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情勢報告

リハビリテーション・インターナショナル(RI)をめぐる最近の動き」
総合リハビリテーション研究大会常任委員長/法政大学教授 松井亮輔

 

これから「リハビリテーション・インターナショナル(RI)をめぐる最近の動き」について報告させていただきますが、RIをご存じない方もいらっしゃるでしょうから、最初にRIについて説明させていただきたいと思います。

RIは1922年、国際肢体不自由児協会として設立されました。その後1948年に国際肢体不自由者福祉協会(ISWC)という子どもから大人を含む協会になりました。初代会長はヘンリー・ケスラーで、アメリカのリハビリテーション医としてはハロッド・ラスクと並び称される権威です。初代事務局長のドナルド・ウィルソンは、戦後GHQで日本の厚生行政を担当した方です。

1960年に名称が国際障害者リハビリテーション協会(ISRD)になり、さらに72年に国際リハビリテーション協会(リハビリテーション・インターナショナル、略称RI)と変わりました。

RIの実績

RIの主な実績としては、1968年に障害者に関する国際実態調査を行い、世界人口の1割が障害者としました。この数字は現在でもWHOなどが使っています。

当時、約4億5,000万人の障害者の3分の2は、必要なリハ・サービスを受けていない、特に途上国の障害をもつ人たちの場合はそうなので、それに対応するために70年代を「リハビリテーションの十年」として取り組みを進めました。

皆さんもよくご存じの車いすを形どった国際シンボルマークは、RIが1969年に決め、世界に普及しました。日本では、日本障害者リハビリテーション協会がその普及の窓口になってきました。

1979年には、「80年代憲章」を発表しました。これは1982年に国連総会で採択された「障害者に関する世界行動計画」のひな型になっています。

1999年には「2000年代憲章」を策定し、そこで障害者権利条約の制定に向けて取り組んでいこうと提唱しました。

RIの目的

RIは、権利擁護、ハビリテーションとリハビリテーション、アクセシビリティなどをとおして、教育、雇用および地域生活における障害者の権利およびインクルージョンを促進することを目的としており、グローバルで多様な会員から構成されています。

RIの組織

RIの会員は正会員、準会員、国際会員から成っています。現在の会員は93か国・地域の正会員120団体、準会員72団体、国際会員11団体などという、約200あまりの団体から組織されています。

RIは世界を6つの地域に分け、役員会は、会長、次期会長、副会長(6名。各地域から選出)、次席副会長(6名。各地域から選出)、財務担当役員、常設委員会委員長(7名)を含めて22名で構成されています。

常設委員会は、保健・機能委員会、社会委員会、労働・雇用委員会、教育委員会、技術・アクセシビリティ国際委員会(ICTA)、レジャー・レクリエーション・身体活動委員会、および政策・サービス委員会の7つから構成されます。

事務局はニューヨークにあり、事務総長ほか4、5名のスタッフが配置されています。

RIと日本との関わり

1950年に日本肢体不自由児協会が、RIのメンバーになりました。現在は日本障害者リハビリテーション協会および独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(高障機構)が会員になっています。

1958年にRI日本国委員会ができて、その会長に、日本のリハビリテーションの父といわれる医学博士高木憲次氏、事務局長には医学博士小池文英氏が就任しました。当初、事務局は日本肢体不自由児協会にありましたが、現在は日本障害者リハビリテーション協会に置かれています。

1965年に、第3回汎太平洋リハビリテーション会議を東京で開きました。これは日本で「リハビリテーション」という名称で行われた最初の国際会議です。この会議を契機にそれまでは「更生」と訳されていた「リハビリテーション」が国内に定着していきました。

1981年には、国際障害者年のメインイベントのひとつとして、身体障害者雇用促進協会(現・高障機構)により身体障害者の国際技能競技大会である、国際アビリンピックが東京で開催され、RIは共催団体として加わりました。

1988年には、東京で第16回RI世界会議が、そして、2002年には、アジア太平洋障害者の十年の最終年記念行事の一環として、大阪でRIアジア太平洋地域会議が開催されています。

RIをめぐる最近の動き

1980年にカナダのウィニペグでRI総会、および第14回RI世界会議が行われました。障害当事者団体もRIに加盟していたのですが、この総会で役員会の過半数は障害当事者がすべきであるという提案が出され、それが否決されたことを契機に、障害当事者団体はRIから出て、翌81年に障害者インターナショナル(DPI)をつくりました。

1999年には国際障害同盟(IDA)が結成されましたが、それは現在ではRIも含めて8つの国際的な障害団体から構成されています。IDAができた背景には、障害者権利条約制定に向けて障害団体が協力すべきだということがあります。

今年の5月にはIDA CRPD(障害者権利条約)フォーラムが結成されましたが、これはIDA8団体、地域レベルの障害団体のネットワーク組織5団体、その他の国際団体2団体で構成されています。

IDAとIDA CRPDフォーラムの事務局は、ともにRIに設置されています。それは、IDAに属する8団体のうち、ニューヨークに事務局があるのはRIだけなので、IDAの事務局はRIに置かれているわけです。

IDAは、役員会の構成メンバーの過半数が障害当事者、その親あるいは代弁者であることが加盟条件になっていたため、昨年のRI総会で、RIも役員の半数以上は障害当事者になりました。

今年8月下旬ケベックで開かれたRI総会で、会長にはニュージーランドのアン・ホーカー(障害のある女性)が、そして新事務局長には同じく女性の障害者である、フィリピンのビィーナス・イラガンが就任しました。

名称変更に関する提案

そういった背景から、RIの名前を変えるべきではないかという議論がここ数年あります。特に去年のRI総会では、「Rights&Inclusion」という名称にすべきではないかという具体的な提案がありました。権利ベースのアプローチ、および国連障害者権利条約の意図を反映する名称にすべきだという理由からです。

それに合わせて保健・機能委員会(旧医学委員会)と社会委員会の合併の提案もありました。医学モデルと社会モデルの総合化を志向するWHOの国際機能分類(ICF)への対応が主な理由になっています。しかし、保健・機能委員会と社会委員会を統合する本当の理由は、医学色をもっと薄めたいというのが真意と思われます。

今年4月にエクアドルで開かれたRI役員会では、名称変更および保健・機能委員会と社会委員会の合併については、多数の役員が反対した結果、8月のRI総会では、名称変更と2つの委員会の合併については提案しないことになりました。

今回のRI総会では、日本をはじめ、アジアやEUの加盟団体は、RIは本来あるべきリハビリテーションの普及活動にもっと力をそそぐべきであるということを強く主張しましたが、それは加盟団体のマジョリティの支持を得たと思われます。

RI戦略プラン

ケベック総会では、当初「戦略プラン2008〜2012年」が議題にあげられていました。この戦略プランの目標1は、国、地域および国際レベルでの障害者権利条約の履行、目標2は機会均等およびインクルージョン、目標3は地域と常設委員会のRIネットワークの強化が挙がっています。

目標1の中の目的4として、専門家助言、アドボカシーおよび研修プログラムを通してハビリテーションおよびリハビリテーションを促進することが挙げられています。しかしこの「リハビリテーション」という位置が極めて低いのです。日本、EU諸国などは、ハビリテーションとリハビリテーションをもっと前面に出すべきではないかという意見を強く出しました。その結果、この戦略プランは今回の総会では正式の議題とはしないで、役員会で修正したものをもう一度、来年の総会に出すことになりました。

障害者権利条約第26条で、「ハビリテーションおよびリハビリテーション」は次のように規定されています。「締約国は、障害者が最大限の自立、十分な身体的、精神的、社会的および職業的な能力、並びに生活のあらゆる側面への完全なインクルージョンおよび参加を達成し、かつ維持することを可能とするため、ピアサポートを通じたものを含む、効果的かつ適切な処置をとる。このため、締約国は特に、保健、雇用、教育および社会サービスの分野においてハビリテーションおよびリハビリテーションについての包括的なサービスおよびプログラムを企画し、強化し、および拡張する」。

これは、もともとRIが目指してきたことなので、今後RIがリハ専門団体としてのアイデンティティを持ちながら活動を展開するためには、これを積極的に推進する必要があると思われます。

RIをめぐる動きから学ぶこと

1965年にはじめての国際的なリハビリテーション会議が東京で開催され、その時初めて医療、教育、雇用などの分野の関係者が一緒にこの会議に参加しました。とかくリハビリテーションというのは基本的には医療を中心としたものであって、それ以外の分野の人たちはあまり関係ないと思われがちですが、1965年の東京での会議にはあらゆる分野の方々に参加したという意味で、わが国のリハ関係者にとって画期的なことでした。

それから、当時、リハビリテーションの対象は身体障害児・者と想定されていましたが、この会議では精神障害、知的障害分野の関係者も参加しました。

もともとリハビリテーションの対象領域は非常に広いことを自覚して活動してきたわけですから、もう一度原点に返って活動を進めることが、RIに求められている役割であると思われます。

RIをめぐる最近の動きは、この総合リハビリテーション研究大会のこれからのあり方を考えるうえでも参考になることが多いのではないでしょうか。総合リハビリテーション研究大会が目指すところは、リハビリテーションに関わる各専門分野の実践や研究を深める一方、包括的なプログラムやサービスの構築に向けての各専門分野横断的な共同実践や共同研究の推進であると考えます。

何らかの形でリハに関わる私たちがアイデンティティを見失うことなく、リハ分野での国際的貢献も含め、時代の要請にどう適切に応えていくかを一緒に考える場として、この大会がさらに充実したものになることを期待して、締めくくりとさせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。