音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

基調講演

地域リハビリテーションと地域包括ケアシステム
尾道市公立みつぎ総合病院・病院事業管理者 山口 昇

 

畑野 山口先生は昭和32年、長崎大学医学部をご卒業後、外科学に入局され、昭和41年から、御調国保病院、現在の公立みつぎ総合病院院長としてご活躍です。

御調町は、在宅ケアによる寝たきりゼロを目指し、保健・医療・市の連携による地域包括ケアシステムを構築して地域ぐるみのケア体制をつくり上げ、その結果、寝たきり老人が3分の1になりました。また、介護保険制度創設の研究会、審議会委員として当初から介護保険創設に関わっておられます。総合介護施設の創設に至ったのも山口先生の大きな力があったからです。自治医科大学の客員教授、老人保健福祉審議会委員、医療福祉審議会委員、中央社会福祉審議会委員等々、要職を務めておられます。平成15年には、現在では勲二等に相当する重光賞という誇らしい賞を受賞されました。

著書もたくさんあります。私が最初に読んだのは『寝たきり老人ゼロ作戦』ですが、『地域リハビリテーション』はリハビリ関係の養成校の教科書としても使われています。

それでは山口先生、よろしくお願いいたします。

 

山口 私は外科医です。私が医者になった頃は、医療だけでなく、経済その他、社会情勢が非常に不安定な時期でした。敗戦後の破壊から立ち直っていく、そういう時期に私は医師免許証を手にいたしました。

大学にいた頃、立派な外科医とは何だろうと考えました。第一に知識、横文字でいえばサイエンス、第二にアートというか、技術をもつことだと考えました。我々の時代の大学は、まだ専門化・細分化される以前の状況でしたので、一般外科はもちろんのこと、胸部外科、脳外科など何でもしました。第三にはリサーチ、研究をして、学会で発表して、いろいろな論文を書く、これが立派な外科医だと考えていました。

そして、40年前に現在の病院に来ました。この病院で外科医として確かに病気も治しましたし、命も助けました。40年前の広島、特に広島県の東部には脳外科もありませんでしたし、開頭手術も行っていませんでした。

地域医療の現実に直面して

大学で考えていたサイエンス、アート、リサーチだけでは地域の医療に対応できないことに気がついたのは、高度な医療体制を整備して命を助けることができるようになった頃から、寝たきりの人達が増え出したからです。徹夜で緊急手術をして助かった患者さんが、1年か2年後に寝たきりになって再入院してこられるというケースが相次ぎました。大きな褥瘡をつくって、寝たきりに近い状態で再入院される患者さんなど、命を助けることが第一の使命である外科医の私にとっては見るも無残な姿です。1年前に徹夜で手術したあの医療は何だったんだろう。その後24時間態勢で看護したあの医療は何だったのだろう。さらに、今考えると急性期のリハビリだけとはいえ、リハビリテーションも提供していました。1年前に提供した医療や看護、リハビリは、こんな寝たきりをつくるためのものではなかったはずです。患者さんも「先生、ありがとう」と、大きな喜びの中で退院していったのに、なぜこんな無残な状態で再入院してこられるのだろう? ここから私の医療の転換が始まりました。

寝たきりゼロ作戦スタート

確かに、サイエンス、アート、リサーチは役に立ったのですが、それだけではない何かが私達の医療には欠けていました。患者さんや家族のニーズにこたえる医療をちゃんと提供していなかった。病院で患者さんがやってくるのを待って、医療を提供していた。退院後の患者さんの療養環境にまで思いが及んでいなかった。これらのことに気がついたのです。1年前には寝たきりではなかった、杖をついてご自分の足で歩いて通院していた患者さんがどうして寝たきりになったのか、我々の医療転換が始まりました。

急性期の医療、もちろんこれは病院の本来の務めです。命を助けて病気を治すことは当たり前のことです。でも病院の務めはそれだけではないのです。退院後の寝たきりを何とか防止できないか。完全な寝たきりになってからでは、もう遅いのです。その前に何とか防止することができないだろうか、これが我々が30年前に始めた「寝たきりゼロ作戦」でした。

寝たきりは、完全にゼロにはなりません。しかし、初期の段階であれば何とか防止することができる。私たちは寝たきりを予防するためには、医療、介護、福祉の連携が必要だということに気がつきました。

当時は、福祉は措置の時代ですから、医療関係者から福祉に対して発言することができませんでした。そこで、行政と連携することを考えました。これが現在の保健福祉センターです。御調町は小さな町ですが、厚生課の保健と住民課の福祉を病院の医療と一緒にするという完全な行革を実行したのです。まさに、保健、医療、福祉の連携・統合という制度を実現しました。私たちはこのシステムを「地域包括ケアシステム」と呼びました。包括とは総合的にという意味ですが、介護保険制度が導入されてから「包括ケア」という言葉が盛んに使われるようになりました。私が30年前に使い始めた言葉が、今、国の用語として使われているわけです。国が使うのも遅かったという感じがしています。

今日は、寝たきり防止から始まった「地域包括ケアシステム」「地域ケアステーション」との関わり、あるいはシステムだけではなくて連携をどうしているのか。そして、どうして寝たきりが減ったのかについてご紹介します。

わが国の状況と世界の状況

高齢化が進んで、後期高齢者や障害をもったお年寄りが増えています。我々は、この事態にどう対応するかを考えなければいけません。保健・医療・介護福祉にしても今までは点と点をつないだ「線」の連携でしたが、これからは線ではなくて「面」の連携が必要だと思っています。地域リハビリテーションが目指しているものと、我々の地域包括ケアシステムについてお話しします。

(スライド1)2010年、日本は高齢化率に関して、世界トップクラスに位置しています。しばらくしたら、他の国が追いついてくるでしょう。韓国は10%台で、ちょうど20年ぐらい前の日本という感じでしょうか。

(スライド2)これも国の資料です。これからは人口も高齢者の絶対数も少しずつ減っていきますが、前期高齢者(65〜74歳)と75歳以上の後期高齢者に分けてみると、前期高齢者より後期高齢者が増えてくると推計されています。

医療・福祉の動向もずいぶん変わってきました。命を助けたり治療するという医療、キュアからケアの重要性が指摘されています。というのは、医学や医療技術の進歩により、救命率は非常に上がりました。命は助かるようになったのです。反面、障害をもった状態で療養生活を送るケースが非常に増えていますので、ケアが必要になってくるというわけです。このケアの中には、看護や介護、リハビリも入ります。しかも、そのケアは在宅ケアのほうに動いています。これはわが国だけのことではなく、他の国々もこういう傾向にあります。

私は、この十数年間、ドイツやイギリス、北欧はもちろんのこと、いろいろな国を訪問しました。特にドイツは介護保険を日本より5年早く実施していますので、ほとんど毎年のように訪れました。イギリスでは地域ケア改革、その他の状況をつぶさに見てきましたが、両国ともホームケアの方向へという動きが強くなっています。

わが国では、医療制度改革で医療提供体制が見直され、急性期医療とその後のケアを中心にした慢性期の医療に国が方向づけを示しています。介護保険を機に、社会福祉事業法の改正が行われました。そして社会福祉法になり、福祉施設の措置制度がなくなりました。もう一つ、2000年に介護保険が始まり、医療制度改革のもとで医療法も改正されました。2000年はいろんな法制度が改められて、新しいものが始まった、そういう年でした。その後、医療制度改革、介護保険制度改革(5年後の見直し)が行われました。今年に入って、後期高齢者医療制度、特定健診・保健指導が創設されました。いろいろな問題点をはらみながらの船出ですが、いずれにしろ、かなり変わってきているといえるでしょう。

ただ、障害をもった方、あるいは、放っておいたら寝たきりになるであろうという方、そういう方々に対して我々専門職はどのように対応すればいいのか、これはどの時代でも変わらないわけです。そういう方々に対してきちんとサービスを提供し、QOLを中心にした対応をする、そういうことが我々の責務であろうと思います。

地域包括ケアシステムの構築

(スライド3)これが私どもの病院です。理念は、地域包括医療・ケアの実践と地域包括ケアシステムの構築、そして住民のための病院づくりです。病院本体は240床ですが、保健福祉総合施設が317床あり、合計557床です。診療科目は20、診療圏域人口は約7万人、職員は大体607人です。

急性期医療施設として、顕微鏡手術もやりますし、ICUもあります。しかし一般病院と少し違うところは、回復期リハビリテーション病棟があるだけでなく、緩和ケア病棟、ホスピス病棟があることでしょう。そして、病院と行政の保健福祉センターを核として、地域包括ケアシステムを構築していることも大きな特徴だと思います。

寝たきりにならないためには健康づくりが必要です。健康づくり座談会を地域にある集会所単位で、年に三十数回実施しています。座談会方式、ワークショップ方式で、健康づくりに関することをいろいろやっています。もう二十数年やっていますので、介護保険ができる時にもこういう場を使って住民の皆さんと意見交換を行いました。我々は「つくられた寝たきりを防止する」という発想で取り組んでいます。「つくられた」というのは、対応がまずいために寝たきりになるケースを何とか防ごうということです。さらに、口腔ケア、歯科保健活動なども実施して在宅ケアを支援していますが、住民の皆さんが参加するネットワークがあるという点が一番大事なことだと考えています。住民の皆さん方に参加していただいて、初めて「コミュニティ」という言葉が使えるのではないかと思っています。

ケアを「面」で連携する

私は20年前に、地域包括ケアについての定義をつくりました。「地域に包括医療を、社会的要因を配慮しつつ継続して実践すること」でありますが、社会的要因というのはひとり暮らしだとか、介護保険で介護サービスを受けるなど、さまざまな社会的要因を指しています。

包括医療・ケアは、治療だけを指すのではありません。健康づくりから在宅ケア、リハビリテーション、福祉・介護サービス、すべてを包括するのです。そして「施設ケアと在宅ケアの連携、および住民参加のもとに地域ぐるみの生活・ノーマライゼーションを視野に入れた全人的医療・ケアである」と定義づけています。ここで言う「地域」とは単にエリアを指しているのではありません。コミュニティです。一言でいえば「地域包括ケアシステム」は、保健・医療・福祉(介護)の連携システムですし、施設ケアと在宅ケアの連携システムでもあるのです。これらについてはスライド4、5の通りです。

たとえば、うちの病院の緩和ケアは6ベッドです。全国でおそらく最も小さい病棟だと思います。6人の患者さんに対してスタッフは10人ですが、非常勤で関わっているスタッフはたくさんいます。そんな緩和ケア病棟ですが、終の栖家ではありません。症状が緩和したら自宅に帰ります。回復期リハビリ病棟もそうです。我々専門職、専門施設と行政及び住民の三者によるネットワーク、地域ぐるみの包括ケア、地域包括ケアシステムが実現しているのです。

利用者(住民)に対して、保健、医療、福祉、介護の専門職、あるいは施設が相互連携を取る。これは線の連携です。それに行政が加わってきます。住民のボランティア、NPOなどの組織もあります。行政、専門職、住民の三者で連携をとることが「面」の連携になるのではないでしょうか。これからはこんな「面」の連携が必要になるのではないかと思っています。単なる連絡会議の開催だけでなく、情報を共有し、総合的・一体的にサービスを提供することが求められています。医療のサービスだけでは住民のニーズに応えたとは言えません。看護師とリハビリスタッフが一緒になって在宅支援をしたり、あるいはヘルパーと介護福祉士が一緒になってサービスを提供するなどを通して、ネットワーク構築という「面」の連携が出てきます。(スライド6、7)

地域包括ケアシステムのあり方

我々の地域包括ケアシステムの構築の手法は農村型ですが、都市には都市型のやり方があるでしょう。東京の多摩ニュータウンとか、大阪の千里ニュータウンなどのマンモス団地の高齢化が一斉に進んでいます。千里ニュータウンができたのは大阪万博の年ですから、その頃、平均年齢が40歳だった世帯主は今一斉に高齢者になっているのです。千里ニュータウンには子どもの施設はたくさんありましたが、高齢者の施設はありませんでした。当時は必要がなかったのです。今かなり整備されてきていますが、そういうものもちゃんと見越した団地型のシステムをつくるべきであると考えています。

(スライド8)概念的なことですが、保健・医療・介護・福祉は、元気な時の健康づくりから始まって、病気の時の医療、そして障害が残ったら介護、福祉、こういう流れになります。健康そうに見えても高血圧の薬を飲んでいる方など、だぶりは当然あります。リハビリテーションという切り口で見ていきますと、医療、介護全般におよんでいることが見えてきます。

私は、地域包括ケアシステムは、地域完結型が望ましいと思っています。地域は、立地条件、あるいは市町村単位でもいいのですが、その地域の中で保健医療、リハビリテーション、介護・福祉のサービス提供体制(ハード・ソフト)と連携システムがあることという定義づけをしています。連携することで、状態像に応じたサービスが必要に応じてシームレスに提供されることが可能になりました。(スライド9)「シームレス」というのは「切れ目がなくつながっている」ということです。保健・医療・介護・福祉がつながって動かなければいけないということです。

急性期の治療が終わって、あとはリハビリという段階になっても急性期病棟にいる方がいます。次の受け皿がないために急性期病棟にいらっしゃるわけです。これは医療の無駄です。あるいは、回復リハビリ病棟がないために適切なリハビリができず、寝たきりになってしまったというケースも少なくありません。昔は、寝たきりになる人が非常に多かったのですが、今は対応さえきちんとしていれば寝たきりはかなり防げます。

御調町では医療費の伸び率もダウンして、町の活性化にもつながっています。県外から御調町に移り住んでこられる方もいます。この地域包括ケアシステムがなかったら、御調町はもっと過疎化したのではないかと思っています。

(スライド10)これは高齢者の棒グラフです。高齢者の数は増えていますが、寝たきりの人は、我々が在宅に関わり始めて10年後に3分の1になりました。それ以降、あまり変化がありませんが、これは寝たきりが減ったとか、寝たきりが治ったということではないのです。“つくられた寝たきり”を防止したということです。それにはリハビリテーションが大きな役割を果たしました。

次は医療費です(スライド11)。昭和60年度は、お金をつぎ込みながら、寝たきりも多かった。最悪でした。それが昭和63年以降は逆転して、以後圏域では低い医療費になっています。

地域包括ケアシステムの問題点

地域包括ケアシステムの問題点もいくつかあります。まず「人」と「金」です。人というのは専門職です。医師、看護師、保健師などのマンパワーを確保することが必要です。それから財源、お金です。一番大事なのは首長さんの理解です。選挙の時だけでなく、住民のニーズにこたえる地域包括ケアシステムを首長さんにはぜひつくっていただきたいと思っています。

さらに、「保健・医療関係者と福祉関係者の相互理解と連携」についていえば、「自分が、自分が」という考えではなくて、互いに相手を理解していく仕組みが不可欠です。我々医師も、ややもすると医師中心の医療、医師中心の福祉を考えがちでした。それは厳に戒めるべきだと思っています。そして、住民参加態勢がとれるといいと思います。

介護保険でちゃんとサービス提供ができるように、10年ほど前にリハビリテーションについて議論し、ステージによって、急性期、回復期、維持期に分けました(スライド12)。これは画期的なことです。さらに地域リハビリテーションの体制整備も図ろうとしています。地域リハビリテーションの定義は「障害のある人々や高齢者およびその家族が住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に、いきいきとした生活が送れるよう、医療や保健、福祉および生活に関わる」。さらに、「あらゆる人々や機関・組織がリハビリテーションの立場から協力し合って行う活動のすべてをいう」(日本リハビリテーション病院・施設協会)となっています。これは私が先ほどから話している地域包括医療、地域包括ケアの定義とほとんど同じです。「障害者や高齢者のQOL(生活の質)の向上を目指す」という点では非常に一致しているわけです。

急性期医療のリハビリはROM訓練が中心ですが、維持期、回復期になるとQOL、生活という視点が入ってきます。日常生活、生活環境、住環境のレベルアップを図り、保健・医療・福祉(介護)が連携し、システムを構築する。こういうネットワークを住民も含めて構築していくということです。地域リハビリテーションは地域包括ケアシステムと共通の理念といえると思います。

医師の課題と望まれる姿勢

新しい医師臨床研修制度の研修理念は、「医師としての人格を尊重し、専門性にかかわらず、医学・医療の社会的ニーズを認識しつつ、日常診療で頻繁に遭遇する病気や病態に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的診療……」となっています。

介護保険制度などの制度をちゃんと認識して対応できる医師が求められています。また、プライマリ・ケア、本当に基本的なものが求められています。医師は、そのような社会の要求にちゃんと応えられる知識や技能・技術をもつべきだと思います。ややもすると研修医を指導する指導医も専門に偏りがちなのですが、私はこのプライマリ・ケアは非常に大事だと考えています。

研修理念には、さまざまなものが散りばめられています。理念どおりであれば、一般の方も、お年寄りも障害者も、安心して相談し、また診療してもらうことができるはずなのですが、現実はなかなかそこまで行っていません。

研修医には、「地域保健・医療」が必修科目になりました。この地域保健・医療の中に、私がさきほど話しましたプライマリ・ケアをはじめ、地域包括ケアが入っています。医療も動いているのです。歯科医の研修にも在宅や介護などが入ってきています。

介護保険制度と地域包括支援センター

平成9年、介護保険法が国会を通過し、平成12年から介護保険制度が実施されました。制度をつくった時の老人保健福祉審議会報告の基本目標は以下の通りでした。

一つは、「高齢者介護に対する社会的支援」です。我が国では身内の女性が介護者になる場合が多いのですが、そうではなくて社会全体で支援する。次いで「高齢者自身による選択」は、長い間続いていた措置制度を改めたわけですから、かなり思い切った制度改正でした。3番目は「在宅を中心にする」。それから「予防・リハビリテーションの充実」、ここで明確に介護予防、寝たきり防止、その手法としてリハビリテーションの必要性を打ち出しています。そして「保健医療、介護福祉の連携」。「総合的、一体的、効率的なサービスの提供」更に「市民参加と民間活力の活用」をうたっています。これらの基本目標を整理すると、私たちがやってきた地域包括ケアシステムそのものだといえます。

平成17年介護保険制度が見直され、要介護認定制度が変わりました。従来の「要支援」が「要支援1」、「要介護1」の約3/4が「要支援2」と変わりましたが、本当にこれでいいのかどうか、それは今からの検証が必要になってきます。

要介護1以上でないと施設には入居できませんので、この「要支援2」の人に対する対応が非常に重要になってきます。これからの地域ケアの拠点になるべき地域包括支援センターは人口2、3万人に1か所つくられたはずなのですが、この3年間を見ると、100%機能しているとはいえません。ただ単に介護予防のケアプランだけを立てているのではないか。本来業務である相談にのったり、権利擁護とか虐待防止など、地域に出ていくためのことをやっているのかとなると、やっているところもあるし、やっていないところもあるというのが現状です。

(スライド13)地域包括支援センターには、社会福祉士、主任ケアマネジャー、保健師がいるのですが、とても3人では足りません。私どもの所は7人置いています。いろいろな相談業務にはじまり、介護予防のマネジメント、包括的・継続的なマネジメントを行います。ここで行う介護予防は、運動機能向上、栄養改善、口腔機能向上、この3つが柱になっています。運動機能についていえば、リハビリスタッフはリハビリ専門職。栄養改善については管理栄養士。さらには口腔機能向上では、言語聴覚士と歯科スタッフ、そして栄養士が連携をとります。この支援センターにはそういう専門職を本来置くべきで、前に述べた3職種でいいというものではないのです。ただ、そうするためには人件費も必要ですし、運営が難しいという問題も出てくるわけです。

介護予防プログラムを点検する

御調町は介護保険など、国のいろいろな事業の実験台になっています。今度も「未来志向研究プロジェクト」の一つとして、介護予防をどうすればいいのかというモデル事業を、運動機能向上、栄養改善、口腔機能向上について行いました(スライド14)。

(スライド15)これは「運動コーナー」です。マシンもありますが、必ずしも全員に必要ではありません。マシンを使いすぎてトラブルをおこしたケースも報告されています。(スライド16)これは「栄養コーナー」です。自分の昨日の食事を入力して、それが正しい食事かどうかということを自己発見もできます。また、栄養士に相談したり指導をうけたりすることもできます。

(スライド17)これは「口腔ケアコーナー」です。実験で効果が最もはっきりあらわれたのは口腔ケアでした。80%改善します。リハビリというと、ROM訓練中心の運動機能に目が向きがちで、国からも次の見直しではもう口腔機能はいらないのではないかという意見が出ていますが、とんでもないことです。

広島県には「介護予防市町村支援委員会」があり、私はその会長も仰せつかっています。介護予防に関する普及啓発、人材の確保、資質の向上、それから介護予防関連事業の事業評価、そして、マニュアルの作成などをしています。そして、国が平成7、8年からいっていたことですが、広島県は「地域リハビリテーション広域支援センター」を、二次医療圏域に1ケ所設置し、私どものところもこれの指定をうけています。

(スライド18)介護予防の市町村の支援事業です。これも実験ですが、全国から100か所の市町村をピックアップして、継続的評価分析を行い、データがリアルタイムに提供される仕組みになっています。こうして見ると、継続的な事業が必要だということがわかります。

(スライド19)これは浜村先生のデータです。一言でいえば、年齢に関係なくリハビリが必要というデータです。入院時から、退院後の在宅ケアを視野に入れたプランを作成する必要があるのです。回復期リハビリ病棟と地域リハビリテーションおよび在宅ケアの連携が必要になるということです。緩和ケアについても同じことがいえます。

「在宅」は自宅だけではありません。ケアハウスやグループホーム、生活支援ハウスなども在宅です。私は今後はケア付き住宅をどんどん増やすべきだという意見を数年前の審議会で述べたことがあります。今、国はこういうことに対して予算をつけて推進していこうとしていますが、あれだけの予算では十分ではないと私は思っています。

今後のリハビリテーションへの期待

地域リハビリテーションは介護予防と地域ケア体制整備構想の中で、重要な役割を果たすはずですし、また、果たさなければいけません。地域リハビリテーション広域支援センターは、二次医療圏域ごとにその要としての機能をもつべきです。市町村の介護保険事業計画、都道府県の支援計画、高齢者プランおよび保健医療計画、老人福祉計画、この中で地域リハビリテーションを明確にうたうべきだと思っています。

広島県はきちんとした位置づけをしています。地域リハビリテーションは、高齢者だけではなくて、すべての障害者を対象とすべきです。対象の支援、かつ生活を見る視点が重要です。我々専門職は、いつもこのことを頭に入れて対応する必要があると思っています。

(スライド20)この「健康みつぎ21」は、平成12年に国がつくった「健康日本21」、即ち「栄養・食生活」「身体活動・運動」「休養・こころの健康づくり」「たばこ」「アルコール」「歯の健康」「糖尿病」「循環器病)」「がん」に2項目プラスして、「健康みつぎ21」をつくりました。それは「介護予防、寝たきりゼロ作戦」、そして「感染者予防」です。

(スライド21)これは病院の全景です。(スライド22)これが保健総合施設の全景になります。グループホームもあります。すべての高齢者、障害者に対して、維持期のリハビリテーションを提供しています(急性期と回復期のリハビリは病院で行います)。

(スライド23)これはさっき言いました健康づくり座談会です。

(スライド24、25)これはALS、筋萎縮性側索硬化症という神経難病の患者さんです。呼吸ができなくなって11年たちます。この患者さんを在宅でずっと看続けています。年に何回か入院しますが、また元気になって、在宅に戻っていきます。入院といってもほんの数日です。その患者さんを起こして、ベッドサイドでリハビリをやっています。

(スライド26)これは、その患者さんが四国へ一泊旅行に出かけた時のものです。この一泊旅行が始まって6年ぐらいになりますが、これがノーマライゼーションだと思うのです。障害をもっていても普通の生活ができること、これが我々が目指すものであります。

(スライド27)これは看護と介護の連携プレーで在宅でお風呂に入れているところです。

(スライド28)これは新しく御調町に移り住んでこられた老夫婦です。バリアフリーの家を新設され、設計の段階から、うちのリハビリスタッフが関与しました。

(スライド29)これはナイトパトロールです。

(スライド30)歯科医も在宅を回っています。

(スライド31)ボランティアの人も在宅ケアに参加しています。

(スライド32)これは早期リハビリです。ベッドサイドで行っています。

(スライド33)これはケアカンファレンス。いろんな職種が集まって検討しています。

(スライド34)これは歯科スタッフが施設を回っている様子です。

(スライド35)これは地域包括支援センターの様子です。

(スライド36)これもボランティアです。デイサービスです。

“病気”をみる医療から“人”を見る医療へ

(スライド37)今後の医療は“病気”をみる医療から“人”をみる医療へと変らなければなりません。そのためには「サイエンス」「アート(知識)」そして「ヒューマニティ」が必要です。これはまさに「人」です。この他「総合医、総合診療の重要性」「保健・医療・介護・福祉の連携」「生活を視野に入れた医療」これが重要となります。

(スライド38)左上が保健、健康づくりです。左下が医療、右下が介護・福祉で、右上が生活です。生活には環境、建築、教育、就労、雇用があります。保健・医療、介護・福祉と生活の連携が今後は必要になると思います。

以上、私どもが行っている地域包括ケアシステムを紹介しました。これは地域リハビリテーションと目指すところは同じです。同じ理念、同じ哲学をもった皆さんが参加して、今後の高齢社会に向けてのケアシステムをつくりあげていかれることを期待します。

ご清聴、ありがとうございました。(拍手)

スライド一覧