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特別支援学校図書館の取組について

千葉県立槇の実特別支援学校
教諭
佐藤泰代 さとう・やすよ

はじめに(本校の紹介)

 本校は、千葉県南部の袖ケ浦市にある特別支援学校です。昭和45年に袖ケ浦養護学校の分校として設立され、54年の養護学校義務化に伴い「槇の実養護学校」として独立し、30年を迎えました。現在は小学部12学級・中学部9学級・高等部15学級で150人弱の児童・生徒が在籍しています。障がい種別ですと知的な障がいを持つ児童・生徒が主ですが、近年「強度行動障がい」と呼ばれる生徒や「自閉症スペクトラム」に属するのではないかと思われる児童・生徒が増加しています。寄宿舎はありませんが、隣接地に「千葉県社会福祉事業団袖ケ浦福祉センター養育園」があり、そこから通学する児童・生徒がおよそ半数を占めています。小学部は通学生がほとんどですが、中学部・高等部になると中途での施設入所に伴う転入生が増加する傾向があり、本校の特徴の一つとなっています。

1.槇の実特別支援学校図書館での工夫

 特別支援学校での図書館運営においては、いつも子どもたちの傍らに「本」を置こうと考えてきました。幼いうちから質の良い本に出会うことで、日本語独特の心に響く心地良さを味あわせたいと願っているからです。

 「言葉」という文字には「言霊(ことだま)」という意味があります。日本語の美しさを子どもたちに伝えていくこと、それは「心の栄養を与えること」につながると考えています。美しい言葉で語られた物語は読む人に感動をもたらし、美しい言葉に触れることは内面の美しさを磨くことに通じると思います。

 本や紙芝居には、テレビやビデオ映像と違って「やりとり」が生まれます。一方的に流れてくる映像や音声ではなく、肉声による「やりとり」を大切にすること、それがコミュニケーションの力を育て、ひいては情緒面の安定と想像する力を育てるものと考えています。

(1) あたたかみの感じられる雰囲気づくり

 本校の図書室は高等部棟の中央部にあります。平成12年の高等部棟の増改築の際に、図書室が新設されました。特別教室としてのスペースではないので、広さは決して広くありませんが、あたたかみの感じられる雰囲気作りを心がけ、室内にはカーペットを敷き、書架は全て木製にしました。高さは小学部の児童でも容易に読みたい本が手に取れるように低い書架にしてあります。絵本スタンドも用意して、季節や行事に応じたお薦めの本を展示しています。

 蔵書数はようやく2,000冊を超えました。国の基準にはほど遠い数ですが、平成13年から図書費として予算を計上して、計画的に購入してきました。

お薦めの本

《【お薦めの本】今回はクリスマス》

書架

《【書架】返す棚が「見て」わかるようにタイトルの最初の文字で色分けしています》

プレート

《【プレート】高等部陶芸班制作》

(2) おはなし会のこと

 本校では、図書室の新設当初より、袖ケ浦市から図書館ボランティアを派遣してもらい「おはなし会」を開いています。月に1回の会ですが児童・生徒たちの楽しみな時間となっています。開始当初より同じメンバーの方々なので、今ではお互いにすっかり慣れてなごやかな雰囲気の中で進められています。小学部低学年には手遊びも交えながら、高等部には長めのお話をとボランティアの方々も工夫して会を進めてくださっています。

小学部低学年のおはなし会

《【小学部低学年のおはなし会】「ぴょ~ん」おもわず上を見ちゃいました》

(3) 蔵書について

 図書室開設の時から、いつでも自由に、読みたいときに読みたい本が読める環境を目指してきました。それまでも、図書館から借りた本を読み聞かせることはしてきていましたが、借りた本を子どもたちに触らせることに危惧を抱く人もいました。「破ったらどうしよう」この気持ちはいつも頭から離れなかったのです。だから、自校の図書室の本は「どうぞご自由に」この言葉をキャッチフレーズにしたかったのです。破いたら修理すれば良いし、ひどく破損したのなら次年度に買い換えれば良い、本が破損するのはそれだけ愛されたからと考えていたからです。

 蔵書にはカバーフィルムだけはかけてあります。いくらかは破れにくくなるからです。修理するときの注意点を全職員に話し、協力を仰いでいます。また、迷子の本(紛失本)を少なくするために、色ラベルを貼り、同じ色の書架に返すことができるような「目で見てわかる」工夫もしています。

 本校の蔵書ですが、絵本や児童書だけでなく調べ学習に役立つ本、簡単な料理の本や、「図書標準」からは外れますがパネルシアターやエプロンシアター、紙芝居も購入してあります。小学部の低学年くらいの児童には「音のでる絵本」などの仕掛け絵本や写真絵本、たべものや動物の出てくる絵本が好評です。中・高等部には「総合的な学習の時間」や「職業・家庭科」の授業で作物を育てたり、調理実習をしたりする際に利用できるようにと豊富な絵や写真、図解入りの本を積極的に購入しています。

(4) 公立図書館との連携

 本校のある袖ケ浦市は読書活動の指導にとても熱心で、「読書感想文」や「調べ学習」などのコンクールにも市内の小・中学校からたくさんの優秀な作品が出品されています。そのため図書館も充実しており、おはなしボランティアの育成にも熱心な市です。本校もその恩恵にあずかり、無償でおはなしボランティアを派遣していただき、市の図書館との連携も図っています。このような恵まれた環境にあるので、本校の中・高等部の生徒も授業中に図書館を利用することができます。他の利用者の方に迷惑をかけることのないように、図書館利用のマナーについても学習する機会を設けています。

まとめとして

 特別支援学校(知的教育を主とする)の図書室はどこも決して十分な環境にはないようです。普通教室の不足から、図書室のスペースがとりにくい現状にもあります。蔵書も不足しています。「本を大切にしないから」と蔵書の購入にあまり積極的でないこともあります。

 本校でも本を破くことはあります。でも「破いてしまうから」と本を手渡さないことは指導上適したことなのでしょうか。「集中して聞いていないから」と読み聞かせをしないことはその子にとって果たして良策なのでしょうか。私たちは知的な障がいを持つ子にもその段階に適した本を選び、読み方を工夫しています。知的に遅れがあるからといって、決して粗末な内容の本を選ぶようなことだけはしません。実態を考慮した上での選書を心がけています。顔が触れあうくらいの距離での読み聞かせをしていくうちに、徐々に集中して聞くことができるようになってきます。また、指導をしていくことで本を破くことが少なくなってきたことも確かです。障がいがあることが決して、本を楽しむことの妨げになるとは思っていないからです。

 施設入所の児童・生徒はとかく本に触れる機会が少なくなりがちです。本校の児童・生徒もその傾向にあります。家庭にいることができなくなり、施設入所することで心のケアが必要になることがあります。そんな時に本を読む楽しさ、読み聞かせの楽しさに触れることで、心のケアの一助になれたらという思いがあります。

 学習の場面では、読み聞かせをしていくうちに文字に興味を覚え、一人で読むことのできるようになった子も多いのです。また、調理実習などで作り方がわかりやすく書かれている本を見ながら作ることで、自信を持ち楽しく学習することができるようになった子もいます。

 本や紙芝居は想像力をかきたてます。読み手を未知の世界に誘います。障がいがあってもこの気持ちを共有することは可能だと思います。物語の世界を楽しみ、心を豊かにしていくことに障がいの有無は関係ないと思います。

 毎年、図書室に新しい本が入ると児童・生徒が大喜びで図書室に通ってきます。この姿が見たくて選書に力がはいります。これからも笑顔のある図書室を目指していきたいと思います。


この記事は、佐藤泰代.特集,みんなに本を―読書に障害のある子どもたちへ:特別支援学校図書館の取組について.みんなの図書館.No.383,2009.3,p.16-20.より転載させていただきました。