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スウェーデンにおける印刷字を読むことに障害のある人々への図書館サービス-ディスレクシアとDAISYを中心に-

この学校では誰もが読もうとする意欲に満ちています

スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行
新聞『読み書き』(FMLS発行)2007年5月号, p.18
文:エヴァ・ヘドベリィ

ディスレクシアの為の特別な学校は本当に必要なのでしょうか? 『読み書き』はこの問題の答えを探すために、ソルナ(Solna)にあるエングシェール学校を訪ねました。エングシェール学校はディスレクシアの子どもを対象とする、スウェーデンでたった1つの小中学校です。

「この学校に行っていて一番いいのは、本を読み上げる時に恥ずかしがる必要がないことです。問題を抱えているせいで孤立しないで済むのです。」8年生のアンコーが言いました。

エングシェール学校は4年生から9年生の90人の生徒が通うフリースクールです。この学校の特徴は、生徒が全員ディスレクシアだということです。訪問者は学校が小さいことと、教師の数が非常に多いことに圧倒されます。生徒達の必要に応える為に教師の割合が高く、クラスの規模は普通の学校の半分程度なのです。

教師のカイサ・スネッルストレームは8年生のスウェーデン語を受け持っています。現在彼らは『木の神々の国』という本の、簡単に読めるヴァージョンを読んでいます。彼らは一緒に本を読み上げ、内容と単語とを一緒にじっくりと学びます。

「森林地帯(skogsbygd)とは、実際はどんな意味なのでしょう?」カイサはスウェーデンにある森林地帯を地図上で示し、さらに田園地方(landsbygd)、過疎地(glesbygd)、そして地域(bygd)という言葉について皆で話し合いました。

部外者にとっては、他の普通の中学校を訪ねているのと変わらない印象を受けます。しかしいくつか重要な違いがあるのです。

「始めてこの学校に来た時には、特に他と変わった点は見られません。しかし僕達が本を読み上げているのを聞けば、何かが特別なのだと判るでしょう。この学校の良い点は、みんなが同じ問題を抱えていることなのです。」アンコーは言う。

アンコーと彼の同級生はみんな、それぞれ普通の学校へ通っていました。彼らは特殊教諭に手助けされるか、小さな学習グループに入っていました。しかしそれでも彼らや彼らの親達が必要だと考えている支援を受けることはできませんでした。

生徒のヨエルはこう言いました。「僕はスウェーデン語と算数の、少人数の学習グループに入っていました。けれどもそれは僕達のような読むことに困難がある子どものためのものではなく、社会的な問題がある子ども達のためグループだったのです。」

ルーカスは言いました。「ぼくは特殊教諭の手助けを受ける為に、クラスから離れました。僕はスウェーデン語の練習問題をたくさんやりました。でも何も学ぶことができなかったのです。その後どうなったかといえば、ぼくはそのクラスでするはずだった勉強を、続けることができなかったのです。」

エングシェール学校では、誰も特別授業のためにクラスを離れることはありません。全ての授業が読み書きに困難を持つ生徒に合わせて行われているからです。教室には最新のデジタル機器が備え付けられてあって、全生徒が持ち運び可能なPCを持っているか、またはそれをもらえることになっています。多くの教師が特殊教育学を学んでおり、全員がディスレクシアの生徒を教えた経験を持っています。

ほとんどのカイサの生徒が、彼女の所に来る時には、中学生であるにもかかわらず復号に大きな問題を抱えているのだとカイサは言います。読書を喜んでする生徒や自分から進んで音声図書を聴く生徒は本当にわずかです。彼らは学科としてのスウェーデン語に対する抵抗感を育ててしまっています。普通の学校のクラスであれば、読書は生徒各自がするものとして、まかされるでしょう。しかしカイサの生徒達にとっては、それは時間の無駄なのです。彼らは文章を理解する為に、誰か大人と一緒に読まなければなりません。また単語や内容について話し合うことが必要なのです。一年間教師が主導を取ることによって、生徒達は読むことの技術や理解力を向上させることができるのです。

「けれども彼らにスウェーデン語は面白いと感じさせるのは、本当に難しいことです。私の目標は、彼らに読書によって何かしら得るものがあるのだと納得してもらうことなのです。」

「私達は他の子ども達を助けたくないわけではありません。でも私達が精通しているのはディスレクシアなのです。他の問題を抱えた子ども達を支援する能力を持っていないのです。ここを探してやってくる生徒達は、すでに他の学校で失敗をしてしまっているのです。彼らに再び失敗を味わわせることはしたくないのです。」副校長のスサンネ・ビッレ・ベリィマンは述べました。

読み書きに一番の問題を抱えている生徒達は、エングシェール学校でまた別のチャンスをも得ることができます。スサンネ・ビッレ・ベリィマンによると、ディスレクシア専門の特殊学校は一般の学校に比べて2つの利点があるといいます。まず始めは教育上の利点です。この学校には、ディスレクシアの分野に関する高い能力が備わっているのです。またもう1つは社会的な利点です。ここでは生徒達は自分がディスレクシアであることを考えずに済み、学習に集中できるのです。彼らはクラスのおどけ者や厄介者の役割の後ろに隠れる必要がありません。

「僕達生徒は、自分がディスレクシアであることを考えません。」そう話すのは8年生のクリストファーです。「僕達はただここへやってきて、他の学校の生徒と同じように学校生活をおくります。ぼくはこのエングシェール学校に来ることになった時、いやがりました。自分がディスレクシアであることを考えたくなかったからです。でも今はここに来ることができてよかったと思っています。自分がどれだけ学ぶことができるのか、気付くことができたからです。」

新聞『読み書き』, スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行, 2007年5月号, p.18より翻訳