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講演3 北海道NPOバンク

北海道NPOバンク 理事長 杉岡直人

松井 杉岡直人さんは、北星学園大学の学部長で、専門は家族社会学、農村社会学です。日本のNPOでは、はじめてのNPOバンクの設立と運営にかかわってこられた理事長としての経験をもとに今日はお話しいただきます。

NPOのミッションの実現のために

杉岡 北海道NPOバンクは、北海道でNPOの団体をつくろうとしている団体、法人格をもっていない人にもお金を融資している団体です。

先ほど、お二人から、資金調達と融資の問題にふれていただきましたが、ボランティア活動、民間の福祉的活動や環境問題に関わる活動を含めて、小規模な団体でかつお金を自分たちで確保しにくい人たちが共通して抱えている問題が、資金調達の問題でした。

私どもはNPO団体を支援する組織として、基盤強化のためには、①資金調達の確保、②資金繰りの確保、③経費の削減、④組織基盤の強化という4つの課題に取り組んでいます。これらを通じて、NPOのミッションを実現することが図られます。

NPO活動経費の重要性

経費の問題については、資金が足りないと、どうしても計画に無理が生じます。そして計画の拡大によって人手不足が生まれ、それがオーバーワークを招きます。結果として、燃え尽きてしまいます。さらに皆のやる気も高まらない。そして活動の縮小、停滞を招いてしまうという結果になります。

NPOが融資を必要する時は、まず一番ニーズが多いのは事業開始のためです。2番目に、つなぎのための運転資金です。先ほどのお話でも、資金が得られるのは決まっているが、製品を納入するまでお金を受け取れない。あるいは作業をやっても、政府系の事業や自治体行政の関わる仕事は往々にしてよくあることですが、請負で行っているので、事業の完了を待って、監査が行われて、それにパスしないと資金が提供されません。それで一時的に資金不足を招きます。実際に事業を進めていくための予算がない場合です。一般企業なら資金調達をして、販売をして資金の回収ができるのですが、実際に長時間かけて物をつくり、販売をしてお金を回収するまでには長期間かかるので、一時的資金の需要があります。

3番目は、設備資金です。たとえば、介護を必要とする人などが通院する際や、銀行や買い物、レジャーに出かける時に送迎をする移送サービスを行うには車が必要です。あるいは、ものをつくる時にも設備投資が必要です。設備投資が最初になければ、仕事を始められませんので、購入資金が必要になってきます。

4番目は、人が少しずつ増えてきて仕事が増えてくれば、事業の拡大をするために資金が必要になってきます。一般企業の場合、土地、建物やその他担保になるものをもっています。貯めておいた資金プラス、それらを担保にして、お金が借りられます。ただ、非営利団体の人たちは、資金、設備も少なく、土地建物を所有していることもほとんどないために、担保がなく、お金を借りることができません。

融資制度の問題点

まず、NPOの財政基盤や担保力が低い点です。それから、非営利団体を対象にする融資は、通常の金融機関には経験がなく、前例がありません。また融資のメニューがないこともあります。信用保証制度が設けられることがありますが、NPOはその対象にはなっていません。このような状況から金融機関からのNPOに貸し付けは進んでいませんでした。

しかし、今は日本でも、国民生活金融公庫、労働金庫、信用金庫、都市銀行などで、少しずつ資金融資を認めるケースが増えてきました。ホームレスの人の支援をする金融機関も登場してきて、この場合、5,000万円以上の融資が認められるようになっています。したがって、ある程度の資金調達は見通しが出てきていることは確かです。

NPOバンクの仕組み

NPO法人という非営利団体が不特定多数の人々からお金を集めて、資金を必要としている団体等に貸すことは法律的に認められていません。それで投資組合をNPOバンク事業組合として立ち上げ、市民、行政、企業、NPOに出資してもらいます。そしてその事業組合がNPOバンクに対して金利ゼロで融資します。またNPOバンクでは寄付は受け入れられるので、直接お金が入ってきます。これらをもとにNPOにお金を貸します。

出資金は年に2回、決められた期間に払い戻しを行うことができます。返してほしいと要求されることもあります。しかし、本音の話ができる場合には、事前に出資金は返ってくることを期待しないでほしいと話しますし、NPOバンクにお金をあずけて配当をもらえるとおもって出資する人はほとんどいないといえます。むしろ自分の善意がNPO団体を支えることになれば、自分は直接応援できなくても役に立てると考えている人が一般的であると思います。組織の運営スタイルとして出資金の配当をおこなうこともありえますが、NPOバンクで利子を払っているところはほとんどないと思います。

NPOバンク事業組合への出資

NPOバンク事業組合も普通の金融機関と同じですが、出資金は投資扱いになるので、元本は保証されないとあらかじめ説明しなければ出資を募ってはいけないことになっています。出資の相談があるときは確実に伝えなくてはなりませんし、各種媒体、たとえばホームページ上でもそれを示さなければなりません。

出資金は、先ほど説明したように、事業組合が出資金を集めて、金利0%でNPOバンクに貸し付け、NPOバンクが各団体に融資をしていっています。どこのNPOバンクがお金を貸す際もほぼこの流れです。現在はNPOバンク事業として直接お金を集めているわけではないので、今後、NPOバンクという非営利組織が出資と融資を一体的にできるようにしないと、営業上、非常にわかりづらいといえます。通常の金融機関であればこうした2種類の組織をつくる必要はないのですが、非営利団体が行う場合については、まだ改善されていません。

NPOバンクの出資・寄付状況

NPOバンクは北海道から1,500万円、札幌市から500万円、合計2,000万円を出資金の扱いで行政から資金提供を受けました。民間団体からは51%を占めています。過半数以上を行政以外から、つまり民間である自分たちで集めないと行政に管理されることになるので、総額で4,000万円を超える資金を集めなければならないということです。それで、現在のところ257件、総額5,000万円を原資としてもっています。個人で出資をしていただいているのは100人程度で、大きな規模ではありません。

原資を拡大していけるのかどうかが今後の課題になってきています。今のところは、私どもは小額の無担保融資で、必要とする団体に資金を供給する方針をとっています。

NPOバンクの融資条件

融資条件として、融資を受ける団体には事業組合員になっていただくことになっています。たとえば200万円の融資を希望する人は、2万円を出資して借りることができるという基礎的な条件があります。また、ワーカーズコレクティブ、NPO団体であることも条件です。そして何よりも重要なことは、事業目的に公益性、社会性があることです。

融資は最大200万円と設定され、返済期間は1年以内です。つまり1年を過ぎた時に、一気に返してもらうか、借りてから均等払いで返済するのかを選択してもらいます。つなぎ融資の方は、借りてから2〜3か月で返してくれる場合もあるので、その場合には、繰り上げ返済がなされます。

金利は年率2%の固定金利です。遅延損害金年率は14%です。2%でお金を借りるということは、貸している団体にほとんどお金が入ってきません。200万円貸しても1年で4万円しか金利が入ってこないので、かなりの額を貸したとしても100万円の金利を稼ぐのはほとんど無理です。人件費も事務所の費用も出ません。NPOバンクとしては自立した経営を皆さんに求めているのですが、自分たち自身が自立できていないというジレンマに陥っていることも確かです。

2期以上の融資を受けて返済をした実績がある方は、出資額の100倍の額を融資するという優遇策があります。また、短期に小額の資金が必要な場合は、審査はほとんどなしで貸すこともしています。

無担保なので、審査では事業目的に社会性が重視されます。ただそれをアピールしていただくと、すぐに貸せるわけではなく、審査ポイントに点数制を設け、融資判定表を用いています。審査会を開いて、経営責任者の評価、経営のチェック体制、組織の状況、事業の状況、事業計画や実施体制、財務状況、資金繰り計画を審査していきます。

連帯保証人に関しては代表者という形が多くなっています。お金のないNPOの連帯保証人になってくれるのは、お金のない人しかいないと言われたことがあり、連帯保証人に期待するのは無理ではないかという声もありますが、一応、お金は返してもらわなければ困ることを明確にさせるために連帯保証人を設けていて、保証人の点数は5点になっています。

融資判定表は審査結果70点と面談30点の総計100点満点になっていて、60点以上で、お金を借りることができます。実際に事業所を訪問して話を聞くこともしますし、代表者に来てもらって説明を受けることもします。

本格的にお金を必要としている人が大規模な事業を行う場合には、審査が難しいこともありますが、200万円ぐらいしか借りられないので、審査を受ける計画自体は大きなものではありません。したがって、審査会には公認会計士や税理士、銀行関係者もいて、事業計画と返済計画の説明を受ければ、どんな結果になるかどうかはほぼわかるので、無担保でも判断できます。

最近よく言われているのが、担保をとってお金を貸すのは、金融機関の能力として低いのではないかということです。つまり、担保をとればどうにでもなるというのなら、金融機関の事業に対する審査能力はなくてもいいということです。

NPO法人フローレンスの代表理事駒崎弘樹さんは、社会起業家のリーダーとしてしられていますが、事業計画を的確に判断できる能力が金融機関に求められているのではないか、事業計画を見れば、ニーズと事業内容を受けてきちんと判断してお金を貸すことができるのではないかと主張しています。現在は金融機関でも、事業の内容で判断することが少しずつ増えていると思います。

融資状況

融資状況は、今年の3月現在で、115件です。4分の3ぐらいは札幌市で、残りはその他の地域です。

活動分野別に見てみると福祉系事業が多く、なかでも小規模作業所の活動が多くなっています。次に多いのは環境系団体です。あまり貸しすぎると資金がなくなるので、返ってくるお金を見込みながら貸しています。総額約2億円の融資実績があります。

障害者雇用に関する行政の取り組み

国レベルの事業も取り組まれていますが、地域で生活できる条件をどのようにつくるのか、自立と社会参加をどう実現するか、また、バリアフリー社会をどう実現するかなど、ノーマライゼーション社会の実現に向けて、北海道の取り組みは少しずつ前進しています。

図にある北海道障害者基本計画の目標と、チェックすべきポイントが明確になることによって、目標が達成できればと思います(図1)。

(図1)「北海道のこれまでの取り組みについて」

図1 テキストデータ

特に、今日、精神障害者の地域移行が加速されてきています。この流れの中では、障害者の生活基盤を地域に実現することが、根本的に求められてきます。この政策の具体的展開については批判もあり、自立支援法や条件についての問題もあります。この課題についても、具体的な方針をつめていく必要があると思います。

平成23年度までに、一般就労を4倍にするなど、有効求人倍率をどのぐらい拡大できるかが課題になっていますが、ほとんど見るべき実績に達していないのが実態であるといえます。地域で暮らせるようにするための条件づくりを就労支援の実現を核にして、進められなければいけません。働きがいがあり、尊厳のある生活を取り戻すことを最終的な目的として、就労の問題を考えなくてはいけません。この点について、どんな具体的な支援が用意されるかは最大の課題であると思います。

社会福祉法人&農業法人。花の木農場の牛のイラスト入りの看板と建物。

(写真1) この写真は、鹿児島にある花の木農場のものです。マイクロファイナンスの問題とは違いますが、社会福祉法人が農業法人の法人格を取得し、農業をやりながら収益をあげて収入を確保できるようにしています。

農場とレストラン経営。屋根付きで壁のないオープンレストランの写真。テーブルと、何十もの椅子が並んでいる様子。近くに椰子の木がある。

(写真2) 年金を合わせると1人14万円ぐらい、収入が得られるようになっています。農場をつくって、パンなどの加工品もつくっています。レストラン経営もしています。

茶畑にあるグループホーム。周囲を茶畑と森に囲まれた洋風2階建てのグループホームの様子。

(写真3) 茶畑もあります。グループホームが市街地から15キロぐらいのところにあります。

地域に開かれた事業を展開するという点では、法人経営もやはり今は地域貢献が重視されています。これは社会福祉法人の経営の地域展開の一つの重要なモデルになっていると思います。

資本主義社会において、農業という産業では、自分たちがつくった物に自分たちで価格をつけるのは難しいことです。農作物は政府価格などで決まった価格で買い上げられことになっていたり、買いたたかれます。売ることも自分たちでは十分にはできません。しかし、物をつくって加工して、流通に乗せて販売して、消費者や地域とつながることが今の農業経営のモデルになってきているので、障害者の方の就労問題を考える時、働く場にこの農業経営の仕組みを取り入れるといいのではないかと思います。つまり、自分たちが関わってつくった物が、地域の人に消費され、地域の人がその農場を支えていくということです。資本主義社会の先頭を行くアメリカでも、「コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー」という、日本の協同組合が進めているような農業に対する支援をし、農業者のつくった物を買い取っている取り組みもあります。

こういった考え方を展開するならば、障害のある人の事業に関しても共通した枠組みができると思い、紹介させていただきました。社会的企業として展開していくためには、どんな企業であるべきかが、大きな柱になってきます。それがコミュニティビジネスを展開し、収益を上げて、配分を確保していきます。

ところで、以前の共生社会の考え方では、障害のある人を受け入れる仕組みをつくろうという発想が多分にありましたが、今は障害者がまちづくりの中心的な担い手になるようになってきています。たとえば、北海道浦河町にある「べてるの家」の精神障害のある人たちは、自分たちで会社を経営して、空洞化している過疎地域の市街地の活性化を、自分たちが中心になって行っています。障害のある人々が中心になって取り組むこともふくめた雇用の仕組みが正当な位置づけを与える考え方であるといえます。

そして、こういった事業に関しては日本国内における横断的なネットワークが求められるので、活動の基盤を強化することが重要な課題になってくると思います。

私どもNPOバンクも、単に事業経営を行う団体に向かうのではなく、どんなミッションを実現していくのかを忘れないように、かつ融資したNPOが事業として成り立つように、サポートもセットでしなければいけないと考えています。

これで私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。