音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

日英シンポジウム2002「日英協同で進める地域における障害者・高齢者支援」

Seminar on Japan/UK Collaboration for Reinvention of an Inclusive Community

第二部 基調報告1:「CANの地域における障害者・高齢者への支援活動」

ジョン・スモーリー
CAN北東地域所長

講演をするジョン・スモーリー氏

皆さんこんにちは。

今日この会議に参加することができ、大変嬉しく思います。このたび私のために力を尽くして下さった皆様には感謝しております。東京へ来るのは二度目ですが、再び日本を訪れ、二、三ヶ月前の初めての訪問で知り合った友人たちと再会することができ、とても喜んでいます。

今回この機会を借りて、イングランドの一地方におけるCAN(コミュニティー・アクション・ネットワーク)の活動についてお話できるのは私にとっても喜ばしいことです。しかし、お話を始める前に、一言お断りしておかなければならないことがあります。イギリス国内での社会起業活動やプロジェクトの開発について私どもの経験をご紹介するのは嬉しい限りですが、かといって、私は、CANが長年の難しい問題に対する決定的な答えを見つけたとは、まったく考えていないということです。むしろ、CANはイギリスにおける第三セクター(ボランティア及びコミュニティーセクター)を発展させる新しい、急進的なアプローチをしているのだといえましょう。昨年の夏、私は大阪、広島、浜松、横浜そして東京で、いくつもの感動的な経験をすることができ、ここ日本でもNPOセクターのエネルギーと想像力に全く不足はないことがよく分かりました。ですから、今日も、地球の反対側にある別の国で培われた成功への秘訣を伝授するというよりは、皆さんと経験を分かち合いたいという気持ちでやって来ました。日英両国における社会起業家はお互いに学ぶべき点が多いことを私は確信しています。この考えについては後ほどもう一度お話しするつもりです。

これから皆さんには、CANが組織としてどうありたいと考えているか、またこの二年間、イングランド北東部においてCANによる取り組みがどのようにすすめられてきたかを簡単にご説明しましょう。それから私が関わっている二、三のプロジェクトについてもお話ししたいと思います。それで皆さんに、CANがどのようにして「ビジネスに関わるコミュニティー」を作ろうとしているか、分かっていただけるのではないかと思います。つまり、CANは、地域の人々が目標や願望を達成するのを支援するため協力しながら、イギリスの最も恵まれないコミュニティーで仕事や財源を作り出す手助けをしているということです。後ほど特に高齢者と障害者を支援するプロジェクトをいくつかご紹介するつもりです。そして締めくくりでもお話ししますが、日本のNPOを代表する方々に、これから二、三ヶ月の内にこれらのプロジェクトのいくつかを実際に自分の目で見る機会を持っていただければよいと期待しています。

CAN (コミュニティー・アクション・ネットワーク)
CANは非常に新しい組織で、1997/98年に二人の野心あふれる起業家、アンドリュー・モーソン氏とアデル・ブレークボロー氏によって設立されました。皆さんの中にはアンドリューに会って、話を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。そして彼がいかに周りに刺激を与える人物であるか、おわかりになったと思います。私は1999年にCANに加わって以来、アンドリューとはもう三年ほどのつきあいになりますが、彼とともに働くことは喜びであり、またやりがいも感じております。

CANは「社会起業家のための学びあいと助け合いのネットワーク」ということができます。私がCANについてこのように説明するとき、「社会起業家とは何ですか?」という質問をよく受けます。私はこのように答えることが多いです。難しい質問ですが、簡単に答えるなら、「社会起業家とは、地域レベルで改革を進めようとする人で、人々の生活に影響を与える問題を解決するために時間と労力とを投資する人です。」と。多くの人々は、社会起業家は社会企業を中心になって押し進める人のことだと、間違って理解しています。これは無理もないことでしょう。イギリスでも、特に失業率が高く、深刻な貧困の問題を抱える、恵まれない人々が多いコミュニティーでは、このような考えが多く見られます。しかし、私が訴えたいのは、必ずしもこういうケースばかりではないということです。確かに、多くの社会起業家達はコミュニティー・カフェやパン屋、コインランドリー、交通事業、研修プロジェクトなどの、社会企業の運営に関わっています。けれども、社会的に不利な立場にいる人々に対して、仕事を作ったりサービスを提供したりしようとしているわけではありませんが、非常に精力的かつ献身的に活動している社会起業家もたくさんいるのです。私がよく例としてとりあげるのに、大変荒れ果てた公営住宅団地に住む主婦のグループがあります。このグループは二年間休むことなく、団地の近くの打ち捨てられた草地を子供たちの遊び場にするために働き続けました。地域の政治家たちに嘆願書を出し、地域の住民のために公聴会を開き、資金集めに奔走し、建築家やデザイナーとともに自分たちの望み通りの遊び場を設計しました。この主婦たちは真の社会起業家なのです。自分たちの時間と、想像力とエネルギーを、近くに住む親や子供たちに大きな影響をもたらすことに注ぎ込んだという点で。しかし、彼女たちはもともと仕事を作ろうとしたり、或いは自分たちがしていることに関して報酬を得ようとしたり、二年以上も続くプロジェクトを実行しようとしたりしていたわけでは無いのです。それでも、彼女たちは地域の他の人々に素晴らしい手本を示しています。なぜなら、自分たちで責任を持って活動し、他の人々を導き、そして好ましい変化をもたらしているからです。彼女たちは社会経済に大きな投資をしており、社会起業家として認められ、支援を受けるに値します。

CANは、特に改革が最も必要とされており、かつそれが最も難しい、他よりも恵まれてないコミュニティーにおいて、このような人々を見つけようとしています。そしてこのような人々同士をCAN独自の「エクストラネット」を使って結びつけようとしています。人々は情報を共有することができ、大変強力な武器となるインターネットを使ってコミュニケーションをとることができ、孤独感や無力感を減らすことができるのです。CANのウェブサイト(www.can-online.org.uk.)を見ていただければ、CANのエクストラネットがどのようなものか、わかっていただけるでしょう。

地域におけるCAN発展の取り組み
私はちょうど二年前にイングランド北東部担当のCANのディレクターに任命されました。北東部は広大な地域で、北はスコットランドとの境から南はヨークシャーとの州境までわたっています。東は北海に面し、西にはペニン山脈がそびえています。人口は二つの地域に集中しています。北端のタインサイドとウィアサイド、そして南部のミドルスボローを中心としたティーサイドです。

私はイングランド北東部担当の地域ディレクターに任命されたとき、自分がしなければならない仕事は主に三つあると考えました。まず、地域の会員を増やすこと、そしてCANが単なる「話だけの」組織ではなく、「行動する」組織であることを示すためにいくつかのプロジェクトを始めること、更に、CANが地域に目に見える形で根付いていると認められるために社会企業センターを作り、第三セクターの活動や計画について独創的に考えていくための「シンクタンク(機関室ともいえるでしょう)」を設立することです。

私はイングランドの最も恵まれてないコミュニティーで教育に関わる仕事を数年間経験しました。その経験から、CANの会員となることで一番利益を得ることができる人々は、当然のことながら、しばしばその対価を支払う能力が最もない人々でもあることを学びました。そこで私は「10X10」という計画を考えました。これは、10の公的及び私的セクターの機関に、それぞれ3000ポンド(600,000円)ずつCAN北東部への寄附をお願いするものです。私はこのお金を100人の新会員を経済的に支援するために使いました。つまり、10のスポンサーのそれぞれが10人を支援するというわけです。このようにして私は、一年間の会費を無料にし、ちょうどよい規模の社会起業家の会員基盤を作ることに成功しました。そしてこれをもとに、重要な活動の多くが実行され、更にスケールメリットも生み出すことができたのです。

私は数多くのプロジェクトを運営する資金を得ることに成功しました。最初の何ヶ月かの間に、新しい小規模ビジネスや社会企業を始めるため、250,000ポンド(5000万円)を政府から大急ぎで手に入れました。この資金は新しい会員とそのプロジェクトを支援するために大変役にたちました。この結果、更に資金を集めることができ、CANが地域のために実際に利益をもたらすことを示すことができました。また、私は五つの機関をUKオンラインセンターにする手伝いもしました。貧しい地域にある各センターに20,000ポンド(400万円)のコンピューター設備を整え、失業者や社会的に不利な立場の人々が、幅広く様々な目的のためにインターネットにアクセスしたりICT(情報・コミュニケーション技術)研修を受けたりできるようにしました。

また、私は二年近く、ニューカッスルのペイントファクトリーと呼ばれる荒廃した土地の開発に関わっています。ここは北東地域の非公式な「中心地」で、ニューカッスルとタインサイドの社会企業センターを建設する予定です。ごく最近では、タイン川の南岸、サウス・シールズのCAN会員とともに、廃屋となった造船所を買い取り、数多くの社会企業活動がそこでまとめて行えるようにする活動もしています。この二つのプロジェクトから私は、二つの場所をコンピューターで結び、川の両岸を結びつけた「背骨」を作ろうと考えつきました。そしてこれを軸として社会企業ゾーンを周りに作ることができるのではないかと考えました。この考えについて地域の他の人々と話し合いを始めたところ、話ははずみ、今では五つの機関が賛同しています。五つの機関は協力して、ノース・シールズとニューカッスル(タイン川北岸)、ゲイトシード、サウス・シールズとサンダーランド(タイン川南岸)に、五つの企業センターを作ろうとしています。この五つのセンターが中心となり、社会企業の「軸」としてそれぞれ各地域の活動センターと結びつけられるというわけです。このインフラストラクチャーはタイン・ウィア州の社会企業ゾーンの基盤となるでしょう。社会企業ゾーンの概念についてウェストミンスターの北部出身の下院議員グループにプレゼンテーションをする際には、北東部に大々的に進出しているプロクター・ギャンブル社の後援を受けました。そしてグループ全員がこの提案に対して支持を表明し、現在では地域開発局が開発計画プロジェクトにあてる資金を提供してくれています。このプロジェクトは二、三週間の内に始まる予定です。

社会企業ゾーンには、三つの重要な要素があると、私たちは考えています。まず、新しい社会企業に対し、税金その他の財政上の便宜を図るということです。(従来の「企業誘致地区」で私企業に優遇措置がとられているのと同じ様な形が考えられるでしょう。)次に、社会企業プロジェクトに関わるどのような人に対しても、支援と教育の機会を提供することがあげられます。(私はランカスター大学と、学歴や資格がない人々を対象とした社会企業に関する技能を身につける研修とその認定をすすめる共同プロジェクトを行っています。)更に、多くの私的・公的セクターの企業や機関に、調達方針を変更する公約をさせるということです。各企業・機関は毎年の調達予算のうち少なくとも10%をボランティア(NPO)セクターの社会企業に費やすようになるでしょう。このような調達方針の変更一つでも、地域の第三セクターには大きな援助となるのです。そして第三セクターの機関は更に活動を続けられるようになり、真価を発揮し始めるわけです。また、ボランティア(NPO)セクターが公的・私的セクターの大きな組織とよりビジネスライクな関係を結ぶことにより、三つのセクターの間に更なる協力体制が作られるという重要な意味も持っています。これにはすべてのセクターがお互いに利益を得られるようにしなければなりません。NPOが基盤を置くコミュニティーは、公的・私的セクターの機関に顧客や従業員を提供しているコミュニティーと全く同じだからです。

CAN会員によるプロジェクト
CANの会員が関わっている活動のいくつかを紹介するために、また、CANがどのように支援活動を進めているかを説明するために、コミュニティー再生を目的としたプロジェクトと、高齢者や障害者、社会的に不利な立場にある人々へ、大変必要とされているサービスを提供しているプロジェクトについてお話ししましょう。最初のプロジェクトは、社会起業家学校の卒業生でもあるジェームス・ディクソンという会員のアイディアによる、「AnyBodyCan(誰でもできる)」と呼ばれるプロジェクトです。これは身体障害者に雇用の機会を提供する組織で、研修と支援を行い、理解ある雇用者のもとで仕事を得られるように手助けをしています。ここで興味深いのは、プロジェクトリーダーが大変若い、有能な女性で、自分自身、重いディスレクシアの障害を抱えているという点です。この女性は障害を克服するために大変な努力をし、犯罪学の学位を取得し、「AnyBodyCan」のプロジェクトマネージャーという新しい職を得る前は、セールスの分野で大きな成功を収めていました。

このプロジェクトでは、他にも、家で時間を自由に使って働く自営業を始めたいと希望する人々も支援しており、秘書や経営のサービスを提供する仕事をうまく得る人もいます。この企画は、ニューカッスル・ヘルシー・シティー・プロジェクトと呼ばれるニューカッスル市全体のプログラムの一部となっています。身体障害者に雇用の機会を提供することで、このような人々が市の経済生活において役割を果たし、自己評価を高め、自信をつけて、コミュニティーに必要とされていると感じることができるようになるのです。「AnyBodyCan」プロジェクトで成功を収めた参加者は、仕事を身につけたいと考えている他の人々にとってよい手本となるでしょう。

ノース・タインサイドに基盤を置く別のプロジェクトに、身体及び精神障害のある若い人たちを支援する、「Open Doorsプロジェクト(扉を開けよう)」というプロジェクトがあります。このプロジェクトは13歳から25歳までの若い障害者が、定期的に同世代の健常者と会い、ともにレクリエーションやレジャー活動を楽しむというものです。例えば、健常者の若者たちは、車椅子の人たちが地域のヘルスセンターの体育館で行われる体操に参加するのを手助けするのです。一緒にゲームをしたり、仲良くつきあったり、遠足に行ったり、募金活動をしたりして、障害者に対する偏見がうち破られるような環境を作っていくのです。これには障害者、健常者両方にとって利点があります。健常者の若者たちは障害者を取り巻く問題や課題について多くのことを学び、共感と理解を深めるようになりますし、一方、障害者の若者たちは、孤独を感じることが少なくなり、コミュニティーに受け入れられ、その一員として生活していくことができるようになるからです。

「Communicare(コミュニケア)」は、東ダーラムのピーターリーという小さな町を本拠地とするコミュニティーによる輸送機関のプロジェクトです。高齢者や障害者の住民に、送迎のサービスを提供するもので、この結果このような人たちが公共の交通機関を利用してお店や図書館、病院などに行くことができるようになりました。運営資金は、慈善信託や地方政府からの助成金でまかなわれています。

「Communicare」では、三台のバスを持っており、運転手のチームが組まれています。運転手は、報酬を得ている人が数人いますが、あとはボランティアです。プロジェクトではバスを最大限利用できるように、もっと運転手を雇うための追加資金を必要としています。しかし増えた運転手の給料を支払うため更に慈善信託に助成金を求める代わりに、プロジェクトでは、失業者が地域のバス会社に就職できるよう、乗客を乗せて運転する研修を行う新しい事業を始めることを計画しています。この運転研修で、新たに運転手を雇うことができるだけの、十分な収入を得ることができる予定です。また、このように研修を取り入れて活動を多様化することにより、プロジェクトが将来にわたって続けられ、「助成金に頼る」ことが少なくてすみます。プロジェクトが、助成金を得ようとするのではなく、収入を得てより継続性のあるものとなっていく方向へと進んでいくのを支援するのは、CANの使命の重要な部分を占めます。

「CAPITALプロジェクト」は、2002年9月に始まった新しいプロジェクトで、ダーラムのピーターリーにある11歳から16歳の生徒が通う総合中等学校に拠点をおいています。これらの学校は失業率が高く、学歴も低く、健康状態も悪いなど、伝統産業の衰え、つまり1980年代後半の炭坑の閉山に由来するあらゆる問題を抱える、非常に恵まれないコミュニティーで奉仕活動をしています。これはCAN学校プロジェクトと呼ばれるもっと大きな全国的なプロジェクトの一部で、CANは、コミュニティー再生のため地域の中心となろうと努めている学校とともに活動しています。

このプロジェクトは、11歳から16歳までの約1000人の生徒を抱えるショットン・ホール・スクールの新しい主任教師が、「学校を改革して」、生徒の学力レベルをあげたいと考え、始めたものです。この教師は、彼の学校が芸術の分野(音楽と劇)で「優れた研究・教育拠点校」となる可能性が高いと気づき、政府にそのための資金を要求しました。彼は、賢明なことに、広くコミュニティー全体のレベルが上がらなければ、生徒のレベルも上がりはしないということを理解していました。読み書き計算があまり得意でない親の子供たちは、家庭で手助けを受けられなければ成績を上げることはできないでしょう。そこで主任教師のイアン・モーブレイ氏は、芸術活動を、生徒の成績を上げると同時に、コミュニティー全体の学習活動を改善するための手段とすることを決めました。

周囲のコミュニティーとより強力な関係を作るために、モーブレイ氏はCANに、地域の芸術家のグループや音楽家のグループ、その他のコミュニティーボランティアグループにコンタクトを取る手助けをしてくれるよう依頼しました。私は彼に喜んでいくつかのグループを紹介しました。特に東ダーラム・パートナーシップという、1988年にその設立に当たり私が援助したボランティア団体は、UKオンラインセンターを持っており、失業者にICT技術研修をしたり、社会的に不利な立場にある人々にインターネットサービスを提供したりしていて、誰の目から見ても、学校と提携することによるメリットは明らかでした。すぐに東ダーラム・パートナーシップは学校のキャンパスに移され、ネットワークにつながった25のパソコンと、毎週この設備を使っていた400人の成人学習者も学校へ移りました。こうして、私たちの支援により、すぐにこの学校はコミュニティーの学習センターへと変わったのです。そしてUKオンラインセンターで、生徒とその親とがともに活動する場ができあがり、家族で学ぶ場ができあがりました。

学校が教育省から研究・教育拠点として晴れて認められた時に得た補助金を、私たちは「見合い基金」として、コミュニティー学習及び再生プロジェクトを始めるため、炭坑復興トラストに使いました。これは成功し、その後このトラストファンドから得たお金を欧州社会基金の見合い基金として更に投資しました。このように資金を創造的に使うことで、私たちは800,000ポンド(1600万円)を作り出しました。これが、CAPITALプロジェクトと呼ばれるコミュニティー再生プロジェクトです。(CAPITALはCommunity Action Partnership for Innovative Training And Learning―革新的な研修と学習のためのコミュニティ・アクション・パートナーシップ―の略です。)このプロジェクトには次のようないくつかの「一連の」活動があります。

コミュニティーでの学習及び家族での学習
若い人たちの健康に関するプロジェクト
子育てプロジェクト
コミュニティー・ビジネスの企画
政府に不満を抱いている若者のための芸術・メディアプロジェクト
失業者のための就労研修

健康増進とコミュニティーの安全性を高めるには、社会起業家による活動が地域のレベルでどのように役立てられるかを紹介するために、このうちの二、三について説明しましょう。

私たちは学校の給食室で生徒の食事を作る仕事をしている女性たちと活動しています。この八人の女性たちが二、三ヶ月先に学校給食の配膳契約が切れて更新する際に、再び契約を取ることができるよう、協同組合を作る支援をしたいと考えています。このようにすれば彼女たちは大きな国営企業のパートタイマーになる代わりに、フリーで働くことができるのです。そして学校の給食室を使って親が買って持ち帰り、冷凍庫に入れておけるような食事を作ることができるのです。パーティーのケータリングの仕事を始めて、子供のパーティー用や結婚式、その他地域のイベント用の食事を作ることもできるでしょう。地域の高齢者や障害者向けに、週に三回、お昼に温かい食事を家まで運ぶ「食事宅配サービス」を提供する契約の入札にも参加できるでしょう。そして学校の生徒には授業のカリキュラムの中で、料理やケータリングについて学ぶ機会を提供することもでき、カリキュラムの幅を広げることに役立てるでしょう。

私たちは新しいデジタル技術を、「Digital Story telling (デジタル・ストーリー・テリング)」プロジェクトに活用したいと考えています。学校の生徒が地域のお年寄り、おじいさん、おばあさんや近所の人、おじさん、おばさんなどの所へ話をしに出かけ、そこで地域の歴史を記録するのです。例えば1930年代の不況の頃の生活についてや、たいていの人が地下一マイルのところで石炭を掘っていた「古き良き時代」の思い出話、或いはそれぞれの村に小さな学校があって年齢の違う生徒たちが一緒に教わっていた頃、鉛筆や紙ではなくて石版に書いて勉強していた頃の話などです。このような、口で語られた思い出は、貴重な地域の歴史的遺産となりますし、若い人々がお年寄りの思い出話に興味を示すことで、お年寄りたちは孤独を感じることが少なくなり、自分たちが大切にされていると感じることができます。私たちはこのプロジェクトが世代間の対立を減らし、コミュニティーの高齢者が感じている犯罪への不安を減らすことに役立つと期待しています。

「Helping Hands (助け合う手)」は約10人の失業者のために仕事を作るプロジェクトです。失業者たちは、コミュニティーに出かけていって退院したばかりの人や高齢者、身体障害者などのためにちょっとした仕事ができるように、必要な道具や交通手段を提供してもらいます。仕事の内容には、目がほどけてしまったカーペットを、家の中で事故が起こらないように修理するとか、高齢者がもっと安心して暮らせるように玄関のドアに安全錠やのぞき穴をとりつけるとか、芝生を刈ったり生け垣の手入れをしたりして庭をいつもきれいにしておくとか、壁の落書きを消して街をいつもきれいに、きちんとしておくなどがあります。これは、仕事を作るだけでなく、人々の健康によい影響を与え、事故が起こるのを最小限に押さえ、より安全で健康的なコミュニティーを作る手助けにもなります。

「Children’s Warehouse(子供のためのがらくた倉庫)」は、企業が出したごみ、例えば紙、プラスチック、布、カード、ボタン、チャック、壁紙などの、製造や包装の際に余ってしまったものなら何でも、集めるプロジェクトです。このような「がらくた」を寄附する企業は、これを産業廃棄物処理場へ持ち込むとお金を払わなくてはならないことがよくあるので、このプロジェクトへ寄附をすることでお金を節約しているわけです。このようにして集められた材料は地域の子供たちのグループに利用され、児童保護施設の若者たちが美術工芸活動の材料として無料で使うことができるようになっています。ですからこれは創造的な遊びや学習を支援することになり、同時に、ともすれば環境を汚染することになってしまう資源のリサイクルもしているわけです。「CAPITALプロジェクト」では、地域の子供たちによるプロジェクト活動を支援するために、学校のキャンパスで「Children’s Warehouse(子供のためのがらくた倉庫)」を始める予定です。最初はパートタイムの仕事が少しあるだけでしょうが、地域の人々のためにフルタイムの仕事ができ、続いていく可能性もあります。

以上は仕事を作り出す手伝いをしている地域プロジェクトの例ですが、これらのプロジェクトは他にも地域のコミュニティーに様々な点で利益をもたらすものとなるでしょう。私たちは、地域に、更に活力にあふれた文化が生まれるために役立ちたいと考えています。人々が自分たちの未来にもっと責任を持ち、自分たちの幸福と将来への見通しを一つの強力な企業や国に依存することが少しでも減るよう願っています。

CANと保健省の改革プログラム
CANは保健省と共同で保健サービスをより進取的で創意に富んだものにするプロジェクトの開発にも取り組んでいます。私たちはピーターリーの学校の例とCAPITALプロジェクトの例を使って、学校と起業家とがコミュニティーをより安全で健康的なところにするためにどのような支援ができるかを紹介したいと考えています。更に、ニューカッスルの社会企業センターの企画を発展させ、私たちの社会企業プロジェクトが、より優れた、かつ創造的な保健サービスの提供に一役買うことを期待しています。ここで基本的なことは、失業者は非常に多くの場合、就労者に比べて健康状態が悪いと言うことです。失業者はうつ症状を示す傾向が高く、食事も悪くなりがちで、社会生活にも制限が多く、休日も少ないのです。私たちはニューカッスルの一地域の例を挙げて、仕事のために研修を受ける機会を得たり、地域のボランティア活動に関わったり、コミュニティー企業活動に参加したりすることが、どんなに人を健康的にし、またコミュニティーをも健全なものへと変えていくことができるかを紹介したいのです。関節炎などの慢性病に苦しんでいる患者や、定期的に人工透析を受ける必要のある病人に、自分自身の治療計画にもっと責任を持つことでどんなに自分の体の健康を改善することができるか、そして精神的な健康や幸福感にもよい影響を与えるかを伝えたいと考えています。私たちはより積極的なコミュニティーほど、国にとっては失業や医療(予防と治療の両方)に関わる費用がおさえられる健全なコミュニティーであることを示すために、その証を集めたいと考えています。

CANと日本の社会起業家のための交流プログラム
ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、私はイギリスのCANの同僚や、リンクス・ジャパンのフィリダ・パーヴィス女史とともに、日英両国の社会起業家のための交流プログラムを始める活動をしています。私たちは日本の社会起業家の小さなグループが来年の七月にイギリスを訪問し、CANの会員と会ってイギリス各地の様々なプロジェクトを視察するための資金を募りたいと考えています。これは両国の積極的かつ想像的な人々がお互いに多くを学べるよう期待し、また、将来それぞれの国で更に活力あるコミュニティーを作るための共同活動の可能性を大いに期待して進められています。私は日本NPOセンターと、そこで働くファン・リー氏に、国際交流基金への財政支援の申込書を準備するに当たり、助けていただいたことを、大変感謝しております。私たちは近い将来、グレイトブリテンササカワ財団と大和日英基金にも支援を申し込むつもりです。日本の起業家の、イギリスへの最初の交流訪問は、2003年の7月に予定されています。そしてイギリス側の社会起業家の日本訪問は2004年の7月となる予定です。

終わりに
最後になりましたが、ここまで大変我慢強く、そして共感を持って聞いて下さった皆様に感謝いたします。皆さんとともに社会企業を進めていくことについて考えることができ、大変嬉しく思います。また、皆さんも私の話から何かをつかんで下さったものと期待しています。繰り返しになりますが、私は今日皆さんとお話しする機会を持てたことに非常に感謝しています。もし何かご質問があれば、今この場でも、或いはあとで個人的にでも結構ですから、どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい。今後インターネットを通じてコンタクトをとり続けたいという方はどなたでもこちらのアドレスに連絡いただけますようお願いいたします。

最後に申し上げたいのは、二十一世紀の始まりにおいて、「第三」セクターに関する課題はたくさんありますが、私が感じる限り、イギリスでは新しい風潮が見られるようになってきたということです。おそらく日本でも同じなのではないでしょうか。それは普通の人々が壮大なアイディアを発展させて偉大なことを成し遂げ、自分たち自身の未来にもっともっと責任を持つために、支援を受けられるという考えに共感する風潮です。第三セクターで活動する私たち全員に、この目標を達成する役目を果たす大きなチャンスがあります。私は、ここにいらっしゃる方すべてに、皆さんがNPO(非営利)セクターでさ

ジョン・スモーリー氏プロフィール

North East地域 CAN 所長
North East Regional Director of CAN
1967年、ケンブリッジ大学卒業。英国の私立、公立両方の学校で英語教師としてのキャリアを積む。1970年代前半、シンガポールのインターナショナル・スクールに勤務。その後、オクスフォード大学教育学部にて学び、教師のトレーニング、生涯教育(further education)等に従事する。1997年イングランド部の生涯教育機関の副校長を早期退職。その後ボランティアセクターに積極的に関わり、1988年地域の組織であるイースト・ダラム・パートナーシップを設立。1997年以降これらの経験に基づき、コンサルタントビジネスを始め、ボランティア組織にアドバイス、カウンセリング、サポートを提供。CAN(コミュニティ・アクション・ネットワーク)のカウンセリング業務を経て、1999年CANの北東地域責任者に就任。以来、イングランド北東地域の起業、コミュニティ・プロジェクトの発展に寄与し、現在は、ソーシャルエンタープライズプロジェクト、及び大規模なコミュニティ再生プロジェクトに従事する。ソーシャルエンタープライズゾーンの開発のための戦略を提言し、社会起業家の日英交流プログラムの推進に力を注いでいる。