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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その8

ユニコが語る通級の思い出

通級には、小学校1年生から6年生まで通ったが、

発達障害について、メディアが取り上げるようになると、

診断を受ける人も増えたのか、通級に通う子どもの人数も増え、

教室がいっぱい、という理由で、

高学年の頃は、月に2回、しかも、午後だけの通学となった。

ただ、「1人で通う練習をしましょう」と言われたので、

普通学級に迎えに行き、駅まで送って行ったら、

あとはユニコが自分で切符を買い、電車に乗り、通級へ。

帰りも、1人で帰ってくるようになった。

(体操着を落とす事件が起きたのは、この1人での帰り道のことである。)

通級の先生には、中学に入ってからもときどき相談にのっていただき、

本当に感謝している。

今もユニコは、先生方に年賀状を送っている。


ユニコに通級の思い出を聞いてみた。

――― 一番楽しかったことは?

宿泊学習の練習で、軽井沢に行ったこと。

――― 通級の宿泊学習では、どんなことをしたの?

リンゴ狩りをしたり、牧場に行ったりした。そういえば、浅間園に行ったけど、あそこはすごい騒音がするので、通級で行っておいてよかった。何も知らずに普通学級の時に初めて行っていたら、ギャーって叫んで逃げ出しちゃったかもしれない。

池の平でのハイキングもよかった。同じ所に普通学級でも行ったけど、あとどのくらいで目的地に着くという見通しが立ったので、パニックにならなかった。

宿では食事がバイキングだったので、自分に合った量をとる練習もできたしね。

夜は、一緒に参加していたほかの通級学級(区内の通級学級が合同で行う宿泊学習だった)の子たちとの交流会。みんなで練習していった「はねこ踊り」を披露したり、お店屋さんごっこをしたりした。みんな似たような感じの子ばかりで、いじわるをされることもなくて、楽しかった。

――― ホームシックにはならなかったの?

全然。

――― ほかに、普段の通級の生活で、今も思い出すことは?

普通の体育だと球技とかダンスとか、うまくできないことばっかりで焦っちゃうけど、通級の体育だと、バランスボールを使った運動やトランポリンをするので大丈夫だった。

「お願いトランプ」というゲームをしたのが懐かしい。ある特定のカードを持っているか相手に聞いて、持っていたら、それをくださいと頼むゲームで、人にお願いする方法を練習するの。あとは、おもちゃの電話を使って、電話のかけかた(伝言の書き方や、人への取り次ぎ方)を教わったのが、今も役立っている。

スウェーデン刺繍も、好きだった。家族みんなのコースターを作って、今も家にあるよね。裁縫の授業にも役に立ったと思う。

――― じゃあ、逆に嫌だったことや困ったことは?

通級の中で嫌だったことはないけど、毎週決まった時間に普通学級を抜けるので、その分の授業を埋め合わせるために、休み時間や放課後にテストを受けたり、図工の作業をしたりしなければならなかった。そのせいで、遊ぶ時間が減ったのが残念。

それから、始めの頃は、どこに行って何をしているのかとほかの子に聞かれることがあった。そのたびに、説明して、大変だったけれど、そのうちに事情を知っている友だちが、みんなに話してくれるようになった。理解してくれる人は、上手にみんなに説明してくれるので、本当に助かる。

――― 通級の先生たちには、今も年賀状を送っているよね。やっぱり一番懐かしい?

そうだね、手紙を書いていると、すごく落ち着くよ。困ったときには、いつも的確なアドバイスをしてくださったし。通級の先生が普通学級の運動会や授業参観を見に来てくださると、とっても嬉しかった。

――― 通級に行くことを迷っている人には、何て言ってあげたい?

ぜひ、行くべき。通級の先生は担任の先生よりも頼りになるよ。小学校のうちから行っていれば、お母さんだって心が休まるんじゃないの? 

通級のいいところは、「何でこんなこともできないの?」と言ってくる人がいないところ。 生徒からも、先生からも言われないから、安心なんだよね。

あと、普通学級や普段の家での生活では、何でも早くやるように言われるけど、通級ではせかされないから、子どもがホッとできる場所として、通級は大事だと思うよ。


このユニコへのインタビューも、結構大変だった。

あいまいな言葉での質問は×。

つまり、「何か言いたいことは?」「何か覚えていることは?」なんて聞いてはだめ。

「(通級の先生たちが)やっぱり一番懐かしい?」と聞いたときも、

「一番って、何の中で一番?」と逆に聞かれてしまった。

「これまで出会った先生の中で、だよ」と、説明しなければならないのだ。

こんなふうに、何もかも範囲をはっきりとさせ、焦点を絞って問いかけることが重要なので、質問をする方も、頭を使い、本当に聞きたいことは何かを、突き詰めて考えなければならない。これは、普段の会話の中でも、絶えず心がけなければならないことだ。

ユニコのような子どもと暮らすことは、混沌とした世界をできるだけ整理して、わかりやすくしていくということなのだ。そのためには、ユニコだけでなく周囲の人も、常日頃から、自分の生活や考えを整理しておかなければならない。