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『スウェーデンの特殊養護学校における録音図書の利用(1987-1990年)』より-スウェーデンのディスレクシアに関する情報

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)

項目 内容
備考 1993年、1996年 スウェーデン国立録音点字図書館報告書より

スウェーデン国立録音点字図書館の役割

スウェーデン国立録音点字図書館(以下、録音点字図書館)はもちろん図書館なのですが、政府の行政機関としての一面も兼ね備えています。その主な役割は録音図書や点字図書を製作し、貸し出すことにあります。また自らの活動について他の図書館や学校、福祉分野で働く人々に対し、あるいは公共的に、広報活動をしていくことも業務の一つです。

録音図書の製作について

録音点字図書館は毎年約2,000本の録音図書と400冊の点字図書を製作しています。

録音図書貸し出しの対象者は字を読むことが困難な人々です。肉体的、知的に字を読むことに障害がある人ならだれでも録音図書を借りる権利があります。それは逆に録音図書はそれ以外の目的、例えば語学の学習などに使用してはならないということを意味します。

録音図書を借りる権利が認められている者

  • 視覚障害者
  • 知的障害者
  • 失語症者
  • ディスレクシア
  • 聴覚障害者
  • 回復期の患者
  • 行動障害者

知的障害者とディスレクシアの人々には通常とは別の方法で録音した録音図書が必要です。録音点字図書館はこれらの障害者の目的にかなうように、知的障害者には『特別録音図書』、ディスレクシアの人々には『読書訓練用録音図書』と呼ばれる録音図書を製作しています。

特別録音図書

特別録音図書は主に知的障害者向けに製作されます。この録音図書には明確にゆっくりと発音された文章が、音楽、効果音、人々の声、風景描写、語句の説明などと一緒に吹き込まれます。教材に使われるのは挿し絵のついた直接的で具体的な内容で、大きな文字で印刷された短く読みやすい本(Lättläst bok)です。

特別録音図書は印刷された同じ本が手元にあることを前提として製作されており、録音者は挿し絵を参照する指示を出したりページをめくる箇所を指示します。この特別録音図書は知的障害者に大変重宝されました。また身体的な障害者など、読書が困難な人々にも利用されています。

読書訓練用録音図書

こちらの録音図書では、文章が異なるスピードで数回繰り返して吹き込まれます。最初のカセットテープには通常のスピードで、2番目のカセットテープにはそれよりもゆっくりと、そして3番目のカセットテープには特別ゆっくりと録音されます。

この教材としての録音図書に使われるのはわくわくするような、またはコメディタッチの面白いお話が大きな文字で印刷された簡単で短い本です。

この読書訓練用録音図書を聴くときには、必ず原本の図書が手元になくてはなりません。なぜならこの録音図書は、読み書きが困難な生徒達の読書訓練用に、学校で利用されるからです。ゆっくりとした、または特にスピードの遅い読み聞かせをするので、テープを聴くと同時に文章を追うことが可能となり、読書に慣れ親しむようになります。

またゆっくりと録音されたバージョンがあるため、特殊養護学校にもこの録音図書は適しています。

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB:Talboks- och punktskriftsbiblioteket)の報告書 1996:1

『児童と青年のための録音図書 ―― 読書による体験、読書訓練と知識』より

本はどんな子どもにも必要です。例え彼らにとって読書が困難であっても。文:レーナ・ベリィマン

『宿題がこんなに楽しいなんて・・・』本とテープを使って読書をしたある生徒が言いました。録音図書は読み書きに困難を覚える生徒達に喜びに満ちた読書体験を与えるものであり、すばらしい学習教材です。

「今学校で休み時間の次に楽しいのは、本とテープを使って読書をすることだよ。」

これは学校で録音図書を利用して読書訓練を始めたある男の子が言った言葉です。この男子生徒は読書に困難を覚えており、読書能力を高めるために本と録音図書を使って訓練しているのです。現在ではこの生徒にとって、学校の勉強は興味深いものとなり、前には苦痛だった読書の訓練も楽しめるようになりました。

「宿題がこんなに楽しいなんて…」

本と録音図書を使って家で読んでくるように言われた、別の男子が言いました。この生徒の宿題は、録音図書を聴くと同時に原本の図書の文章を目で追ってみることです。本の文章は色々な速度で吹き込まれており、自分に一番合う速度を選べるようになっています。後でこの本についてみんなの前で話し、一部分を読み上げることができるようになるまで、繰り返し録音図書を聴きながら文章を追っていきます。この訓練は家でのんびりと時間をかけて行うからこそ効果があります。

この男の子は読み書きが困難であるため、文章を読み上げたり自分の言葉で内容を説明することが大の苦手でした。しかしこのような訓練をすることで、その後内容を説明する時に必要な単語や文章を覚えることができたのです。それによって語彙も豊かになり、文章への感情移入も上手になりました。

『今は本を読むことがとても楽しいわ。もし録音図書がなかったら厚い本を読むなんて絶対できなかったと思う。録音図書は私が難しい本も読めるように助けてくれたの・・・』

ある女生徒は、自分がどうやって録音図書を使ったのか話してくれました。それまで知的能力から言えば当然読めるはずの本を、通常の方法では読むことができませんでした。それらの本は読書能力からすると厚すぎ、また難しすぎたのです。読み書きの能力はあまりひどくはなかったのですが、行間が詰まっていて文字が緊密に並んでいるような本を読むことはできませんでした。たとえその内容が興味を惹いたとしてもです。しかし録音図書のおかげで読みたいと思う本をすらすらと読むことができるようになり、またクラスの他の生徒達と変わらないスピードで読めるようになりました。

この生徒達は読む訓練として、また読書を楽しむために録音図書を使うようになって、大きな幸福感を得ました。

上記の3人の生徒は自分の通う学校で、録音図書を試用するプロジェクトに参加しました。この図書に親しむ訓練は彼らのうちの二人に適合し、彼らの読書能力を伸ばしました。

3人目の女生徒は録音図書によって、自分が読みたいと思う本を全て録音図書を利用して読み、自分が本を読んで体験したことをクラスの友人達と分かち合えました。

現在のところ、すべての生徒達が学校で録音図書を利用できるわけではありません。学校図書館の多くは録音図書を持たず、多くの教師達が学校でいかに録音図書を使うかを知らず、どうやって手にいれるのかも知らずにいます。これらの教師達のところには情報が届いておらず、そのために地域図書館や録音点字図書館で借り出すことができる6,500タイトルの子ども向け録音図書が活用されていないのが現状です。

読書訓練用録音図書 - 本とテープ(録音図書)

録音図書を聴きながら原本の図書の文章を追っていく事は、読み書きに困難のある人にとって大変有効な読書訓練です。視覚と聴覚、二つの感覚が刺激される上に、録音図書のおかげで読書を苦痛を感じることなく楽しめるのですから。

読書訓練用には、速度を変えて吹き込まれた録音図書があります。本の文章が一度目は通常の速度で、2度目はややゆっくり、3度目は特に遅い速度で録音されています。印刷されている文章の方は短く簡単で、読みやすい活字になっています。読書訓練用録音図書は本とテープが一つのパッケージに収められており、どの地域の図書館からも借り出すことができます。録音点字図書館が貸し出しているのはテープだけです。

読書訓練用録音図書は学校の教師が読み書きが困難な生徒たちの読書訓練に使うこともできますし、このような子ども達の両親が、家庭で訓練するために利用することもできます。また子どもたちが自分で使うために借りることもできます。読書訓練用録音図書は、小学校の低学年から、高校生、大人まで全ての年代の読み物に合わせて取り揃えてあります。この読書訓練用録音図書の使い方については、録音点字図書館で教えてもらうことができます。

読書訓練のため録音図書を利用する試みによって、これが子供達にとって楽しく容易によい結果を引き出せる方法であることが明らかになりました。

本、テープ、カセットレコーダー、マイクロフォンを使って楽しく、新鮮な気持ちで学ぶことにより、使える語彙や聞いて理解のできる語彙が増えたり、読む速度があがったりなど良い結果をもたらします。また、イントネーションや発音も良くなります。

全ての図書館に児童対象の録音図書を

本はどんな子どもにも必要なものです。特に読書が苦手な子どもにこそ必需品です。ですからどんな地域図書館や学校図書館にもある程度は児童対象の録音図書があるべきです。読書訓練のための録音図書、また利用することによって読書を楽しめるような純文学やノンフィクションの録音図書が必要になります。

児童対象の録音図書を置く場所は児童コーナーです。そこにあれば読み書きに困難を覚える子ども達のために、教師や親達がいつでも適した録音図書を見つけることができるようになっています。録音図書はカタログ、分野別のリスト、広報誌などの無料のインフォーメーションを参考に録音点字図書館から借りて揃えることができます。

どんな学校図書館も読書に困難を覚える生徒のため、色々な録音されたものの中から選択し、ある程度用意しておくべきです。そうすればこのような生徒達が読書による刺激や楽しみを得られます。また印刷された本と録音図書とで選択がより多くでき、さらによりよい読書への手助けになるでしょう。学校図書館は、録音図書との出会いの場、印刷された本と録音図書との選択ができる場となるべきです。

読書が苦手な子どもは、おうおうにして地域図書館に行きたがらないものです。もし学校図書館で録音図書に出会えば、その体験が地域図書館に行くことにつながり、やがては生涯を通して読書を楽しめるようになるでしょう。

録音図書は読書の楽しみ、読書訓練、知識を与える

児童対象の録音図書を学校でどのように利用するか。

あるクラスに読書が困難な生徒が3人います。その度合いはそれぞれ異なります。ある授業で生徒達が皆で同じ本を読んだ時、この3人は“かやの外”と感じないですむように録音図書が与えられました。3人は他の生徒と同じような速度で読むことができ、この本についてのディスカッションに加わることができました。ここでは録音図書が読書の楽しみを与えています。

また別の学校では、週のうちに時間を決めて選任の教師の元で読み書きに困難を覚える生徒達が訓練を受けていました。原本の図書と録音図書が教材です。生徒達はテープを聴くと同時に本の文章を目で追います。時にはすでに読んだ本の文章を、自分で読み上げてテープに吹き込むこともあります。こちらでは録音図書が読書訓練に使われています。

あるクラスではヴァイキングについてのテストがありました。生徒の一人は読み書きに困難があり、教科書の文章をしっかりと読むことができずテストの準備ができませんでした。そこでヴァイキングについてのノンフィクションを録音図書と共に借りました。その本と録音図書によってテストに備え、しかも教科書に書かれている以上の知識を得ることができました。このケースでは録音図書は補助教材でもあり、教科書との選択枝であり、しかも知識の源となっています。

読書訓練用録音図書 - 本とテープ

読書訓練の為、同じ文章を何度か別々の速度で吹き込んだ録音図書があります。

このような録音図書は必ず同じ文章が印刷された本といっしょに利用されるので、『本とテープ』とも呼びます。読書訓練用録音図書に吹き込まれている速度は、普通の速度、それよりもゆっくりとした速度、大変遅い速度です。低学年の児童対象、高学年の児童対象、中学生対象、高校生対象、それ以上の大人対象と各年代向けに取り揃えられています。

利用者は自分に適した速度を選んで録音図書を聴きながら印刷された本の文章を目でおうことになります。

録音図書による読書訓練の方法

  1. 録音図書を最後まで、または第一章のみ通常の速度で聴く。
  2. 普通よりもゆっくりとした速度、または非常に遅い速度で聴きながら本の文章を目で追ってみる。
  3. 上記の方法で同じ文章を何度も読む。
  4. 本を読み上げて自分のテープに吹き込む。
  5. 教師と生徒とがその吹込みを一緒に聴き、生徒が読み間違えた個所を見なおし、理解のできていない言葉を学ぶ。
  6. 同じ文章をもう一度吹き込んで最初の吹き込みと比較し、進歩した点について話し合う。
  7. 順次同じ作業を繰り返す。生徒は同じ文章を何度も吹き込み、また教師の前で読み上げる。

この方法は教師と生徒が近くにいて、協力して行うことを前提にしています。教師は生徒が録音図書を聞いたり自分で吹き込む時に十分な時間を与えなくてはなりません。

本とテープによる読書訓練は家でも学校でも行うことができます。往々にして、教師が生徒を支え、指導した方が良い結果がでるようです。しかし生徒が指導されずに自分で訓練しても進歩することができます。また生徒の親が家庭で訓練の補助をすることができます。そのようなケースでは子どもも親達も良い刺激を受ける上、進歩が見られた時には双方の自信につながります。

訓練を本、テープ、カセットプレイヤー、マイク、ヘッドフォン、紙、それにペンなど様々な道具を使って行うことにより、読書訓練がヴァリエーションに富んだ面白いものになります。教師や親達、それに生徒自身が読書能力を伸ばすために自分なりの訓練方法を選択できるからです。

訓練をする前に、本を自分で読み上げて録音するのも一つの方法です。録音図書を聴き、その本について自分の言葉で話すのもまたひとつです。訓練はグループで行っても一人で行ってもよく、その回数は一日一度でも週に一度でもかまいません。わずかな時間で行っても良いですし、本を最後まで聴いて、読んで、書き写しても、また、一章だけそうしても良いのです。読書用録音図書による訓練の方法は様々なのですから本人にあったものを採用すればよいのです。

録音された教科書

スウェーデンでは読み書きに困難のある生徒の親や教師達が長い間、学校で使用されている教科書は全て、録音図書でも揃えるべきだと主張してきました。

1996年の秋の学期から、ついに小学校、中学校、高校の録音された教科書が揃えられました。製作は教科書出版社及び、主にカセットブック、一部録音図書による教材を出版している会社によって行われました。

どの教科書出版社も(自社の作品から)録音する教科書を選ぶことができます。販売は自社から直接しても良いし、ストックホルムのスクリーヴクニューテンのような小売り業者を通してもかまいません。ダビングが許可されたテープもわずかながら販売されています。他に比べてこのようなテープは高価ですが、それを購入すればいくらでもダビングをすることができます。

録音された教科書の補助教材として学校は、録音図書になっているノンフィクションを利用することができます。録音図書は全てのジャンルのノンフィクションを網羅しています。

特に児童向けの歴史物、地理、自然科学、宗教の本は揃っています。そのうちのほとんどが一般の教科書との選択肢として、または知識を深めたり読書の幅を広げたりする図書としてすばらしいものです。

なぜ録音図書が読書への良い刺激となるか

調査の結果、録音図書が読み書きに困難を覚える子ども達を読書に導くすばらしい素材であることが明らかになりました。たとえ読みたい本が厚くても、文字が小さくても録音図書を聴きながらであれば容易に読むことができるのですから。多くの録音図書が揃えてあることによって、読み書きが困難な子ども達も、同級生が読む、そして一般に人々が学校時代に読むのと同じような本をほぼ全て読むことができます。

子ども達は録音図書を聴き本の文章を目で追うことによって、本当に読書を経験することができます。クラスメートたちがディスカッションしている時に、もうかやの外にいるような気持ちにならずにすみ、ディスカッションに参加して自分の文学への興味を満たすことができるのです。

録音図書によって読書をすれば、もうどんな本も彼らにとって難しすぎるということはありません。

録音図書は一人一人に自由を与え、文学へ導いてくれます。録音図書は無料で簡単に利用できます。もし自分自身の録音図書が欲しければ自分が利用するためにだけ、オリジナルからダビングをすることができます。それを集めて自分だけの図書館にすることもできます。しかし著作権法で許可するのは個人利用のためのダビングのみであり、他の人に貸し出すことはできません。

読み書きに困難を覚える子ども達が、録音図書による訓練で能力を伸ばせる証拠

1990年から92年にかけて読み書きに困難を覚える小学生を対象にある大きなプロジェクトが行われ、国中のたくさんの小学校が参加しました。約700人の小学生が読書訓練の為に、様々な方法で録音図書を使ってみました。プロジェクトに参加した教師達は自分の生徒達がどのように訓練を受けたのかをレポートまたは口頭で報告しました。

この報告は最終レポートとしてまとめられ、このプロジェクトを立ち上げて指導した録音点字図書館(TPB)によって『読み書きに困難を覚える小学生への録音図書』というタイトルで出版されています。(録音点字図書館の報告書 1995:2)

教師達は、プロジェクトに参加した小学生のほとんどが録音図書を利用してみて良い結果を得たと報告しています。

指導した者が養護教員か(一般の)クラス担任かによって録音図書の利用方法も様々でした。多くは教師が生徒に録音図書を与え、生徒達は録音を聴きながら本の文章を目で追うという読書訓練でした。

特に小学生はこの方法でプロジェクトに参加しました。しかし中学生は録音図書を聞いて、中身を楽しむことに集中したようです。

録音図書によって訓練した生徒達はまさに『解放』を実感しました。その解放感から読書を続け、たゆみないトレーニングを続けて、読書能力をも高めたのです。録音図書による訓練は子ども達にとって楽しみとなり、簡単で興味深く効果的な訓練だと感じることができたのです。

多くの教師が録音図書による訓練を、従来の読書訓練の補助教材としてすばらしいものとみなしています。テープを聴きながら本を読むという訓練がわずらわしいなら、物語をただ楽しむためだけに録音図書を聴いていてもかまわないのです。

このプロジェクトに参加した多くの生徒が、録音図書を使ったことで良い体験ができたと述べています。彼らは本や読書に興味を持つようになり、それによってもっと読むことを訓練しようという意欲を持ちました。生徒達の中にはまさに本好きとなり、地域図書館から録音図書も一般の図書もコンスタントに借り出すようになった者もいます。

もちろん参加者全員が良い結果を得られたわけではありません。録音図書を聴いてみること自体を全くしなかった者もいましたし、また訓練をほんのわずかやってみてやめてしまった人もいました。しかしこの方法は読み書きに困難を覚える人全てに試してみてほしいと思います。訓練を試みた本当に多くの人々が、いかに効果的な方法であるかを明らかにしたのですから。