国際セミナー報告書「ヨーロッパとアジアのソーシャル・ファームの動向と取り組み-ソーシャル・インクルージョンを目指して-」
講演1:「EUにおけるソーシャル・ファームの現状とその発展」
ペーター・シュタードラー
ドイツFAF gGmbH協会所長
講演要旨
●はじめに
-自己紹介
-講演の目的
●現状と取り組み
Ⅰ.現状
- EUおよびいくつかの国々におけるソーシャル・ファームの数
- ソーシャル・ファーム優れた実践の具体例
- (1)事業分野
- (2)ソーシャル・ファームの取引高
- (3)特徴
- ソーシャル・ファームの定義
- ソーシャル・ファーム特別法
- 関連する労働市場政策戦略の概観
- ソーシャル・ファーム成功の要因
- (1)市場志向
- (2)職員
- (3)公的資金による損害補償
- (4)財源―財団、社会組織からの資本
- (5)優れた製品および市場分析
Ⅱ.取り組み
- ソーシャル・ファーム支援機構設立に向けて、政治家への働きかけ
- ソーシャル・ファーム設立に向けて、経営者および民間組織もしくは社会組織への働きかけ
- ソーシャル・ファームの質の向上―ソーシャル・ファーム支援機構の活動
- (1)ネットワーク
- (2)フランチャイズ
- (3)開発提携
- (4)モニタリングおよびベンチマーキング
●ソーシャル・ファーム発展の見通し―ソーシャル・ファーム支援機構の可能性
講演
鴨下さん、炭谷さん、それから野村さん、本日は日本にお招きをいただきまして、ありがとうございました。大変光栄に存じております。私のほうから、ドイツにおいて、いわゆるソーシャル・ファームと言われるセクターにおいてどのようなことが行われているのかというお話をさせていただきます。
ドイツにおきましては、ドイツの国民は皆、日本の国そしてまた国民の皆様方が、大変重要な役割を世界において果たしておられるということに、大変感銘を受けております。実は私、日本に参りましたのは初めてでございます。いろいろなものを見せていただきながら大変感銘をしております。皆様方のプロジェクトもそうですし、金曜日にココファーム・ワイナリーを見せていただき、それから日本の方々といろいろなお話合いをさせていただく中でも、驚くことがたくさんございます。日本に来られたこと、皆様方に今日この会場でお会いできますこと、大変うれしく存じております。また私にお話の機会をいただきましたことも、大変ありがたく存じます。皆様方、日本の国内において活動しておられますが、私の話が少しでもお役に立てばと考えております。ということで幾つか具体的な例をお話ししたいと思っております。
私の話の後、おそらく少し質疑応答の時間があるのではないかと思いますが、私の話がよく分からないという場合、あるいはちょっと話が早すぎるということであれば、そのようにおっしゃっていただければと存じます。幾つかの事例をお話しする中で、皆様方これからいろいろとお考えいただいて、それを日本の枠組の中でもお使いいただけるのではないかと思います。これから先2,000社を目指すというお話がありましたけれども、数年後また日本に寄らせていただいて、今度は日本のソーシャル・ファームから学ぶことができると確信しております。
それではソーシャル・ファームについてのお話を始めたいと思います。ドイツのソーシャル・ファームというのは中小企業でございまして、一般の労働市場に参加しています。これらの企業は、障害がある人・ない人、いずれも共に働いています。すべての従業員は通常の給料を支給されておりますし、正規の雇用契約を結んで働いています。ですから障害を持っている人も完全に会社の中に統合されており、社会保障手当と言いますか、要するに補助金と言いますか、個人に対する社会保障給付は受けておりません。
私が仕事をしておりますFAF(ファフ)という会社は、ソーシャル・ファームに対するコンサルテーションを行っている会社です。障害者を普通の一般の社会・職場に統合したいと考えております。ドイツ国内には5つのオフィスを持っておりまして15人の職員がいます。FAFについて具体的なお話をする前に、実は野村さんから、ソーシャル・エンタープライズとソーシャル・ファームについての2枚のスライドを増やすようにというご指示をいただきました。炭谷先生からも既にそれについてはお話がありましたが、ソーシャル・エンタープライズというのは、いろんな活動をやっているわけですね。社会的な目的を持って、さまざまな活動をしているさまざまな会社があります。ドイツにおいては「ソーシャル・ファーム」と言いますと、特に障害を持っている人のための雇用をつくり出す、あるいは、いわゆる一般の労働市場においては不利な立場に立っている人たちのための雇用を創出する、そのための活動をしている会社であります。
もう1枚のスライドを昨日加えましたけれども、これでご覧いただきますのは、これも炭谷さんからお話がありました。「ファースト・セクター」というのは利益を追求する民間の企業のことです。「セカンド・セクター」、第2のセクターは公的機関ですね。いわゆる都市や県といったような地方自治体が運営する団体です。第3セクターというのは民間の組織が活動しているというものでありますけれども、社会的な人々のニーズを満たすために活動をしている団体であると言うことができると思います。
ドイツで特に重要なことが一つあります。それは「補完システム」というものです。法律の中にある補完の制度というものです。これはどういうことを意味するかと言いますと、ドイツでは、民間の任意の団体あるいは教会が運営しているような組織が特定のサービスを提供する場合、国がこれを提供してはならないというものであります。例えば病院で1,000床のベッドが必要であるという場合、そしてそのうちの500床を民間の組織が提供した場合、国は残りの500床を提供することができます。しかし民間の組織が1,000床すべてを提供することができる場合には、国がこれを提供してはならないということになっています。それが補完の制度・原則というものです。
東京に参りまして、いろいろと見せていただきました。とても大きなデパートを訪問いたしました。おそらく京王デパートだと思いますが、ある製品を見せていただきました。実はその製品の部品がドイツのソーシャル・ファームによって作られているということが分かりました。山内先生とチョンさん。ご覧の機械は洗濯機とドライヤーです。右側が洗濯機で左側が乾燥機です。Miele(ミーレ社)という会社が作ったものですが、この会社はソーシャル・ファームと共同で仕事をしています。ドイツでも第一の、最も優れたソーシャル・ファームです。この機械の中、全体ではないのですけれども、その中の一部のパーツがドイツのソーシャル・ファームによって作られたものだったのです。
ではFAFについてお話しいたします。2枚のスライドを使います。私どもは第3セクターで、第1セクターの企業家のコンサルテーションをしております。また、政策立案者、行政官、そして民間の企業に対してもコンサルテーションを行っています。こちらにありますのが私の連絡先でございますから、Eメールをいただければ、お返事を差し上げることもできると思います。
ここにありますのは幾つか私どもがやっている活動です。主な活動は何かというと1番目と2番目ですね。ソーシャル・ファームに対してコンサルテーションを行っております。後ほどもう少し詳しくお話しいたします。それからネットワークの構築もしております。ソーシャル・ファームの活動の質を高めるためのネットワークです。それから、そのソーシャル・ファームの財務状況がどうかというようなことをモニタリングをしておりますし、ベストプラクティスのベンチマーキングを行っております。それから評価も行います。いろいろな経験・交流のためのネットワークを作るというようなこともやっております。このネットワークというのは、それに参加してくださる方々が共同活動もできるようにということをも意図しております。
どうやってこの組織ができたかをお話ししたいと思います。炭谷さんからは、日本においてもソーシャル・ファームのネットワークを作るという話がありましたが、ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズのネットワークを作ることが好ましいと見られるからです。ドイツにおいては、フロイデンベルグ財団というのがあります。その財団は大きな産業財団と言うべきものであります。昨日伺いましたけれども、東京でも活動しているということです。オフィスがあるということです。精神病の医師、それからいろいろな製品を作っているような組織も、この財団はソーシャル・ファームの理念で活動しています。財団は障害を持っている人たち、特に精神障害を持っているような人たちを社会に統合させるということを促進しています。そして、これとビジネスを直結させるということは、このフロイデンベルグ財団の非常に重要な目的の一つにもなっています。
1987年から1990年までの間に、最初の50のソーシャル・ファームがドイツで作られました。財団がFAFに資金提供をして、その活動によって、87年から90年までの間に50のソーシャル・ファームが作られたということです。FAFは一つの協会(アソシエーション)でありましたけれども、今は有限会社になっております。ただ非営利の有限会社です。
ソーシャル・ファームというのは大変重要な戦略でもあります。障害を持っている人たちを社会に統合させる、特に精神障害を持っている人たちを社会に統合させる上で重要な役割を果たします。ここに挙げたような関連組織がFAFの結成に加わりました。ドイツ語ですからちょっと覚えにくいとは思いますが、社会精神病学会、精神病患者協会、それから心理社会学団体の連盟、そして元受刑者の親の会などが、このFAFの結成に加わりました。非常にさまざまな種類の団体が加わったということです。最初の年は、5年間に20万ユーロということで資金がつけられました。
これまでにどのようなことをしてきたということを少しお話したいと思います。これは小さな冊子ですが「いかにソーシャル・ファームを設立するか」。いかにソーシャル・ファームを設立するかというような小冊子を作りました。それからセミナーも行ってまいりました。どのようにソーシャル・ファームを設立したらいいかということについてのセミナーです。これがそのときに使ったセミナーの資料の一部です。
始めたときには、ソーシャル・ファームの概念を広く普及させるためには、低い参加費で、たくさんの人にセミナーに参加していただかなければならないと思ったので、安い参加費用を設定いたしました。1987年のセミナーは参加費が25ユーロでした。2日間にわたるものだったのですけれども、宿泊費と食費と、それから資料費含めて全部で25ユーロ、随分いいお値段ではなかったかと思います。今日では、いろいろなセミナーをやっているわけですけれども、そんなに安くはできません。
FAFにおいては、いろいろな人、また組織・企業等に対してソーシャル・ファームを作るようにという動機付けを行ってまいりました。それと同時にロビー活動も行ってきました。ロビー活動を行う組織を立ち上げました。「BAG(ビーエージー)」という名前が付いてものですけれども、これは連邦組織になっておりまして、ドイツ・ソーシャル・ファーム連盟という全国的組織です。このBAGがFAFに投資を行いました。先ほど申し上げました通り有限会社ですので、BAGがFAFに出資をいたしました。FAFはそれ以来、コンサルタントを行うという仕事に集中しております。BAGのほうが政府に対するロビー活動をしております。
こちらにご覧いただいていますのが、どのぐらいの会員がいるかということです。現在、700のソーシャル・ファームがドイツにありますが、ブルーで示されているのがBAGのメンバーです。黄色いのはメンバーになっていない組織です。BAGには理事会がありまして会員総会があります。それから地域の組織もあります。このBAGは政治的な組織ですが、それがFAFの所有者、オーナーになっています。ドイツの5つの都市にFAFは5つのオフィスを持っております。15人のスタッフがおり、9人がフルタイムです。ということでドイツ全国で組織を持っております。
これはBAGの活動を示したものです。新聞を発行しておりまして、この新聞は政府や政治家、福祉の専門家、それから会員、民間企業といったような所に送られていきます。いわゆるソーシャル・ファームをつくることに関心を持っている人たち、あるいはソーシャル・ファームと共同で活動したいという関心を持っている人たちに送られます。
BAGは非常に強力な、そして重要な組織になってまいりました。議会の議員はBAGに対して意見を諮問いたします。例えば法律を変える場合にはBAGの意見を聞いてくれるわけです。BAGはしばしば、議会で行われます専門家の聴聞会などの場に招かれて意見を開陳しております。例えば障害を持った人たちの職業訓練のためのリハビリテーションでありますとか、あるいは社会統合に関わる法律などについて議論をするときには意見を聞かれます。
1990年、まず50のマーケット志向のソーシャル・ファームがつくられました。政策として、これは重要だと考えられるようになったわけですが、当時は、実は政策立案者は、5年後にはほとんどのソーシャル・ファームが経済的に立ちゆかなくなるであろう、したがって閉鎖されるだろうというようなことを言っておりました。なぜ政治家がそのようなことを考えたのでしょうか。なぜかというと、民間の中小企業についての分析を商工会議所が行いましたけれども、その分析結果を見ますと、民間の中小企業は3年間しかもたないところが多い、民間の中小企業の50%は3年で倒産するという結果が出たのです。FAFは、ソーシャル・ファームに投資をすることがいいのかどうかということを「調査をするように」という委託を受けました。私どもではいろんな研究を行いました。これは私どもが発行した研究結果の一つです。ドイツ語であればPDFファイルでお求めいただくこともできます。
どういう結果が出たかというと次のような結果が出ました。ソーシャル・ファームというのは新しい形の障害者の雇用統合の手法であると。障害を持っている人のリハビリテーションとか資格取得、あるいは福祉作業所分野で非常に大きな可能性があるということが分かりました。後ほど詳しくお話しいたしますけれども、ソーシャル・ファームは10年ほど前から活動しておりますけれども、その10年間に5,000人の雇用を生み出しているということも分かりました。またソーシャル・ファームというのは、その経費の60~80%を市場で製品を売ったりサービスを提供したりすることによって得た収益でまかなっていることも分かりました。しかし一部の補助金を必要としております。障害をもった人に対する給与を払うという点では補助金が必要だということも分かりました。
そして重要な点なのですけれども、ソーシャル・ファームは税金を払っています。また社会保険費も払っているんです。その、ソーシャル・ファームが払っている税金と、そこで働く人たちが払う社会保障費を合わせた金額は、ソーシャル・ファームが受け取る補助金の額よりもずっと多いということも分かりました。
最後の情報になりますが、ソーシャル・ファームの80%は非営利のステータスを持っています。つまり収益に対する税金は払っていないということです。売り上げ税だけは払っています。それから経営者の95%は社会福祉団体です。福祉作業所とか、その他リハビリテーションや統合の分野に関わっている団体であるということも研究結果で分かりました。
ここに三つの研究の結果が掲載されています。これはバヴァリア地方のケースであります。ドイツの南、ミュンヘンのあたりです。92年においては340の職場がありました。これは皆さんの資料の中にあると思います。262人が障害のある人たちでした。こちらにありますのが全体の売り上げであります。フルタイムの人一人当たりの売り上げは2万3,641ユーロとなっております。そしてこれらの企業全部を合わせますと15万1,200ユーロの利益を上げていると。非常に少ない額であります。
またその他の二つの研究結果も載っております。詳しくは申しませんけれども。しかし全体を見ますと、例えばケルン、ボンのような地方、ここではフルタイムの働き手一人当たりの売り上げが2万1,200ユーロとなっております。それからまた「Bund」と書いてある、これは連邦全体のレベルでありますけれども、ここでは247のソーシャル・ファームがあります。そしてその中では6,299人の雇用が生み出されております。そのうち3,250人が障害のある人たちで占められております。彼らのフルタイムの一人あたりの売り上げが2万6,000ユーロとなっております。
さて二つめのスライドです。これは具体的な例であります。経済状態の例です。日本、ドイツ、どこであっても財務諸表を作成する必要があると思います。青い線が市場からの収入、所得であります。このソーシャル・ファームはお昼を提供しているレストランであります。後で写真をお見せしたいと思いますけれども、ここは食堂です。いわゆる就職斡旋所の食堂でありますけれども、ここでは100万ユーロほどの売り上げであります。1食3~4ユーロ程度です。このように食事を提供するということには材料が必要であります。米ですとかトマトですとか、そういった材料費がかかります。これが大体34万ユーロになるということです。ですから平均しますと大体35%ぐらいが利益になっているということになります。
人件費は紫の部分です。42万ユーロになっております。それからまた賃料やマーケティング、またインターネットの費用、また機械の修理ですとか、そういったもの全部が入っていると思います。また銀行の金利の支払い、利払いもあります。また機械類の減価償却費が3万1,000ユーロ等でありますから、コストが非常に高くなっております。
そして総利益がここに書かれていますけれども、約65万ユーロ。なぜそうであるか。これは障害者が多いということ。そしてまた補助金を受けております。この補助金の制度に関しては後でご説明したいと思います。政府から、また公的な機関から補助金があります。これが12万8,255ユーロであります。また財団からの投資のための補助があります。このコストは分かりません。1,000ユーロぐらいでしょうか。黄色い部分ですけれども、これがどのぐらいのプラスになるかということです。これが大体9万4,000ユーロになります。
彼らは利益を上げたとしても税金を払いません。あくまでも売り上げに対する税金だけを納めています。しかしやはり存続するためにはプラスでなくてはなりません。来年はもしかしてあまりいい年ではないかもしれません。もう一つ食堂を設けたいというのであれば、また新たな機械を買い、そして人を雇わなくてはなりません。ですからこのような利益がプラスであることが必要であります。プラスでなければ成長はできません。しかし多くの人たちは、こういったソーシャル・ファームで働きたいと考えております。したがって成長するためには利益を上げ続けなくてはなりません。ただ非営利団体でありますので、利益を上げたとしても、その利益は会社にそのまま残らなくてはなりません。ですから例えば株主に配当を支給するなどといったことはできません。
別のことをご説明したいと思います。これは国からの補助金に関するものです。国に対してそもそもこのような補助金を支給させる働きかけが必要でした。ドイツの状況は他のヨーロッパと多少違っておりました。ドイツにおいては非常に優れた補助金の制度があります。他の国々においても、また財団や大手企業から寄付を募るということも可能ですけれども、ドイツにおいては、そもそも社会制度が非常に優れております。なぜそうであるかと言いますと、我々FAFではなく、ある大学が調査研究を行いました。その大学が行った調査で、どのぐらい失業が発生することによって財政負担が起きているのか、そしてまた福祉施設における雇用、作業所での雇用が生まれた場合、どのぐらいの負担になるのか等々を比較しました。例えば失業者がいたとします。その人が民間企業に就職をしたといった場合、補助金なしに統合化を図った場合、これが一番いいケースでありますけれども、財政から見ますと、国または社会保障、税金といった面ではプラスになります。大体1万ユーロのプラスになります。一方ソーシャル・ファームへの統合があった場合はどうか。これもプラスですよね。それほど大きな額ではありませんけれども、大体1,000ユーロぐらいのプラスになります。というのは、このソーシャル・ファームに対する補助金が一部支給されます。しかし国の財政負担から考えた場合、これはやはりいい状況であると。プラスになるということです。
さてもし、その人が家に残った、失業状態にあり続けたといった場合。今現在、失業者が400万人います。そしてそのうちの数百人の人たちが障害のある人たちですけれども、社会に対する負担としては6,400ユーロぐらい、年間かかってきます。例えば失業手当などを払わなくてはいけないのでマイナスになります。しかし障害のある人たちを福祉作業所に統合化する場合、その場合には財政負担が1万3,000ユーロぐらいになります。ですから、ソーシャル・ファームへの統合を実現した場合と、福祉作業所の作業のケースとでは、ずいぶん大きな違いがあります。ただ障害者がすべて一般の労働市場で就職することはできません。一部の人たちはこのような福祉作業所も必要です。中には非常に質の高い作業所もあります。しかし多くの障害のある人たちはソーシャル・ファームであれば働ける、そういった状況にあります。
ですからこういった調査研究を受けて、政治家そしてまた行政側は納得をしまして、そしてその結果、ソーシャル・ファームに補助金を払うこと、これは言うなれば投資になると考えました。そこで法律を作りました。その結果が書かれております。既に先ほど説明したものですので、繰り返しません。
では、ここで少し先に飛ばしたいと思います。後で戻ることもあるかもしれませんけれども。新しい法律の哲学、考え方について示したスライドがあります。さて、この新しい法律の精神、哲学です。これはソーシャル・ファームが市場志向型であるということ。そしてこれがいわゆる一般労働市場における経営を進める零細・小企業であるということです。その主な特徴でありますけれども、ここは障害のある人たちの25~50%を統合化するということです。
もう一つ、新しい法律ができております。不利な立場にある人たちのための法律があります。これは障害のある人たちだけではありません。ですからこのように25~50%というふうに書かれております。それ以上であってはなりません。一般市場において活動するということでありますので、それぞれの企業家はこれらのソーシャル・ファームを独自の、自分たちのリスクで、自分たちの責任で経営をしなくてはなりません。もちろん補助金はあります。しかしこれは企業家の取るリスクを軽減するためのものではありません。あくまでもこれは企業にとっての不利な条件を補うためのものです。申し上げた通り、働いている人たちの25~50%は障害のある人たちでありますので、その不利な状況を補うためのものです。ですからこの法律の文章を見ますと、ソーシャル・ファームはこのような一般労働市場において仕事を見つける可能性のない人たち、民間では雇ってもらえない障害のある人たちを雇う、それが目的となっております。これらの人々ですけれども、これがまさにドイツのソーシャル・ファームの対象となっている人たちです。例えば精神障害または知的障害、ないしは重複障害のある人たちです。また以前福祉作業所で働いたことのある人たち。また学校を卒業した知的障害者。また、最低25%、最高50%が障害のある人たちということです。
もう一つ、新しい対象グループができております。これは新しい法律のもとでありますけれども、ソーシャル・ファームでは障害のある人たちだけではなく、長期失業者も就職することができます。つまり2年以上失業している人たちです。ないしは55歳以上の人たち、ないしは移民、ないしは麻薬中毒者・常用者であります。これらの人たちはいずれも労働市場において不利な立場にある人たちであります。実際にソーシャル・ファームで就職する前に審査を受けることになります。
では、このようなソーシャル・ファームに対する補助金はどうなっているか。ドイツの状況を説明したいと思います。
まず最初はこれです。不利な立場を補うためのものですけれども、これは長期的に支払われるものであります。全体の給与の10~25%。そして特別なケースでは30%まで補助されるということがあります。それから一部のケースにおいては、まず最初に何か月間か20~40%の給与は、失業保険を給付している失業保険機関が支給するということがあります。そして長期的には国が10~25%、場合によっては30%給与分を補助します。一方で、ソーシャル・ファームというのは一般労働市場の一部を成しております。彼らは他の企業と競争しなくてはなりません。ですので近代的な機械・設備が必要です。したがいまして、これらの投資に対する補助金、これが一つの職場当たり2万5,000ユーロまで支給されます。
もう一つ聞いていただきたいのですけれども、バリアフリーの職場を作るためだけの投資ではありません。例えばパン屋でのオーブンですとか、コンピュータのサービスを提供しているところであれば、コンピュータのための支給もされます。また園芸であればトラクターの設備投資に対する補助などがあります。
ソーシャル・ファームは2,500ユーロまで補助金が出ることになっております。これはコンサルティング用です。
さて、最後の章に移りたいと思います。成功例、そして一部統計をご紹介したいと思います。これらはいずれもソーシャル・ファームが活発に事業を展開している分野であります。全部で700ほどのソーシャル・ファームが今ドイツにあります。いろんな分野、部門で活動しております。例えばあるソーシャル・ファームは、お昼のレストラン、そしてスーパーの両方をやっている、ないしはコンピュータサービスも兼ね合わせているというような、そういったものであります。ですから、これを全部足すと700を超えてしまうんですけれども、これは兼務している、複数のものをやっている所があるということです。例えば工業系の事務が206、レストラン113、手工芸が109、スーパーその他取引109、設備の管理108、オフィス・コンピュータサービス92、園芸が89、そして対人サービス・パーソナルサービスが64という数字です。
ではここで幾つかの事例を申し上げたいと思います。皆さん、これを聞いていただけば、ごく普通の会社であるというイメージを持たれると思います。これは子どもの遊び場です。これもまたソーシャル・ファームが作ったものであります。
ここにスタッフが写っておりますけれども、これはスーパーのスタッフであります。フランチャイズ制度について少しお話しをしたいと思います。スーパーのフランチャイズです。
これは家具のお店です。ソファーなどを売っています。
ヒギンズさん、これはソーシャル・ファームUKのディレクターでいらっしゃいます。今はスコットランドにいらっしゃいます。そして同僚の方ですけれども、お二人はコンピュータボードを作っているソーシャル・ファームを訪問されました。ここにはハイテクな機械があります。これは自動的にこのコンピュータに、例えばチップですとかトランジスタですとか、そういったものを載せたボード、これを取り付けるためのものであります。とてもハイテクでお金がかかる機械であります。このソーシャル・ファームの経営者です。ここにある機械、これもハイテクで、日本製だと思うんですけれども、分かりませんが。これはコンピュータボードを自動的に検査するための機械です。このソーシャル・ファームは技術的に見た場合、非常に最先端と言えるような、そういったものだと思います。
こちらの例はホテルです。これはソーシャル・ファームが経営する初のホテルです。このように知的障害の人たちがスタッフにおります。これから朝食。16のベッドがあったのが、今は30のベッドになっております。今は計画中ですけれども、100のベッドを越える、そういった大規模なホテルを作ろうとしているところであります。
成功例が幾つかあるんですけれども、そのうちの一つめ。これは工業系事業ですけれども、ソーシャル・ファームはドイツでは、当初非常に少ない生産からスタートしています。洗濯機にシールを貼るといったような作業をやっていたケースもあります。例えば、1枚あたり10円ぐらいということで、非常に安かった。そういった作業を続ける中で、彼らが時間厳守である、きちんと働くという評価が広まっていきまして、徐々にこの工業系の仕事の複雑さが高まってきました。先ほど、洗濯機、乾燥機の写真をお見せしましたけれども、ああいった機械の、ミラーの部品を供給している、そういったところまでいっております。この部品というのは他では作ることができません。ですからかなり高い値段がついております。したがいまして、徐々に一歩一歩、このような複雑な作業へと移っていく、そういったプロセスがあります。
2番目の例。フォルクスワーゲン社です。ドイツでは最大手の自動車会社です。ここは広いホールがあって広い工場があります。職員は移動するために自転車を使っています。歩くのは何分もかかってしまいますので自転車で移動しています。フォルクスワーゲンの自転車を修理するのは、本来はフォルクスワーゲンの中にある消防隊員がやっておりました。しかしながらフォルクスワーゲンの彼らは他の仕事があって、なかなかそこまで手がなかなか回らないという状況が発生しました。そこでフォルクスワーゲンは外部委託をすることにしました。そこで競争入札をしました。1万ある自転車の修理をどこに任せるかと考えたとき、我々FAFは、ソーシャル・ファームを手伝って競争入札で落札できるようにしました。そして成功しました。ですから彼らは、今現在フォルクスワーゲンの自転車修理に当たっております。
3番目。今ある企業のオーナーシップを購入するということです。ドイツにおいては、多くの民間企業で、経営者が60歳になったからもうそろそろ辞めようと、後継者を探したいが、息子はニューヨークやロンドンに居て継ぎたくないと言っている、そういう事情があることがあるわけで、そういった場合にはソーシャル・ファームがそういう企業を購入するということがあるわけです。既存の企業でありますので、もうお客さんはいるわけです。ですから継ぎ目なくこれを引き継ぐということです。新しい企業を立ち上げる場合には顧客を見つけていかなければいけませんけれども、既にお客さんがいる、その企業を引き受けるということであります。そしてフランチャイズ化をしたり多角化をしたり、あるいはライセンス供与を受けるというようなこと、そしてスーパーマーケットを運営するということ、こういうことがよくドイツでは行われています。
最後にCAP(キャップ)の話をしたいと思います。CAPというのは、ソーシャル・ファームのフランチャイズ化されたものでありまして、8年前から運営をしております。スーパーマーケットを運営しているんですけれども、ここに3枚ほど、その写真を持ってきました。私がこの写真を撮ったんです。スーパーマーケットに行ってコンサルティング業務を行うときに撮ったんですけれども、コンサルティング業務は、お客さんが入ってくる前に行います。というのは、お客さんが入ってくるとマネージャーは忙しいからです。普通のスーパーマーケットと何ら変わるところはないと思います。
普通のスーパーマーケットのように見えると思いますけれども、こういうような所にあるわけです。ではどうやったら分かるのか。ソーシャル・ファームを運営しているスーパーマーケットというのは、いったいどういうような特徴があるのかということですけれども、このスーパーマーケットの中にしばらくいますと、多分分かると思うんです。普通の商品が並んでいるんですけれども。まあ少し特殊なものもあるかと思いますけれども、しかしながら大体商品は同じなんです。ですからどうやって見分けるかと言いますと、後ろにある部屋を訪れて、スタッフがランチをとっているところなんかをご覧になるといいと思うんですよね。そしてその会話に耳を傾けてください。障害の話をしたりしているかもしれません。でも普通の部屋に行って、商品が並んでいるようなところを見ているだけでは分かりません。顧客にはまったく分からないというような状況になっています。
フランチャイズ化された構造で運営されているんですけれども、なぜこういう運営がされているかと言いますと、ドイツでは小さな都市の中心部にありましたスーパーマーケットが次々と閉じられていっているんですね。収益が悪くなったからでありましょう。そうすると大きなスーパーマーケットがそれに取って代わって開店するんですけれども、しかしながらそれは大抵郊外に開かれるわけであります。1,500平方メートルぐらいあるということで、大きなパーキングエリアも設けなければいけないわけです。ドイツは日本と同じぐらい大きな都市があるわけなんですけれども、ところが高齢者の場合、こういう小さな村の中心部に住んでいるような人たちは、どこに行ったら食品を買えるのか。例えば車も運転しないし、したがって郊外の大手には行けないということになるわけです。そうするとやはり町の中心部にありますスーパーマーケットは、CAPシステムのおかげで、また活気を呈するということになるわけであります。これは助成金を得ております。ソーシャル・ファームにとりましてはそれほど大きな助成金ではありませんけれども、しかしながらソーシャル・ファームでありますので、十分やっていけるわけであります。大体1年間に7,500ユーロぐらいでやっていけるわけです。十分それでやっていけるわけです。大きい所では200万ユーロぐらいの所もありますけれども、スタッフの数は5人から20人ぐらいであります。普通の雇用形態で行われております。そしてほとんどのスーパーマーケットは400~1,000平方メートルの面積を持っております。そして小さな都市の中心部に開かれているというのが普通であります。
これがフランチャイズ化されました組織のサービスですけれども、フランチャイズ化されている組織においては、大体30~40ぐらいのスーパーマーケットを持っていて、非常にいろいろなコンサルティング業務を我々は行うわけであります。例えばどういうふうなテナント契約をすればいいのかとか、あるいはまた投資計画ですね。それからどういうような品揃えをすればよいのかというようなことですね。例えば米でも200種類扱うのか20種類でいいのかというようなコンサルティングを行うわけです。スパゲティに関してもそうですよね。それからどういうような場所で開くのが一番いいのか。マーケティングに関するコンサルティングも行います。またフランチャイズ化された組織というのは非常に実践的で、とてもいい支援ができると思います。というのは、最初オープニングした後、最初の2週間というのがカギなんですよね。ですから、2週間全然お客さんが来ないということになると、もう本当に将来が暗いということになるので、最初にたくさんの人が来てくれると、いい所だな、じゃあ自分も行こうというふうに思うわけです。そういうようなサポートが必要です。
それからマーケティングの分析というのも必要です。フランチャイズ化をすると、大体50ぐらいの組織が、今、CAPのスーパーマーケットを開こうというふうに申し込んでくるわけです。大体そのうちの5組織ぐらいが成功します。そして残り45というのはうまくいかないということがあるわけです。というのは開こうと思った所に他のスーパーマーケットが既にあるというようなこともありますので、そういう失敗を未然に防ぐためにもコンサルティングというのは必要です。
フランチャイズというのは、きちんと私たちが具体的なサポートができるという点で、とても都合がいいと思います。どうやって人を採用するのか、またどういうふうに運営していけばよいのかというコンサルティングも行っております。
さて、あと4分間ありますので、先ほどの写真をお見せしたいと思います。これらの写真はソーシャル・ファームの成功例です。実際にベルリンで運営しているものであります。ちょっと元に戻しましょうね。ソーシャル・ファームの例です。成功例ということだと思いますが。相乗的なクラスタ効果が上がっていると思います。このソーシャル・ファームは5か所でレストランを運営しています。一つの会社が5か所のレストランを運営しているということですので、例えば、料理人とか、あるいはマネージャーが病気になった場合でも、すぐに他の所から応援を差し向けることができるわけです。価格帯も非常に有利に設定することができるのでありましょう。そういうような相乗効果が期待できるわけです。これが彼らがスタートした最初のレストランです。このレストランのコンセプトですけれども、真ん中に部屋があり、そこで食べたり飲んだりすることができます。右のほうは子どもたちのスペースになっています。ですから子連れで行くことができるわけです。小さい子どもたちがいても、そこで遊ばせるようなおもちゃなんかが用意されているところがあります。それから左側のほうですけれども、ギターを演奏したりするようなちょっとしたスペースがあります。この「Charlotten(シャーロッテン)」というのが最初のレストランです。
次はベルリンの南部にあります職業斡旋所です。政府の行政のビルですけれども、ここでこういうレストランの経営に関しての競争入札が行われるわけです。そしてこういうキャフェテリアですね。ここのキャッシャーのところでお客さんがお金を払います。これは職業斡旋所の中に開かれたレストランです。すべての部分を写すことはできなかったんですけれども、こういう、要は行政機関におきます食堂にもソーシャル・ファームは入っております。
この壁、これは、かつて東西ドイツを分けたベルリンの壁です。この壁は取り壊されたんですけれども、数百メートルほど観光名所として保存されています。これが200メートルほどの長さがあります。その向かいに建っているのが「Gropius-Bau(グロピウスバウ)」いう美術館です。グロピウスというのは建築家の名前です。この美術館で競争入札が行われました。この中のレストランを経営する人たちを競争入札で選んだわけですけれども、そしてソーシャル・ファームが勝ち残りました。これは1周年のときに、多くの人を招いて食事をしているところです。
これは非常に小さいものでありますので、一つソーシャル・ファームでやっていくというのはなかなか難しいと思いますけれども、しかしながら、この同じ、先ほど言った職業斡旋所の中のキャフェテリアを運営しているソーシャル・ファームが、こちらのほうも運営しているわけです。これは、シャウシュピールハウスのキャフェテリアの夏の状態です。夏は非常に売り上げが大きくなりますね。冬はなかなか難しいんですけれども。
同じソーシャル・ファームが別の所でも競争入札に成功しております。これはペルガモン美術館ということで、とても有名な美術館ですけれども、この中に小さなキャフェテリアがあるんですね。それでソーシャル・ファームが入札に勝ちました。中の様子ですが、小さなカフェですけれども、お客さんがいますね。このソーシャル・ファームは、レストラン、キャフェテリア、カフェなど5か所で運営をしています。これはとてもいいアイディアだと思います。
最初のソーシャル・ファームを作るというのは非常に複雑なプロセスが必要ですけれども、いったん始まると相乗効果が期待できるわけです。そうすると他のところでも開くことができるし、何か所かの店舗が協力することができます。ぜひベルリンにお越しください。実際にこれらの場所をご紹介したいと思います。
そしてまた、2,000のソーシャル・ファームができた頃、日本にまた戻ってきたいと思います。どうもありがとうございました。