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効果的な援助を行うために:成功事例の普及

日本財団 国際協力グループ BHNチームリーダー 石井靖乃

 私の働いている日本財団は、わが国最大の民間助成財団で、かなり大規模な事業を長期間に渡って実施することができます。しかし、現在世界が抱える様々問題の前ではほんの僅かな力であることは否めません。当然のことですが、我々は取り組む課題や国・地域を限定せざるをえず、すべての事柄に関わることはできません。日本財団のような規模の大きな組織ですらこのような状況ですから、より規模の小さな組織になれば、なおさら対象を絞らざるを得ないでしょう。

 しかし、このことは否定的な側面ばかりではありません。なぜなら、規模の小さな組織は大組織にはできない現場に密着した決めの細かい活動を行うことができ、現場レベルでの成功事例を作り上げることができるからです。

 途上国への援助が効果的なものになるには、そのような成功事例を国・地域レベルに普及することが大切です。では、誰がどうやって行うのか?残念ながら私は決定的な答えを持っていません。しかし、進むべき方向性については既に明らかになっていると思います。第一にはNGOや民間助成財団の成功事例について様々な角度から分析し経験を政府や世界銀行など国家レベルで事業を実施している人達と共有することです。既にこの様な情報共有の重要性は繰り返し指摘されており、シンポジウムやワークショップの開催、またはインターネットの活用など様々なかたちで実践されています。

 次に重要なことは、言うまでもないことですが、成功事例から得た経験に基づいて実際にプロジェクトが実施されることです。情報共有目的で様々なシンポジウムやワークショップが行われても、資金や人材の不足から何事も起こらないまま、成功事例が埃を被ってしまっていることも多いのではないでしょうか。成功事例を国家レベルのプロジェクトとして普及するためには、当事者、NGO職員、財団職員、政府職員、政治家など、どんな立場の人でも良いので熱意のある人々が関係団体・個人に粘り強く働きかけることが不可欠だと思います。

 どんなに先進的な組織やシステムであっても、それを動かしているのは人間ですから、突き詰めれば、効果的な援助が実施されるために必要なものは熱意に溢れた人達の連携です。連携する事によって初めて一つ一つの点が面として広がっていきます。また、連携を深めるとき、協力しながらも切磋琢磨する前向きな競争が生じて、それぞれの活動の質を高めてくれるのだと考えています。