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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その19

発達障害のある子と実技科目 不器用だと大変 裁縫・調理実習・作図・笛…

運動以外でも、実技がある授業では、ユニコの不器用さが目立った。

家庭科では、裁縫と調理実習。

裁縫は、まず玉結びと玉止め。

学校で教わる前に、家で教えることにした。

A4の紙に手順を箇条書きにし、これを授業にも持って行く。

今なら、動画を撮り、必要な時に再生して確認しながら練習できただろう。

毎日毎日、玉結びをしては、布に針を何回か通し、玉止めをする作業を繰り返した。

1日10個どころではない。

練習用の布に、無数の玉止め模様が散らばった。

縫い方も練習した。

学校の授業でエプロンを作ると聞けば、

その前に、家で一緒に1枚作ってみた。

何でも1度やってみると安心するので、

時間が許す限り、ひと通り事前にやるようにしたのだ。

9月からミシンを使うと聞けば、

夏休み中、担任の先生が当直の日に、家庭科室の鍵を開けてもらい、

授業で実際に使うミシンで練習させてもらった。

調理実習も、事前練習をして備えた。

同じメニューを家で作ってみたのである。

食器洗いや食器拭きは、

お手伝い兼お小遣い稼ぎの仕事として、

小学校低学年の頃からやらせていたので、心配はなかった。

(ただし、これもできるようになるまでは大変だった。)

調理実習の際に着るエプロンと三角巾も悩みの種で、

うしろ手で紐が結べないため、

かぶるだけの三角巾やエプロンを買った。

(誰かにやってもらうことも考えたが、「1人でできる」を目指していたので。)

ユニバーサルデザインが広まってきたおかげで、

近頃では、いろいろと便利な道具や使いやすい道具が増えてきた。

ユニコが使った三角巾やエプロン以外にも、

握力があまりなくても使える道具

指がうまく動かせなくても使える道具など

ユニコにとっても、役に立つものは多い。

そういう道具も活用して、少しでも負担を減らしてほしい。

ユニコには普段から、見やすい定規、扱いやすいコンパスなど、

学校の授業で使う文房具も、使いやすさを意識して選ぶようにしていた。

定規やコンパスと言えば作図だが、

これも、学校の授業でやる前に練習し、手順を箇条書きにして持たせた。

コンパスはことのほか難しいようだったが、

きれいな模様が描けるので、練習は楽しんでいた。

音楽では、笛の演奏で苦労した。

どうしても、低い音が出せない。

穴を2つ押さえなければならない、低いレとド。

そこで、通級の先生のアドバイスで、

低いレとドのときに押さえる小さい方の穴を、セロハンテープでふさいでしまった。

これで、なんとか音は出せるようになった。

指使いが難しく、弾きにくいフレーズは、

音を間引いたり、休符に変えたりして、

無理なく吹けるようにした。

ユニコ用に変更した楽譜を見た音楽の先生に、

「お母さん、すごい! 編曲したんですね!」と言われたが、

それが褒め言葉だったのか、皮肉だったのか、よくわからない。

<ユニコからも一言>

実技科目は、教科科目以上に担当の先生との連絡・保護者と本人の根気・保護者の時間が求められると思う。

裁縫は家で絶対に練習しておいた方がいい。いきなり玉結びとか玉止めを教えるのが大変だなと思ったら、針に糸を通す練習だけでもいいから。裁縫は、手芸を趣味にしている人とか、ごく一部の人を除いたら、皆が初心者だから、先生はほかのできない子にかかりきりになって、あまり丁寧には見てくれない。最初の授業で遅れたら、そこから追いつくのは下手したら教科科目以上に大変だ。私は家で母が作成してくれた紙を見ながら練習した。私は左利きだから、右利きの母はさぞかし教えるのが大変だったと思う。この時作成してくれた紙は学校にも持っていったのだが(さすがに中学生の時は持っていかなかったが)本当に役に立った。学校の先生は高確率で右利きだから、教え方も右利きが基準になる。先生も、さすがに皆の前で左利きのやり方を教えることはない。だから母の作成した左利き用のやり方の紙は、利き手の面でも、それが手元にある面でも、役に立ったというわけだ。この紙は、ほかの左利きの子も見て「わかりやすいね!」と言ってくれた。

エプロンを作るのだって、学校でいきなりやれと言われたら、絶対できなかったと思う。学校ではわからない所があっても、大抵の場合、先生はすぐには来てくれないのだから。授業でミシンを使う前に使ってみたことは、どのあたりで先生に助けを求めたらいいかがわかってよかった。家にあったミシンも使ってみたけれど、学校のミシンとはタイプが違ったから、操作方法の確認ぐらいしかできなかった。ミシンも、ある程度は自分1人で動かせるようになったのは、先生が授業でやる前に使わせてくれたからだと思う。とは言っても、ミシン針に糸を通すのは苦手だったから、自分では数回しかやったことがない。大抵は、隣の子がやってくれた。その分、私は別のことを手助けしたりして、ただ先生にやってもらうよりも気持ちが温かくなった。

調理実習も、ほとんどすべてのメニューを事前に家で練習していた。だから、例えば肉を落とすとジュージューと音が鳴り、しばらくうるさいことなども耐えられた。何も知らないで、学校で始めて作ることは、とても緊張するし、パニックになりかねない。だから家で最初に手順などを知っておくというのはよかった。それに調理のときに着用するエプロンや三角巾も、後ろ手で結ぶような難しいものじゃなくてただ着る物・被る物だったから本当に楽だった。最初はこのような物を私が着用することに白い目を向けられたり笑われたりしたこともあったけれど、改善することができないくらい不器用なことを知ってからは、そのようなことはなくなった。調理実習の時も、手が不器用だからといって食器洗いを押し付けられるわけでもなく、こちらの希望をきちんと聞いてもらえた。また、手順を知っているからといって、料理を全部押し付けられることもなかった。ときどきアドバイスを求められて、それに答えたりした。家庭科は教えるのが本当に大変かもしれないけれど、やれば自立に一歩近づくことができるので(とはいえ、一人暮らしはリスクが大きいが)教科担当の先生・担任の先生・場合によっては通級の先生とも話をして、本人に合った支援をしてほしい。

算数の作図も大変だった。定規や分度器がプラスチック製のシンプルな物でよかったと思う。アニメの絵が描いてあったり、竹の定規だったりすると、刺激(絵)に目が行ったり目盛りが読みにくかったりして大変だから。分度器は慣れるまで本当に大変だった。母も学校で勉強してから何年も経つのに、手順を一生懸命紙に書いてくれた。当時は、弟もまだ小さかったのに本当に大変だっただろう。今は文系の大学に進学したため、数学を勉強することはない。コンパスはもちろん、分度器、定規すらほとんど使わない。数年のために骨を折って書いてくれて本当にありがとう。ほかのお母さんも大変だと思うけれど、わからないと本当に辛いので支援をしてあげてほしい。(そろばんの授業は、家で学習していなかったから、当然訳がわからず、本当に辛かった。一応わかりやすいとされている冊子のような物が配られたけれど、全然わからなかった。)

音楽は、笛の演奏が確かに大変だった。楽譜を読むのは、以前書いたようにピアノを習っていたからできた。でもそれと笛とは別。ちょうどよい息で吹くことに加えて、穴を押さえることも同時に求められるから、本当に大変だった。セロハンテープでふさいでも、レとかドの音が、ソプラノリコーダーで出せたのは数回だった。アルトリコーダーでも、下の2つを押さえて吹く音はほとんど出せなかった。リコーダーでは組み立てにも苦労した。ただ接続するだけじゃないかと言われそうだけれど、接続する向きがわからなくて間違えては笑われた。これに対しては、マーカーで印を書いてもらうことで対応した。

本当に大変な曲の楽譜を母が書き直してくれたのも、母に音楽経験があったからかもしれない。ただ授業で学習しただけではできないだろう。もし自分でするのが無理だと思ったら、担当の先生と相談したらいい。笛が辛ければ、合奏の時だけでも別の楽器にすればいい。実際、私はある合奏の時はシンセサイザー担当だった。笛ではなかったので音が出せないということもなかった。音楽は聴覚過敏などの問題も絡んでくると思うので、決して大人だけで決めることをせずに、本人とも話し合って支援を決めてほしいと思う。