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地上デジタル放送受信機の現状と活用例(大阪会場)
~利用者(視覚障害者)の立場から~

地デジ受像機のアクセシビリティに注目

(福)日本ライトハウス 点字情報技術センター編集主幹 福井 哲也

 

ありがとうございます。皆さん、こんにちは。日本ライトハウスで点字出版の仕事をしております福井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

今日私は全盲の立場から、地デジテレビ受像機のアクセシビリティについてお話ししたいと思います。デジタル放送の新しい技術で、例えば音声解説や字幕などが幅広く容易に付加できるようになったというのは、非常にすばらしいことですが、肝心のテレビ受像機そのものにバリアがあったのでは、私たち障害者はデジタル放送の恩恵にあずかることができません。その意味でこれは最も基本的な問題と言えると思います。

わが家では昨年末、テレビとディスクレコーダを買い替えました。テレビが三菱電機の LCD-20MX10S、ディスクレコーダが同社の DVR-BZ200です。三菱電機が、先ほど谷水さんが紹介された「しゃべるテレビ」を発売しているという情報を知って、それに飛びついたというわけです。

このテレビを手に入れまして、私のテレビの使い方というのはある意味で非常に能動的になりました。これまではたまに家族が新聞のテレビ欄を見て、こんなおもしろそうな番組があるよと教えてくれても、時間になったらそのことを忘れているというようなこともあったのですが、自分で番組表を調べられるようになって、これを見ようという明確な意志を持ってテレビをつけるようになりましたし、録画予約を生まれて初めて自分でするようになりました。

実はVHSのレコーダでも、視覚障害者に録画ができる機種というのが以前あったんですけれども、当時私は興味がなかったので、今回初めて録画予約をしてテレビを見ています。

では実際、どのようにして操作をしているのかをビデオでご覧いただきます。

これは自宅で撮ってきたビデオですけれども、ビデオの中では電子番組表の閲覧、視聴予約、それから番組をジャンルで検索すること、そして録画予約などをお見せしています。

「しゃべるテレビ」というのは番組表は読み上げますけれども、操作メニューは読みませんので、ジャンル検索など特にかなり強引にわかりにくい中で使っていることもあります。それと、先ほど谷水さんが紹介されたのは現在の最新機種なんですが、私が購入したのは一つ前のタイプのようで、しゃべる機能やその他の音が少し違っているところがございます。

ではビデオをお願いします。

 

【ビデオ(福井)】リモコンにたくさんボタンがありますけれども、今使いますのは上下左右の矢印キー、真ん中の決定キー、あとその右上に番組表ボタンがあって、一番右下の黄色いボタンこれが音声読み上げのときに使います。テレビの電源を入れます。ちょっと時間がかかります。これで電源が入りました。ここで現在の番組の情報を聞くために番組表ボタンを押します。そしてこのままではしゃべらないので、黄色のボタンを押すと合成音声が読み上げます。

 

【機械音声】NHK総合、1、大阪、大阪の中心で自転車ツアー……。

 

これで矢印の下を1回押すと次の番組にフォーカスが当たって、もう1回黄色を押すと情報を読み上げます。

 

【機械音声】NHK総合、1、大阪、NHKニュース7、3月9日月曜日午後7時ちょうどから午後7時30分まで……。

 

もう1回下を押して音声ボタンを押します。

 

【機械音声】NHK総合、1、大阪、クローズアップ現代、広がるかワークシェアリング、3月9日月曜日午後7時30分から午後8時ちょうどまで……。

 

例えばこの「クローズアップ現代」を視聴予約するとしますと、ここで決定キーを1回押します。そうすると番組内容というのになっていると思うんですが、何もしゃべりません。ここでもう1回決定を押すと、予約の画面に入ります。ちょうど視聴予約にフォーカスが合っているはずなので、もう1回決定を押します。

 

【機械音声】指定予約の登録を完了しました。地上デジタル放送、NHK総合、1、大阪、クローズアップ現代、広がるかワークシェアリング……。

 

このように確認ができるわけです。あとは決定を押してテレビを消しておきますと、予定の7時半になると自動的にテレビがつくというわけです。

では次に、番組のジャンル検索で、私の好きな落語の番組を検索してみたいと思います。矢印キーの上にあるメニューボタンをまず押します。これで画面にはいろんなメニューが出ていると思うのですが、この辺は全く音声化しません。これはもう丸覚えで下を3回、決定、下を2回、決定。これでジャンル検索に入ったはずです。この中いろいろ、ジャンルの選択肢が出ているんですけれども、これもあらかじめ全部読んでもらって点字の表にしています。下を9回押すと、これで劇場になっているはずで、右を1回押すと、その中に入って、下3回で落語のところに合っているはずと。この辺全くフィードバックなしでやります。で、決定を押す。左上の番組内容を押します。右下の黄色いボタンを押して音声を出すと……。

 

【機械音声】NHK教育、1、大阪、日本の話芸、落語、幾代餅、3月30日火曜日午後2時ちょうどから午後2時 30分まで……。

 

このように内容が読み上げられます。1回戻って1つ下を押して、また番組内容。これで次の番組の。

 

【機械音声】NHK教育、1、大阪、テレビ絵本、まんじゅう怖い、3月13日火曜日午前7時45分から午前7時50分まで……。

 

これで決定を押します。予約の画面になっているはずで、このままだと視聴予約にフォーカスですので、1回右を押して、この辺音声フィードバックないんですが、決定を押すと…。

 

【機械音声】HDMI1に接続されている機器に予約登録情報を送信します。よろしいですか。

 

確認が出ますのでもう1回決定でOKと。

 

【機械音声】HDMI1に接続されている録画機器に予約登録情報を送信しました。登録内容の確認や編集は接続機器側の予約一覧から行ってください。

 

それでは今度はディスクレコーダで録画した番組はどのように見るかというところをお見せします。形は似ていますが、今度はディスクレコーダのリモコンです。たくさんあるキーの中で矢印キー、決定キー、そして左上に再生リストというキーがあります。これを使います。まず再生リストというのを押します。そうすると、これでディスクレコーダからの信号でテレビが切り替わりましたけれども、画面には今、録画している番組の一覧が出ていて、一番新しいところにフォーカスが当たっています。このように最初の部分が少し早回しで音が聞こえるんですね。これを頼りに選んでいきます。下矢印キーを押すたびに次の番組になります。で、また違う番組、次の番組というふうに、頭の部分を聞いて、これかなということで決定をする。すると再生が始まるということです。

 

福井●ビデオは以上です。

このビデオではデモしていませんでしたけれども、一発録画とか番組ポーズという機能も、リモコンに専用のボタンがありますので、簡単に使えます。一発録画は、見ている番組をその場で録画を開始すること。番組ポーズというのは、番組の視聴を一時中断してレコーダに録画しながら追いかけてそれを見るという機能です。

なお、ディスクレコーダには音声読み上げ機能などはありませんので、録画済みの番組を再生する以外の多くの操作は、例えば録画した番組を消去するといったようなことも自力では困難と思われます。

では次に、「しゃべるテレビ」ではまだできないこと、改善をお願いしたいことについてお話ししたいと思います。

レジュメに書きました順序とはちょっと違いますけれども、第一番に、操作メニューの読み上げができません。ボタンを押す回数だけでやるのは結構大変なことは、先ほどビデオでもご紹介したとおりです。番組表を読み上げる合成音声のエンジンを積んでいるのですから、メニュー項目も読み上げが可能なのではないかと思います。また、エラーメッセージの読み上げも非常に重要です。私は先ほど、録画予約ができると報告しましたけれども、実はこれは100%ではありません。実際、何かの理由でレコーダ側で予約を受け付けられなかったとき、画面にはエラーメッセージが表示されていたのに音声では読み上げられず気づかなかったという経験をしました。

二番目に、リモコン操作が受け付けられたかどうかわかりにくいという問題があります。操作メニューの音声読み上げがない場合は特に、テレビがキー操作に反応してピ、ピというような音を出してくれるだけでも非常に安心感があって、確実に操作できます。実はわが家のテレビでもデータ放送のモードに入りますとキー操作ごとにピ、ピという音が出るんですね。しかもそれは数種類の音が使われています。ならばデータ放送以外のときにも音を鳴らすような設定をユーザー側で選べるようにしていただけたらと思います。

三番目は、音声切り替え。例えば主音声、副音声などの切り替えがどっちになっているかわかりにくいという問題があります。音声切り替えの操作自体は、リモコンにそれ専用のボタンがありますので簡単ですけれども、例えば副音声解説というのはずっと解説がしゃべっているわけではありませんので、切り替えた結果がどっちになったかというのは非常にわかりにくいです。音声切り替えは我々にとって特に重要な機能なので例に挙げましたけれども、これ以外にも切り替え操作の結果を読み上げてほしいという場面はたくさんあります。

四番目に、データ放送も読み上げてほしいということがあります。ただこれについては、データの形式などいろんなことがあるようで、そんなに単純ではないというふうにも聞いております。また、電波に乗ってやってくる番組表のデータそのものに原因があると思われる問題もありました。例えば、ジャンル検索で当然ヒットするはずの番組がヒットしてくれない。あるいは番組表のテレビ画面の方では解説放送などの情報が映っているのに音声で読み上げてくれない。これはグラフィックで表されていることが原因のようです。こういった問題はテレビ受像機の側では解決が困難なようです。

それでは次に、簡単リモコンということについて一言申し上げたいと思います。今のテレビのリモコンというのはボタンがたくさん並んでいて操作がわかりにくい。だから高齢者や障害者にはボタンの数が少なくて機能を絞った簡単リモコンが必要だという指摘を耳にすることがあります。でもそれは大きな誤解です。視覚障害者の中にもチャンネルが回せて音量が上げ下げできればそれでいいという人もいれば、デジタル放送の豊富な機能をすべて活用したいという人もいます。健常者も同じですよね。一部の機能だけ欲しい、あるいはいろんな豊富な機能。これはだから、障害があるかないかとテレビをどう使いたいかは関係がないのです。そして、豊富な機能を活用したい視覚障害者にとっては、リモコンのボタンは多い方がいいのです。つまり、機能ごとにボタンが分かれている方が確実だからです。もちろんこれを使いこなすためにはボタンの大きさとか形に変化を持たせたり、配置に工夫する必要はあります。これ、今使っている三菱のリモコンですけれども、例えばチャンネルの5のボタンには凸点があり、音量とかチャンネルのアップダウンはシーソーの形になっていますし、矢印キーは大きな丸い形。そして機能ごとでいうと、番組表とか番組内容、下の蓋の中には一発録画とか音声切り替えなど、それぞれボタンがついている。このリモコンは全部で53個のボタンがありますけれども、このように工夫した形になっていれば、これは非常にいいデザインだと私は思っています。

そもそも年齢や障害ということと、どういう機能を使いたいかということは全く関係がない。そして、リモコンの設計というのはいわば枝葉のことなのです。重要なのはテレビ本体にどういう機能を持たせて、どういうインターフェースにするかということだと思います。リモコンでテレビが使えるようになるわけではないということを、改めて申し上げたいと思います。

バリアフリーで一番大切なことは何か。私は、技術の進歩で新たなバリアを作り出さないということが一番大切だと思っています。デジタル放送の普及で、健常者の人たちが享受できるテレビのいろんな便利な機能。それに対して障害者がもしそれを使えないということになりますと、これは結果として相対的にバリアを作ってしまったということになると思います。健常者も障害者も等しく使えるようなものにすること、それがまさにバリアフリーだと思います。

また、バリアフリーの推進には、製品情報をいかにユーザーに伝えるかということが非常に重要です。わが家のテレビというのは1つ前の機種で、デモでもおわかりのように、矢印で動かしたときにいちいち音声のボタンを押さないと声が出ない。今の機種はカーソルを動かすだけで音声が出るモードがあります。これは買うときにはわからなかったんです。そもそも「しゃべるテレビ」があるという情報を得るのにも随分苦労しました。これを知ったのは毎日新聞のユニバーサロン・メーリングリストというところで教えてもらったんですけれども、家電量販店の店員さんは4、5軒聞きましたが誰一人「しゃべるテレビ」のことを知りませんでした。そして、購入時点でそれが最新機種ではなく、最新のものでは機能がこう変わっているということは実は後になって知ったので、ちょっと悔しい思いをしたわけです。ですので、 こういった情報をきちっとどうやってつたえるかということ非常に重要な問題かと思います。

2011年の地デジ移行というのは、いわば国策で行われています。したがってテレビ受像機のアクセシビリティの向上に向けてメーカーさんにもよりいっそう頑張っていただきたいと思いますけれども、それと同時に、政府の積極的な関与というのが不可欠ではないかと考えています。

皆さん、ありがとうございました。