の障害者サービスは福祉的・恩恵的なサービスではない。あくまでも図書館が行うべき基本的なものである。また、点字図書館とは(主に視覚障害者サービスにおいて)協力してサービスを行っていくが、その目的や手法は異なる。公共図書館の方が利用対象者が広く、点字図書館に委ねることはできない。
(5)相談先が分からない(近くに無い)
地域によっては実施館がなく相談する先もないところがある。ぜひ日図協障害者サービス委員会等に直接問合わせてほしい。
(6)大学の司書課程・講習に障害者サービスがきちんと取り上げられていない
司書の専門技術の一つとして障害者サービスを学ぶことは重要であると考えている。日本の司書教育はこの部分でも立ち後れている。
7 障害者サービスの現状(特徴)
(1)サービス実施の有無・その内容に地域差が大きい
障害者サービスをほとんど実施していない地域があることが最も問題である。また、実施していても、その内容にばらつきが大きい。熱心な職員による試行錯誤により行われてきた歴史ともいえるが、スタンダードな障害者サービスを全国に展開する必要がある。
(2)利用対象者の拡大
従来は視覚障害者へのサービスが主流であったが、徐々に「図書館利用に障害のある人」への意識が強まってきている。誰もが使える図書館を目指したい。
(3)新しい障害者サービス用資料「DAISY」
DAISYの登場は障害者の情報環境を大きく変えようとしている。視覚障害者にとって便利なだけではなく、音声資料の利用対象者の拡大を促すものである。またマルチメディアDAISYにより、さらに多くの障害者が使えるものとなる。また、インターネット配信等、飛躍的な情報環境の変革も可能となりつつある。そのためにも、著作権法の改正が待たれる。
(4)障害者サービスに対する考え方の変化
冒頭の、「ノーマライゼーション」や「図書館利用に障害のある人へのサービス」という考えによる図書館が徐々に出てきている。大変喜ばしいことであるが、次にサービス内容の充実が課題となっている。
8 注目すべき点
(1)公共図書館の財政難、障害者サービスの縮小
日本の公共図書館は職員減・資料費の削減という大きな試練に立たされている。本来購入すべき資料も買えない状況の中で、障害者サービスはさらに厳しい実情にある。購入や製作による受け入れ資料数の削減が予想される。幸い利用の減少にまではいたっていないが、このような状況では障害者への情報保障はまったく担保できない。
(2)著作権問題の動き
(詳細は後の常世田氏の発表に譲るが)著作権問題解決のための動きが見られるようになってきた。著作権者の代表と図書館側との継続的な討議もあり、法律改正に前向きな動きも出てきている。今後の動きに特に注目してほしい。
(3)国連「障害者の権利条約」
昨年の国連による障害者の権利条約の採択は、日本のあらゆる障害者活動にとって画期的なものである。2年後に予想される条約の批准に向けて、日本ではあらゆる社会システムを検証し、改正していく必要がある。そのくらい日本の障害者に対する社会システムは立ち後れている。この条約がその後押しになることを期待している。
(4)郵政民営化
障害者サービスは、3種・4種郵便等の障害者に配慮した郵便制度によって成り立っている。民営化によりこれらの制度が後退することのないように注意していく必要がある。
参考資料
- 「すべての人に図書館サービスを 障害者サービス入門」
日図協障害者サービス委員会編(1994年3月) - 図書館員選書12 「障害者サービス補訂版」
日図協障害者サービス委員会編(2003年9月) - 図書館員選書12 「障害者サービス補訂版」(マルチメディアDAISY版)
日図協障害者サービス委員会編(2003年9月) - 「図書館がかわる 全国実態調査から」
(障害者サービスの導入方法を示し、全国的状況を具体的サービス別にまとめたもの。)
日図協障害者サービス委員会編 2001年6月 - 「障害者サービスの今をみる」
日図協障害者サービス委員会編 2006年7月
(1)2005年度実施の障害者サービス全国実態調査(一次)報告書
(2)「始めようDAISY 公共図書館でDAISYに取り組むために(マニュアル)」
(3)「図書館協力者(対面朗読者と資料製作者)導入のためのガイドライン」
この記事は日本図書館協会発行「平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会要綱」より 転載させていただきました。