日英シンポジウム2002「日英協同で進める地域における障害者・高齢者支援」
Seminar on Japan/UK Collaboration for Reinvention of an Inclusive Community
日本におけるディスレクシアの問題点
加藤醇子
クリニックかとう
ディスレクシアの問題点 (パワーポイントによるプレゼンテーションより)
教育現場におけるLDの状況
米国
- 学童の10%~15%にディスレクシアの症状。
- IQは通常85以上。
- 特殊級の7割はLD。利用児は日本の10倍以上。
日本
- ADHDとLDの混同。
- 軽度精神遅滞や自閉をLDと捉え勝ち。
- 社会性の指導に重点。
- ディスレクシアなどの学習に問題が出るLDは一斉授業の中で問題にされない。
ある小学校普通学級の例
2クラス(約70人)のうち
- 行動面で問題
8~12人 - 書き障害の疑い
10~12人 - 明らかな読み障害+ADHD症状
1人→実際には、ディスレクシアはかなり存在する?
ディスレクシア-日本語と英語
- 英語圏では音韻意識(Phonological Awareness)の困難さや呼称課題RAN(Rapid Automatized Naming)の困難さを重視
- 平仮名、片仮名は文字と音が1対1なので、読みを獲得しやすく、漢字は読みが不規則なので読みは困難で、書字は更に困難である
- 能力が高いと簡単な文は読めるようになる→一斉授業では発見が難しい
- 第2外国語としての英語の困難さ
音韻意識の発達
Phonological Awarebess
Goswami,U
- 音節Syllable Awarenessの発達
- 音韻Onset/Rhymeの発達
- 音素Phonemeの発達
Wydell,Tらの仮説
- 言語文化によるディスレクシアの頻度の違いについての仮説
- Granularity and Transparency粒性と透明性
- 文献:Taeko,N,Wydell&Brian Butterworth Cognition 70(1999) 273-305
診断・評価の問題点
日本では、語彙、書字、読字など全てに適切な、統計的に標準化された検査がない。
- 語彙・・・年齢別標準化が必要
・小児特有の語彙の発達状況
・語の親密度(日本語語彙データーベース)
・学習指導要領など学校での指導内容 - 音韻意識に関する検査の標準化が必要
ディスレクシアの医学的定義の問題
- DSM-IV/IVTR(米国精神医学会診断基準)
Reading Disorder:読みの正確さと理解力。
書字については言及していない。 - ICD-10(WHO診断基準)
読解、語の認知、読字・綴字に焦点。
症状や経過の特徴にも触れている。 - いずれも標準化された検査と学業や日常生活への支障度を視点としている。
ADHDを伴うディスレクシア13例
- 側頭平面PTの対称?3例、くも膜下のう胞2例、側頭・後頭白質の髄鞘化障害5例
- 音韻(音節)意識の遅れ9例中7例(1音抜かし、逆唱、無意味語)
- 心理評価WISC-R及びWISC-IIIでは、VIQが高い例もPIQが高い例もVとPとの差がない例もあり、その殆どに音韻(節)障害がみられた(1996 加藤)
機能磁気共鳴(fMRI)
成人では成果。
小児へは技術的、課題に多くの困難。
- 装置の巨大さによる圧迫感・恐怖。
- 習熟した技術者の必要性。
- 放射線科の管理下⇔神経心理学への理解。
- 黙読が必須→顎が少しでも動くと不可。
本当に読めているのかの問題 - 課題設定の困難さ
語や文の選択(標準化されたものがない)
→「DOG」・・・英語として読みが出来なくても暗記して犬と理解してしまうとウェルニッケ中枢が活性化される
指導の工夫
日本には、まだ良い指導法が開発されていない
- 苦手な部分の負担の軽減
→読みが苦手な場合、読んであげるなど - 学習形式の多様性
→体験学習やパソコンソフトの利用など 例:DAISYソフトで情報を吸収させる教材を作成する - 英語対策 例:LEXIAソフト
研究 - 現在の予定
- 音韻(節)意識Syllable Awarenessの一連の検査
- 漢字RANと平仮名RANの作成、普通児・ディスレクシア児での検査
- 語彙の検査
→日英協同検査の可能性・研究費? - DAISYソフトでの教材作成
加藤 醇子氏プロフィール
加藤クリニック院長
横浜市立大学医学部卒。関東逓信病院・伊豆逓信病院(現、NTT東日本病院)にて、LD、自閉症診療。その後、横浜市南部地域療育センターにて、障害児の診療、及びLDグループ指導、更に小児療育相談センターに勤務、LDグループ指導、及び平成4年LD懇話会かながわ(各職種の人たちの勉強会、情報連絡)運営。平成7年横浜市緑区に診療所開設、LD発達相談センターかながわ(NPO機関。LD・高機能自閉・ADHDなどの子ども達の個別指導、小グループ指導の場)設立。平成14年クリニック川崎に移転。LD学会及びIDA会員。