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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その16

発達障害のある子の手作業 字を書くことと工作ドリル

思い出すのも気が重い、ユニコの苦手克服作戦。

まず、字を書くことと、不器用さ。

幼稚園の年長の時、発達障害の診断を受けたユニコ。

小学校は大変だろうなあ、と、容易に想像がついた。

とりあえず、文字が書けるようになるまで苦労しそうだと考え、

入学前に、家でひらがなを教えることにした。

マス目が一番大きい国語のノートを買ってきて、

まずは点線で書いた文字をなぞらせることから始めた。

毎日、毎日、字の練習。

その甲斐あって、なんとか識別できる字が書けるようになった。

今でも、ユニコは書字が苦手だ。

でも、字が書けるようになるとは思っていなかったので、読める字が書けているだけでよし、としている。

小学1年生になって、漢字の練習が始まると、また練習、練習。

毎日1文字ずつ、新しい漢字を書くのが日課となり、

そのうちに漢字が好きになり、何度か漢検にも挑戦した。

漢検の勉強は、中学・高校時代には国語の授業の一部だったので、

この時の習慣づけが役に立った。

不器用さについては、こんなことがあった。

小学1年生の秋、落ち葉で絵を描こう、という図工の授業があり、

ちょうど参観日に、校庭で拾った落ち葉を画用紙の上に置いている様子を見ることができた。

ユニコは落ち葉を上手に置いて、ウサギの顔を作っていた。

今回は絵を描くわけじゃないから、うまくいきそう!

そんな期待を抱きつつ、いつもの参観日よりも明るい気持ちで家に帰った。

数日後、教室に行く機会があり、展示されていた絵を見ると、

ユニコの作品には、今にも落ちそうな葉が1枚ぶら下がっているだけ。

どうして?! ウサギはどうしちゃったの?

ユニコは悲しそうに答えた。

「糊がうまくつけられなかったの」

あんなに、イメージ豊かな、かわいらしいウサギができていたのに、

それを実現する技術(手先の器用さ)がないために、

自分の思うような作品が作れなかったのだ。

「ユニコちゃんは、心の中にいっぱい表現したいことがあるのに、それがうまくできなくて、もどかしい思いをしているのではないでしょうか」

幼稚園(年少、年中の頃)の課外活動でお世話になった絵画教室の先生の言葉だ。

本が大好きで、いつもたくさんのイメージを膨らませているユニコ。

でも、思うように手先が動かせなくて、それを伝えられないユニコ。

どんなにはがゆいことだろう。

あの授業参観の日、もう少し長くいて、一緒に糊付けをしてやればよかった。

悔やんでも遅い。

それから、ユニコの不器用さを少しでも解決しようと、

毎日1枚ずつ、公文の工作ドリルをすることにした。

2歳児用のとても簡単なドリルを、もう小学生のユニコにやらせた。

それぐらいのレベルが、ちょうどユニコの状態に合っていたのだ。

台紙をはさみで切ったり、折り紙のように折ったり、糊で貼り付けたり、

いろいろな作業が盛り込まれていて、

順を追ってレベルアップしていく工作ドリル。

毎日1つずつ作品ができあがるのも、ユニコには嬉しかったようだ。

全シリーズ4冊を終え、

ユニコの手先はちょっとだけ器用になった。

図工の授業では、その後もいろいろあって、

ある年、作品展に行ってみたら、

柔らかい素材で作った玉の下に十字に組んだ小枝から、細長い貝を紐で吊るして、音が鳴るようにした作品…のはずなのに、

ユニコの作品だけ、なぜか貝が全部、玉にグサグサと突き刺さっていて、

ほかの子のお母様にも、「ユニちゃんの作品、個性的ねえ」なんて笑われてしまって、

いったいどうしたのかと思ったら、案の定、

「紐が結べなくて、吊るせないから、突き刺したの」と、悲しそうに答えるユニコ。

今度は紐か。

すぐに連絡帳を通じて担任と図工の先生に伝え、

次の日の昼休み、ユニコは図工の先生と一緒に、刺さっていた貝を引っこ抜き、

紐を結んでもらって、作り直した。

担任の先生も、本当はみんなと同じように作りたかったユニコの本心に気づいていなかったらしく、連絡帳の返事にはこう書いてあった。

「作品が完成したら、『音が鳴る! 音が鳴るよ!』と、とても喜んで見せに来てくれました。気がつかなくて、すみませんでした」

周囲が個性だと思っていることも、実は、みんなと同じようにやりたいけれど、できないでいるだけかもしれない。それを伝えられなくて、奇をてらった方法でごまかそうとしていることもあるのだ。

ユニコには、恥ずかしがらずに助けを求めるよう、改めて言い聞かせた。

その後、先生方は、ユニコに難しそうな作業は、クラスにお手本としてやって見せるときにユニコの作品を使うなどして、さりげない形で助けてくれるようになった。

図工で、唯一うまくいったのが、水墨画。

お手本を見ながら描くので、取り組みやすかったのだろう。

なかなか味わい深い竹の絵が、しばらく我が家の玄関先を飾った。

毎朝学校へ行くとき、そして夕方学校から帰ってきたとき、その絵を見てにっこりしていた、ユニコの誇らしげな顔が忘れられない。

<ユニコからも一言>

字を読むことは好きなのだけれど、書くことは難しい。でも、あきらめないでやり続けた。その結果、中学・高校と漢字テストの時に漢字を覚える必要がなくて、とても楽だった。それに漢字の読み書きはすべての勉強の基本になる。だから漢検にも、思い切って挑戦してほしいし、させてあげてほしいと思う。たとえそれが在籍している学年より前の学年で普通の人からしたら簡単と思う級だとしても、合格したら嬉しいと思う。それに、それは本人にとっても家族にとっても自信や誇りになる。保護者が2人とも働いていると、手取り足取り教えることは難しいかもしれない。だけど休日などを使って週1日でもいいから、根気よく教えてあげてほしい。

図工についても同じことが言える。普通の人には当たり前にできることができないのは、しょっちゅうだ。私の場合、「自由に描きなさい」というのも苦手だし、「好きに選びなさい」というのもできることならばやめてほしい。ただ、小学生の時にやった「オーケストラの人形作り」は、ほとんど自由に近かったけれど、周囲の助けもあって完成できたので、自由が悪いということでもない。たとえば、隣で見本を示してくれると、一番近くでやり方を見られるから助かる。でもこれは個人差があるので、普通学級の先生や通級の先生などとも相談したりして、その子どもにあった支援をしてくれたらいいと思う。