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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その12

発達障害のある子の習い事 スイミング編

ユニコはスイミングスクールにも通っていた。

もともと、水遊びが大好きだったので、学校のプールの授業も、とても楽しんでいた。

しかも、なぜかユニコは肺活量が超人レベルで、いつまでも潜っていられるのだ。

(不器用じゃなかったら、視力が悪くなかったら、絶対に海女さんが天職に違いない!)

でも、協調運動の苦手さから、きちんとしたフォームで泳ぐのは難しかった。

小学校1年生のとき、学校の泳力検定(正しいフォームで、けのび5M)に落ちた。

足や腕の形が正しくない、という理由で。

泣きながら家に帰り、

夏にちょっとだけやる学校の水泳の授業じゃあ、いつまでたっても泳げるようにはならない!と一念発起し、

スイミングスクールを探した。

普通のスクールではなくて、

「障害者コース」を設けているスクールを。

2箇所見つかったので問い合わせると、

1箇所はキャンセル待ち

もう1箇所は、「付き添いがつけられれば受け入れます」との返事だった。

母は持病があって、プールに入れないので、

必然的に父が付き添うことになった。

毎週日曜日、父と娘は地下鉄を乗り継いでスイミングスクールに通った。

障害者コースには進級制度もなく、

少人数で基本泳法を教わる。

付き添いの父は、ユニコが泳ぐ横をひたすら歩き続ける。

ときには、正しいフォームになるように、コーチの教えに従って、ユニコの手足を動かしてやる。

コーチは普通コースの指導者と同じだったが、

ユニコの手足を大きく動かしながら、

丁寧に、わかりやすく、教えてくれた。

ここに5年間通い続け、背泳ぎとクロール、平泳ぎまでできるようになり、学校の検定にも次々と合格できた。

運動が苦手なユニコでも、

水泳は自分のペースでできるし、体力づくりにもなるので、とてもよかった。

父親が半年間単身赴任していて、付き添えなかった時期には、

区のボランティアセンターでボランティアを募集し、

女性ボランティア2人に交代で付き添ってもらった。

お世話になったボランティアの方々には、本当に感謝している。

いつも付き添って水中ウォーキングをしていた父親は、その後、自分も同じスイミングスクールに通うようになり、

今では水泳が趣味。腰痛もすっかりよくなり、スタミナもついた。

ユニコのおかげで、思いがけず、趣味が増え、体力づくりにもつながったわけだ。

水泳といえば、もう1つ、忘れられないことがある。

「ユニコ伝説のスピーチ」

近隣の小学校が集まって開かれる、小学6年生の時の水泳記録会で、

ユニコが閉会式のスピーチをしたのだ。

なんと、誰もやりたがらなかったので立候補したという。

担任の先生は心配して、家まで電話をかけてきたが、

ユニコの決意は固く、

親子で原稿を考え、学校で何度も練習をしてスピーチを暗記した。

水泳記録会自体には、花火でやけどをしてしまったので参加できず、見学したが、

スピーチはきちんとやった。

1年生の時に検定に落ちて、泣いて帰ったこと

それから、父と一緒に水泳教室に通ったり、区のプールに行ったりして、一生懸命練習したこと

ようやく検定に受かって、とても嬉しかったこと

これからも、できないことがあっても決してあきらめずに、練習に励みたい、と。

スピーチをした翌日、

学校に行くと、知っている先生はもちろん、知らない先生からも、口々に

「昨日のスピーチは素晴らしかった」と、褒められたそうだ。

運動が苦手なユニコだからこそ

それをよく知っている人たち(小学校の同級生と先生方は皆、わかっていた)の心に

たゆまぬ努力とくじけぬ心で泳げるようになったという話が、響いたのだろう。

最近は旅行に行ったときにしか、プールに入らないユニコ。

浮き輪でぷかぷか浮いているのが好きらしい。

運動不足解消のために、また水泳始めたら?

<ユニコからも一言>

ピアノのように、水泳を習っていたことも、私の自信に繋がった。水泳を習うことで元からあった肺活量を生かして泳ぐのが速くなった。習っていたおかげで、平泳ぎが泳げるようになり、検定に合格した時には、とても嬉しかった。今でも、バタフライのように泳げない種目はある。それでもきっと同じように障害者コースで教えてもらったら泳げると思う。

水泳記録会は、近所のほかの2つの小学校と合同だった。その両方に、同じ通級に通っていた子がいたのだが、記録会が終わった後の通級で、私のスピーチから、障害があっても努力すればできることがあるんだと教えてもらった、と話しかけてくれた。

水泳を習うに当たって、私がそうだったように、付き添いを求められることもあるだろう。でも、水泳は、体育の授業で行うスポーツの中では、普通の人に一番追いつきやすいスポーツかもしれない。ほかのスポーツに比べて、教室は多く展開されているのだから。どうか、一つのスクールに断られたからといってあきらめないで、何件も電話してほしい。障害のある子だって、できなかったことができるようになったら、普通の子と同じように嬉しいのだから。