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ディスカッション

司会 これよりディスカッションを始めます。進行は松井亮輔さんにお願いしたいと思います。

松井 まず、皆さんからの質問を受けたいと思います。いかがでしょうか。

質問者 ジョニーさんと杉岡先生に質問をします。

ジョニーさんの協同組合は、知的障害者を含めていないとのことでしたが、その理由を教えてください。また、今後、知的障害者を入れる予定があるのかどうか、ご質問します。

杉岡先生からは、NPOバンクは、事業としてはまだ自立できていないというお話だったと思いますが、スタッフの人たちはボランティアでやっているのですか。今後、事業としてボランティアではなくて、きちんと給料を払える形になりうるのかどうか、ご説明をお願いします。

ジョニー 今のご質問にお答えします。知的障害者を加えていなかった理由は、我々が行っている作業の性質にあります。いろいろな製造用の機械を使う作業があるので、知的障害のある人を製造現場で個々に指導できる体制がまだ整っていません。しかし近い将来に含めていく予定です。

杉岡 バンクの利息収入は、実際のところ年額でも30〜40万円がせいぜいです。北海道NPOサポートセンターという中間支援組織が、NPO団体が抱えている資金調達の問題を解決するために、NPOバンクをしかけたわけです。

 私たちはNPOサポートセンターの事務所に間借りしている形で、そのサポートセンターのスタッフがバンクの事務局長をしています。給料は私どもからはあまり出ていなくて、大半はNPOサポートセンターから出ています。実際に採算をとろうと思うと、別な事業をして、よほど寄付金が集まる仕組みにするか、金利を上げるかということになります。

 先ほどご説明したように、国民生活金融公庫など、その他金融機関が、NPOにかなり大きな金額を貸すようになっているので、事業活動の住み分けとして、NPOバンクは少額の融資にとどまらざるを得ないのではないかと思います。すると、あまり高い金利は望めません。

 実は、貸倒れの問題があります。障害者関係の事業所と問題が起きて、200万円ほど返済がなされないため訴訟を起こし、延滞利子年14%の利子付きで被告が支払うように仮執行を認めるということで裁判が結審しました。必要に応じて出資者に対する説明責任を果たすために訴訟も辞さないという姿勢は重要であると考えています。

 NPOバンクは、NPOサポートセンターの事務所でいっしょに活動することによって、NPOの活動内容の情報がかなり入ってきます。情報収集を事前にすることで、無担保で貸すのも、それほどリスクにはなっていません。別に事務所を借りて家賃を払い、スタッフを雇うことになると、事業としては厳しいでしょう。

 専従で働く人には、私どもNPOバンクとNPOサポートセンターから、ボランティア分の額のお金ぐらいしか払っていません、月給は10万円ぐらいかと思います。それが直接的な人件費です。審査をしてもらう方にも、お金は払っておらず、手弁当でしてもらっています。

 ただ、私どもはどんな人たちが事業に取り組み、いろいろな問題を抱えているかを知ることができます。その意味では、自分たちの経験や勉強にもなり、あまり事業の採算性について議論することはありません。他のNPOバンクもおそらく、採算をとれているところはないのではないかと思います。

質問者 東京大学博士課程の学生です。ネパール出身です。ジョニーさんに質問が2つあります。

 これまで一般的に教育省とは国民の教育に関する省だと理解していましたが、ジョニーさんのプレゼンテーションでは、NFCPWDは、教育省から教育というより協同組合に対して多くのサポートを受けているように思いました。教育省からの大きな支援があるのは、やはり障害者の協同組合であるからという理由なのでしょうか。それとも、フィリピンでは、システムとして教育省が教育と合わせて雇用関連にまで関わっているのでしょうか。

 2点目の質問は、知的障害者に関してです。協同組合には知的障害者は含まれないという話でしたが、しかし、そちらの指針、原則には、あらゆる障害をもつ人を対象とすると書いてあります。法的な意味からも矛盾しているのではないでしょうか。

ジョニー 最初の質問についてですが、フィリピンの教育省は、我々の協同組合だけを対象にしているわけではありません。教育省ですから、障害をもつ子どもたちのための特殊教育も担当しています。

 政府との契約は雇用可能な、すなわち働くことができる障害をもつ人に対する一つの援助の形態でもあります。

 2つ目の質問については、現在、私どものところでは知的障害などの人を含めることはまだできないのですが、近い将来、そういった障害をもつ人たちも含めていく計画を立てています。他のNGOにおいても、この点が課題となっていますが、近年フィリピンでも、たとえばNGOのメンタルヘルス・プログラムの一環として知的障害者の雇用がうたわれています。

 しかし、そういった知的障害をもつ子どもの親がそのような協同組合で仕事をしていることもあるので、原則に従っており、そういった人を排除しているわけではありません。

質問者 国際協力銀行に勤めています。メインストリーミングに関する質問です。すでに完成された形で存在しているものに対して、新たなものあるいは異質なものをどのようにして入れていったらいいかに関しての質問となります。

 まずは岡本先生への質問です。マイクロファイナンスが貧困削減に有効であることは国際的にも認められてきていると思います。一方、障害者支援に関しては、特に2000年以降、国際機関でも注目され、世界銀行やアジア開発銀行、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、等でも取組が強化されてきています。そのような流れで考えた場合、マイクロファイナンスの中でも障害者支援を考えることが可能と思います。マイクロファイナンスの既存のアプローチに障害者支援の考えをどのように取り入れていったらいいのか、そのあたりについて、岡本先生のお考えをお聞かせください。

 次に、ジョニーさんに質問です。発表をしていただいた協同組合では第2次産業の仕事をメインにサポートしていると思いますが、世の中では第3次産業で働いている人が一般的には多いと思います。そういった人たちへのサポートをどうしていけばいいのでしょうか。障害者が普通に働ける状況や社会を築いていくことが重要だと思います。たとえば情報保障など、ちょっとしたサポートをすることによって世の中にどんどん進出することか可能になる人たちもいます。そのあたりのアプローチについてお聞かせください。

 最後に杉岡先生への質問です。NPOにお金を貸すためのNPOバンクをおつくりになり、活動されてきたとのお話を興味深く伺いました。一方、一般の金融機関でも徐々にNPOに対して貸すようになってきたこととのお話も伺いました。NPOバンクの立ち上げは素晴らしいと思う一方、新たにNPOバンクを立ち上げること、あるいは規模を大きくしていくことは、大きなコストがかかることになると思います。ですので持続可能・自立可能な活動が可能となるためにどのようにすればよいのかを考える必要があると思います。NPO法人の動きがつかみやすいので、NPOサポートセンターの中に事務局をおいてフォローしているというお話でしたが、情報を持っている強みを活かしていくことによって、一般の金融機関に情報提供する、あるいは銀行からNPO法人がお金を借りる時に保証するというサポートをすることで、自立的な活動が可能になるという考えもあると思います。このようなNPOバンクのあり方を考えることは、今後の障害者支援を考えるうえでも、役に立つと思います。たとえばお金を借りるにしても障害者支援のための別の機関をつくったほうがいいのか、あるいは既存の銀行に関して、障害者支援に配慮をした対応をしてくださいとお願いしたほうがいいのか、という様々な考え方があると思います。アプローチの方法について、先生のお考えをお聞かせください。

岡本 マイクロファイナンスは基本的には一人ひとりが独自に自営でき、自分ひとりで市場に入っていけることを前提にしています。ですから、たとえば障害をもつ方でも、すでに受注生産していたり、自宅に作業所をもっていたりして、活動している場合がすでにあります。

 毎週どこかに集まるというスタイルが困難な場合には、グループのメンバーがその人の家にお金を取りに行けばいいだけで、グループが障害をもつ自営業者を巻き込んでいくことが可能であれば、問題はありません。

 逆に障害者のための特定の枠をつくろうとすると、かえって難しいのではないかと思います。ネパールでは、地域ごとに小さな50〜100人くらいの信用組合のような組織に、マイクロファイナンス組織がNPOの支援でつくられていました。彼らの貯金を積み立てながら、その資金を活用することをしていくのです。メンバーの中で障害をもつようになった人ができました。するとメンバーは外部に服を買いに行くのではなく、その人のところで服のオーダーをするのです。そしてその障害をもつ人は足でミシンが使えなかったので、手で使えるように工夫をしました。

 また仕立屋の父親が障害をもったので、息子がそのサポートできるためのバイクや自転車を買うための融資をするという形もあります。

 そういった形で協同組合全体が障害のメンバーをうまくサポートして長期的に、みんなが持続して発展できるように、工夫を重ねていました。

 それを見て、私は、グラミン銀行のように一律にどの人にも同じスタイルで、ルールを厳しくしながらというのは、元気な人にはいいけれど、そうでない人には厳しいものがあるのではないかと思いました。柔軟性をもって対応しなければいけない、社会的弱者と言われている人たちには、別の形を考えたほうがいいと、私は学びました。

ジョニー すべての我々のメンバーがそうした作業所や学校の椅子の製作現場で雇用できるわけではないので、そういう人たちをどうしたらよいかを考えなければいけないと思います。

 たとえば、空港でマッサージサービスを提供している視覚障害者のメンバーには、財政的な支援をして事業を始められるようになりました。製作作業ができないある組合員は、電子器具の修理ができるので、小口の助成金を供与したりします。

 我々は製作に携わることのできないメンバーにも支援をしています。サービス業も含み個々の状況に応じた支援をしています。

杉岡 今、作業所を含め、障害のある人が事業を興す、あるいは、障害のある人のための事業に取り組むことには、かなり規制緩和がされてきています。その一方で、実際に事業に対するアドバイスや、適切な情報提供はうまくいっていないと思います。その費用に関する、利用者負担が要求されていることがネックになっているという問題も松井先生が指摘されていました。

 障害のある人向けの融資のあり方に関しては、実質的に、障害のある人自身が取り組む際のアドバイス機関がうまく機能しないといけないと思います。障害のある人のピア・グループのアドバイスが有効な場合もあるでしょうし、専門家がアドバイスすることも必要でしょう。

 事業の内容に応じて、融資の窓口でも、同じような調整が必要になると思います。どのぐらいの事業をどう運営していくかという点で考えると、普通の事業の融資とは少し違う問題を考慮しなければいけないと思います。

 障害のある人が、同じ障害のある人をだまして、お金を自分のものにして、返さないというケースで、私たちは詐欺に遭ったことがあります。そういったことも、私たちは、団体としてきちんとモニタリングしなければいけないと思います。

 NPOバンクは無担保で融資していますが、その実績は比較的良好です。つまり貸し倒れがほとんどありません。NPOバンクから借りて完済した団体には、労金でも貸せると言っている労金の担当者もいます。借りて返したという実績を蓄積することによって、貸し方についても、合理的な仕組みが生まれてくるのではないかと思います。

質問者 きょうされんから来ました。私も長い間、障害者の作業所にいましたので、ジョニーさんのお話に非常に興味をもちました。特に、協同組合方式という、民主的な経営形態をとっていることに感銘を受けました。

 日本の作業所や授産施設は非常にビジネス力が弱く、どこも、作業による収入、収益を確保するのが大変で、経営の本質的な課題になっています。フィリピンの協同組合では、政府からの椅子などの優先発注によって、一次的な組合の経営が成り立っているのか。もし、それで経営が成り立っていないなら、その他にどのような営業活動をしているのか教えていただきたいと思います。また、協同組合が成り立つには、障害者本人の労働だけでは、収益が上げられないのではないかと思います。たとえば、ヨーロッパのソーシャル・コーペラティブでも、ソーシャル・エンタプライズでも、障害者と非障害者の労働者の数は半々であるところが多いと聞いています。1つの協同組合の障害者と非障害者の人数の割合を教えてください。

 それから、協同組合の概念であれば、そこから生み出されたものの分配が、給料という形になると思いますが、一般の労働市場における通常の賃金と差があるのでしょうか。そして、その給料で労働者の独立した生計は成り立つのでしょうか。

 日本の一般労働市場においては法に基づく最低賃金制度がありますが、残念ながら作業所はこの制度の対象外とされ、給料水準は最低賃金よりずっと低い状況にあります。

ジョニー 私は作業所と比較をしましたが、単なる比較のためだけであり、作業所を悪く述べる意図はなかったと申し上げたいと思います。

 ご質問にありました障害者と非障害者の比率は、ある組合では20人の障害者に対して2人の非障害者という割合のところがあります。非障害者といっても、障害をもつ人の親戚、家族であるので、障害をもつ人が100%という形で考えています。

 組合の活動に関して、障害者自身で決定ができない、あるいはどうしても参加できないことがある場合、そういった障害者以外の人たちの協力も必要だと感じています。

 政府からの調達があるのは、年間で5か月から7か月間くらいで、9か月ぐらいに延長されることはありますが、1年を通して考えると、4〜5か月くらい仕事がない期間があります。その間、障害をもつ人たちはどうしたらよいのでしょうか。

私は今回、来日してぜひ見学したいと思っているところに、障害者の作業所があります。どんなプロジェクトが展開され、実際に障害者が何をしているかを見学して、新しいアイデアを持ち帰って、実施したいと考えています。

通常、我々の組合員に関しては、仕事がない期間に、1〜2か月、小規模ですが、民間からの発注を受けることもありますが、組合員の数に対して仕事の量が少なすぎるので、人によっては、たとえば道端でバナナやタバコを売ったりする、小さなビジネスをしています。そういったビジネスを展開する際に、協同組合から融資をすることもあります。

 給与の質問についてです。それだけで生活していけるかどうかは、もちろん事業が継続して、1年を通して仕事があればニーズを十分に満たせます。給与体系はフィリピンの最低賃金法に基づいた最低賃金になっています。そして実際の生産活動における給与体系は作業によって決まっていて、ケースバイケースです。

 たとえば配管のパイプをカットする場合には、金額が決まっているので、パイプをカットして1円稼げるのであれば、そういった形でカットする仕事が増えれば、その人の給与も増えることになります。

 私どもの経験でいうと、障害をもつ人1人で1週間あたり1,000ペソは稼ぐことができます。それよりも我々の抱えている問題は、継続して仕事の受注があるかどうかという問題です。給与を比較すれば、作業所で働く人よりも我々の組合員のほうが多く稼いでいるといえます。ただ仕事量が安定しなくて、どうしても仕事ができない期間があることが大きな問題になるわけです。そういったジレンマがあります。

質問者 全国社会福祉協議会から来ました。私の団体は日本の作業所の全国団体です。ジョニーさんに質問があります。まず協同組合のスタッフについてです。先ほどのお話でも、仕事確保のための営業活動があったり、政府からの発注ですから、一定の製品を納品しなければいけないとなると、さまざまなマネジメントの仕事が出てくるかと思います。それで第一次協同組合にはスタッフがいるのでしょうか。いるとしたら、どんなスタッフが何人ぐらいいるのかを教えてください。また、全国組織である連合はどういうスタッフが何人ぐらいいるのかを教えてください。

ジョニー 現在は、連合には7人のスタッフがいます。マネジャー、事務、会計担当、現金出納担当、ドライバー、購買受注担当という形で、連合を経営していくうえで、必要なスタッフがいます。

政府調達なので、政府の品質水準に準拠した形で第一次協同組合から製品が供給されるように、品質のレベルを一定に保つのがマネジメントスタッフの役目です。ですから、私自身も製品の椅子をモニターしてきちんと供給されているかを見ています。

 第一次協同組合にも、そういったスタッフがいます。第一次協同組合の中の生産スーパーバイザーが、実際に椅子が政府基準に合致しているかどうかの品質管理を担当しています。ですから、第一次協同組合、そして全国障害者協同組合連合の、2段階で品質管理が行われているわけです。

 品質は、重要な事項です。品質が悪ければ、政府も調達してくれなくなる恐れがあります。障害をもつ人がつくってはいても、製品が障害をもっているものであってはならないと念じてやっています。

質問者 ジョニーさんのお話で協同組合の主な受注先は、政府であるということでした。経済自立法があって、それによって政府発注の10%が障害者関連団体に割り当てることは、確かにアファーマティブ・アクションとして、団体が基盤を築いていくうえでは大事ですが、お話をうかがっていると、政府からの発注に完全に頼っていると思いました。

 そうすると、全体のパイが大きくならないことには、新たな障害者を雇ったり、新たな設備投資ができないといった心配があると思います。私どもは現在1,500人の障害者を雇っていますが、政府からの発注の10%を、1,500人で牛耳ることになるのではないかという心配もあります。さらに、設備投資をしないことで、一般市場で競争のある製品をつくることも難しくなるのではないかという、ジレンマもあります。それに対してのお考えをお聞かせください。

 岡本先生におうかがいします。確かにマイクロファイナンスは成功を収めているといわれています。私はコミュニティの相互扶助、相互監視がうまく働けば、マイクロファイナンスは成功だと思います。これはインドやバングラデシュでは確認されています。でも、アフリカ地域のように、物価自体が非常に高く、それにインド、バングラデシュに見られるコミュニティの相互扶助の機能がうまく働かない地域には、マイクロファイナンスとは違ったアプローチがあるかどうかについてうかがいます。

 杉岡先生への質問です。私どもはスーダン障害者教育支援の会というNPOを立ち上げ、運営していますが、NPOバンクは興味深いものです。ただ、バンクからお金を借りても、生産性のある団体でないとお金を返せません。できたての団体は実績を積むことで、寄付金などの募集ができるわけですが、最初の実績を積むうえでの資金を獲得するのに格闘しています。いろいろなファンドに応募していますが、ファンドを通るにはある程度の実績がいるというジレンマに陥っています。そこで、NPOバンクは立ち上がったばかりの団体に対して、どういったアプローチをしているかをおうかがいしたいと思います。

ジョニー まず認めなければならないのは、私どもの連合にとって政府が最大の市場だということです。全体の90%を占めていると思います。先ほど、私のプレゼンテーションで強調させていただいた事項として、研究開発の助成金の話がありました。これは新製品を開発することにより、他の障害をもつ人たちも関わることができるようにするものです。もちろん新製品ができるまでには時間がかかりますが、こういった活動も行っています。

 もう一つ、法的枠組みのところで、大統領令417号、経済自立法があると紹介させていただきました。この法律ではさまざまな障害をもつ人たちに対して、教育省だけではなく、他の省庁も製品やサービスの調達にあたり、その10%を関連の協同組合や協会、障害者関連の人たちのために割り当てることが求められています。大統領令417号が実施されれば全体のパイのサイズも大きくなり、その他の障害者の団体、障害をもつ人たちもパイを共有できるチャンスを得ることができます。そしてこれから必要となるのは、我々のような団体が、強く政府へ働きかけるロビー活動を行っていくことです。それによって、この法律が確かに実施されるようにしなければいけません。そうでないと、10%とうたってあっても書面だけになってしまいます。

 その他に、民間機関に対してもこの10%の考え方を適用できないかと働きかけようとも考えています。もし人口の10%が障害者であれば、これは国の経済の10%に相当するという考えから行おうとしています。しかし、これは非常に大規模に取り組まなければいけないことだと思います。

岡本 確かに南アジアとアフリカではかなり違うという見方もあると思います。しかし現実にはアフリカのウガンダでは、グラミン銀行とそっくりなやり方で、ある程度根づいているところがあります。地域によってエスニックグループのあり方が違っていると思います。地縁、血縁に依存したコミュニティの中にピア・グループをもち込もうとしているのか、それとはまた別のことなのかということもあります。

 最近、アフリカで注目されているのは、フューネラル・ソサエティです。マイクロファイナンスという言葉が普及する以前からあったものです。お金を積み立てていて、自分たちの親族が亡くなった時に葬式代を借りるというグループがフューネラル・ソサエティです。講組織のようなものです。そういったものが長年運営されているところでは、それをもとにマイクロファイナンスの形を入れることが行われていて、うまくいっている場合もあります。

 もう一つは地縁血縁型ではなく、活動目的が同じ人々が集まり、新たな概念のコミュニティをつくれば、それは特定の目的のためのメンバーシップ・ソサエティといえます。団体の目的や生産活動があり、そこに所属することで、自分たちの生計を維持させていくことが非常に重要な鍵となっている場合、そこから排除されるよりは、そこに存在していたいという意識があります。

 こういった組織をもとにしてマイクロファイナンスは可能になると思います。地縁血縁型がマイナスに作用してしまうことは、アフリカのレポートでも報告されているので、アフリカの場合は、そういった慎重さは必要だと思います。しかし、不可能なわけではありません。

 ウガンダ、ジンバブエでは女性の貯蓄組合がかなり普及していました。今のジンバブエは政治的な変動のために停滞・脅威にさらされていますが、政治的な大変動がなければ、もっと女性貯蓄組合は伸びるのではないかと私は思っています。

杉岡 私に対する質問は、事業を始める時に実績がないと、お金が借りられなくて事業を始めることができないので、事業開始の時の資金はどのように考えられるのかという質問でした。

 通常の一般社会の中でビジネスを考えて、たとえば道路に面しているところに、住宅があるので、そこで食堂を開けば儲かるのではないかと、思いついてやって失敗する人もいますが、私たちのところで重視しているのは、事業に対する社会性・公益性です。困っている人がいて、このようなサービスを必要としている人がある程度いることを把握したうえで、それに対して取り組むといったように計画的に問題を考えているかどうかも、きちんと押さえなければいけません。それが単なる思いつきだけでは、理解は得られません。

 NPOは、少額でもお金を借りるのはあまり好んでいないようです。NPOサポートセンターで、毎年300万円ぐらいの原資を、希望者へ、審査して、無償で渡すことをしています。これは倍率が高く、応募する団体の数も相当なものです。20〜30万円でもお金が必要な団体はかなりいることは想定されます。

 ファンド側としては、貸与だけではなく、お金を支給してしまう引き出しも必要だと自覚しています。お金をあげるという仕組みと、貸すという仕組みがうまく組み合わされないといけないということは、同じ団体で複数の取り組みをしているので理解しています。大切なのは、すべてを借りたお金で始めるのではなく、自己資金をある程度準備して、事業に取り組んでもらいたいということです。すべてを借りたお金だけで取り組もうというのは、事業計画が甘いのではないかという指摘もできます。事業計画の裏付けになるものがあるかどうかが、かなりの決め手になると思います。

質問者 はたらく工房「はらから」から来ました。障害者の起業を何かしたいと思って始めたところです。杉岡先生にお願いです。障害者の場合は、就労に関しては、結局、企業に勤めるか、小規模作業所に行くかしかありません。我々障害者に限らず、この国は右か左かの選択しかありません。中間的組織、機関といった第三の道の選択がないような気がします。これから障害者も健常者も一緒になって、人数の比率はともかく、できる仕事をいろいろ展開したいと考えています。

 杉岡先生のお話では信用保証協会は、適用除外ということでした。障害者だけでなく、女性についても、信用保証協会は門戸を閉ざしています。信用保証協会の女性や障害者の場合の条件を開かせるように、杉岡先生をはじめ、NPOバンクの方々が行政に働きかけてほしいと思っています。

 作業所もお金を借りられなくて、最初は何もできず、個人の生活資金で団体を興す形でやってきました。障害者が起業したい時の支援をしてもらえるように、信用保証協会のあり方を改善してほしいのです。NPOバンクは融資をして起業した方の実績・経験がある以上、なおさら、信用保証協会や行政に求めてほしいと思います。行政が偏った形であるので、NPOバンクが立ち上がらざるを得ないと思います。

 NPOバンクもありがたいけど、行政や信用保証協会から支援が得られれば、私のような小さい会社などを立ち上げたいと思う人たちへの社会的認知も変わってきます。障害者に働く道も変化してきます。それを強く願っています。

岡本先生に質問です。マイクロファイナンスの本を読んで驚きましたが、上限金利を設けているのは日本だけのようです。アメリカをはじめ各国で設けないのかが、不思議です。富の偏在がアフリカでもアメリカでも起こっているのに、国がきちんと上限金利の設定をして、悪質な高利貸しの制限を加えることをなぜしないのでしょうか。

杉岡 信用保証協会の問題です。私は社会学専門なのでよくわかるのですが、日本の社会は伝統的には保証人の介在する社会です。アパートを借りる時も、誰かに保証してもらわないとなりませんでした。住宅をもつローンを組む時のために、信用保証協会がやっと登場しました。保証人社会からいつ決別できるかどうかで、日本社会の健全度が問われてくると思います。信用保証協会の存在を拡大することは社会的課題だと思っています。

 それと、事業に関しては、事業の計画書を審査する責任と能力を貸す側に求めていけば、かなりのレベルで担保に関する問題は解消されます。社会的な企業のあり方からとして、こういうニーズに対して、こんな取り組みに正当性があると公開型の審査を導入して、新東京銀行などが積極的にお金を貸してほしいと思っています。

岡本 経済学的に考えると、市場の中には需要と供給があって、需要が高いにもかかわらず、供給コストがそれなりにかかる場合、それに見合った価格設定ができなければ、供給者は撤退するだけです。望ましい市場は、いろいろな借り手、貸し手が存在することです。短期間や、担保なしで貸してほしいという人がいれば、それに合った融資をする団体があり、他方では、設備投資のための巨大な額を融資する銀行があります。そういったいろいろな形で需要に対応できる貸し手があるのが望ましいわけです。その時に金利を一律にしてしまったら、こんな小さな金利ではやっていられないとして、撤退してしまいます。ですから、それはよくないというのが、経済学ではすでに常識になっています。

 では、アメリカやイギリスでは金利が自由になっているから、多重債務で自殺者が多発しているかというと、そういうことはありません。日本で自殺者が多発しているのは、金利が高いからではなくて、取り立てで暴力団まがいのことが行われるからです。もし恐喝まがいのことをしたら、即逮捕されるように、法律を徹底すれば、そういった行為はなくなるのではないでしょうか。

 リスクを勘案して、利息が少し高いけれど、企業として運営できるようにきちんとサポートします。だからこのサービスチャージを含めて利子はお願いします、という形のほうがいい場合も出てきます。

日本では弁護士が、高金利は悪の根元とおっしゃるのですが、金利が高いことが決定的な問題ではありません。確かに金利100%は違反だから、今まで貸した分もなしにしなさいという法廷闘争はやりやすいでしょう。では、上限20%にしたとしても、やはり、多重債務になる人は出てきます。その時には法廷で戦えなくなります。

 つまり、借りるほうは、生産的に企業活動をできるような計画をもって借りにきたのか、あるいは、明日どうなるかわからないけれど貸してくださいときたのか。それに対して、無差別にとにかく貸しつけてきたのかが問題です。

あるNPOバンクの方から、グレーゾーン金利廃止により金利を低くしなければいけなくなり、これでは事業ができないので、NPO系のバンクに対しては、特別な法律がほしいというクレームがあったという話を聞いています。以上です。

松井 ありがとうございました。時間になりましたので、まとめをさせていただきます。

 マイクロファイナンスは、多様な働き手をつくるということに、一つの意義があります。ただ、お金を貸すと同時に、適切な経営ができるかどうか、マネジメントのサポートをいかにしていくかが問われてくるのだと思います。

 NPOバンクにそこまで求めることは現状では無理かと思いますが、相応のことは必要ではないかと思います。今日、ジョニーさんに協同組合の話をしてもらいました。日本には、まだ労働者協同組合を支援するための法律はないため、協同組合法の制定を目指して超党派の議員連盟ができています。その会長を務めておられるのが、坂口力元厚生労働大臣です。そして市民社会サイドでその制定に向けて運動をすすめているのが、「協同労働法制化市民会議」(会長・笹森清元連合会長)です。今の国会が解散しなければ、6月くらいにはこの法律は制定されそうです。

 ただ問題は、ジョニーさんも言っていたように、いい仕事をいかに安定して確保するかということです。一般雇用か作業所かだけではなく、高齢者や障害者に対応しながら、さまざまな人が働ける、協同組合や社会的企業のような第三の働く場が今後、広がっていけばと思います。

 本日は非常に限られた時間で現況をご紹介いただきました。今後、さらに具体的な課題について話し合うために、このような会がもてればと思います。お三方には大変貴重なお話をありがとうございました。