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DAISY活用事例交換セミナー

DAISY活用事例交換セミナーについて
日本障害者リハビリテーション協会 情報センター
野村美佐子

当センターは、関係団体と提携して認知・知的障害者のニーズに対応するDAISYの開発および普及に取り組んできたが、その成果の集約の場として「DAISY活用事例交換セミナー」を開催した。

セミナー冒頭の河村情報センター長による「DAISYの現況とこれからのDAISYについて」と題する基調報告によって、当初視覚障害者のニーズに応えるために開発されたDAISYがどのように認知・知的障害者のニーズにも応え、更にはすべての人が共有できる情報システムとして発展しようとしているのかが示された。

「ディスレクシア」という概念はまだまだ日本にはなじみのないものであり、日本障害者リハビリテーション協会は、ここ数年間DAISYの開発に平行して情報提供の課題として追求している。このテーマに関する外国での情報を障害保健福祉研究情報システム(http://www.dinf.ne.jp)に掲載してきた。今回のセミナーにおいては特に加藤氏と田中氏の2人の専門家にご講演をお願いし、ディスレクシアについての理論的な理解を深めることができた。
ディスレクシア等の「読みの障害」の苦しみをDAISYは救うことができるのだろうか。この課題に実際にDAISY製作を行なって挑戦している2つのグループに発表をお願いした。実際にユーザーの声を聞き、それに答えるために試行錯誤しつつ製作している人々の発表はとても貴重であり、興味深いものだった。

また実際にDAISYを使用している新しいユーザーの率直な声もまた重要である。読むことに困難のあるお子さんを持つ母親の感想は、紙上の発表ではあったがとてもインパクトがあった。彼女のお子さんはDAISYを使用することで初めて教科書を読むことができ、自分もDAISYがあれば読めるし試験の準備もできるんだという自信を持ち始めた。セミナーで自らのディスレクシアとしての経験と初めてDAISYで本を読んだ体験を率直に話してくれた辻本君の感想も共感を呼んだ。彼は、セミナーの後で、自分が読んだ「赤い靴」(スウェーデン語の原著を当協会が邦訳してDAISY化したもの)について、「続きはどこにあるのですか?」と聞いてきた。この言葉は、彼がDAISY図書を楽しんで読んだという評価として受けとめられるだろう。

以上を総括すると、このセミナーは、認知・知的障害者のニーズに応えるためにDAISYをどのように活用していくのかを共に考える場を提供するという当初の目的を、みずみずしい感動を伴いながら達成したということができるのではないだろうか。
多くの視覚障害者に録音図書を提供している、あるいは関わっている点字図書館関係者やボランティアの方の参加も、これからのDAISYについての深い関心がうかがわれて心強かった。著作権という大きな壁があるが、今までのリソースを活用してどこまで認知・知的障害者にも貢献できるかを追求することは、やりがいのある大きなチャレンジであると思う。スウェーデンなどはかなり前から、そしてフィンランドやデンマークはここ数年で視覚障害者のためだけの録音図書というイメージから脱却し、ディスレクシア等の認知・知的障害者へもサービスを始めている。このような活動の展開を日本の点字図書館関係者にも期待したい。

来年度も今回のようなセミナーを持ちたいと思うが、そのときまでに認知・知的障害者にとってのDAISYがどこまで広がり、どのような人がDAISYに関わっているのかが楽しみである。DAISYが様々な障害者の情報のアクセスを保障できるツールになっていければと願うが、そのためには著作権の問題など社会のシステムをDAISYの発展を支えるように変えていく運動を同時に行っていかなければならないと痛感する。