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質疑応答

河村●ありがとうございました。まずパネリストの方に一巡して発言いただきました。ここで会場に参加されている皆さんの中で、どうしてもこれだけは言いたいというご意見がありましたら、手を挙げてください。3人いらっしゃいますね。ありがとうございます。それでは前の方から順に発言していただきたいと思います。

 

発言者●私は手話通訳と要約筆記を両方見て参加している、中途失聴者です。今、放送を見ていると字幕放送が大分増えてきて、ドラマや生のニュースもそうですけれども、聞こえない人も情報を得られるようになってきました。その中で、字幕の付与が遅れているのは劇場中継や歌舞伎、演劇関係のものです。これは恐らく脚本家や演劇関係者の著作権が関係して、字幕化が遅れているのではないかと思われます。法律を詳しく読んだわけではないので、法律の改正についてわからないながら発言しているのですが、先ほど、今日のパネリストの中に、聞こえない人がいないとおっしゃっていましたので、あえて聞こえない立場からの発言をさせていただいています。今後、法律の改正によって、ニュースやドラマ、娯楽情報に加えて、演劇関係の字幕も実現していく見通しはあるのかどうか、お聞きしてみたいと思いました。よろしくお願いします。

 

河村●ありがとうございました。それではあとお二人の方に発言いただいてから、今の件について、お答えできるのかどうかちょっとわからないのですが、ご発言いただきます。では、次の方どうぞ。

 

発言者●私は横浜に住んでいる視覚障害者です。現在、神奈川県内の大学で科目履修生をしています。科目履修というのは、大学が一般の人に向かって、一般の生徒と一緒に学んでもいいですよという科目を設けていて、その科目を一般の学生と一緒に学ぶというものです。大学の中には図書館があります。その図書館というのは、全部が全部視覚障害対応というわけではなく、私は、語学のCD付きの本がありますので、それを借りて聞いて勉強しています。ただ、情報というのは生き物です。すべてが点字になっていないからといって、待ってはくれません。今私は、「よみとも」という音声スキャナを利用して、点字になっていない部分を読ませて利用しています。そうすることによって、時間的なものを気にしないで情報にアクセスすることができます。著作権や契約など、本当は気にしなければいけないのですが。

もう一つ、図書館に関することとは違うのですが、最近、デジタル放送ということが盛んに言われていて、とってもよいことだとは思います。ただ、放送を見ていて、テロップが表示されるとピロピローンという音がするんですが、その音の後に何が表示されているのかが全然わからないので、例えば視覚障害者の場合、私のように点字を使える人にしてみれば、そのピロピローンという音の後に何が表示されるのかを、例えば点字ディスプレイで表示できるものが開発されたり、またそのテロップを、デジタル放送ですからすき間ができますので、そこに音声化するシステムができないかと期待しています。そのことについて、できたら討議していただきたいなと思います。

 

河村●ありがとうございました。後でパネリストの方からご意見をいただきます。最後の方、どうぞ。

 

発言者●目黒区内の図書館に勤めている者です。録音図書の製作を担当しておりまして、著作権の許諾の関係でお願いしたいと思い発言します。

図書館協会と文藝家協会の一括許諾ができるようになりまして、仕事として非常にやりやすくなっているのですが、新しい作家の録音図書を作ろうとしますと、文藝家協会に入っていない方が多くて、作りたいと思うものの半分も作ることができません。そのような作家の方には個別に許諾をとることもあります。ですので、図書館協会の方には、一括許諾の対象を、他の団体も含めて、もう少し広げていただくことはできないか、お願いしたいと思います。

それから、小説ではやはり人気のあるものに需要があり、作ることが多いのですが、一括許諾の方が作りやすいものですから、どうしてもその比重が多くなるのです。点字図書館で作っていただくものにも、かなりそういう傾向がありまして、同じタイトルを全国でたくさん作成してしまっていることがあるのです。もう少し分担をして、例えば点字図書館では、一括許諾があるものは遠慮していただき、公共図書館に任せていただくなど、棲み分けのようなものができれば、全体のタイトル数をもう少し増やすことができるのではないかと考えています。その点、お考えいただけたらと思いまして発言させていただきました。

 

河村●ありがとうございました。それでは最初の方と最後の方のご質問については常世田さんと阿刀田さんからそれぞれご意見をいただきたいと思います。岩井さんには、その次にテロップのことなどについてご意見をいただきたいと思います。それでは常世田さん、最初にお願いできますでしょうか。演劇関係の字幕が少ないのは何か著作権の問題が関係するのだろうかということです。

 

常世田●演劇関係の著作権については、阿刀田さんにお譲りしたいと思うのですが、一言言わせていただければ、日本の図書館はとにかく弱体です。欧米の図書館では、演劇関係の資料の収集などもかなり積極的にやるのですが、日本の今の現状では、かなり難しいです。現場の図書館員が提案したとしても、現在のところ図書館長は99%以上が普通のお役人で、1,2年で本庁に戻ってしまう方なので、面倒なことはしたくない。また役所は財政難ですから、とても残念なことですが、まず通らないだろうと思います。

 

一括許諾と「フェアユース」の動き

図書館協会としては、権利者団体との交渉をずっと続けております。その中で、図書館側と権利者側のメンバーで障害者関係のワーキングチームというものを立ち上げ、具体的なガイドラインをいろいろ作っていこうと検討しています。このような活動を通じて、一括許諾のようなものをもう少し広げていきたいと考えています。

ただ、さっき阿刀田さんもおっしゃいましたように、作家の方以外の、いわゆる一般書の著作者はもう大変な数いらっしゃいまして、しかも一生の間に1冊か2冊しか書かない方が大半ですから、この方たちを一括許諾のシステムの中に組み込むことは、図書館界とか文藝家協会さんのようなところだけではとても難しい。やはり法改正や、あるいは今、知的財産戦略本部で検討していますけれども、「フェアユース」といいまして、社会的に公正な利用については一定の権利制限を自然にできるような考え方があります−−日本の法制度とは合わないと一般的に言われているのですが、そういうものを導入するという機運も出てきていますので、そのような形で総合的に解決していくしかないのではないかと思っています。

 

河村●ありがとうございました。それでは阿刀田さん、お願いします。

 

権利者団体への働きかけ

阿刀田●演劇関係のことについては、結論を言いますと、劇作家協会などの組織に、何らかの形で障害者の方から積極的に訴えていただくことが、一番基本的なことだろうと思います。すぐにどれだけ効果があるかはわかりませんが。ただ、その辺りのからくりを若干知っている立場から申しますと、演劇のセリフというのは、原作者と演出家との間でも大変な戦いがあります。原作者は自分の書いたものの著作権を言いますが、演出家は、ここのところは要らないのではないかとか、ここは変えちゃえとか、ギリギリになると実力行使のようなことがどんどん行われていて、そこでも相当トラブルは起きるわけです。いろんなケースがあるのですが、結局、きちっとしたセリフが出てくるのが上演の前の日になったり、どういうものが演じられるのか決まっていないというケースも、実際多いわけですね。こういうことをやろうと決まっても、劇場としては、何となくやりたくないとか、また著作権のことでクレームがつかないかと考えたり、具体的な運行上の問題は当然起きてくるだろうと思うのです。でも、そこはやはり劇作家協会に理解をいただき、また演出家には演出者協会などがありますから、その理解を一つずつ進めていって、例えば、最終的なセリフと全く同じものでなくていいから、1週間前にこの辺でいくというシナリオを入手する、というようなことが行われないと、手続き的に難しいだろうと思います。その辺の詰めは必要かと思います。直接の関係者ではないので正確なことは申せませんが、そのようなことは考えています。

今、常世田さんがおっしゃったように、権利者の団体がある程度網羅されている分野はまだ訴えようがありますけれども、全くないところは、これは文化庁の役割になるのかどうか、全体的な調整をやらないと難しいところはたくさんあろうかと思います。幸い劇作家協会も演劇の関係の協会もございますので、やはり一つひとつそういう団体に呼びかけていくことがとりあえずの道かなと考えます。

 

河村●ありがとうございました。それでは岩井さん、お願いいたします。

 

視覚障害者をとりまく情報環境

岩井●ご質問ありがとうございます。科目履修で勉学されているとのこと、大変なことと思います。

図書館には40万タイトル以上の本があって、ないーぶネットには9万タイトル、びぶりおネットも1万タイトルを超えたというお話をしても、実際、今自分が読みたい本が目の前になければ、それはもう全く無ですからね。そのような中、何とか技術の進歩でもって、今おっしゃったようにOCRで読み取って音声化して内容を理解するということを、われわれは、努力して行っています。視覚障害者自らが点字にする、音訳するというのも時間がかかりますから、そういった本が他の手段で読めるような、例えばテキストデータとか、代替手段の提供がスムーズにいくようになってほしいと、私も祈っています。そのためこうした「複製権」など障害者に関する著作権の検討はぜひとも必要だろうと思います。

次にご質問の件ですが、おっしゃるようにデジタル化というのが、本当に障害者のことまで含めた、みんなに優しいデジタル化であればいいんですが、なかなかそうではない現実がございます。

レジメにも書かせていただいたのですが、国立国会図書館さんの方でデジタルアーカイブポータルというものを立ち上げられているわけですが、この図書館にわれわれがアクセスしようとすると、それは全く音声では対応していないのです。こういうデジタル技術のユニバーサルデザインと申しますか、障害者対応というものを、ぜひとも、当初から想定し、考えていただきたいなと思っているのです。

同じことが、ご質問にありました、地上デジタル放送についても言えます。2011年7月25日からいよいよスタートするわけですが、当初、キャッチコピーとして「障害者に優しい地デジ放送」とうたっていたにも関わらず、スタートまで1年少々残す現時点で、今おっしゃったようにテロップ等が全く音声化されず、緊急災害情報もテロップのみでむなしい音だけしか、われわれにはわからないという問題があります。

もっと言えば、例えば画面を見て番組などが簡単に選べ、録画も簡単にできるという操作は、リモコンでするわけですが、音声化されていないがために、われわれには全く使えない状況があるわけです。

全視情協の取り組み

私ども全視情協も、この問題については、総務省や放送事業者、あるいは家電メーカーと、随分話し合いをしております。例えばNHKの放送技術研究所などの研究によると、テロップを音声化したり、あるいはデータ放送を端末の点字ピンディスプレイで読んだり合成音声化させることは、技術的にはできているのですね。私もデモンストレーションを見てきました。

日本のすばらしい技術では既にできているのが、一つは著作権の問題で、もう一つはコストパフォーマンスの問題で対応ができない−−そういったものをテレビジョン1台ずつに搭載することによるコストアップが問題という、いわゆる経済論理から、障害者が便利なサービスから弾き出されている現実があるのかなと思います。

ぜひとも、テロップやデータ放送、番組の一つひとつがわれわれに理解できるように、副音声解説をつける、字幕をつける、手話をつける−−そのように、デジタル化されたゆえに、われわれも国民の一人として、放送がきちっと対応してくれるような状況を作り出したいなと思っております。

ご質問には全く同感で、われわれもそれなりに動いているということの報告でした。ありがとうございました。

 

河村●どうもありがとうございました。今回は著作権をテーマとしてこのセミナーを開催しているわけですが、既にご確認いただいているように、必ずしも著作権だけが孤立して問題となるのではありません。その周辺というか、むしろ基礎にある技術、あるいはデザインの発想、そういったところに障害という視点が欠けているのです。そもそも当事者が参加から排除されていることによって、意見の出しようがないということから来る問題がたくさんあります。その中に、著作権に関わる問題もあるのだと思います。