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まとめ

河村●最後にまとめとして、パネリストの皆さん、井上さんからお一人ずつ、著作権というテーマに絞って、これからの課題、次の一歩をどういうふうにお考えになるか、伺いたいと思います。

さらなる法改正へ

井上●今回、文科省検定教科書に限ってではありますが、バリアフリー化が一歩前進しました。しかし、検定教科書以外にも膨大な著作物があるわけで、バリアフリー化を一般の著作物にも広げていかなければなりません。

法律が審議されたとき衆議院で出された附帯決議では、「将来の教科書や教材のデジタル化に備え、すべての児童生徒が障害の有無や程度にかかわらず、快適に利用できる電子教科書や電子教材が開発されることとなるよう、継続的に調査研究を推進すること」と書かれており、これは要するにユニバーサルデザインを意識したものでしょう、「障害の有無にかかわらず」とうたわれています。しかしこれを法律や制度にさせるためには、まだまだ頑張らなければなりません。

それから著作権法での「複製」に関して。そもそも障害その他の理由で、もともと著作物が「読めない」、あるいは「読みにくい」という人にとって、「複製」とはどのような意味があるのでしょうか。これは「複製」ではなく「読めない」ものを「読める」ように、メディア変換をしているだけなのではないでしょうか。

先ほど、フェアユース規定のお話もありました、これからの課題は大きいと思っております、ぜひ皆様方と一緒に著作権法改正へ向け、働きかけていきたいと思っています。

 

河村●岩井さん、お願いいたします。

 

サービス対象の拡大

岩井●私ども全視情協も、日本文藝家協会様と覚書を交わしました。私どもの加盟施設の中には、ボランティア団体もございますので、そういった団体が音訳図書を作るときは、許諾なしでやらせていただくということを、この4月から始めました。大きな成果がございまして、実際、ボランティア団体が製作するケースが非常に多くなってまいりました。われわれもいわゆる著作権のため、著者の立場はやはり十分考えたうえで行動をとっていきたいとは思っていますが、われわれ視覚障害者と同様に、多くの「読書障害者」が世の中にはおられます。その現実の中で、われわれ視覚障害者向けに積み重ねてきたサービスを、今後は同じく読書に障害がある人へのサービスという観点で拡大していきたいと考えています。われわれが持っているノウハウ、あるいはコンテンツを、そういう人たちにも利用していただくわけですが、そのように、われわれの役割を見直ししていくうえでは、やはり著作権の問題が厳然とあるのは事実です。われわれは契約というルールを守りながら活動をしておりますが、ぜひとも障害者権利条約を追い風として、また障害者プランにも、障害者の情報アクセシビリティに関して19項目うたってあるわけですので、何とかそれを具体化するため、解決方法を見いだしていきたいと思っております。

やはり話し合いなどを続けながら、多くの皆さんに理解をいただくとことも大事かと思いますので、今後こういった障害についての啓発活動などを充実させていきたい。そして一つひとつできるところを前向きに突破していきたいと思っております。よろしくお願いします。

 

河村●常世田さん、お願いいたします。

 

市民活動の役割

常世田●著作権法の改正ということについては、自分が公務員だったことや、審議会の委員をしたり、ボランティアとして活動している経験で言わせていただきますと、行政や政治の状況が多少変わってきているという感じはするんです。これまでは、図書館協会や権利者団体などが集まって、国の審議会で議論し、結論を出していくだけで、一般の市民が何を言ってもほとんど門前払いという状況でした。ところが最近は、例えば図書館運動をやっている市民の人たちに総務省のキャリアや国会議員がちゃんと会ったり、それが国会の討議で反映されたり、あるいはパブリックコメントの結果がある程度反映されたりなど、少しずつ変わってきているようなのです。ですから今までのように、団体が頑張れというだけでなくて、皆さん一人ひとりができるところから声を上げていただきたい思うのです。特定の団体だけ、たとえば図書館協会みたいな弱小団体がいくら頑張っても、なかなか通りません。やはり、国民全体がそう思っているのだという印象を与えることで、効果が出るような状況に、多少なってきていると思っています。皆さんも、親戚をたどっていけば国会議員の一人や二人、いたりするのではないでしょうか。そういう泥臭いことをみんなが少しずつやっていくことが、重要になってきているのではないかと思っています。

 

河村●阿刀田さん、お願いいたします。

 

日本文藝家協会の取り組み

阿刀田●先ほど、新人の作家などがなかなか文藝家協会に登録されていないということにお答えするのを忘れておりました。それはそうだろうと思います。

著作権のことを一括許諾する、これは障害者の問題ばかりでなく、他に教科書の問題などいろいろな項目があるのですが、そういうことを文藝家協会はここ2〜3年、真剣に取り組むようになりました。その成果はだんだん現れております。新人の方などにも、当然呼びかけております。文藝家協会は組織としてもいろんな方に加わっていただきたいわけですから、働きかけはやっておりますし、徐々にだが確実に、その効果が現れております。

ただ、ハガキで問い合わせたりしても、この業種には事務的能力が欠如している人間がたくさんいて、なかなかすぐに返事が来なかったりします。一つは事務的能力がまずいことと、もう一つは、そんなこと粋がるなと言うのですが、自分は組織に属さないでいるのが素敵だと思うからこの職業を選んでいるんだ、ということを根強く思っている人もいます。こういう人たちはなかなか組織には難しいのです。気持ちも少しわかるのですけど。年会費を2万円取られるわけですから嫌だなという感じもあるのでしょう。でもメリットもあるのです。健康保険に入れます。それから「文学者の墓」というところに入る権利ももらえます。他にもメリットがいくつかありますので、それはやっぱりお入りになった方がいいと、誘いかけています。

そういう意味で、いったん入った方が辞めるということはほとんどありませんし、会員になるときに一括許諾のことを考えてほしいと伝え、かなり多くの人が、会員になると同時に一括許諾の承諾をしております。組織が発展すれば、新人の方もだんだん増えていくだろうなと考えております。

ようやく始まったばかりなのでまだまだなのですが、三田誠広さんという大変この方面に情熱的な作家がいます。彼が鋭意努力していまして、確実によくなっていますので、見通しはいいのではないかと私は考えております。

もう一言だけ申しあげますと、私が今代表を務めている日本ペンクラブというのは、表現の自由を訴えようという世界的な組織ですから、これは志が高いというか、かっこいいことをやりたがるので、著作権の問題などでも、障害者の方に大いに協力しようという方向にまとまりやすいです。日本文藝家協会は、著作権の問題を真剣に考えていますので、込み入ったところまでいろいろと議論を深めています。でも一番頼りになると言えば言えるかもしれません。日本推理作家協会については、基本的に推理小説を書く人は営利を目的としてこの職業に就いている方が多いわけで、やはりここではお金の問題が割と厳しく出てきます。この文芸三団体は、著作権のみならず図書館との関係においても、それぞれ微妙に反応が違うのです。でも著作権の問題についは、やはり文藝家協会を通して進めていくのがよかろうかなと思います。

 

産業界の役割とインセンティブ

河村●ありがとうございました。簡単に、まとめにならぬまとめをさせていただきたいと思います。本日は、出版社の方には登壇いただいていなかったので、会場にいらっしゃる方から発言いただければと思っていたのですが、時間の制約もあって、もれなくというふうにはできませんでした。

ただ、私が一言申しあげたいのは、出版の関係の方もかなり貢献していただく部分があるはずだということです。つまり、出版社は、マーケットとしてすべての障害のある人を範囲に入れるわけですが、自分たちがマーケットとして儲からず手を出さない分野については、そこを非営利で行う人たちに、あるいはよりうまくマーケットとしてカバーして出版できる人たちに道を開ける、そういうことがもう一つ必要ではないかと思われます。

それは放送についても同じだと思います。特に字幕や手話、画面の解説が必要な放送というのは、オリジナルのコンテンツと後からつけたコンテンツが一緒じゃないと、役に立たないわけですね。つまり字幕だけ、あるいは画面解説だけあってもだめで、同時に見られなければいけない。すると、どうしても複製の問題が出てきてしまいます。複製をするならダメだよと言われると、アクセスできないということになります。

全体として、知的な資源を共有する産業界も責任を負って、みんなが一緒にアクセスできる知識を出版し、発行していく。そういう時代を展望した著作権のあり方が、これからは必要だと思います。

もう一つはインセンティブです。先ほど、阿刀田さんが、協会に入ると健康保険にも入れるという、すごくいいことをおっしゃったんですね。やはり一括許諾のようなものに協力すると、何かいいことがある、ということがとても大事だと思います。自分のしたことが、気持ちがいいということだけではなくて、もう少し具体的に、こういうメリットもあるというふうに、形に見えるような仕組みを工夫することも必要かと思います。

さいごに

その辺りについて、フェアユースの問題も含めまして、今後みんなで議論していくことが必要な課題が、本日はたくさん出されたと思います。なかなか結論めいた話は出ませんけれども、でも何となくいい方に向かいそうだという感じは、共有できたのではないかと思います。これからも、みんなで元気を出して、いい方へ向かうべく、今日登壇していただいた皆さんも一緒に、会場の皆さんとともに、今後の議論を進めていただきたいと思います。