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障害をもつひとと災害対策シンポジウム

聴覚障害者・難聴者の暮らしから考察する東海村臨界事故の災害情報と110番メール調査

全日本難聴者・中途失聴者団体連合会  大蔵 智行

大蔵氏
「手話」「文字」など視覚的情報獲得手段を利用している私たち聴覚障害者は、昨年の有珠山噴火、三宅島噴火、東海豪雨など、また、最近の富士山噴火の予測といった様々な、災害に対する不安を抱えながら、情報保障体制などを確立したいところである。 災害は我々の平常時の取り組みなどによって、その不安を最小限に食い止めることが可能ではないか。 私自身も1978年マグニチュード7.4の宮城県沖地震による被災者であり、ライフラインが3日ほど機能しなかった経験から情報遮断の恐怖が今でも記憶に残っています。 私は、この経験を踏まえながら、ここで聴覚障害者の立場を再認識し、災害情報保障の在り方を考えたい。 スクリーンをみてください。厚生省統計資料によると身体障害者手帳を保有している聴覚障害者は約35万人、その内、手話が出来る聴覚障害者は4万3千人であり、残る約30万7千人は読話法・筆談法・補聴器や人工内耳を利用してコミュニケーションを図っていると報告されている。この資料にはないが、35万人という数字は身体障害者福祉法で、聴力レベルが両耳とも70dB以上の聴覚障害者が対象であり、現実的には40dBから50dBでも日常生活の支障が出てくる。このレベルが見られる人は約600万人といわれ、この大部分は軽度・中度難聴者である。

身体障害者区分

また、聴覚障害者・難聴者の聞こえの程度は複雑であり、70dBのように大きな声で会話のレベルでも、鼓膜や外耳道に障害がある伝音性難聴と聴神経や内耳系に障害がある感音性難聴があり、また先天性や後天性など生活環境によって聞こえ方は様々あることを理解していただきたい。 さらに、日頃の情報の入手方法の割合をみると、「テレビ」が71.4%と最も高く、次いで「新聞」の67.1%、「家族、友人」の59.4%となっている。また、これとは別に衛星放送や近年普及されているインターネットによる情報収集の増加傾向がみられる。 先程ご覧頂いた1999年9月30日に東海村で発生した臨界事故で、「命の綱」になる防災情報が聴覚障害を持つ住民には、役に立たなかったことになる。また、過去にも阪神・淡路大震災でも情報保障の不足が同様に指摘されていた。現在、ライフラインとして電気・ガス・水道の他に電話も社会生活上重要な存在になってるが、特に電話については、災害発生の場合、家族や親戚などへ安否など確認に欠かせない。災害発生した時、聴覚障害者の情報保障の手段は視覚による情報確保が最も有効であり、次の二つに整理する事が出来ると思う。視覚的情報手段とは、聴覚や音声に頼らずにあらゆる情報を交換出来るものであり、その情報が確保出来なければ私たち聴覚障害者は災害弱者となってしまう。この二つの目的を早急に整理しないと混乱を招く事になる。東海村臨界事故を例に取り上げ具体的に述べると、残念ながら「情報」「連絡」が機能していなかったと言えるのではないか。ビデオをご覧ください。まず「情報」の面で、テレビや広報車が頻繁に呼びかけたのにも関わらずに外出やクーラーをつけたまま危険な状態のままであったこと。先に述べた、日頃の情報の入手方法の割合で、「テレビ」が71.4%と最も高いにもかかわらず、事故発生時からテレビに放送されたが、字幕や手話通訳が無く、また、音声に頼らず言語の知識が不足していたハンデもあり、臨界や中性子線の意味を理解できたとしても文章全体のニュアンスをつかむのが難しく、事故発生翌日の午後8時45分のNHK手話ニュースで意味が分かった人がいることを忘れてはならない。そして「連絡」の面で、命に関わることをリアルタイムに伝え合う事が災害対策で重要であるにもかかわらす、確認出来るシステムは現在のところ聴覚障害者には欠落しているといわざるを得ない。聴覚障害者の連絡の手段として一般的にはFAXを利用しているが、相手の存在の有無に関係なく送ることになり、例え相手が家にいたとしても見ているかの確認までは約束されていないからだ。 インターネットメールも然り。それは、片方向通信だからである。これに対し健聴者が円滑に通話できる電話は双方向通信という利点があり、聴覚障害者にも電話のような双方向文字通信というシステムを利用しない限り安心できない。聴覚障害者の緊急通報のため携帯/PHSによるメール110番を滋賀県警・山形県警・北海道警・広島県警・香川県警・大阪府警等が開設及び準備されている動きが広まっている。しかしながら、センター経由メール方式を採用されている。私たちで問い合わせたところ、A県警から「即時性が保証されない(タイムラグが発生する)などの問題点があります。B県警から「ご承知のように、インターネットメールは場合によりサーバへの着信が遅れたりすることがあります。」 C県警から「Eメールは、相手先に届くまでに様々な会社の機器を経由いたしますので、その間にトラブル等があれば停滞が発生し、最悪の場合はメールが紛失する事も予想されます。」と共通する回答を得た。その認識があるにも関わらずにセンター経由メール方式を採用した背景には聴覚障害者の要望があったからだそうです。聴覚障害者にとっては電話に無縁だった長年のFAX生活がそのまま反映されてしまったようだ。

聴覚障害者の情報入手方法

私は3年前から携帯電話やPHSなどの移動体通信機器よる文字メールを利用し、自分たち耳の障害に代わり連絡を取り合っている。十数年間FAXが主流だったが自宅以外での連絡手段や携帯性を考えると行動範囲は制限されていただけに移動体通信機器の文字メールサービスは大きな魅力である。私は、仲間とプラスヴォイスで1997年7月から聴覚障害者のライフラインになる文字メールを模索してきた。大きく分けて直接型メールとセンター経由型メールがあり、さらに電話通信サービス提供会社各キャリアやメーカーなどで文字数や方法が異なる。直接型とセンター経由型の違いは自分の端末から相手の端末まで直接アクセスすることと、サーバにメールを預け相手が自動受信するか又は取り込んでもらうことで大きな違いである。これまでの私たち聴覚障害者は聴覚障害者の利用状況(図)のように健聴者の通話をFAXで補う形であったため、相手が居るか居ないか確認が難しかった。送受信方法比較に整理したように聴覚障害者が相手とリアルタイムにやりとり出来る事が健聴者の電話と同じように災害や緊急時に当たり前に使う、相手の安否など確認するための連絡が取れる、この通信手段が直接型メールであり、双方向文字通信というシステムを求めることが出来た。直接型メールは「命に関わるほど大切なこと」となり、補聴器以上に大事に使う聴覚障害者は決して少なくない。こうした背景から聴覚障害者の生活の質の向上が直接型メールによって出来、これを機会にプラスヴォイスに集まった仲間約2500名の中から親睦組織、「プラスヴォイス倶楽部」を1999年3月に結成する。聴覚障害者にも安心して確実に使えるよう情報通信のバリアフリーを求めた提案・要望等を全国レベルでの情報交換、ネットワーク、電話リレーサービス等、聴覚障害者のための移動体通信を考え、各キャリアやメーカーに働きかけている。テレビの字幕放送に関しては、欧米で全番組の70%まで普及しているが、日本では民放では2.9%しか字幕が付いていない。

特に、ニュースにはNHKのニュース7のみで他にはない。字幕の提供を利用者側が独自にやることは、作業の都度許諾が必要で、突発的な災害など緊急性の高い情報は間に合わないなど壁があった。全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が長年、著作権法改正要望を出した結果、昨年5月に著作権者の許諾を得ないでテレビ等の音声を要約した字幕として提供が可能と言う法改正が行なわれ、災害情報など緊急時許諾得ずに情報保障出来るようになったことは、大きな前進となったといえよう。しかしながら、公共の福祉という観点からテレビ局などは、同時性まで困難でもテロップを流すなど字幕を付与するべきである。今後の課題として、市町村や警察・消防署と聴覚障害者など通信機器で結んだ緊急情報ネットワークの構築が欠かせない。例え、ある協会に属する者なら属する者範囲でしか情報保障出来ないなども危惧される。東海村臨界事故の例に見られるように、仙台市の携帯電話代理店プラスヴォイスがFAXやE-Mailなどあらゆる手段で情報提供を行った事は高く評価したい。災害情報ネットワークシステムは、地元の手話通訳者など情報保障活動者も被災者となり人員や情報保障活動するための機材が不足することになるため、隣県など派遣ネットワークを形成できるよう取り組む必要もある。またローカル放送局と連携しローカル的な情報を健聴者と同様にテロップなど字幕を付与するように検討して欲しい。災害弱者が情報から孤立しないための対策のマニュアル作りで、どういう視点をそこに盛り込むかが大事である。情報格差のないように当事者である聴覚障害者を含めた、ユニバーサルネットワークを構築していく必要がある。いずれにしてもそのネットワークだけ任せていてはいけない。専門的知識やノウハウを持つ行政や企業や障害者との連携による知恵と力の共有がどうしても必要であり、それを実現するための方策を立てるべきである。ご静聴ありがとうございました。