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「障害者の権利に関する条約」批准と今後の図書館サービス
-障害当事者が参加する図書館サービスに向けて-

太田順子

1.はじめに

 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)は,「障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定める条約」で,2006年12月13日に国連総会において採択され,2008年5月3日に発効している。日本は2014年1月20日に批准書を寄託したため,30日目にあたる2014年2月19日に日本について効力を生じている。
 日本は,障害者権利条約の批准に向けて,障害者基本法の改正(2011年8月),障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(略称:障害者総合支援法)の制定(2012年6月27日公布,2013年4月1日施行),障害者雇用促進法の改正(2013年6月19日公布,一部を除き2016年4月1日施行),障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)の制定(2013年6月26日公布,一部を除き2016年4月1日施行)等,国内法の整備を進めてきた。
 本稿では,障害者権利条約の批准と関連する国内法の改正・制定により,今後の図書館サービスに必要となることについて述べる。

2.障害者権利条約

 ここで,障害者権利条約の条文の中で,特に図書館に関連する内容について確認したい。
 第2条では,「合理的配慮」を行わないことも「障害に基づく差別」に当たること,「手話」は「言語」であることが定義されている。また,「意思疎通」(コミュニケーション)として,「言語,文字の表示,点字,触覚を使った意思疎通,拡大文字,利用しやすいマルチメディア並びに筆記,音声,平易な言葉,朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態,手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む。)」が定義されている。これは,まさに図書館利用に障害のある人のための資料の媒体変換等のサービスと重なるものである。この条文に「平易な言葉」とあるように媒体変換だけでなく,リライトも含まれる。障害者権利条約の批准に先立って行われた著作権法の改正(2009年6月改正,2010年1月1日施行)では,第37条第3項や第37条の2の「障害の種類」,「複製等が認められる主体」,「認められる行為」が拡大され,これらのサービスがすべての図書館で取り組むべき課題として位置づけられたことも確認しておきたい。
 第9条では,「施設及びサービス等の利用の容易さ」(アクセシビリティ)について触れられている。「障害者が自立して生活し,及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的」とし,「物理的環境,輸送機関,情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され,又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会を有することを確保するための適当な措置をとる」とされている。さらに,(a)最低基準及び指針の作成と実施の監視,(b)障害者の利用の容易さについてあらゆる側面を考慮すること,(c)障害者が直面する問題についての研修を関係者に提供すること,(d)点字の表示,読みやすく理解しやすい形式の表示を提供すること,(e)人又は動物による支援及び仲介する者(案内者,朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること,等も書かれている。
 第21条「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」では,(a)障害者に対し,様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により,一般公衆向けの情報を提供すること,(b)公的な活動において,手話,点字,補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段,形態及び様式を用いることを受け入れ,容易にすることが挙げられている。手話については,定義も含めて7か所で言及されている。第30条「文化的な生活,レクリエーション,余暇及びスポーツへの参加」では,「締約国は,障害者が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認めるもの」とし,(c)では「文化的な公演又はサービスが行われる場所」として図書館が例示されている。
 なお,社会教育機関である図書館にとっては,第24条「教育」も重要である。

3.障害者差別解消法

 障害者差別解消法は,「全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け,障害を理由とする差別の解消を推進することを目的」に制定された。障害者差別解消法では,「不当な差別的取り扱い」と「合理的配慮の不提供」を「障害を理由とする差別」として,これを禁止している。「不当な差別的取扱い」は,「国の行政機関・地方公共団体等」でも「民間事業者(個人事業者,NPO等の非営利事業者も含む)」でも禁止される。「障害者への合理的配慮」は,「国の行政機関・地方公共団体等」は「法的義務」,「民間事業者」は「努力義務」になっている。
 障害者権利条約の批准と障害者差別禁止法の制定による最も大きな影響は,障害に基づく差別が,合理的配慮を行わないことを含むことではないだろうか。障害者権利条約では,「障害者が他の者との平等を基礎として」という表現が合理的配慮の定義の他,8か所にわたって登場するが,障害者が他の者との平等を基礎として,図書館施設及びサービスを利用することができなければ,それは差別に当たることになる。図書館にとって,「合理的配慮」は,「法的義務」である。

4.障害当事者の参加の必要性

 各地で障害者差別禁止条例や手話言語条例の制定の動きがあり,2014年6月現在,9道府県,3市で障害者差別禁止条例が,1県4市町で手話言語条例が成立している。条例成立間近の自治体も含めて,障害当事者が中心となって結成した条例を作るための市民活動が行われ,各自治体のサイトでは条例に関する情報公開が行われている。
 一方,2010年度に行われた「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」によると,「障害者サービスの実施館が多くなったにもかかわらず,利用者数を回答した館は減少している」という結果が出ている。実施しているサービスの利用者が0の図書館もあり,ニーズの把握がうまくいっていない状況がうかがえる。
 障害者権利条約の成立,日本の国内法の整備は,「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Noth-ing About Us Without Us)」の精神で活動を続けてきている障害当事者の運動によるところが大きい。図書館サービスについても,図書館協議会への障害当事者の参加等,図書館に求められる合理的配慮について障害当事者と図書館関係者がともに語り合い,よりよいサービスをともに創っていく仕組みづくりが必要ではないだろうか。

<参考文献>

(おおた じゅんこ:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)

[NDC9:015.17 BSH:障害者サービス]


この記事は、太田順子.「障害者の権利に関する条約」批准と今後の図書館サービス-障害当事者が参加する図書館サービスに向けて-.図書館雑誌.Vol.108,No.8,2014.8,p.532-533.より転載いたしました。