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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その21

発達障害のある子の人間関係
クラスの中で―発達障害のある子は集団の状態を測るバロメーター?

小学校の6年間は、普通学級に加えて通級にも通っていたユニコだが、

その後は、ずっと普通学級のみで過ごした。

周囲に似たような困難を抱える人がいるという環境は、

お互いにわかりあえたり、助け合えたりするメリットはあるが、

悪い時には、お互いが悪影響を与え、

足を引っ張り合ってしまう危険もある。

ユニコも、中学校でそんな体験をした。

周囲に迷惑をかけたし、また、ユニコ自身の状態も悪化した。

以来、悪循環、悪影響を及ぼしあっていることに気づいたら、まずはその場を離れ、距離を置くようにしている。

ユニコの場合、普段はできるだけ普通の人たちの集団の中で過ごしたほうが、安定するようだ。

周囲のさまざまな人がロールモデルになり、

「普通の(普通に見える)行動」「普通だったら認められない行動」を学ぶことができるからだ。

ただし、周囲の成熟度、精神状態が成功の鍵となる。

つまり、その集団に、ユニコを受け入れる余裕があるかどうかということ。

これまでの経験からすると、

ユニコの状態は、いわば集団の状態を測るバロメーターのようなもので、

ユニコの状態がよければ、その集団も状態がよく、

ユニコの状態が悪ければ、その集団も状態が悪い。

クラスがなんとなく不穏な雰囲気に包まれているときには、

ユニコも問題行動が多かった。

ユニコの苦手なことを理解してくれる人、馬鹿正直なまじめさ、ひたむきさに共感してくれる人がいるかどうかが決め手で、

馬鹿にする、否定する雰囲気が蔓延しているクラスでは、

ユニコはかたくなに心を閉ざしてしまう。

支援者がほしいとは言わない。

小学校の時には、

「勉強は家で教えられるので、

何よりも、クラスの好ましい雰囲気づくりをお願いします」と先生にお伝えした。

周囲の子どもたちがユニコに対してできること、

逆に、ユニコがクラスのみんなに貢献できることを見つけて、

それぞれが役割を果たせる、ギブアンドテイクの関係を築けるように導いてほしい、と。

小学校4年生から6年生までお世話になった先生は、

そんな願いを聞き入れてくれた。

発達障害の子がいれば、クラスのほかの子どもたちは、どうしたって少なからず影響を受ける。

ほかのクラスの子どもたちとは違ったストレスもたまるだろう。

そんな子どもたちの思いと、それでも毎日、発達障害のある子もクラスの一員として受け入れ、ともに過ごしているクラスみんなの頑張りを、

先生も、そして親たちも、しっかりと認め、大いに褒めて、感謝することが、望ましいクラスへの大事な一歩なのではないだろうか?

ユニコが通級へ行っていることで、ほかの子どもたちは、

「いつも学校をさぼっている」

「学校に来ないで、何をしているんだろう?」

などと噂していたらしい。

そこで、ユニコもクラスのみんなに、通級で何をしているのか話をした。

そんなちょっとしたやりとりで、クラスの子どもたちの疑念や誤解が取り除かれるのだ。

通級に通っていることについては、周囲に知られたくない、と隠しがちだが、

きちんと説明したほうが、かえって理解が得られる、とユニコも言っている。

小学校でよい先生にめぐりあい、よい思い出を作れたことは、

つらい中学・高校時代を乗りきる支えとなった。

中学時代は特に大変だった。

今も、消化しきれていないことが多く、まだ人に話す気持ちにはなれない。

普通の子どもたちでも、思春期の多感な時期、いろいろな苦労があるのだから、

ユニコのような子どもは特に苦労が多いのだと、

割り切ることも必要なのだと、今振り返って思う。

学校では、クラス以外の居場所(図書室、食堂、部活動など)を作る。

学校以外にも、居場所(習い事、塾、支援機関など)を作る。

ユニコの場合、年齢が下の子とはうまくつきあえたので、

後輩とのかかわりが、貴重なプラス体験になった。

先生、特に担任の先生との相性も、ユニコの状態に直接影響した。

自分の思い通りにさせようとする、要求の多い教師は一番苦手。

高校時代、なかなかクラスのみんなと打ち解けられないユニコは、

そんな教師から、「とりあえず、挨拶をしなさい」と言われたのだが、

タイミングがわからず、そもそも人の顔を覚えるのが苦手なので、誰にどう挨拶していいのかわからない。

(精神科の先生によると、「挨拶」は、かなりハードルの高いことだそうだ。)

トラブルが発生したとき、「何か言いなさい」「言うことがあるでしょう?」と強いられても、

いったい何を言ったらいいのかわからずに黙り込んでしまい、よけいに印象を悪くしてしまう。

しまいには、その教師の前では何も言わなくなるという、最悪の状態に陥った。

このときほど、中途半端な指導や支援ではなく、まずはユニコのことを正しく理解してほしいと思ったことはない。

間違った理解や思い込みに基づく、自己満足のための指導や支援は、

取り返しのつかない、状態の悪化を招く危険がある。

相性といえば、

病院の先生やカウンセラー、もっと身近な所では、美容院の担当者などとの相性も重要で、

安心して接することができる人を、根気よく探さなければならない。

ある程度年齢が大きければ、本人が判断できるだろう。

美容師の場合、若い今風のお兄さんお姉さんは苦手で、

小さな子どもがいるママさん美容師や、子育てを終えたおばちゃん美容師が、安心できるようだ。

人間関係について、もう1つ付け加えると、

女の子同士の(裏表のある)つきあいは何よりも苦手で、

女の子の友だちはなかなかできないし、たとえできても、どうも長続きしない。

逆に男の子の方が、気楽につきあえるようだ。

(でも、男の子とばかりつきあっていると、ほかの女の子たちの反感をさらに買ってしまう。)

それでも、高校生ぐらいになると、気の合う女の子の友だちが何人かできたが、

女子にありがちなべったりとした関係ではなく、

ほどほどの距離感で、さっぱりとしたつきあいをしているようだ。

皆、発達障害に関する本を読んだり、ユニコ自身に質問したりして、

ユニコのことを少しでも理解しようとしてくれるのが、とてもありがたく、

心から感謝している。

<ユニコからも(長い)一言>

小学生の頃は、担任の先生が工夫してくれたおかげで、大きなストレスもなく学校生活を過ごすことができた。それは、担任の先生が実技科目を除いてほとんど自分で見るので、目が行き届いていたからかもしれない。仮に担任の先生が教えない科目があったとしても、数科目だから、担任の先生とそれ以外の先生との連絡がしやすかったのだろう。だが、中学校は担任の先生がいても、その先生が授業をすべて受け持ってくれるわけじゃない。それに、例えば担任の先生が男子の体育を教えていて本人が女子だったりしたら、それこそ各教科の先生と担任の先生と保護者と本人が支援方法を決めていかなければならない。それはなかなかできないから、結局のところ妥協するしかないし、心無い人がいても、納得のいく対応をしてもらえなかったりする。だから中学校以降は、担任の先生との関係はもちろん、1科目でも相性の悪い先生がいると、それだけで学校に行くことがつらくなる。私自身、高校生の頃に、授業で苦労をした先生が翌年担任になってしまい、非常につらい想いをした覚えがある。

挨拶しろと言われても、ほかの人はそれぞれ仲のいい人と話しているのに、どのタイミングで声をかけたらいいのかわからない。挨拶をしても、相手が不機嫌で怒らせてしまったこともある。(イライラしていて、ほかの人と話したくなかったそうだ。顔を見ればわかるでしょ?と言われたけれど、わからなかった。)自分から挨拶するのでも、こんなトラブルが起きるし、相手からされたとしても、トラブルは起きる。登校ラッシュの時間帯などに挨拶されても、人ごみで音が消えてしまううえ、仮に「おはよう」などと声が聞こえても、それが自分に言われているとは気づかずに、私は立ち去ってしまう。それが結果的に、無視したと思われてしまうのだ。それに、挨拶をされても、相手が誰なのかわからなくて、知らない人から挨拶されたと思ってしまい、「あなた誰?」と聞いて相手を怒らせることもある。今でも、相手の服や髪型、持ち物などが変わると誰だかわからなかったりする。制服だと全員同じ服だから、髪型で判断するしかないのに、みんな同じような髪型なのでわからない。持ち物で見分けるのは難しい。よく運動会の練習で**さんと++さんの間に入って、などと言われるけど、その人の顔がわからないのに、みんなが体操服を着ている中で、一応名前の刺繍があるとはいえ、その人を探すのは難しい。昔、靴で覚えようとしたら、当日靴を変えられていて大変だったことがある。私服もほとんど一緒だから、声で判断したいところだけど、声は人ごみに消える。また、私服でも、それまで相手が着たことのない服を着てくると、誰だかわからない。友人が髪を切ったときも、友人だとわからなかった。今は大学に通っているので、友人を見分ける際には、リュックサックやそれについているキーホルダーで確認している。

美容師や病院の人との相性については、本来リラックスして髪を切りたいのに、美容師の対応によってはストレスになることもある。多くの若い人は、同じように若い人がやっている美容院に行くかもしれない。でも、そういうところは、大学生向けのファッション雑誌が置いてある。一度そのような店に行ったがとてもつまらなく、切ってくれる人とも会話が弾まなかった。今では年配の夫婦が経営している美容室に行っている。ここは私が好きな種類の雑誌を置いているうえ、あまり話さずにいてくれる。そういった所を、病院も含めて探すのは大変かもしれないけれど、障害のある人でもOKの所もあるし、事情を話したらわかってくれる人もいるかもしれない。

人付き合いは本当に大変だ。今も私はトラブルを起こさないよう気をつけている。本人が大学生にもなると、保護者が全部口出しをするのはどうかと思うから、本人のよきアドバイス役でいてほしい。