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DAISY活用事例交換セミナー

研究者の立場から
田中裕美子
国際医療福祉大学言語聴覚障害学科 保健学部助教授

こんにちは田中です。私は実は専門は小児の言語障害でして、一般的には皆さんSTという言葉をご存知と思いますが、その領域で普段研究しております。今日私がお話いたしますことについて、大まかにパワーポイントの配布物を用意しておりますので、そちらをご覧ください。ただ、実際にスクリーンにだすのは1~2枚、余分に作っていますので、全てが皆さんのお手元にはないんですが。「読み書き障害」というタイトルで、実は私の意味する読み書き障害は、もともとの言語はReading Disabilitiesという言葉です。その英語をそのまま訳しますと、「読みの障害」という方になるんですけれども、「読み」に問題があるお子さんの場合は、もちろん「書き」にも問題があります。ですから日本語に訳すときに読み書き障害と訳しました。しかも英語圏でも、Reading Disabilitiesは「書き」の問題をもっているということを皆さんわかって使っています。これが皆さんの配布物にはないんですけれども。実は、ついこの間、私はいつも新幹線の那須塩原まで大学があって東京から行くんですけど、よく買う雑誌がアエラで、12月号を見ますと、非常によくまとまって、わかりやすい記事が載っていました。タイトルがここにありますように「ディスレクシア、読み書き困難。あのトム・クルーズも」というタイトルで、その下に「だ、が、さ と。Bedが Debと見えてしまうなぜ見間違うのか。でもそういう人は少なくない。それがディスレクシア」という小見出しもついていたんですね。ですから現在では一般の方々にもこのディスレクシアという言葉が拡がりつつあるし、非常に不思議な見え方をしてしまう人達だというふうに伝わっているというふうに思いました。で実際アメリカでも、ついこの20年程前はそうだったんですが、特にここ10年ぐらいは少し違ってきています。それに基づいて、私も皆さんにその違ってきているところをお話ししたいと思います。

実は今回、Reading Disabilities「読み書き障害」という言葉はですね。いろんな定義が使われてきたんですね。実際例証的には、「字を読んだり書いたりすることを習得する、身につけることの難しい子ども達、あるいは青年もいるんですけれども」その人達のことなんですけれども、例えば、先天性失語盲症ですか。日本語に直すと非常に難しい言葉になります。Word Blindnessですね。それからもちろん失読症。その前に発達性をつけて。というのは、失読症の最初の頃の研究は、脳に障害を持ったというか受けた人が、意識を回復したり、字が読めなくなって、書けなくなったというときに失読症という言葉を使い出したものですから、子どもにつかう場合にはやはり発達性をつけなくっちゃいけないんじゃないかということで、つけた人達もいます。最近、言葉で出てくるのは、「特異的読字障害」ですねSpecific Reading Disabilityとかもっと一般的な言葉で、学習障害と呼ぶ人達もいます。それから、それにちょっと言語をつけて、言語学習障害。最後にPoor Readerと読みが下手と呼ぶ人達もいますので。もう教育界、心理、医学、いろんなところで、いろいろな読み方がされています。ですからどんな子ども達なんだろう、どんな問題を持っているのかちょっとわからなくなってきているんすね。それでいろいろやっぱり整理しなくてはいけないんじゃないか。ということで最近の位置づけはディスレクシア、失読症は読み書き障害Reading Disabilitiesの一つのタイプであるという位置づけをしています。

いくつか理由があるんですけれども、例えば、最初のアエラの記事にあったように文字が反対に見えてしまうといったような現象はですね、小さい子どもが最初読み始めるときには通過する、そういう現象はみられるんですね。ですから決して特別というか、それがまあどのくらい続くかとか重症度にもよるんですけど、でもその健常の中にもみられることだし、他にもっと問題があるんです。読んだり書いたりすることについて。ですからたった一つの特徴にしか過ぎないということで、この現象だけでは判断基準として使えないということが今わかってきています。それから実際にこうやって見える視覚・空間認知そういったことが本当に問題の中心になって読めない人達というのは大体10から5%だろうと言われて、あとの80%近くの人達はどんな人達だということになっているんですね。実はディスレクシアの人達はここにも書きましたように音韻情報処理の問題が、あるいは障害があるという特徴になります。後でご説明します。これがディスレクシアの背景にあるだろうということも最近わかってきました。実際教育現場で私達のような言語STの領域で、学習が困難というか、国語ができません、読んだり書いたりできませんっていうお子さんが相談に来るんですね。

どういうタイプの子か少しみていきますと、大体大きく3つのタイプがあります。1つ目がまあほとんどの子がそうなんですが、日常お話しているとほとんど問題はない、支障がないんですけど、さあじゃあ「教科書を読んでごらん。」とかなにかプリントを読んでと言われたら、まあまあ読めるんだけれども、でもなんか中身がよくわかっていない。「いま何が書いてあった」とか「どうだった」と言われても何かうまく説明できないというふうに、読んだり書いたりすることだけでなく話し言葉にも問題がある。幼さがあって学習全体がうまくいかないタイプのお子さんがいます。それが1番のタイプ。2番目の人も同じ様な問題があるのですけども、それに付け加えて、小さいときに、多動であったとか、自閉的であった、対人関係がうまくいかなかったお子さんで、最近学童というか学校に入ってから会いますとそういう行動特徴はほとんど見られず、軽減していまして、実際にやりとりもできるし、聞かないと昔のこともわからないところまできてる。でも1番のような、話し言葉だとか書き言葉だとかに問題があるお子さんがいて、この人たちも同じように国語ができません、読み書きが難しいです、と相談に来られます。3番目は要するに私達が考えているディスレクシアというか、中心にその読んだり書いたり、あるいは算数学習が難しい子ども達。実際に狭義の狭い意味での学習障害もここに入るんですけれども、こういうタイプのお子さんが3番ですね。3つのタイプが最近こう相談にみえると、私達はそのそれぞれの子ども達にあったことを考えていかなければいけないんじゃないかなと思います。

今の話を例えばいろんな整理の仕方あるんですけれども、読み書きを中心に整理する最近分け方なんですけれども、読み書き障害というのは読んだり書いたりすることを身につけるのが非常に難しい。だけどIQは自体は正常範囲であるというのが前提ですよね。その読み書き障害には少なくとも、2つのタイプがあるだろう。1つが失読症と言われる音韻情報処理の障害で、文字を見てすぐに音に変えれない、というか読めないですね。それからそういう人達は音読意識にも問題があります。ここで今度右側にいきますが。一つ一つの文字を読むこともできるし、ある程度なんとなくこう文を読んでいるんだけれども、文意が理解できない、そういうお子さんもいます。そちらが言語学習障害と呼ばれるタイプのお子さんです。こういう人には、大体話し言葉の問題もあります。日常生活ではわからないのですが、調べればそういう問題がでてきます。この2つのグループの一番の違いは同じお話をこちらが読んであげます。それで読んで、「いまどんな話だ。」と質問したら失読症の人はすぐわかります。だけど言語障害のお子さんは「うーん」とこうなります。あんまりよくわかっていないんです。話し言葉の問題もあるからです。ですからこの2つのグループの違いは特に聞き取りをすればよくわかるということが言われています。ですから少なくとも2つのタイプが読み書き障害にはいるんじゃないかなということがわかってきました。

実は、私は2年前くらいまでアメリカにおりまして、こちらに戻って、すぐには臨床というか、子ども達のケースがなかったので最初は日本語には本当にディスレクシアっているんだろうかと。あるいは読み書き障害っているんだろうか。文献でしか調査できないので、いろいろ研究の論文を集めますと、まず発生率でびっくりしたのはまあ1~15%まで、いろんなレベルの発表というか調査結果が出ています。どうもそれは方法によるんだなあということはわかりましたが、でもまあ何%の子ども達がいるのかなというのがまだわからない、というのが私の印象です。それから実際に事例報告、例えばまあ講師、先生方の研究の事例報告を見ますと、失読症、ディスレクシアのタイプが多くて、例えば小1年生くらいだと、ひらがなの読み書きが覚えらずに来ている子ども達。小学校3、4年生になると読み書きの学習が進まないって来ている子ども達がやっぱりいるんだなあということを知りました。その背景は、その音韻障害というのは実は英語圏の研究から出てきているんですね。英語圏の音韻体系っていうのは日本語と違いまして随分難しいんです。そのせいもあって、読み書き障害が多いといわれているんですけれども、日本語にも音韻障害が背景にあるんだろうかということを不思議に思って調べますと、1~2、研究があって、やはり音韻障害というか音韻処理というか音韻情報をうまく処理できない障害があるんだなあということが、ある程度、まだ数は少ないですが研究からわかりました。それで今私はここ2~3ヶ月、やっとクリニックに入れてもらえるようになり、大学にクリニックがあるもんですから、クリニックに行って子ども達と会うようになりました。その会うようになった子ども達の何例かが、私は英語圏でトレーニングを受けて、英語圏で見てきたような、その読み書き障害に基本的に当てはまるなという子ども達に何例か会いました。

今日は、皆さんに紹介したいその3例なんですけれども。まず、この3例ともですね、相談の趣旨、主訴ですね。なんでこのクリニックに来られましたかと私たちは言語聴力センターというのがありまして、「言葉の相談室」ですね、そういうところに来られるというのも、3人が3人とも、どれかに当てはまります。読み書きができない、国語ができない、学校の勉強についていけない、皆さんこういうことが書いてありました。で3人ともまた男の子で、1番、事例1の人が小学校3年生の3学期初めて連れてこられて、事例2の方は小学校4年生の3学期。3例目が小学校2年生の1学期。大体皆さん読み書きがうまくいかない、勉強が苦手、学校に行きたくない、おもしろくないというのが共通してありました。私達はまずそのこの読み書きの問題とか、今ここにでている問題の背景になにがあるのかということで、必ず発達検査とか知能検査を実施します。その中心になるのが、たぶん皆さんご存知だと思いますがここに書いてあるWISC-IIIです。これは言葉を使ってはかるIQと、言葉を使わないではかるIQ。言葉を使う方がここにありますVIQの方ですね。言葉を使わないのではかるIQがPIQです。両方をあわせてフルIQ、全IQです。まあ平均、本当に純粋な平均じゃないんですけど、全体をあわせたIQというのもでます。不思議なことにこの3人とも言語を使ったIQが、82,84,85というふうにすごく似ていたんですね。実はIQというのは100が平均なんです。15というのが1標準偏差だから、だいたい80くらいからうーんちょっとIQが低めかなというふうに皆考えるんですけれども、皆その「中の下」あたりにいる。その言葉ではかった知能が皆この「中の下」あたりなんですね。ところが動作IQをはかった方は、本当にいろいろバラエティに富んでいます。ですから事例3のように100の人もいれば、平均の人もいれば、86というふうに本当にすれすれ、中の下かなという人もいれば、75とちょっと低いかなと思うような人もいらっしゃるんですけど。それでも主訴についてはですね、皆さん基本的には共通していたということです。

ビデオを早速見ていただきたいんですけれども。この初診の時は、私ではなく他の先生が診ていらっしゃったんですけれども、何をしているかというと、ひらがなで書いてある、「からす」とか「うさぎ」とかひらがなで書いてある言葉を読んでもらっているのですが、非常に大変でした。小学校3年生の3学期ですから、もう周りの人達みんなすらすら読んでるわけです。でも、本人にとっては本当に大変なことでそれでも一生懸命読んでくれるんです。
ビデオ音声/「か・ら・す・・・。」「はい上手」

わかりますか?こう一つ一つ切って一生懸命努力して読んでいるんですね。ちょっと切り替えてもいいですか。この人のこれは加藤先生のグループが作られた、書字の課題を少し使わせていただいて、この人にやってみました。これは「ふね」、一番目が船です。書いてもらったんですね。「先生の言ったことを書きましょう」ということで。次が「きっぷ」で「っ」がでてこなかったのかどうだったのかいろいろ努力して。次が「どんぐり」、次が「おねえさん」五番目が「じどうしゃ」です。基本的に書けたのは「ふね」だけです。特殊音節とかがはいると非常に難しいことで、書き取りも、最初に言いましたように読むのが難しい人は、書くのも非常に難しいということがこれでわかります。この人は、典型的ディスレクシアというか失読症の一つ。まあ特に重度の方だと思いますが。あと学校で難しいだろうなと思ったのはこの問題です。これは上に一文漢字があって、すごく簡単な例えば「石」という漢字があって、下にひらがなが三つならんでて、「いし・みぎ・ひだり」とかって選択肢が書いてあるんですね。この人は実は不思議なことに漢字のほうがいいんです。後でまたその意味は説明しますが、漢字がいいんだけども、今度難しいのは下の選択肢のひらがなが読めないもんですから、問題ができないんですね。学校でもしテストだったら、一問もできないんですけど、ところがこうやってカバーして「読んでごらん」と言わせると、読めるんです。これ今は困っている、選択肢が読めないので。
ビデオ音声/「これは」「いし」「はい、これは」

読んでいますね。カバーして「漢字を読んでごらん。」と言われるとできるんです。だからなかなかその持っている力も一般のテストの形ですると、この子達の力がよく見えなくなる可能性があります。これは書いてもらっているところです。
ビデオ音声/でかけてい・る・あいだ。たまごをあたためます。あたためているのは・おすのやくめです。おすは・

随分苦しんでいますが、それでも1番目の人、この人事例3なんです。苦しんでいますが、まあそれなりに読めるんですね。小学校2年生の、この時は2学期だったか3学期だったか、まあこのレベルの人がいるんですが、文字を音に直すのはそれほど問題ないんですけど、読んだあと何もわかっていないんです。
ビデオ音声/むずかいしよね、これは。じゃあ3番どうぞ。なにも・たべないので。

ほとんど国語の試験ってこういうことですよね。「上の文章を読んで、下の問いに答えましょう」とか。一生懸命つまりながらも読んで、「じゃあ一問やってみましょう」と、「うーん」ってこうなるんですね。「じゃあ二問目」「うーん」で結局だんだんできなくなるから、頭かかえて最後は机に伏せてしまう。ところが実は、
ビデオ音声/「えさをたべにうみへでかけます。」

だから教師が読んであげると・・・。もう問題はわかっていますから、答えを書いていけるわけです。ですから自分ではある程度音を文字に直せるんですが、文意はとれない。この人の場合は、実は幼児期に言葉の発達の遅れもありました。多動傾向もあったりして、1番目の人とは背景が違うんですね。そうすると私達と会って何をしてあげるかとか、なにを宿題にしてもらうかもまたかわってくるんじゃないかなと今考えています。だから1番目と3番目の人では、私達が指導する内容も変わってくると考えています。最後に今日皆さんにお伝えしたかったことは、読み書き障害というのは一つのタイプではなくて、いろんな子ども達がいるということで、その子、その背景をうまくというか的確につかんであげて、いろいろな教材があると思うんですけども、それをその子達にあった形で使っていければな、と思っていることをお伝えしたかったんです。