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日英セミナー「障害者のためのソーシャルインクルージョン」

大阪府とマリリン・ハワード氏の意見交換会

英国におけるコミュニティー・ケア

はじめに

2003年11月26日に大阪府庁健康福祉部で行われたマリリン・ハワード氏の「英国におけるコミュニティー・ケア」についての講演は、活発な議論をまじえながら展開された。以下は、その会談の記録である。

参加者プロフィール

マリリン・ハワード
1978年レスター大学卒業。1990年ノッティンガム大学社会福祉学部修士号取得。現在、社会政策アナリストとして、さまざまな大学、ボランティア組織、シンクタンクのための研究や助言を行っている。また、政府の雇用審議会における障害者政策アドバイザー、障害者雇用諮問委員会委員、障害者のためのニュー・ディール全国普及委員会およびジョセフ・ローントリー基金などの研究諮問委員をしている。これまで、障害同盟および王立障害・リハビリテーション協会の政策役員、アラン・ハワース下院議員の専属研究員、英国議会の二つの特別委員会のアドバイザーなどを歴任。また、有資格のソーシャル・ワーカーであり、これまでコミュニティー・ソーシャルワーカー、福祉人権アドバイザー、保護観察官として勤務してきた。最近の研究テーマとしては、国および民間の就労不能手当における女性の受給状況といわゆる「自分の病気に詳しい患者(expert patient)」である関節炎を患っている人々に対する障害者手当の影響について調査している。さらに、政府の実施している障害者のためのニュー・ディール政策における個人相談サービスの影響を分析する研究コンソーシアム委員でもある。(フラバラ大学が事務局を担当)

大江晃氏
大阪府健康福祉部障害保健福祉室在宅課長

平井啓一氏
大阪府健康福祉部地域保健福祉室地域福祉課主査


平井氏:社会政策アナリストとしてフリーで活動しておられるとお聞きしました。
ところで、日本の場合は、社会保障の関係でだいたい経済学の先生などが提言などをされるのですが、イギリスの場合は、社会政策アナリストという確立した職業があるのですか?

ハワード:私は自営(Self-employed)でやっています。独立して仕事をしている人というのは多くいますが、フリーランスで政策分析の仕事をする人は、そんなに多くはないです。多くの人は大学で勤めています。英国には、大学と別個のシンクタンク、政府と別個のシンクタンクがあって、そのなかには、政策分析の仕事をする人がいるのです。フリーランスでこの仕事をする人もいますが、あまり多くはないです。
多くの障害者などが自営(self-employed)で仕事をしているのは、たぶん英国だけではなく日本でもそうだと思います。英国では、いま、雇用者やソーシャル・ワーカー啓発のためのトレーニングをたくさんしています。

平井氏:わかりました。

ハワード:私のやっている仕事は、大学の仕事もありますし、シンクタンクや障害者関連団体、たとえば聴覚障害者協会などNGOの仕事もあります。

平井氏:大学では教鞭をとっておられるのですか?

ハワード:いえ。大学では、リサーチをしています。教えてはいません。

大江氏:では、はじめましょうか。

英国におけるヘルス・ケアとソーシャル・ケア

ハワード:まず、英国のヘルス・ケアとソーシャル・ケアについてお話します。
英国には、2つの別個のシステムがあります。伝統的な大まかな区分ですが、まずヘルス・ケアがあります。国民医療サービスというのがあって、これは国民全体からの税金でまかなわれています。そして、病院、医者、セラピストなどが必要なときに無料で利用できます。
それから、もうひとつのシステムが、ソーシャル・ケアで、地方自治体による家庭内での日常的な介助や在宅ケアです。地方政府は、ソーシャル・サービス部門を管理しています。それは政府の補助金と、地方政府の裁量で値上げができる地方税の一部でまかなわれていますが、パーソナル・ヘルプの利用に際して、利用者は低所得の場合でも費用を支払わなければなりません。私たちは、家計調査に基づいているものだと言われています。つまり、医療は無料で、ソーシャル・ケアについては費用を支払わねばならないということです。
以上が、英国のコミュニティー・ケアの背景として重要なところです。

平井氏:ナショナル・ガバメントとローカル・ガバメントというのがありましたけど、ナショナルは国で、ローカルは、地方自治体ということですか?

ハワード:ナショナル・ガバメントは、ヘルス・ケアを扱っていて、全国をカバーしています。ロンドンの公務員によって管理されています。
ローカル・ガバメントは、町ごとにあって、人々の投票によって代表を選出し、町ごとにそこで働く公務員がいます。そして町ごとに、独自のソーシャル・サービスを運営しています。けれどもヘルス・ケアは扱いません。政府は、これこれのサービスに使うようにというかたちで、自治体に補助金を出しますが、その範囲内でどのように使うかは自治体の裁量にまかされています。また自治体は、税金の値上げによって資金を捻出することもできますが、人々は、地方税の支払いをしたがりません。

平井氏:わかりました。

ブレア政権の戦略

ハワード:ナショナルについていえば、英国内でも、1997年のトニー・ブレアの選出されたのを境に違いがあります。いくつかの英国の地域は、かつて政府が持っていたある種の権利を委譲されるようになりました。スコットランドでは、ヘルス・ケアについても運営がまかされています。もちろん、ソーシャル・サービスについてもです。ですから、スコットランドでは、独自の議会があって、イングランドとは違う採択をしています。スコットランドでは、いま、高齢者や障害者のパーソナル・ケアは、無料です。イングランドでは、いまだにソーシャル・ケアについて依然として費用を支払っています。ですから、イングランドとスコットランドで、興味深い差異の構図がみられるわけです。

それから、英国が、その他のヨーロッパ諸国と異なっている点は、失業保険や年金などの、個人に受給される社会保障(ソーシャル・セキュリティ)が、政府によって管理運営されているということです。地方自治体のソーシャル・ワーカーは、伝統的にサービスやアドバイスを提供するのみで、お金を扱うことができません。国家がお金、地方自治体はサービス、という考え方です。他のヨーロッパの国では、ソーシャル・ワーカーがそうした保障金を支払うことができるのですが。

コミュニティーによるコミュニティー・ケアへ

次に、コミュニティー・ケアの歴史についてお話します。1970年代から80年代にかけて、多くの人々が、在宅ケアを受けるようになりました。たとえば高齢者、精神障害の人々、知的障害者などです。国の社会保障の予算が、そうした在宅ケアにあてられるようになりました。費用に手当金がついているので、コミュニティーが支援している居住施設に入るより、在宅のほうが安いということになります。そういうわけで、1990年に、コミュニティー・ケアと呼ばれる改革がありシステムが変わりました。今は、地方自治体のソーシャル・サービス部門が、コミュニティー・ケアの運営をしていますが、人々のニーズに会うかどうかの査定を行って、コミュニティー内で、施設への入居が本当に必要かどうかなどの確認をします。

今、英国では、在宅ケアを提供するプライベート・セクターやNGOなどのボランティア団体が増えてきていて、地方自治体がそれらを査定するようにしています。
つまり、現在、地方自治体は、施設よりも、在宅ケアについて考える必要が出てきたということです。

1970年代から80年代には、大きな精神障害者の人々が入所する大きな病院がいくつもあったのですが、1990年代に、それらが閉鎖してしまいました。コミュニティーで保護を受けることができた人もいましたが、結局、ホームレスにならざるを得なかった人々もいます。
ですから、新政策によって、救われた人々もいますが、必要な支援が受けられなくなってしまった人々もいました。
在宅ケアは、手当金でまかなわれていて、大きな施設は政府のソーシャル・ケア制度から支払われています。いまや、政府の地方自治体が必要な組織をもっているので、手当を支払うだけの政府では頼りにならないといった状態です。

大江氏:今までのところで、日本のことをご説明します。日本は、伝統的に中央集権の国で、国が政策決定をして、全国一律に平等に施策を行っていましたが、いま、まさに変わろうとしているところです。
サッチャー政権のときに、イギリスで地方分権が進んだ中で、イギリス的な社会保障のあり方というものが、世界の中でもあるべき姿であると考えられてきました。それを、日本としても大きく参考にしてやろうとしているわけです。

ハワード:ええ、そうですね。自己決定といいますか、個人が、自分の必要な支援を県かどこかに申請するというのがあると聞いたのですが、それはどのようなシステムですか?

大江氏:日本の障害者の施策は、第二次世界大戦後、1950年からはじまって、実は、今年の4月まで同じシステムでやってきました。つまり、行政がサービスの内容を決めて、サービスを提供する相手も決めるというのが、約50年間続いてきたわけです。今年の4月から今、おっしゃったように、利用者のほうが、行政に自分が受けたいサービスを申請して、行政がそれを決定すれば、自分で、そのサービスを提供してくれるところを探して、そこと契約するという、そういうシステムに変わりました。

ハワード:申請について、行政が決定する内容とはどのようなものですか?

大江氏:障害者が、ホームヘルプ・サービスを月50時間ほしいのだ、という申請をするとします。申請は、大阪府、県ではなくて、市町村にするのですが、市町村が、その内容が適当だと認めれば、そのサービス、月50時間のホームヘルプ・サービスが受けられるわけです。そのお金は、行政からでます。お金は、国も府も、市町村も、三者が分担して出すことになっています。
そのコミュニティー・ケアに相当するもののお金は、国が二分の一、府(県)が四分の一、市町村が四分の一、という負担の割合になっています。これはイギリスのかつての姿と同じだと思いますが。

ハワード:そのとおりです。利用者は、どのようにして、自分のニーズを決めるのですか?なにか、申請に際して決まったフォーマットのようなものがあるのでしょうか?

大江氏:ええ、フォーマットがありまして、市町村のほうに、利用者は、自分の受けたいサービスを申請します。サービスの内容は、在宅サービスですと、ホームヘルプ・サービス、デイ・サービス、それからショート・ステイ、グループ・ホームの四種類があります。グループ・ホームというのは、4~5人でいっしょに共同生活することですね。
それから施設サービスは、施設への入所と通所です。
在宅サービスと施設サービスはいっしょには選べませんけど、在宅サービスの中では複数、選択できます。たとえば、ホームヘルプ・サービスとデイ・サービスを選んだりなどができるわけです。
今年の4月から、障害者が自分で選択して、自分で決定するというふうなシステムに変わりましたので、去年のサービス利用と比べて、在宅サービスの利用が約1.5倍に増えました。やはり、このことは、障害者が、自分自身で自立して生きていこうという意識の高まりを示していると考えます。

ハワード:そうですね。英国では、政府が、地方自治体で査定が必要なときに使うべき指標リストを作っています。以前は、自治体ごとの基準で査定をしてきたのですが、いまは、標準的な査定基準があるのです。法律上では、地方自治体が、ふさわしいニーズを認定しなければならないのですが、不服な場合、申請者は最高裁判所に対して訴訟を起こすなどをしてきました。けれども、いまは、地方自治体が、予算に合わないなどの理由で、申請についてニーズに合わないと判断することができるようになりました。

大江氏:イギリスの場合は、障害者に対するケア・マネージメントというのは、制度として確立しているんでしょうか?つまり、障害者がサービスを受けるときに、ケア・マネージャーという資格を持った人がいて、その人が、その障害者の受けるべきサービスの内容とか量などを決めるというような制度を、イギリスはもっているんでしょうか?日本の場合は、いったん国が、そういうものをつくろうとしたんですけど、まだ完全にできていないんです。

ハワード:ええ、ケア・マネージメントのシステムはあります。

大江氏:同時に、高齢者のサービス、介護保険の場合は、ケア・マネージメントというシステムが確立したんですけども、この4月から新たにはじまった障害者の分野については、いったん国がやろうとしたんだけれども、まだ制度として確立していないんです。

ハワード:それで、障害者のケア・マネージメントのシステムについての今後の見通しはどうなのでしょうか?

大江氏:ケア・マネージメントの手法を勉強するために、大阪府が研修会を開いて、福祉に携わる人たちに研修はしているんですけれども、それがひとつの資格として確立してないんですね。介護保険の場合は、資格が確立して、そのケア・マネージメントすることで、収入が得られることになっていますし、制度のなかでも、介護保険のサービスを受ける利用者は、ケア・マネージメントを受けなければならないと決められているんです。

ハワード:なるほど。また、のちほどいろいろ議論はするとして、先に進めましょう。
1997年以降のトニー・ブレア政権では、かつての政策を続行した部分もありますが、同時に、新しい施策もありました。1998年の政府白書によれば、障害者や高齢者の自宅介護を推進している地方自治体に対してさらに予算がつきました。同年、ケアラー(介護者)のニーズに注目した国家政策が立てられました。英国では、介護者というのは、家族や友人などが無償で行っている場合が多いのです。日本でも、障害者に対して、家族の介助者となることが多いと思いますけれど。その政策というのは、職業従事に対する介助や、高齢者の世話などの支援の仕方についてのもので、介護者を支援するという考え方です。それによって、高齢者介護のために仕事をやめるかどうかの選択に迫られることなく、介護をしながら、仕事も続けることができるようになったのです。
たとえば、病院の予約をとったとか、被介護者が病気になってしまったなどのときには、休日がとれるようになっています。

政府は、地方自治体に対して、コミュニティーの在宅者を増やす方向で奨励していて、自治体を、星つきで評価するようにしています。よい自治体には、三ツ星がつくというかたちで、星の数の多い自治体は、多くの補助金を得ることができることになりました。こうしたことは、あたらしい施策の一部です。

かつての施策で、個人経営の供給者の利用などについては、新政府でも継続されましたし、それについて、国からさらに多くの予算がつくようになりましたので、在宅ケアを受けている小規模なグループは、1980年代以後の制度変更後も、引き続き介護を受けることができました。制度変更後、地方自治体が、そうした介護を引き受けているのです。

さて、次に、ヘルス・ケアとソーシャル・ケアのよりよいパートナーシップについて、お話します。先ほどお話したとおり、国が医療で、地方がソーシャル・ケアという区分がありますが、いまは、医療と、ソーシャル・ケアの両方から予算を出しあって、たとえば、政府は、家族に介護者がいない高齢者を支援することで、病院のベッドを、本当に必要な患者が、迅速にサービスを受けられるために確保しようとしています。できる限り、コミュニティーで、介護を受けられるように支援を進めています。

次に、政府が、進めている政策で、コミュニティー・ケアに対して影響を与えた政策の考え方について、お話します。
トニー・ブレア政権は、「第三の道」と呼ぶ試みで、民主主義や、局所的な市民権についての興味を活性化させるかわりに、コミュニティーのあるべき姿を追求しようとしています。英国では、多くの人々が地方選挙に行きますが、国家規模の選挙の投票率は下がっていますが、これは、こうした政策によって、人々が地方に関心を高めていったことの現れだといえます。

ソーシャル・サービスに関していえば、地方自治体や、在宅支援をする地域のコミュニティーへの関心が再度、高まっています。無償のボランティアについても、単に個人的な介助をするだけではなくて、コミュニティー全体に対して支援するようなかたちに強化しようとしています。このシステムには、利用者と、それを査定する者とが含まれているので、いま、政府は、そうしたサービスを管理する基準を必要としているのです。
というのも、いまや地方自治体が、より積極的で実際的な支援が行える方向にむかっているからです。

個人の権利拡大

政府はまた、個人の権利拡大ということにも関心を持っています。たとえば、個人が決定をするなど、ですけれども。現在、英国では、地方のソーシャル・サービス部門が、提供されるサービスに対して査定するのではなくて、個人に現金を支給できるシステムを持っています。労働年齢の障害者を対象としてはじめましたが、いまは、若年層や、65歳以上の高齢者も含まれています。政府のヘルス・ケア部門が、地方自治体管轄地域のいくつかのNGOに対して、個々人の受給金管理を支援するための助成を行いました。というのも、現金を受給した個人は、その結果、自らが個人的支援の管理者となったわけですが、それで、受給者は、国民保険の控除を受けたりできるようになって、たとえば、病気であるために働けないような人の、疾病手当として、休暇をとることができるなどですね。地方自治体の支援計画というのは、しばしば、障害者自身によって管理されるわけですが、それで、どのようにしたら賃金控除を受けられるか、どのようにしてよい管理者となれるか、などについて、アドバイスをするものです。
こうしたことが、ここ数年でめざましく発展した、非常に新しい政策です。

次にこのトピックの最後のポイントについてお話します。先ほど、星による格付けについてふれましたが、現在、地方自治体は、包括的な実績査定というものを受けねばならなくなりました。したがって、地方自治体は、提供するすべてのサービス、ソーシャル・サービスだけではなくて、すべてについて、定期的に評価、査定を受けなければなりません。それらのサービスを利用する個人も、いまや、そうした地方自治体の実行能力についての査定のシステムに含まれています。

平井氏:三ツ星という制度は、今、日本で行われようとしている第三者評価に似ていると思う。

「公共サービス改革」とコミュニティー・ケア

ハワード:トニー・ブレア政権のその他の関心事として、公共サービス改革があります。これも、「第三の道」の一部ですけれども。英国では、良質のサービスを提供できるように、政府は、サービスの国家基準を定めています。今、地方自治体が提供するさまざまなサービスの査察のための組織が立ち上げられています。これによって、地方自治体のサービス提供者が、適正基準にみあったサービスを提供しているかどうかを確認するのです。

他にも最前線に派遣された代表団があって、個人は、公共のメンバーと交流することができます。英国では、誰かのニーズにどのようにして応えるかを決めることについても、自由の考え方があります。

第三の原則は、提供されるサービスにさらなる柔軟性と改革をもたらすために、政府は、NGOや民間団体などを使うことに関心を寄せています。

第四の原則は、提供者の選択や、サービスの選択といった、個人の選択です。新しい考えのひとつに、国家による公共所有にかわって、コミュニティー・オーナーシップというのがあります。
英国では、いまでも議論を呼んでいるものですが、政府は、先のコミュティー・オーナーシップとして、財団による病院を設立しようとしています。国家政府が病院を経営するのではなくて、地方のコミュニティーのメンバーや、地方自治体のメンバーなども、そして利用者が、独自の委員会を組織して、自分たちが選びとったやり方で病院を経営するという考え方です。厚生省から独立して、それと別に監督機関をもったものとして。

それから政府は、地方自治体のより多くのサービスをNGOと契約することに関心をもっています。社会企業というものですが、これは、ビジネス組織でありながら、社会的な目的を持ったものです。したがって、利益を得ることが必須であるわけはありません。民間団体とNGOの中間ぐらいに属する考え方といえるでしょうか。

平井氏:これはすでに施行されているものですか?それとも、理想的な目標でしょうか?

ハワード:これは、まだ理想目標にすぎません。いまだに国会にかけられていて、非常に論議を呼ぶ論点となっています。私は、通過するとは思っていますが、議論が絶えない状態です。というのも、英国では、国民健康保険は、国家の管轄するものという考えがありますから。

ところで、サービスが公共機関ではなくて、民間団体やNGOによって提供されている場合に、サービスの水準が、質の高いものであるかどうかを監査するシステムというのは、日本ではどうなっているのでしょうか?
いま、英国では、どのようにするのが最もよいかということが議論されているところなんですけれど。

大江氏:障害者の分野でいえば、たとえばホームヘルプ・サービスの提供については、今年の4月からシステムが変わったといいましたけれども、サービスを提供する主体も大きく変わりまして、今までは市町村とか、社会福祉協議会が中心だったのですけれど、それに加えて民間の社会福祉法人であるとか、株式会社、NPOなども、サービスの提供者になれるようになったのです。それで、そのために、一定の基準を設けて、その基準をクリアしているかどうかを判断する権限は、大阪府(県)がもっています。基準をクリアしていれば、それを正式に指定して、事業ができるようになるわけです。その後は、指導、監査によって、適切なサービスを提供しているかどうかとか、お金の使い方に不適切な点がないか、というチェックは我々(大阪府)がしています。

第三者評価の話をあわせてしたほうがいいでしょうね。

ハワード:第三者評価というのは、なんでしょうか?

大江氏:事業者について、客観的なところが、客観的に、評価をするということなんですが、事前に、事業者が、独立した機関に審査をしてもらって、Aランクとか、Bランクとか、Cランクとかの評価をしてもらって、その結果を、みんなにオープンにして、サービスを受けたい人が選ぶときに、それを参考にするという制度です。病院の関係では、日本ではすでに導入されているんですが、社会福祉の分野については、導入に向けて準備中です。
評価主体が、行政からも、サービス提供者や利用者からも独立しているということで、第三者評価と呼んでいます。

ハワード:イギリスでは、ランク付けは政府がやりますが、やはり出版という形で公表して、利用者が参考にできるようになっています。

大江氏:障害福祉の分野では、いまは在宅福祉のほうに力を入れているんですが、伝統的には、施設の福祉が主流だったので、施設の経営者は、社会福祉を担っているのは自分たちであるという強い自尊心があって、なかなか第三者評価というのには馴染まないというか、反発があるという問題もありますね。

ハワード:そうですね。英国では、地価が劇的に上がったところがあって、オーナーが、施設を手放して売ってしまうという事態が起きました。

大江氏:日本の障害福祉も、施設中心から在宅福祉へと大きく流れているというのは、施設で、30年も暮らすということになるのは、よくないということで、在宅のサービスを充実させて、地域で生活できる方向に変えようとしているわけです。

さきほど、イギリスで施設を閉鎖してホームレスが大量に発生したというお話がありましたが、イギリスでは、施設と在宅サービスのバランスというのは、どんなふうになっているのでしょうか?

ハワード:1980年代に、ホームレスの問題が起きました。1990年代に施設が閉鎖したときに精神障害の人々がホームレス化したということがあります。しかし、現在、英国ではホームレスの数は、たいへん少ないです。コミュニティー・サポートがあるので、独立して自宅で生活できる人はいます。けれども、精神病については、いまだに不名誉なこととする強い観念があるので、危機的状況に達するまで援助を求めることができない人がいるということはあります。街で、ホームレスをみかけないことはないとしても、支援整備によって、だいぶ減ったといえます。

英国では、施設よりも、在宅ケアを奨励しています。とくに精神障害者の場合ですが。コミュニティー・ナースが定期的に訪ねていくなどして、医療支援をしています。
典型的な例として、フランク・ブルーノというボクサーの話があります。彼が障害者になったときに、いくつかの新聞は非常にネガティヴな見出しで報じましたが、彼の精神障害に対して、尊厳をもって世話を受けるべきだ、という報じ方をした新聞もありました。ですから、まだまだ長い道のりではありますが、英国は、いい方向に向かっていると思います。

問題点と今後の方向性

ハワード:まず最初の点ですが、日本でも同じだと思いますが、英国では、高齢者の割合が増加してきています。人々の高齢化と、長寿化にともなって、ヘルス・ケアとソーシャル・ケアに対する要求がますます高まっていくことでしょう。従って、英国では、増え続けているヘルス・ケアやソーシャル・ケアの費用を、どのように調達するかについて議論されています。なんらかの保険システムもありますが、いまだに税金によってまかなわれているヘルス・ケアが中心です。人々は、在宅でソーシャル・ケアを受けるときのように、もっと支払う必要がでてくると思います。この点が、今後も大きな課題となっていくことでしょう。

先にお話しました個人に対して、ケア・サービスを提供するかわりに、現金の直接支給をするというのは、まだ小規模なもので、英国全体で、7000人ほどにすぎませんが、今後、増えていくと思います。政府は、精神障害者、知的障害者を含めた多くの人々に対して現金支給を進めていく予定でいます。今後、増えていくことになるでしょう。

その他の将来の課題として、ソーシャル・サービスを含めた公共サービスが、いま法律によって、あらかじめ利用者のニーズに見合うように整備されるようになってきています。来年には、そのサービスを利用する障害者や高齢者が直面する身体的なバリアに対して、できることを全てしなければならないということになっています。また、知的障害者や聴覚障害者、視覚障害者などのそれぞれの障害者のニーズを考慮し、それに応じたサービスを提供しなければなりません。たとえば、エレベーターのなかに点字情報を表示するなどのことです。このことは、地方自治体において、こうした事業を行っているNGOや民間団体にも同様に適用されます。

英国では、コミュニティー・ケアについて、実際に解決しなければならない問題が依然としてあります。地方自治体が、より多くのサービスを提供するために、NGOやソーシャル・エンタープライズと提携していくとすると、NGOのほうは、そうしたサービスを提供するために、さらなる資金とより広い組織の実行範囲を必要とします。現在は、多くのボランティア団体やNGOは、政府や個人との短期契約をしている状態ですが、それでは諸経費をまかないきれないのです。それで、NGOは、サービス向上のために、より長期の契約、だいたい20年くらいまでひきのばした契約を望んでいます。英国では、少数の民間企業だけが長期契約をしている状態ですので、NGOは、それと同等の契約をしたいといっているのです。

平井氏:ソーシャル・エンタープライズ(社会企業)の話が出てきましたので、大阪府の取組みについて説明させていただきます。大阪府では、ソーシャル・エンタープライズを支援しようと考えており、2003年度、2004年度の二年間にわたって、インターミディアリー(中間支援組織)を支援していくということを行っています。インターミディアリーは、直接、ソーシャル・エンタープライズをしている人ではなくて、ソーシャル・アントルプルナー(社会起業家)と大阪府との中間に立って、ソーシャルアントルプルナーの目線で、ソーシャルアントルプルナーを支援する組織なのです。そのインターミディアリー((特活)寝屋川あいの会)に対して支援するために、2003年度には、1000万円の予算を計上しています。
それと、個々のソーシャル・エンタープライズの人に対しては、ソーシャルアントルプルナー・ファンド(社会起業家ファンド)で、300万円の予算枠をとって、大阪府福祉基金のほうから助成するということを考えています。
この対談終了後、インターミディアリーにご案内します。

ハワード:これは、大阪府だけの試みですか?それとも、ほかの地域にも同じようなものがありますか?

大江氏:大阪だけです。これは日本初の試みなんです。

ハワード:このインターミディアリーですが、障害者が自分で経営している組織は含まれていますか?

平井氏:まだ含まれていません。しかし、大阪府でも地域福祉の課題を解決した実績のあるグループと、ネットワークを構成しており、そのなかには障害者のケアをするところも含まれています。

ハワード:提供されるサービスは、ホームヘルプですか?

平井氏:このインターミディアリーは、自分のところで、ホームヘルプ、家事手伝いもしています。

ハワード:大阪府が、支払っているんですよね?

平井氏:そうです。

ハワード:その支払いですけれども、どのようにして行っているのでしょうか?英国では、NGOや民間団体に支払うやり方としては、一定額をサービス提供者に支給する方法と、利用者が利用費を支払う方法と、二つの方法があるのですが、日本では、どういう方式でやっているのでしょうか?

平井氏:インターミディアリーに直接、支給しています。

ハワード:2年分まとめてですか?1年ごとにですか?

平井氏:1年ごとにです。

ハワード:それで、予算がかかったとしても増額はなくて、定額で、ということでしょうか?増える可能性もありますか?

平井氏:今の段階ではわかりません。日本の場合は、予算案は単年度主義で、一年ごとに決まっていくので、一概には言えないというところがあります。

ハワード:非常に興味深いですね。

大江氏:今日は、私どもの仕事に役立つ、たいへん貴重なお話をうかがえて、ディスカッションできましたことを、ほんとうに感謝しております。

ハワード:私も、この訪問で、いろいろ学ぶことがありました。お招きくださり、ありがとうございました。