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国際セミナー報告書「ヨーロッパとアジアのソーシャル・ファームの動向と取り組み-ソーシャル・インクルージョンを目指して-」

講演2:「イギリスのソーシャル・ファーム政策の動向」

フィリーダ・パービス
リンクス・ジャパン代表

フィリーダ氏の写真

講演要旨

イギリスのソーシャル・エンタープライズとソーシャル・ファーム

  • イギリスの障害者と雇用数
  • 政府による雇用創出プログラムとその成果
  • 障害者を就職させ、給付金に頼ることをやめさせることの困難
  • 公共サービスの提供における第三セクターの役割、そして福祉から雇用へ
  • 第三セクターに対する政府の態度と両者の関係、および第三セクターの規模
  • ビジネスに対する人々の態度と倫理的消費者主義の高まり
  • ソーシャル・エンタープライズに対する関心の背景と政府による支援
  • 社会改革―消費者と共同で創造する価値観
  • 支援的環境を創造する政府の義務;変革への障壁および危機回避
  • 戦略的パートナー、ソーシャル・ファームおよび労働市場において不利な立場にある人々を支援する目的;ソーシャル・ファーム・セクターの雇用の中心と規模
  • 本質的に高いコストがかかることによる、事業立ち上げ時の支援、または継続的な補助金の必要性
  • ソーシャル・ファームUKの活動―ロビー活動、フランチャイズの展開、意識向上、基準設定、評価など
  • 法的形態の選択肢とコミュニティ・インタレスト・カンパニー*(地域社会の利益のための企業)
  • 多数の重要な成果、しかしさらに多くのニーズにこたえる必要性
  • ソーシャル・エンタープライズ・セクターの開発事例―医療、保育およびオリンピック関連
  • 資金、ビジネスサポートの提供、学術的研究、業績表彰および会員とネットワーク機関に関する情報

講演

イギリスの障害者と雇用数

今日は皆さんに、イギリスの、特にソーシャル・エンタープライズにおける、障害者の雇用機会についてお話ししたいと思います。はじめにいくつか正確なデータをご紹介しましょう。公式なデータによりますと、イギリスでは就労年齢人口(690万人、19%)の約5人に1人が障害者です。1995年の障害者差別禁止法(DDA)で、雇用の分野で障害者を差別することは違法であるとされているにもかかわらず、就労年齢の障害者は約半数(50%)しか働いていません。これに対して、就労年齢の健常者はその80%が働いています。障害者人口の45%は「経済的に活動していない状態」ですが、一方、就労年齢の健常者では、その割合は16%となっています。また、120万人の障害者が就職可能な状態にあり、就職を希望していますが、その就職率は障害のタイプによって大きく異なります。精神障害者はすべての障害種の中で就職率が最も低く、わずか21%です。学習障害者の就職率は26%です。障害者が無資格になる傾向は、健常者の2倍以上(健常者の10%に対し26%)となっています。障害のある従業員の平均時給は、健常者の11.39ポンドに対して、10.31ポンドです。このようにイギリスの障害者は、仕事を見つけ、維持するに当たり、困難に直面しています。

政府による雇用創出プログラムとその成果

政権についてから10年間、イギリス政府は概して、新たな仕事を創出するために多くの取り組みをしてきたと言えます。好景気に助けられ、就職率は72%から74.5%へと上昇しました。10年前には失業者数の削減が政治目標となっていましたが、これは長期間仕事から離れている人々を就労不能手当の受給へと移行することによって、つまり、PCAという受給資格審査に基づいて決定される、病気や障害のために働けない人々を、国が支援することによって、ある程度達成されてきたものです。2003年のピーク時には、270万人が就労不能手当を請求し、政府は160億ポンドを支払いましたが、この金額は失業手当の4倍に相当しました。これらの人々の多くは、既存の枠組みのもとでは、手当を失うことへの恐れなどから、教育や研修を受けたり、就職したりすることへ移行できませんでした。その結果、この人たちは技術と自信を失い、社会的に疎外されてしまったのです。そこで現在では、就労年齢人口の7.5%になっているこれらの手当を要求する人たちに就職を奨励しようとする、新たな方策がとられています。

その第一段階として、Supported Permitted Work(SPW)と呼ばれる、支援および手当付き雇用があります。これは、障害者のための仕事を手配する公共機関や地方自治体、ボランティア機関が雇用する者の監督下で働くことです。これには、地域での仕事や福祉作業所での仕事が含まれます。また、医師の指示による、病院での治療プログラムの一環としての仕事も含まれます。SPWは週に16時間まで可能で、賃金の上限は最高88.50ポンド、雇用期間の制限はありません。

障害者を就職させ、給付金に頼ることをやめさせることの困難

けれども、支援付き雇用は手当制度の一つであって、雇用主によって提供されているのではありません。政府は現在、障害者を雇用へと移行させることを重視しており、このための政府による重要なプログラムの一つが、障害者のためのニュー・ディールで、これは全国各地のジョブセンター・プラス事務所で利用できます。ジョブセンター・プラス事務所は、日本のハローワークセンターと似た職業あっせん所で、大部分はボランティアセクターの運営によりますが、中には民間や公共セクターが運営しているものもあり、いずれも政府と契約を結び、人々が持続可能な仕事に就職できるよう支援しています。障害者の雇用支援プログラムはいくつかオーバーラップしている上、まとまりがないために、進展は緩やかです。また、これらの枠組みは強制的にではなく、自発的に作られたものです。けれども、不必要な官僚主義的手続きや、(2~4時間分の)最低基準を無視した低い収入など、受給者が仕事を始める意欲を妨げる要素が内在しております。

これらの問題が雇用への動きを阻んでいるため、政府は「福祉から雇用へ」という政策の改正をはかりました。たとえば、就労不能手当関連規則(もし、状況が変わって再び手当を受けなければならなくなった場合、受給できないということにはならないという規則)は、現在では2年間まで延長されています。2005年以来展開されている、新たな「雇用への道(Pathways to Work)プログラム」は、改正後の手当支給方法の一環として、受給資格が必要な時にはそれを承認し続け、受給者の仕事に移行しようとする試みと、雇用主の元就労不能手当受給者を採用し、研修し、そして雇用し続けようとする取り組みを奨励し、報奨金を与えるものです。将来的には、雇用支援はさらに個別化が進み、職場に戻れるようになる前により多くの支援が必要な、最も支援が難しい人々に対して資源を割り当てる機関に、高い報奨金が与えられるようになるでしょう。また、福祉制度における権利と責任のバランスを取り直すことも論じられており、求職中の受給者に対してより大きな義務を課しつつ、支援を拡大することでつり合いを取ろうとしています。

公共サービスの提供における第三セクターの役割、そして福祉から雇用へ

その他の変化としては、雇用に焦点を当てたリハビリテーション政策がありますが、これは、保健当局が(NHSと呼ばれる国民医療制度のもと)共同で施行しています。2007年の福祉改革法でも、個人の受給資格を審査して支給する新たな雇用支援手当が今年から導入され、障害者が請求する就労不能手当と所得補助に取って代わっています。政府は手当からの移行を奨励するためにさらに多くのことをする必要があると認識しています。そして、第三セクター、つまり非政府、非営利セクターが、公共および民間セクターの両方をしのいでいる「福祉から雇用へ」という分野における公共サービスの提供に関して、特に重要な役割を担うと明確に述べています。これから私がお話ししたいのは、障害者の雇用を目指し、これを可能にする第三セクターの役割です。

まず、イギリスの第三セクター、あるいは市民社会全般に対する政府の態度についてお話しするのが適当かと思います。多くの分野において、市民社会は近年目覚ましい成長を遂げました。市民社会は、住宅手当の助成が保証されていることから、住宅分野で発展しましたが、それ以外に、社会医療分野でも中心となっています。医療分野では、現在およそ34,000の第三セクターが、NHSとの契約のもと、サービスを提供しています。政府はこれらの市民社会との関係から、第三セクターは公共サービスを提供する際に、プロセスにかかわる人々を、政府が行うよりも効果的に参加させるので、人々は支援の消極的な受け取り手としてではなく、専門知識や技術を持って公共サービスを受けに来るということを認めるようになりました。そしてまた、第三セクターは声なき者たちの声となり、途方もなく大きな革新の可能性を持ち、社会問題について改めて考え直し、単に政治家が望むからではなく、市民が変化を求め、そのために戦う結果引き起こされる社会革新を推し進める力として活動するということを理解しています。

2007年7月に出版された、『社会的経済的再生における第三セクターの将来的役割に関する報告書』では、政府は公共サービスの提供における第三セクターの重要性について明確に認め、非常に多くの第三セクター機関が、国と連携してサービスを提供することにより、その目的を達成し、独自の受益者グループを支援していることを認めています。報告書の中でイギリスの首相は次のように述べています。「現代民主主義の成功のためには、事業を盛大に行う多様な第三セクターが本来必要である。」「何百万人もの人々が、第三セクターを通じて社会革新を引き起こし、我々が直面する問題を解決することを選択している。」「政府は、第三セクターの繁栄のための空間と機会とを創造しなければならず、ともに活動するにあたり、両者はよきパートナーとならなければならない。」イギリスの第三セクターは160,000を超える公認の慈善団体と、2千万人を超えるボランティア(最低1か月間、公式非公式を問わずボランティア活動をする者)から構成されており、5兆7000億円(270億ポンド)を超える売上高を上げています。このセクターとともにより効果的に活動するために、政府は2006年の夏に、内閣府の一部として、内務省の旧ボランティア・コミュニティ・セクター・ユニットと旧貿易産業省(現ビジネス・企業・規制改革省)のソーシャル・エンタープライズ・ユニットを合併して、ボランティアセクターを監督し、支援し、その成果を評価する責任を負う第三セクター局を新たに開設しました。

ビジネスに対する人々の態度と倫理的消費者主義の高まり

20年前、政府と第三セクター機関との関係は、公共サービスの提供だけに関するトップダウンの契約関係でした。しかし、これまで以上にさらに複雑で解決困難な社会問題の増加に直面している現在、政府は連携を非常に重視しています。また政府は、公共活動やコミュニティ活動およびボランティア活動とそのキャンペーンに、市民を参加させる重要性を認識しています。特にイギリスでは、他の多くの国々と同様に、政治に関心を持つ人がますます減っており、多くの人が、どんな方法であれ国が自分たちの活動を選ぶことに抵抗感を持っているからです。さらに政府は、人々の仕事に対する態度が変化していることも理解しています。家庭の崩壊で家庭生活へのあこがれは減り、仕事に対してより大きな期待が寄せられていますが、明確なキャリアへの道が少なくなってしまったために、変化を選択し、チャンスとする道が開かれたのです。

同時に特に若い人たちの間で、倫理的環境的課題についての懸念が膨らみ、職場に広まっていきました。さらに従業員は、これまで以上に社会的責任のある行動をとることを雇用主から強く求められています。これらのことはすべてソーシャル・エンタープライズの増加につながる環境をもたらし、ソーシャル・エンタープライズが支援されていることを確認したいという政府の希望にこたえるものです。

ソーシャル・エンタープライズに対する関心の背景と政府による支援

ソーシャル・エンタープライズは現在、イギリス全土で55,000社存在し、全体で270億ポンドの売り上げを上げ、成長を続けています。そして第三セクターの中でますますその人気は高まっており、中でも特に、障害者の雇用に熱心に取り組んでいるソーシャル・エンタープライズであるソーシャル・ファームは、その目的のゆえに、注目を集めています。この点についてもブラウン首相は、「第三セクターはまた、我々のビジネスに関する考え方を変えるのに役立っている。何千ものソーシャル・エンタープライズが、我々が消費者として下す決断に変化をもたらし、企業の意思決定を利用して、社会的環境的な成果を上げている。」と語っています。

ソーシャル・エンタープライズの定義は、皆さんがお持ちのセミナー資料に詳しく書かれていますが、繰り返しますと、それは「基本的に社会的な目的を持ったビジネスで、その利益は、主にその社会的な目的のために、ビジネスあるいはコミュニティに再投資される」ということです。ソーシャル・エンタープライズは単に「良心」、あるいは企業社会責任計画を持つビジネスではなく、その存在理由全体が社会的なのです。「ソーシャル・エンタープライズは変化を生み出し、しばしば根の深い社会的環境的課題に取り組んでいます。」障害者のケアをしている大規模な慈善団体の多くは、効果的に活動する商取引部門を通じて、ソーシャル・エンタープライズとして収入を生み出すビジネスの経営もしています。

社会改革-消費者と共同で創造する価値観

ソーシャル・エンタープライズは、それが活動しているコミュニティに好影響を与えているため、2006年11月に発表されたソーシャル・エンタープライズ行動計画の規定に従い、政府からの支援を約束されています。この計画では、約26%の人々しかソーシャル・エンタープライズの概念になじみがないことを強調していました。しかし、別の調査によれば、この概念について説明を受けた後では、64%の市民が、地域サービス事業の経営には、コミュニティの利益のために利益を再投資する企業を選ぶと回答したのに対し、政府機関を選ぶと回答した市民はたった11%でした。このように政府にとってソーシャル・エンタープライズ・モデルの認識を高める十分な理由ができたため、全国的な学校カリキュラムの中でソーシャル・エンタープライズについて指導し、ソーシャル・エンタープライズの影響や性質について明らかにし、また一方では、たとえばリスクを引き受けることを、社会革新に基本的に欠かせない要素として、より受け入れやすくする取り組みを通じて、ソーシャル・エンタープライズにとってよりよい環境を開拓することに、政府は尽力してきました。行動計画の中で、財政的利益と社会的利益をともに得ることに関心を持つ投資家を引き付け、そのような投資の構造化の方法を試すために、さらに1000万ポンドをソーシャル・エンタープライズに投資することも提案しました。リスク・キャピタル・インベストメント・ファンドは、ソーシャル・エンタープライズに対する株式投資、あるいは準株式投資を民間セクターと共同で行うものです。

支援的環境を創造する政府の義務;変革への障壁および危機回避

ソーシャル・エンタープライズ事業の立ち上げを促進するための、政府のもう一つの役割としては、ソーシャル・エンタープライズのビジネスモデルがどのように政策の実施とその成果を改善できるかを研究し、また特に公共サービスの提供に携わるソーシャル・エンタープライズの財源へのアクセスを改善するその他の方法を検討することに、政府機関全体で取り組むことがあげられます。政府はさらに、資金提供機関として活動するフューチャー・ビルダーを通じて、この種の公共サービス提供機関の会計報告書を発表しています。

ここで、ソーシャル・エンタープライズの動機付けとなる社会革新について少しお話ししておいたほうがよいでしょう。それは、最も不利な立場にあるコミュニティにダイナミックな変化をもたらします。社会革新は古い概念の改善ではなく、利益を最大限増やすことには駆り立てられずに、まだ満たされていない社会的ニーズにこたえるために機能する新たな概念を意味しますが、これは私たちの周囲のあらゆるところで起こっています。それはフェアトレードやホスピスから、通信教育や交通静穏化まで、さまざまです。社会革新は公共政策、都市計画、社会運動、コミュニティ開発、デザイン、技術および社会起業活動の分野で起こっています。それは政府によって進められる場合もあれば、市場や非営利セクターによって進められる場合もありますが、常にリーダーと、資金と、社会問題の解決のためのよりオープンな市場、インキュベーター、システム変革のための機関、公共、民間および非営利セクターの溝を埋める態度を必要としています。イギリスでは歴史的に見て、社会革新はしばしば市民社会によって先導されてきました。たとえば、19世紀の産業革命をきっかけに、多数の協同組合、住宅金融組合、労働組合、そして相互扶助団体が生まれました。それ以外の時でも、1960年代および70年代のエコロジーとフェミニズムに関するキャンペーンのように、社会運動が主導権を握っていました。世界の貧困や気候変動の原因にかかわるその他の運動も、今日インターネットとメディアの力を利用して進められています。政府が社会革新を先導することもできます。イギリス政府は1940年代に福祉国家制度を導入しました。また南アフリカのアパルトヘイト反対運動のように、宗教もその役割を果たすことができます。公益企業でさえも、社会革新の場となる可能性があります。イギリスで最も民営化が成功した企業、ウェルシュ・ウォーター社は、社会革新の成果が相互会社として結実した例です。すべてのOECD加盟国において、特に医療、介護および教育分野におけるサービス業が成長しており、まさにこれらの分野で、社会革新が従来以上に重要な役割を果たすようになってきています。

社会革新のもう一つの要素として、未開発であることが多い地域の人々のスキルや、社会的ネットワーク、相互依存性、共通の行動規範、そして共通の責任感および帰属感などの社会資本に、その成功がかかっていることがあげられます。これらの要素はすべて人々と組織の関係を通して発展していき、未使用の建物や資源という物理的資産に加えてどうしてもなければならないものです。社会革新のビジネスモデルは、消費者が製造者とともに創造していくことが当てにされています。

社会革新は必ずしも容易な道のりではなく、各組織は、(システム内の要素すべてが、ともに連携する方法を身につけている)過去の最適化された代替案よりも、最初の滑り出しの効率は悪いのですが、しかしそれを超える可能性を持つ選択肢を、どのように認識し、導入し、開拓するかという大きな課題に直面しています。また、持続の利益は変化に伴う危険よりも魅力的に見えることが多いので、変革への障壁を克服する必要もあります。革新を推進することは、現在ある強力な既得権を脅かす危険を伴うことが多いのです。社会革新には、それを支援する環境が必要です。ビジネス革新には競争市場によるけん引力が働きます。財団や政府機関などによる社会革新の支援は、支援の提供においてはそれほど強力ではありません。また、優れた革新を受け入れ、繰り返すことは一般に苦手です。

これらの、第三セクターの実践的革新者(提供者側)、公共事業責任者およびマネージャー(要求者側)、社会投資家(資金提供者)、そして政策立案者(行政当局)の貧弱な関係の問題に取り組もうとする新たなイニシアティブの一つが、イノベーション・エクスチェンジです。これは、イノベーション・ネットワークと次期実践プログラムという2つのプログラムを通じて、新たな関係を促進し、より高いレベルの革新を促し、既存の関係を、大規模な社会革新により貢献できるものにすることを目的としています。イノベーション・ネットワークは、特定の社会問題の解決に焦点を当てた巨大な社会的ネットワークの構築で、このネットワークは、要求者側の革新者(公共事業責任者およびマネージャー)、提供者側の革新者(問題に取り組もうとしているあらゆるセクターの実践的革新者)、そしてあらゆるセクターの社会投資家(慈善家、CSR基金、財団あるいは政府資金)に開かれています。次期実践プログラムは、革新的プロジェクトの巣立ちのためのオーダーメードのアドバイスと仲介的な支援を提供します。

革新のための戦略は、科学技術の域を越え、サービスと社会組織を包括するものでなければなりません。私はこれを、日本が今後十分に理解しなければならない課題として提案します。皆さんが今日、日本の偉大な社会的革新者の一人である炭谷茂氏によって開催されたこのセミナーに参加するためにここにいらしたのは、特に障害者や不利な立場にある人々の生活とその願いとに影響を与えるこの課題を解決する方法を見つけることに関心を持っていらっしゃるからだと信じています。今日、社会革新の世界で、特にイギリスのソーシャル・エンタープライズにおいて起こっていることについて、私が少しお話ししますのは、決して私たちが解決策を持っているからではなく、単にイギリス社会において、このような問題についてより創造的に考え始めた人々がいるからなのです。

イギリス政府は個々の社会起業家やコミュニティ・プロジェクト、およびパイロット・プロジェクトを支援する新たなルートを導入しました。昨年の夏、政府は7つのソーシャル・エンタープライズ戦略パートナーを新たに発表しました。これらは、たとえば全国組織である社会企業連合のようなネットワーク機関や、ソーシャル・エンタープライズ・ロンドン、慈善団体のUnLtdと提携している社会起業家スクール、協同組合などで、既存の戦略パートナーとともに、ソーシャル・エンタープライズ・セクターの声を代表することができます。また、青少年のソーシャル・エンタープライズへの参加を奨励する企画や、女性の起業を支援する企画、ソーシャル・エンタープライズのすぐれた事例を表彰する企画、そしてソーシャル・エンタープライズを立ち上げたり、そこで働いたりした自分自身の経験を利用して、人々の意識を高めたり、喚起したりするロールモデルとしてのソーシャル・エンタープライズ大使のプログラムの運営など、他の関連企画にも資金が費やされ、これらの機関の一部によって運営されています。

戦略的パートナー、ソーシャル・ファームおよび労働市場において不利な立場にある人々を支援する目的;ソーシャル・ファーム・セクターの雇用の中心と規模

政府の新たな戦略パートナーの一つに、特に障害者の雇用を支援するために設立されたソーシャル・エンタープライズである、ソーシャル・ファームUKがあります。これは広範囲のさまざまな活動を通してソーシャル・ファームを支援するネットワーク機関です。ソーシャル・ファームは、市場志向と社会的任務を結びつけたビジネス(「商取引をするプロジェクト」ではなくむしろ「支援するビジネス」)です。ソーシャル・ファームはすべての従業員に、支援と機会と有意義な仕事を提供する雇用環境を備えた支援的な職場です。そして雇用を通じて不利な立場にある人々の社会的経済的統合に貢献しています。この目的のための重要な手段は、すべての従業員に市場の相場に見合った賃金を支払うことによる、経済的なエンパワメントです。皆さんは既に耳にされたことがあるかと思いますが、ソーシャル・ファームの起源は1960年代のイタリアとドイツにさかのぼることができます。イタリアでは社会的協同組合は、常にホームレスやその他の不利な立場にある人々、そして障害者を対象としていました。これら2つの国では、ソーシャル・ファームや協同組合は、孤立して活動することはなく、提携して、あるいは集団で活動するので成功しています。イギリスでは福祉国家の力が及んでおり、不幸にも福祉への依存が強いために、ソーシャル・ファームの概念がうまくいくようになるまでには時間がかかりました。人々を福祉から雇用へと移行させようとする試みにかかわるこれらの問題こそが、政府に雇用創出と支援についてさらに広く考え、第三セクターを参加させ、ソーシャル・エンタープライズを促進することを促してきました。

ソーシャル・ファーム・セクターについてざっと見てみますと、このセクターには137社の企業があり、合計1652のフルタイムの仕事を創出しており、そのうちの52%は不利な立場にある人々(大部分は障害者)のための仕事です。841人の研修生が毎週このセクターで研修を受けており、昨年の調査では、57人がこのセクター以外の部門に就職しました。最大の部門はケータリングで、リサイクル、園芸および研修がこれに続いています。その他の分野としては、小売、自転車修理、旅行および観光、文書作成サービス、梱包および印刷、ITおよびコンサルタントなどがあります。単独で最も人数が多いのは精神障害者のグループですが、これは従業員が自分の病気について雇用主に明かすことを心配する必要がないからです。さまざまな障害者に加えて、ソーシャル・ファームはまた、労働市場において不利な立場にあるホームレスの人々や行動上の問題や特別なニーズを抱える人々をも対象にしています。ソーシャル・ファームは昨年、後者の人々を対象とするため、その定義を広げました。

設立から8年、ソーシャル・ファームUKは、ソーシャル・ファームの設立と成長を支援する多くの手段を開発してきました。これらの中には、ビジネス計画やマーケティング、研修、業績評価、免許取得、フランチャイズ化、および公共セクターとの契約獲得などに関する支援が含まれています。イギリスのソーシャル・ファームは当初、質の高いサービスや製品を提供する商取引機関で、労働力の最低25%は障害者か精神衛生上の問題を抱える人々で、収入の50%は売上高から得ると定義されていました。しかし2007年の間に、ソーシャル・ファームは、すぐれた質の仕事を労働市場において非常に不利な立場にある人々のために創出するために特に設立された、市場先導型のビジネスと再定義されました。つまり、ソーシャル・エンタープライズは再生においてその役割を果たし、主に貧困救済分野で活動するために、障害者の雇用だけに限ることがあまりに難しくなってしまったのです。労働市場において「不利な立場にある」人々の中には、ホームレスの人々やホームレスだった人々も事実上含まれていました。この定義は、他のヨーロッパ各国においても実際の状況により即したものであると言えるでしょう。イタリアの社会的協同組合もまた、「労働市場において不利な立場にある」人々を対象としていますし、今日のお話にありましたように、韓国のソーシャル・エンタープライズも同様です。

本質的に高いコストがかかることによる、事業立ち上げ時の支援、または継続的な補助金の必要性

ソーシャル・ファームUKはまた、ソーシャル・ファームのために展開する、政府に対するロビー活動においても中心的な役割を果たしています。たとえば、政府の協議書である「就職して、よりよい生活を」に対して、ソーシャル・ファームが独自に提供できることは何かを強調しています。ソーシャル・ファームUKはイギリス政府に対し、ドイツのモデルシステムを導入するよう働きかけています。これは、皆さんもお聞きになりましたように、ドイツのソーシャル・ファームは立ち上げ資金の支援を受けられ、軌道に乗るまで専門家によるビジネス支援サービスを利用でき、また障害者を雇用した場合、給与補助金制度を利用できるために、ドイツでは少なくとも700のソーシャル・ファームが存在するからです。また別のキャンペーンの結果、登録しているソーシャル・ファームは自動的に無料で、10万ポンド以下の地域の調達契約の入札に関する案内を受け取ることができるようになりました。

ソーシャル・ファームUKの活動―ロビー活動、フランチャイズの展開、意識向上、基準設定、評価など

ソーシャル・フランチャイズも、ソーシャル・ファームUKが進めているものですが、ソーシャル・エンタープライズの製品やサービスによって提供される、コミュニティに対する明確かつ直接的な社会的利益もしくは環境的利益が確立されなければならないということを除けば、商業フランチャイズと全く同じ方法で経営されています。ソーシャル・エンタープライズ支援機関は、ソーシャル・フランチャイズを発展戦略として大変重視しています。フランチャイズ適性マトリックスが簡単なツールとして開発され、既存のソーシャル・エンタープライズが、有用な成長モデルとしてフランチャイズ化を進めることが適当かどうかを評価する際に役立っています。

ソーシャル・ファームの組織構造のタイプは一つではありません。これは一つには、ソーシャル・ファーム協同組合などのように、ある特定の構造を選ぶためのエビデンスに関する確固とした情報が十分でないことを反映しています。多数のソーシャル・ファームがさまざまな母体から生まれていますが、それらは通常、主として介護サービスを提供する大規模な慈善団体で、その団体内で、職業訓練や商取引活動を展開しています。ソーシャル・ファームは、本質的に競争相手よりも高いコストをかけながら市場で競わなければならないので、その立ち上げは、ソーシャル・エンタープライズの立ち上げよりも難しくなっています。このため、大部分のソーシャル・ファームが必要とすることの一つに、最初の開業時における何らかの資金援助があげられ、また、ソーシャル・ファーム・セクターの質は常に改善されているにもかかわらず、その経営状態は良好ではないのです。最近の調査によれば、ソーシャル・ファームの60%が、キャッシュフローの悪化により伸び悩んでいます。

ソーシャル・ファームUKは最近、新たな品質保証マーク、「スター」を導入し、このブランドのサービスを利用することを人々に奨励しています。そして、ほどなくこのブランドが、フェアトレードブランドのように有名になることが期待されています。既に5つのソーシャル・エンタープライズに「スター」が与えられました。ソーシャル・ファームUKはまた、2007年3月に、ソーシャル・ファームをとりまく情報、経験および資源を共有するオンライン・コミュニティである国際ソーシャル・ファーム連盟を結成し、連携と新たなイニシアティブの可能性を模索しています。

ソーシャル・エンタープライズ、あるいはソーシャル・ファームを設立する際には、法的形態を選ぶ必要があります。イギリスでは、ソーシャル・エンタープライズの活動内容は非常に多種多様なので、その法的形態は一つではありません。協同組合、開発トラスト、コミュニティ・エンタープライズ、住宅組合、サッカーサポーターのトラスト、そしてレジャー・トラストなどがあります。この結果、多岐にわたる法的形態が使用され、企業として法人格を持つものもあれば、産業組合、共済組合の形をとっているものもあります。慈善団体の商取引部門もソーシャル・エンタープライズとなることができます。

法的形態の選択肢とコミュニティ・インタレスト・カンパニー
(地域社会の利益のための企業)

2005年7月以降、ソーシャル・エンタープライズは、コミュニティ・インタレスト・カンパニー(CIC)としても登録できるようになりました。これはソーシャル・エンタープライズのこれまでの法的形態を補足するものです。CICはソーシャル・エンタープライズの資金調達を支援し、ソーシャル・エンタープライズに対する認識を高め、そのブランド化を進めます。さらにCICについては、資産と利益の固定化、すなわち慈善団体として登録されていないソーシャル・エンタープライズが、私的な利益のために売られることを防ぎ、協定で定められた限度額を超えて得られた利益が、外部の株主に分配されるのを防ぐための規定が、設けられました。CICは設立が容易で、企業の形態をとりつつ、柔軟性と確実性を備えていますが、コミュニティの利益のために活動していることを保証しなければならないという特徴を持っています。既に1000を超える機関がCICとして登録しています。CICのその他の特徴としては、CICとして登録するためには「コミュニティ・インタレスト・テスト」に合格しなければならないということと、年次報告書で、その活動がどのようにコミュニティに利益を与えたか、そしてどのように利害関係者を参加させているかについて説明しなければならないことがあげられます。CICの監査人はCICがその法的要件を満たすことを確保する責任があります。セクター外部では、CICはまだあまり一般に認識されていないというのが妥当であると思われます。しかし、過去においては慈善事業にしか資金を提供していなかった慈善投資家たちも、投機的事業に投資する慈善家とともに、皆CICの支援に回っています。

多数の重要な成果、しかしさらに多くのニーズにこたえる必要性

このように、全体的に活気が出てきており、社会革新の新たな局面が多数明らかになってきています。社会的疎外と市民参加へのこれらの影響は明らかで、ますます多くの人々がソーシャル・エンタープライズという言葉を耳にし、その可能性について理解し始めています。イギリス政府はすでに第三セクターの役割を高く評価しており、ソーシャル・エンタープライズが地域コミュニティで一般の人々を参加させる方法に注目し、これに対する特別な支援を提供しています。ソーシャル・ファームも、非常にゆっくりとではありますが、確実に影響力を及ぼしはじめ、規模は小さいのですが、影響を与えています。この概念は、よく知られているとはとうてい言えませんが、関係者の間では、非常に好ましい影響を与えていることは明らかです。とはいうものの、講じられているすべての手段は、今なお、必要とされていることには遠く及ばず、革新が進展するために必要な体系的な条件を整えなければ、多くのことが既存の既得権集団によってつぶされてしまう運命にあります。必要なのは、社会的解決策のさらなる市場と、能力と資金を分散し、コミュニティに独自の解決策を決定させるより大きな自由を認めること、そして新たなアイデアを試すことができる公共サービスの場、実践家と政策立案者、社会起業家と革新ユニットを一つに結び付けて先駆者たちをまとめ、アイデアを推進すること、アイデアを試すための専門のユーザー研究機関、そして医療や教育などの特定のセクターや、障害、高齢化、あるいは介護など複数の分野にまたがるテーマのための、測定可能な革新を重視した「促進因子」の開発です。日本は常にアイデアの探求と拡大には慎重ですが、いったんアイデアが取り入れられれば、迅速に普及していくことができます。日本には、ボランティアセクターによる長い歴史を持つ伝統的な慈善活動という保護、あるいは制約がないので、ソーシャル・エンタープライズあるいはソーシャル・ファームを、障害者とその他の不利に苦しむ人々の雇用に焦点を当てたモデルとして取り上げることが容易にできます。ビジネスライクにすることには、大部分の日本人の理解を得られるでしょうが、これによって長期間にわたる持続が可能となります。地域の人々を参加させ、政府から独立することによっても、持続可能で柔軟なものにすることができます。既にいくつかの社会起業家的組織が存在しています。皆さんがさらに発展し成功を収め、皆さんの努力が実を結ぶためには環境づくりが重要であることを政府が確実に理解するようになることを願っています。

ソーシャル・エンタープライズ・セクターの開発事例-医療、保育およびオリンピック関連

最後に、イギリスにおいて、現在ソーシャル・エンタープライズが活動している特定の分野についてお話ししたいと思います。

すべての公共サービスがますます民営化されつつある中、ソーシャル・エンタープライズは本質的に、公共サービスにおける現代の重要な政策の推進を支援したいと願っていることから、その多くは医療分野で活動しています。ソーシャル・エンタープライズにとって、資本や技術およびその他の資源への迅速なアクセスがずっと良い民間セクターの企業と競争することには困難が伴います。しかしそうはいっても、ソーシャル・エンタープライズは、経営の際、民間の株主のために利益を生みだす必要がないため、また公共セクターの理念に従って活動していることの方が多いので、独特の立場に立っていると言えます。たとえばECTは、ロンドン西部で診療所を経営し、独自の医療モデルを試験的に展開しており、水準を改善する一方で、どのようにコストを削減することができるかを実証しています。ECTは実は、イギリスの一流のソーシャル・エンタープライズの一つで、全国でリサイクル活動を専門に活動しています。ECTは診療所のバックオフィスとしての機能を担っており、医療スタッフや診療所のスタッフが患者の治療に専念できるようにしています。一般開業医を含むスタッフは、給料を支給され、利益はすべて自動的に、患者へのサービスを提供することに再投資されます。もう一つのソーシャル・エンタープライズは、ロンドン南東部医師協同組合(SELDOC)で、これは、組合員である一般開業医たちが所有し、経営し、資金提供しています。SELDOCはロンドンの3つの区の100万人の患者の治療にあたっており、相次ぐサービスの合理化に成功し、最も弱い立場にある人たちが質の高い医療を、必要な時に利用できるようにしています。SELDOCの一般開業医たちが協同組合で活動しているという事実は、利害関係者の間により強力な共同体意識をはぐくみ、地域社会へ医療サービスを追加するために利益を再投資することへとつながります。

現在大いに関心を集めているもう一つの分野は、2012年のロンドンオリンピックです。正直言って、これはイギリスでは人気がありません。なぜなら、ロンドンの人々は、その費用を援助するためにこれまでより高い地方税を支払わなければならず、また、ロンドン外部では、全国的なイベントがいつも首都で開かれることに反対する意見があるためです。ソーシャル・エンタープライズの参加は、特にロンドン東部ロウワーリーバレーの長期再生事業に見られるように、コミュニティのための公共の遺産を保証し、急激に増加する巨額の投資を正当化し、地元の人々の仕事と、新しく改善された施設の継続的利用を確保します。政府は、コミュニティの資産開発や、スポーツ政策、テムズ・ゲートウェイ計画へのソーシャル・エンタープライズの参加、交通輸送の中心拠点、技術および雇用開発におけるソーシャル・エンタープライズの役割の促進に、多くの努力を払っています。

ソーシャル・エンタープライズの活動が差し迫って必要とされているのは、保育の分野です。民間セクターの保育会社は、特にロンドンには多数あります。しかし、手頃な価格で質の高い保育サービスを提供することは、ソーシャル・エンタープライズにとっては難しい課題です。これは政府の再生・雇用目標と直接結びついているので、継続性のある優れた解決策には政府からの財政支援が必要です。それがあれば、サービスを改善できますし、料金も下げて、あらゆる所得レベルの家庭が質の良い保育サービスを利用することができるようになるのです。このセクターによる、この問題に関する熱心なロビー活動と交渉が現在進行中です。

資金、ビジネスサポートの提供、学術的研究、業績表彰および会員とネットワーク機関に関する情報

多くのソーシャル・エンタープライズは、このように、立ち上げにあたり何らかの専門知識や財政支援を必要としています。助成金を提供するトラストや財団の多くが、その慈善活動の中心にソーシャル・エンタープライズの計画を据えています。さらに、その他の支援や意識改革のための機関もあり余るほどあります。そのいくつかを、ここにご紹介しましょう。

まず一つは「Upstarts Awards」というものです。立ち上げ奨励金であり、ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズの社会企業家のための年間奨励金制度です。

また、「Sustainable Funding Project(持続可能な財政支援プロジェクト)」というものがあります。さまざまな財源基盤を開発するボランティア機関の支援です。

ロンドンにおける「ソーシャル・エンタープライズ・ロンドン」というのもあります。

「Social Enterprise Coalition(社会企業連合)」というのもあります。ソーシャル・エンタープライズの利益を代表する全国的な会員連合です。ここではさまざまな政府相手のロビー活動をしています。

それから、「Impetus UK(インペタスUK)」というのもあります。ここは戦略的財政支援と専門知識を提供する投機的慈善事業団体となっています。

ベンチャー、フィランソロピーを進めているところはたくさんあります。投機的な慈善事業と言ってもいいでしょうけれども、自分たちのお金を使ってソーシャル・エンタープライズの育成に充てたいと、投資として考えているというところです。

それからもう一つ、「The Funding Network」というものがあります。これは財政支援ネットワークと呼ばれているもので、より公正で健全かつ持続可能な世界のために取り組む公共財政プロジェクトを個人的に持ち込む「市場」としての活動です。ですからここで競争の原理が働き、より公正な世界を作ろうというものであります。

それから、「ベンチャー・サム」というのがあります。これは「Charities Aid Foundation(慈善事業支援財団)」の一つでありますが、ここではソーシャル・エンタープライズを立ち上げるための資金を提供しています。

「Charity Bank(慈善銀行)」というものがあります。ここは銀行から借り入れができないような非営利団体に、3,000ポンドから40万ポンドのローンと保証を提供する銀行兼公認慈善団体です。従来の形で銀行から借り入れができないというところはたくさんあります。そして特に銀行というのは彼らが目指す目的の価値がわかっていませんので、どうしてもこういう融資に頼らざるを得ません。

「The Beacon Fellowship Beacon(ビーコン・フェローシップ・ビーコン)」というのがありますが、これもまた個人に寄付を募って慈善における優れた実践をたたえ、紹介するために作られたものです。個人からこのようなソーシャル・エンタープライズを立ち上げるための資金を募る団体です。

その他、いろんな団体があります。

「London Rebuilding Society(ロンドン再建協会)」と呼ばれるものがありますが、これはロンドンが資金を出していまして、ソーシャル・エンタープライズの立ち上げ時にかなり有利な金利条件でローンを提供しています。

その他、例えば「The Big Boost(ビッグ・ブースト)」。ここは若い社会企業家を支援するところです。11歳から25歳までの若い人たちに対し、アイデアに対して資金を出すというものです。できるだけ若い人たちに革新的なアイデアを出してほしいということから作られたものです。

これらは一部の例に過ぎません。その他にも学問組織がありまして、いろいろと研究をし、ソーシャル・エンタープライズが社会にどのようなメリットをもたらすかを研究しているところがあります。

例えば、「The Skoll Centre for Social Enterprise(スコール・ソーシャル・エンタープライズ・センター)」というところがあります。ここは学者、実践的な企業家を集めて、変化を社会においてもたらそうというものです。理論的かつ実践的なものです。

「The Young Foundation(ヤング財団)」というものもあります。ここは満たされていない社会的ニーズを確認した上で各機関に対し実践的なイニシアティブをとらせるためのものです。

また、1年間にわたるソーシャル・エンタープライズの研究をするといったプログラムを設けているところもあります。

私の話はこのくらいで終わりたいと思います。皆様、ご清聴ありがとうございました。

また、これらの問題に関して皆さんとパネルディスカッションができればと期待しております。ありがとうございました。

司会:どうもありがとうございました。あと3分ほどありますが、質問を受けますか?

パービス:どなたかこの時間を使って質問されたい方がいらっしゃれば。例えばよくわからなかったという確認事項でも結構です。

会場:いろいろ詳しい話をありがとうございます。話の中で、これまでの福祉政策がソーシャル・ファームの雇用のネックとなるという問題をおっしゃっていまして、大変同感でございます。この問題の解決にはどのような方向で取り組まれていらっしゃいますか。

パービス:イギリスにおける唯一の解決策、それは私たちには資金的な支援、例えばドイツのソーシャル・ファームが障害者を雇うために得ているような助成金制度はありません。したがいまして私たちはより広いソーシャル・エンタープライズの解釈を採用せざるを得ません。というのは、先ほどもお話ししましたけれども、多くのソーシャル・エンタープライズを支援するための制度があります。そしていろいろな財団、また個人が例えば投資する用意のあるところがあります。ですからソーシャル・ファームはいずれもっと広がっていくだろうと思っています。

私たちは何らかの財源と障害者との橋渡しをしなければいけないと思いますが、まずはソーシャル・エンタープライズというより広い枠組みからやらなくてはならないと思います。ですが他の国にあるような助成金がなければ、ソーシャル・ファームのほうはイギリスでは拡大しないのではないかと思います。

司会:では時間になりましたので、拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

フィリーダ・パービス氏講演の写真


*コミュニティ・インタレスト・カンパニー(CIC)について

コミュニティ・インタレスト・カンパニーは、強烈なアイデンティティを伴う、柔軟な会社機構を有している。そしてアセットロック(資産の固定化)を義務付けられ、株式を発行したり、資金を借入したりすることができる。CICは民間の株式会社や有限会社の場合もあれば、公的企業の場合もある。CICの申請のためには、申請者は、その会社が誰に対して、どのような方法で利益を提供しようとしているのかを明確にしたコミュニティ利益報告書を作成しなければならない。アセットロックとは、その会社の資産(利潤を含む)が、会社の設立時に貢献対象とされたコミュニティのために使用されなければならないということ、あるいは、もしそれが別の目的のために第三者に移譲される場合、時価の全額が獲得されなければならないということを意味する。年次報告書では、CICの監査人と一般の人々に、年間を通じて生み出された資金によって何が達成されたかを知らせることにより、経営の透明性を図っている。

出典:イギリス内閣府 第三セクター局 www.cicregulator.gov.uk