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質疑応答

司会 質疑応答に移ります。ここより、進行は、社会福祉法人日本点字図書館理事長、田中徹二さんと、社団法人日本発達障害福祉連盟事務局長の沼田千簱子さんにお願いします。

田中 私は視覚障害で、質問が読めませんので、沼田さんに仕切ってもらいます。

沼田 質問を全部で8件いただいています。順次、お答えいただきたいと思います。では、最初に孟さんへの質問から。孟さんはたくさんのプログラムを10か所でなさっていますが、その運営費はどこで獲得しているのでしょうか?

グループホームの運営費とスタッフの給与

 中国では民間施設に対して、特に全体的にNGO組織への制度がありません。制度がないことがかえって、私たちにとって自由な部分があります。私たちのような施設は15か所あるのですが、まず、欧米から、特にキリスト教会団体の基金委員会から寄附金をいただいています。私たち自身もいろいろなイベントを企画しますし、保護者たちの支えもあって利用料は30%〜50%でまかなっています。私たちの募金も運営に利用しています。

司会 ありがとうございました。

運営に関してもう1つありまして、スタッフ、生活指導員、支援員がいると思いますが、その方たちの中国での社会的地位はどうなのでしょう? お給料はどうですか? その方が結婚して、子どもをもって家庭を運営できるだけの収入を得ることができるのでしょうか? 

 施設のスタッフたちは高い給料をもらってはいません。最低限の生活を維持できるくらいの給料です。スタッフたちには信仰がありますので、この信仰が支えになって仕事ができているのだと思います。

特別支援教育やソーシャルワークを学んだ大学卒業生は、国の機関、施設に入職すると、2,500〜3,000元程度の給料ですが、私たちの民間施設では、1,500元から高くても2,000元程度です。基本的に、専門性を有する大学の卒業生たちは民間企業には就職しないのですが、最近、大学を出たばかりの若者が最初の2、3年間は私たちのような民間施設で働くようになりました。というのは、民間施設のほうが自由度が高いので、よいトレーニングの場になるのです。しかし2、3年たって恋愛して結婚するという現実の問題に直面する時期になると、どんどん転職してしまいます。この現状を私たちがどう受けとめるかというと、民間施設は、政府のために福祉スタッフを養成する場だと、私は思っています。それは国に対する貢献です。

沼田 どこかの国と同じような話ですね。孟さんに対する最後の質問です。

こういう施設が10か所あるそうですが、利用者の多くは北京で働きたいと言っているとのこと、なぜですか?

 地域によって差があります。私たちの施設では、毎年北京で施設全体の交流活動を行います。そこで他の施設がどういう活動をしているかがわかるのです。さらに2年に1度、運動会やマラソン募金活動も行っています。北京ではいろいろな活動が催されていて、とても楽しいからでしょう。しかし、やはり地域性があるので、地元の親のそばの施設に入所しなければなりません。

沼田 都会は楽しいということなんですね。

リチャードさんへの質問です。一般の学校でインクルーシブ教育を行う場合、一般の教員への教育はどのようにしているか? 肢体不自由なら大丈夫でしょうが、コミュニケーションに問題のある方への教育の仕方はわかっているのでしょうか?

もう1つ、村でのインクルーシブ教育や親とかボランティアが実際の教育に当たるとのことですが、彼らへの養成プログラムが特にあるのでしょうか?

一般の教師へのトレーニング

アルセーノ 一般の教師に対してもボランティアに対しても、まず、基本的に医療とリハビリテーションについて理解してもらう基礎的トレーニングを行ないます。次にインクルーシブな教育を扱うテクニックを学んでもらいます。また、いろいろな障害をもった子どもがいますので、必要に応じて補助教員、シャドーティーチャーを置いています。補助教員は障害児の権利擁護について学び、リーダーシップを培うトレーニングを受けます。

一般の教師へのトレーニングは、特殊教育に携わる専門の教師の協力で行っています。このトレーニングは、一般の学校管理者や教師に、通常1〜2週間の期間で、さまざまな障害のある子どもたちを理解してもらう座学や、思いやりなどを取り上げたワークショップに加えて、スタディ・ツァーなどで実際に子どもたちが学んでいる様子をつぶさに観察してもらっています。これらの実施のためにハンドブックも作成しています。マニラ首都圏その他の地域から、学校当局者、学校関係者、教育者など参加者50人以上で1週間のトレーニングのコースを実施しました。

また、トレーニングの効果を測定するため、3か月に1度ミーティングを行い、実際の学校で自分たちが学んだことをどのように活かしているのかについて、発表してもらうこともしています。

ボランティアや保護者に対しては、地域社会ベースのサポートのために、組織化、能力の開発もしています。学校に就学をしている子どもを抱える両親、保護者が主なボランティアの担い手になりますが、経済的に自立することも大切ですので、職業のスキルを培い、経済的に自立できるための支援もしています。

沼田 現在、世界的に環境に対する意識が高まっていますが、障害児にも環境に対する教育を行っていますか?

アルセーノ 教育現場における環境を最初に考えます。アクセスがより整備されている環境が子どもたちにとって必要であると考え、学校、教育現場におけるアクセス、コミュニティ全般におけるアクセス、家庭内のアクセスという観点における教育をまず実施しています。

さらに、視野を広げて、社会環境における環境問題へも目を向けています。つまり、教室内でいかにして個人の違いを尊重するのか、そこに配慮し、より健全な環境づくりを実現しようと取り組んでいます。

さらに、より広い視点に立って、いわゆる地球環境という観点での環境にも子どもたちの注意を喚起しつつ、プログラムを起ち上げました。そのプログラムは「セーブ・ザ・ワールド」、地球を救う、子どもたちを救うという意味です。その中で、環境に対して十分な配慮がなされないと、環境そのものも不具合を起こす、英語で言うディスエイブル(Disable)になる、ということで周りの環境への注意を促しています。

このプログラムから得る収入はインクルーシブ教育をより充実させるために使っています。

環境保全対策が十分でないと、環境が汚染され、その結果として、より多くの障害をもつ子どもたちが生まれてしまう、そのような可能性もあるということで注意を喚起しています。

沼田 リチャードさんへ最後の質問です。インクルーシブ教育を導入されていて、障害のある子どもの約30%くらいがそこにアクセスできるようになったということですが、インクルーシブ教育によってメリットを受けるのは障害児だけはないと思います。非障害児へのメリットはどんなところに見られるでしょうか?

インクルーシブ教育における非障害児のメリット

アルセーノ 2年前から、障害をもつ子ども、もたない子どもが肩を並べて学習にのぞみ、一緒に遊んでいます。言語の習得が困難だったり、あるいは計算、算数の能力が劣っている人もいます。しかし、この2つのスキルをなかなか学べないというだけで、障害をもっていると解釈してはいけません。人によっては芸術に関心を抱いたり、あるいはスポーツ、文化的な側面に強くひかれることもあります。個人差があるのです。その中で、インクルーシブ教育は新たな可能性をもたらすと思います。つまり、1つのきっかけをもたらすことができるのです。

子どもたちが、他の特徴をもつ子どもたちと交わるなかで、自らのスキルを見出していくという可能性をインクルーシブ教育は秘めていると思います。それは子どもたちにとってのメリットでもあり、先生にとっても新たな視点が広がることです。教師は、インクルーシブ教育の現場の中で多くの子どもたちの可能性にふれることで、それぞれの子どもの独自性や、個別性に目を向けることができるのです。「この子は障害をもっている」とひと言で片づけることはなくなるでしょう。

このことに気づいたのは、学校ベースのインクルーシブ教育の取り組みをしている時でした。障害をもっている子どもにはそれぞれに強い特徴があることがわかったのです。言語能力にたけた子ども、数字的な思考が得意な子ども、文字を読み取る力をもっている子どももいれば、お絵かきの上手な子どももいます。単一的なアプローチでなく、異なるアプローチを備えることの重要性に気づきました。

障害をもたない子どもへのメリットについてお話しします。フィリピン南部にはイスラム教徒が多く住んでいる地域があります。ここは民族的な特徴が強く、宗教的な信条も異なります。イスラム教徒の子どもたちも非イスラム教徒子どもたちと交わることで、文化的、宗教的な思考、民族的な違いが認識され、差別を乗り越えられるのです。障壁と思われていた文化の違いが差別を乗り越えるきっかけになったのです。ここに大きな価値を見出せると思います。インクルーシブ教育はそのような側面からも、子どもたちに自分たちと違う子どもたちがいるという認識をもたらし、そして障害児も自分と同じであると認識をもたらすという効果が見られます。

このプロジェクトが動き始めて2年になります。最初は乱暴なお子さんもいましたが、大きな変化がその子に芽生えたようです。周りの子どもたちとのつき合いを楽しみ、違いを認識し、評価し、互いを尊重するようになってきました。

沼田 ありがとうございました。最後のプレゼンターの可児さんへの質問です。

会場 ジョグジャカルタで、障害児に限らず、一般の学校における防災準備教育は、元々地元の政府が取り組んでいるのでしょうか、それともASBが取り組まれているのでしょうか?

地元政府が障害をもたない子どもたちへの防災準備教育を行っているのであれば、ASBでの障害児に対する教育の活動の中で地元政府の経験やノウハウを生かすような、たとえば普通の学校で教員が行うことをトータルコミュニケーションを使って、障害児の学校でも行えるように伝授する取り組みなどはあったのでしょうか?

可児 2003年のスマトラ沖地震以前は、 インドネシアで防災教育というのは包括的にはまったく行われていませんでした。アチェの津波の後、災害後の緊急援助対処法だけではなく、中央から地方、そして村レベルでの、教育も含めた包括的な防災準備を中心に支援していくという方向で先進国政府の援助方針が固まってきたようです。今までは、災害後お金をばーっと使って引き揚げるというパターンだったのですが、2〜3年前からあらゆるレベルでの防災準備を中心にやっていこうと、各国の足並みがそろってきました。途上国の政府もやっと外部からの援助に依存した、対処法から、自助努力で災害の被害、リスクを事前に減らしていくという意識変革に向かいつつあります。

私たちがジョグジャカルタで始めたのはその初期の頃でした。小さなレベルでやっていたNGOはあちこちでありますが、ASBが行ったような規模(ジョグジャカルタ州2,047校)で行われた防災教育の活動はインドネシアで初めてだと思います。

会場 どうもありがとうございます。ドイツにもともとあった防災準備教育のプログラムをインドネシア向けにアレンジして持ってきたわけではなくて、日本人である可児さんがプロジェクト・マネージャーとして基本的に日本のものを現地で組み立てたという理解でよろしいですか?

防災準備教育は知識ではなくてアクション

可児 そうです。ヨーロッパは地震がない地域ですから、そこからもってきた防災教育では、知識に偏りがあります。中学校、高校の地学で習うような内容を、カリキュラムから切り離した形でもってくることが多いのです。このアカデミックなものを3〜4日かけて、先生に教えるわけですが、多くの先生たちには自分の知識として吸収できても、子どもにも分かるような内容に、それを転換する力がありません。せっかく教えても、「おもしろかった!」で終わってしまうのです。

私たちが行うトレーニングは、3〜4時間で習得できる簡単なものです。私自身、マグマや溶岩に詳しくありませんが、でもどう身を守ればいいかは知っています。そこを基本に先生たちに話すことによって、防災準備教育は知識ではなく、どうやって身を守るかというアクションなのだと気づいてもらうのが、私のプログラムの特徴でもあると思います。私たちの作る教材も、言葉は悪いですが「Idiot Proof」、つまり誰にでも使える教材を目指しています。先生の質を問わず、そのまま使えば子供たちにメッセージが伝わるようなスタイルになっています。

会場 このプログラムをきっかけに可児さんはASBに入られたのですか?

可児 緊急援助で入りました。緊急援助を続けながら、ふと周りを見ると、こんなに地震が多い国なのに、教材も教育もない。これはおかしいのではないかと思い始め、そこから発案して、プロポーザルを出しました。

会場 日教組がアチェとジョグジャカルタの地震の時に現地に入りました。そういうところのネットワークはありますか?

可児 私がいるのはドイツのNGOなので、日本の団体とネットワークを結ぶという機会はあまりありません。緊急援助時に、国連を中心にコーディネートのミーティングをもちますが、そういう場に日本の団体はあまり来ませんから。日本の団体は、我が道を行くという団体が多くて、なかなか会う機会がないですね。残念なことですが。

まとめ

沼田 孟さんのプレゼンテーションでは、知的障害者が支援を受けるだけではなく観光業のスタッフとして働いている事業が紹介されました。また、事業のおかげで地元商店の買い物客が増え、それによって地域の人が障害のある人への認識を変えたというお話でした。

一方、アルセーノさんが関わる国家プロジェクトでは、教育、職業創出など、生活のすべてにわたる活動が行われています。職業をもつことはお金を得ることだけではなく、誇りを得ることだ、というお話もありました。

可児さんのお話も具体的でわかりやすいものでした。ビジュアルでおもしろいプログラムでなくては障害児のための防災教育には役立たない、ということでした。

お3方のお話に共通しているのは、地域との関わりが非常に大切だということだと思います。例えば、中国では、人権と声高に言うのではなく障害者支援活動は地域住民にもメリットがあることを示したことが有効だったとのことですし、また、アルセーノさんも当事者活動は大切だけれども、そこに地域を巻き込まなければ広がらないと話されました。そして、可児さんも、防災訓練は障害者を最初にやるけれども、地域の中でやることが大切だとおっしゃいました。それぞれのお話が非常に印象的で勉強になりました。ありがとうございました。

 

田中 それぞれ国が違いますし、状況も違い、テーマが皆違ったんですが、登壇された皆さんはそれぞれお感じになったことがたくさんあると思います。これからも、こういう国際的なテーマ、活動の状況について、いろいろ報告会があると思いますが、ぜひ参加していただいて、勉強したり、自ら行動に出ていただければ、大変ありがたいと思います。3人の講師の方、ご参加くださった皆様、どうもありがとうございました。

 

司会 ありがとうございました。

講師の3人のみなさん、それから質疑進行のお2人のかた、中国語通訳の方、英語通訳のGエデュケーションの方、手話通訳の方、要約筆記の皆さん、合わせて盛大な拍手をお願いします。