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講演会”スウェーデンとアメリカにおける「読みに障害がある人々」への情報サービス”

インガー・ベックマン氏(スウェーデン国立録音点字図書館)講演

インガー・ベックマン氏の写真

また、来日できて、うれしく思います。前回東京に来た時に会った方もいますね。あの時は私の図書館の概略を話し、そのときの内容と若干だぶりますが、今日は特に「読みに障害がある人々」への対応の話をします。また、TPB、スウェーデン国立録音点字図書館での体験が皆さんに役に立つ事を祈っております。
教師、親、図書館スタッフ、彼らにとって、更に録音図書をよりアクセシブルなものにできるかということについて話します。勿論、スェーデンの視覚障害者だけでなく、世界中にいる読みに障害がある人々や視覚障害者にとって、読書を楽しめるにはどうしたらよいかお話しします。それが本日の話のテーマですが、1つ、申し上げておきます。

スウェーデンではどのように物事が発展してきたのかを話すのは簡単です。なんといっても、東京の人口よりも少ない、900万人が国全体の人口でだからです。小さい国なので、いわゆる福祉国家としてよく知られていると思います。この過去50年ほどは、福祉に力を入れてきた国家として知られていて、国としても福祉国家というのを冠として提示しています。更にスウェーデンは、障害を持つ人にとってよい国になろうと努力しています。国家的な障害プランが政府により策定されています。このゴール、これが目標としているのは、2110年までにアクセス可能な社会を作ることです。

ちょっと前のことですが、国内で読みに障害をもっているのは、何人くらいいるのかを計算しましたらおよそ4%と出ましたが、実際にはもっと多いと思います。ただ、著作権の事を考えますと、このパーセンテージが高くないことの方が望ましいかもしれません。実際には、そのうちの1%が視覚障害、残りの3%は他の理由で読みに障害のある人と思われます。

インガー・ベックマン氏の写真2

障害者を対象にした政策は、1976年以降、導入されています。その中のキーワードは、「平等」です。同じ文化にアクセスができるようにすること、そして、その際、必要な特別措置がとられることが重要です。障害がある人の場合には同じ文化に健常者と同じアクセスできるようにすることが謳われました。

もう1つは、「ノーマライゼーション」です。読みに障害がある人たちにとって、ノーマルなアクセスを確保しようということがここで謳われました。通常のあるいはノーマルな図書館で本の貸し借りができるように、学校でもきちんと統合してもらうえるようにしようという考え方でした。

もう一つのキーワードは、地方分権です。これは、地方政府が障害を持つ人に対して、より近くなるべきということです。市町村がまず最初の段階の責任をおう事です。

1976年のこの障害者政策によって、その後、政府主導の図書館を設立することにつながりました。略称で「TPB」と呼んでいます。これが私の職場である図書館です。国の機関であります。ここでは、録音図書、点字サービスの提供、大学生へのサービスや研究開発などを行っています。

中央図書館と録音図書館を二本だてにしたのは、ニーズが広いからです。その後、1977年になるとTPBは、スウェーデン作家組合と同意をかわしました。1960年制定の著作権法に追随するものです。読みに障害があって録音図書を必要とする人はだれでも視覚障害者と同様にそれらを借りる権利があるとしたものです。

1977年当時は、まだまだ、ディスレクシアや他の読みに障害を持つ人々は陰の存在で、図書館の利用にも様々なバリアがありました。その中で、各公立図書館や私たちの図書館に対してターゲットグループがどういう人なのか知らせる必要が生じました。

こちらのスライドをご覧下さい。どんな人でも本が借りられる、つまり、視覚障害、長期疾患者であれ、回復期の患者であれ、運動障害を持つ人であれ、失語症、ディスレクシアであれ、聴覚障害者、精神障害者でも、録音図書が借りられる。また、一時的な障害を持っている方も借りられる、というコンセプトです。

これは著者と出版社との合意によってなされました。対立はなく、人々は図書館に行って、録音図書を借りることができます。地元の図書館は公立図書館、群、TPBなどと連絡をとって本を取り寄せます。読みに障害がある人もどの図書館でも録音図書を借りることができます。この貸し借りは地方分権が進んでいて、障害者プランに伴うものです。

TPBでは、さらに絵もつくってみました。利用者、図書館のスタッフに向けて作ったんですが。ここで言いたいのは、本を読みましょう、録音図書を借りてみましょう。「読みに障害がある人々」はどんな図書館でも録音図書を借りられますと言っているのです。そのさいに、自分には読みに障害があることを証明する書類も必要ありません。これはとても重要です。読みに障害のある子供達はそのような証明書をもっていませんが、自分がディスレクシアだということは分かっています。

7万を超える録音図書のタイトルが用意されています。そのなかで、9500種類はDAISYのフォーマットです。さらに、プレクストークや、ビクターなどリーディングマシンも公立図書館で借りられます。PC用のソフトウェアも無料で借りられます。本当に自由に公立の図書館で、大きくても小さくても、どこにでも行けます。スウェーデンには図書館法という法律があります。この中で、公立、学校図書館で障害を持つ人々へ特別の注意を払い、彼らの要望に応えられるよう調整をした文献を提供できるようにすること、とあります。

例えば、ディスレクシアの学生がいたとします。これは、TPBの任務では必ずしもないが教育委員会から援助をもらい、出版会社はディスレクシアのための出版をする試みもできる。まだまだそういった本はたくさんはないですが。そういう動きも生まれています。またスウェーデンの「特別なニーズを持つ学生のための教育」インスティテュートでは、視覚障害の生徒のための本を作っています。

また、「読みに障害がある生徒」に対し、録音図書が学校の図書館で提供できるように実際に購入しているところもあります。まだ、十分に機能しているとは言えませんが。来年1月には、障害を持つ生徒のための教科書制作委員会で、ある提言が出されます。よりアクセブルな教科書を作ろうという動きです。現在TPBは大学レベルで非常に良いサービスを提供していますが、その下のレベルではまだまだなので、もっと出来るようになると良いと思ってます。TPBがこれに参画できればと思います。

ディスレクシアの方々に対しては、大衆向けの出版物のオーディオ図書、教科書のオーディオ版、電子版、拡大図書を作る必要があります。特別な命令ではなく。カタログがウェブサイトに掲載されているので、多くの教師や親がTPBの図書から教科書を借ります。TPBは年間に3000の録音図書を作っている。様々な年齢層やジャンルの図書があります。50%以上の図書はノンフィクションです。ある図書は特別なニーズを持つ人のために特別に作られています。ここ2年ほど、全てはDAISYで制作されています。

リーディングについて話しますが、TPBでは何年もやっていますが、これはとても便利です。DAISYで使うと特に便利です。録音図書と挿絵の入ったノンフィクションの組み合わせです。非常に豊富なイラストの入ったノンフィクションブックが印刷本とイラストを多用して使うことができます。聞きながら印刷物を読むことができます。目が見えるけれどもテキストを読んでもらう必要がある人のためのものもあります。イラストの説明はナレーションのなかには入っていません。これは本は全て、オーディオのみでDAISYになっています。著作権法のからみでスウェーデンではまだ許可されていませんが、オーディオブックでテキストをつける、来年そう言う事が可能になればと思っています。

さて、もう一つの種類の図書はディスレクシアの読書訓練用の録音図書です。2-3種類の速さで録音されています。読む練習に使う事ができます。同時にこれを読む人は印刷されたものも持つことができ、本とテープ、本とDAISYと1つのキットとなっています。DAISYプレーヤでスピードコントロールできるので、個人にふさわしいスピードに調整して練習することができます。

またスペシャルナレーションもあります。何が特別なのかというと、TPBにおいては、ナレーションを入れる時にドラマ性を持たせないというやり方をしていて、視覚障害者にとっては、読み手が本と自分との間に立っていろいろ解釈をしてもらっては困るので、あまりドラマ性を持たせないという読み方です。また、特別ニーズを抱えるひとたちのためですが、例えば、精神障害の子供達のグループもあります。これにより、音響効果、音楽や日常の音、交通の音、雨、鳥の声なども取り込まれ、対話用に何人かのナレータがいます。こういったものは、マルチメディアのDAISYにとっては完璧です。

80年代には、まだあまりディスレクシアのユーザー数は多くはありませんでした。。TPBは1990年から1992年まで、小学校における印刷物を読むの障害がある生徒たちの録音図書というプロジェクトを行いました。私どもの図書館員に読書障害があるときにどういうふうに読むのかという文献を学んでもらいました。そして、彼女は2つの方法を確立しました。やり方は録音図書を聞いて、次に聞くときは、印刷物を見ながら聞きます。最終的にはできるなら、子供が自分で呼んで録音するというやり方。もう一つは短い本をきいて、同時にテキストをいう。普通、ゆっくりと、非常にゆっくりと速さをコントロールできます。

これはうまくいったキャンペーンでありまして、テープに録音するというのが、それほど簡単ではなかったのですが、プレクストークにより簡単になりました。ます。ディスレクシアの子供のいるクラスにこのポ-タブルレコーダがあり、録音ができ、読書訓練につながり、おすすめです。

私が紹介したいのは、子供図書館員の報告です。2年間のプロジェクトの成果を知っていただくことで、良い刺激になると思います。この方法により、多くの子供たちは読む力がましただけでなく、自分たちに自信をつけることができたと彼らは報告しています。本を読む事の興味がわきました。多くの子供たちはボキャブラリーが増え、読むスピードも速くなった。話をするのもうまくなり、間違っていた所を発見できました。子供によっては、予期していないような重大な変化がおきました。これは、たとえば全く本を読むことができなかった、「読む」というプロセスを理解できなかった、つまり先生たちからだめと思われていた子供たちです。この生徒たちが、テキストを見ながら録音図書を聞いた時、二つの感覚が刺激されるわけで、彼らの中で何かが開始した。全く何もない所から多くの進歩ができました。これにより、まったく何かから解放され、新しく本に取り組むことができるようになった。このプロジェクトに参加した全ての生徒が、大成功ではなかった、しかし、多くの生徒はよりよく読めるようになったし、多少ゆっくりでも読むことができるようになったという結果が出ています。
中には、全くこのプロジェクトが功を奏さなかったこともありましたが、全体として録音図書はプラスの経験となりました。彼らは本が好きになり始めました。読みが得意な学生にはならなかったが、少なくともおもしろい、エキサイティングな本に出会うことができ、友人とその本について話し合うこともできました。心の中で、自分の自信がアップしました。ほかの生徒と話すにもより調和を取ることができました。また、学生たちの集中力と落ち着きが改善されました。更に、自閉症や軽い知的障害の生徒も参加して、非常にポジティブな結果が得られました。

TPBプロジェクトが行われた後、他の図書館レベルで同様のことが行なわれました。今も進行中です。多くの教師、学校では録音図書についての知識は十分とは言えません。時間はかかりますが、教育訓練が大事かと思います。このような結果が出ていて、ディスレクシアの生徒の環境が改善されたことがわかります。先ほど申し上げましたように、私どもは、大学生レベルでの印刷物を読めない障害を持つ人たちにサービスを提供しています。各学校、大学において、ふさわしいサポートをするべきで、ふさわしい支援があれば、大学レベルまでいける。

スウェーデンでは、オープン・ユニバーシティという、「すべての人にとっての大学」という考え方があります。あらゆる障害を持つ人にも開かれた大学という考え方です。現在ほとんどは、ディスレクシアの生徒がメインですが、TPBや大学図書館からサポートを得られますし、1988年からTPBは政府から資金援助を受けて、大学の生徒に対してサービスを行っています。2002年からは特別な活動として、大学にもっと障害をもつ学生を連れてこようと言う活動をしていて、私どものサービスを利用する生徒は毎年30%増加しています。また、2002年、障害を持つ生徒に対する差別を禁止する法律ができました。

TPBはあらゆる生徒のための図書をDAISYで制作しています。点字テキスト、拡大文字、すべてDAISYです。新しく製作されたもの、古いテープに入ったものも、DAISYに変換されています。ソフトがあれば、再生でき、本が読めます。最終的には、DAISYコンソーシアムの目標とするところはグローバルな図書館を達成したいとうことで、大学レベルなどの高等教育のテキストブックはすべて世界中どこでもネット上からダウンロードが出来るようにするということです。これは将来に向けての非常に重要な仕事です。

そして、ディスレクシアが他の障害と同じように深刻な障害であることを、認識してもらうことが非常に重要です。スウェーデンでは、ディスレクシアキャンペーンというのがあります。ディスレクシアの子供もったある母親のアイデアによってこのキャンペーンを立ち上げました。多くの人の考え方を変えてほしいという願いがあったのです。一生懸命になって、学校の状況も変えたいと思ったわけですが、このキャンペーンをして、多くの資金を得られました。成功したわけです。多くの支援者を得ることができました。TPBとしては、積極的にこのキャンペーンに参加しました。1996~1997年にかけてのことでした。

TPBは図書館員、先生、親の集まり、政治家などに対し、録音図書を借りることはディスレクシアの人たちの権利であると訴えました。また、TPBは運転免許の取り方、自分のバイクの直し方などの本も制作しました。現在DAISYでこれらの本は完全な形になっています。TPBは様々な会議、展示会などについてのパンフレットや情報も作成しました。このキャンペーンでは、20トンもの資料を全国の学校や図書館に送り、費用は200万クローネかかりました。別に余分な予算があったのではなく、通常の人件費を全てこの仕事にあてたのです。

最後になりますが、人々の取り組みをかえることは、一夜にしてはできません。一夜にして出来るわけでなく、もう2002年ということですが、地方図書館に来て、本が借りられるか?と聞く人もいるわけです。情報は何よりも非常に大事です。DAISYキャンペーンも行ないまして、DAISYをフォーカスすることで、各図書館もディスレクシアのニーズをわかっていくことができます。DAISY録音図書は、ディスレクシアの人にとっては、昔のテープよりもふさわしい媒体です。教師や親のディスレクシアの子供たち対する倫理上の考え方も変えなくてはいけません。彼らはなまけているのではありません。ただ、本が読めないだけです。これは私どもが出してるまんがですが、「ぼくはレイジー(怠けている)わけではなく、デイジー(DAISY)を読んでいるんだよ」という言葉がついています。DAISYは役に立つものです。ただ、これをユーザー側から大いに訴えて行かないといけない、各国は著作権法をクリアーしなければいけないし、また、先生や図書館員の熱意も必要です。ありがとうございました。
質問ありますか?

河村/何か質問ありますか?

質問者/バングラデッシュから来たので、日本語、少しわかります。ごめんなさいね。私の名前はヴァシコルです。私は日本に来て、DAISYのことを知る事になりました。
 ただ、発展途上国にいると、DAISYについて聞く事はまずありません。バングラデッシュのような国で、DAISYを紹介するプランはありますか?

インガー/ご質問ありがとう。DAISYコンソーシアムの目的はすべての国に手をさしのべることです。当然、発展途上国も含まれます。河村先生はまさにそういった活動に身をおいていると思います。非常にうまく工夫されたプランはできているので、近い将来実施することになろうと思います。ただ、このプラン、バングラデッシュやそのほかの国で実際に紹介するには予算も必要です。この問題を解決したら、アジアの国々で紹介したい。時期的には比較的近い将来に可能になると思います。いずれは、バングラディッシュでも録音図書を作るシステムを作りたいと考えています。

河村/ありがとうございました。
 せっかくの機会、本当に、お忙しい中、ずいぶんユニークな分野で活動されている人がきているので、是非、そこで情報交換とネットワーキングを行っていただきたい。特に視覚障害のかたは、相手がどこにいるかわからないので、周りのみなさんでサポートして誰かを捜してると思ったら、声をかけてください。
 では、まだ、本当は、じっくり議論したいのですが、最後にインガーさんとジョージさんから今日全体を通じて、言い残したことを、1つでも2つでも良いですが、5分以内で、短くまとめコメントを総括的にいただき、そのあと閉会にすすみたいと思います。

インガー/私が考えるに、アクセシビリティというのは、政策の問題だと思います。どういう社会を作らなければいけないか。全員が同じ可能性にアクセスでき、情報を取得できる。これを政策上の問題としてそして福祉政策とも関係してくると思います。社会全体として、すべての人のアクセス権を認めなくてはいけません。
 NGOがいろいろな活動を献身的に行なっていますが、非常に大切なことです。最終的には政治的なもの、法律に結びつけて行く必要があります。「全ての人のアクセシビリティー」、「全ての人の学校」にしていく必要があります。これを考える時、日本の学習障害を抱える子供達が本を借りられないことを聞くと、非常に怒りを覚えます。すぐに、この政事的なことから取り組まなくてはと思います。ありがとうございました。