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緊急レポート 浅利 義弘

聴覚障害者にかかわる取り組み

浅利 義弘

全日本ろうあ連盟理事

 

はじめに

皆さま、こんにちは。東北代表として見聞した立場から、その中での経験を申し上げます。何より、障害者の中で情報コミュニケーションに非常に困難なろう者の立場で、ろう者のことを理解していただきたいという趣旨でお話します。

聴覚障害者について

聞こえない、聞こえにくい障害者は、外見ではその障害の有無が判断できないため、社会的理解が困難です。その中で、聴覚障害者の施策、制度の立ち後れが見られます。障害者と言っても音声言語で情報コミュニケーションが得られる方もいますが、音声言語の社会の中で、手話を言語とするろう者が参画できない状況があります。

聴覚障害者の中には、中途失聴の方もいます。いろいろな背景がありますが、情報コミュニケーションもその背景によって異なります。私のように手話で生活するろう者もいます。手話をご存じない難聴者もいます。

多くの高齢のろう者の場合、長い間、手話を禁止された教育を受けてきました。「聴覚口話法」という教育のため、なかなか読み書きが苦手で文章の理解が不十分な方もいます。ろうの高齢者は、文字情報を得ることが非常に困難であることをご理解いただきたいと思います。

つまり、ろう者にとってコミュニケーション保障のために手話は重要な位置づけであるということです。

テレビ放送における字幕・手話の状況

さて、情報の取得方法は、皆さんどうでしょう、インターネットや新聞等でも得られるでしょうが、緊急性のある情報は、テレビが主流になると思います。

すでにご存じかと思いますが、テレビの字幕・手話の放送時間の推移についてご紹介します。

字幕放送の場合、NHKは平成13年で22.6%。少しずつ拡大しており、拡大傾向です。

民放では平成13年度で6.3%。20年度は約42%です。

しかし、手話放送の割合は、NHK教育テレビでは平成13年度で2.7%、20年度は4%程度にとどまっています。

NHKの総合テレビでは0%。民放は13年度では0.1%、20年度もやはり0.1%、今もそうです。ろう者にとって非常に情報アクセスが難しい状況になっています。

聴覚障害者の状況と、震災での対応

3月11日、未曾有の大震災が起きました。東日本大震災です。

1,000年に1度という大津波の被害、また福島第一原発の放射能漏れという連鎖的大災害となりました。

避難所生活も長期化し、仮設住宅でも被災者の方々は非常に苦しい生活を強いられています。

防災無線にしても、ろう者は耳から情報が入りません。

震災後、停電があり、文字放送が見られなくなりました。避難所生活においても水、食料等、物資の配給等の放送がまったく聞こえず、それを得られない人もたくさんいました。

避難所で周りとのコミュニケーションができない中、極めて過酷な状況です。私たちは、関係者とともに東日本大震災聴覚障害者救援中央本部を緊急に立ち上げ、被災者に対して、安否情報の確認、また情報保障などの取り組みを続け、物資の配送、さらには手話通訳の公的派遣等の支援を行っています。

また全日本ろうあ連盟としては、情報源となるテレビ、ラジオの震災情報に、字幕や手話を挿入したい、それが命に関わる問題であるということを改めて緊急アピールとして出しています。NHKに対しては、緊急災害時におけるローカル番組にも手話・字幕の挿入を求めました。震災後2日後、首相官邸における内閣官房長官の記者会見に、初めて手話がつきました。

実は震災前、障害者基本法改正案に対し、全日本ろうあ連盟は関係団体とともに議員に要望行動を起こしました。手話を言語として認めるよう働きかけを行ったのですが、結果的には、それらがきっかけとなって実現できたものです。

その後は、首相官邸でのいろいろな担当大臣の記者会見でも、手話通訳が付くようになりました。

これが全国のテレビ局に伝わって、一歩前身となりました。

民放に対しては、震災後、各党のヒアリングが行われ、いろいろな形で要望を出しました。

この問題に関心を持たれた丸川珠代議員の仲介で、5月11日、石野本部長、久松総括、民放連の会長等が会談をし、一定の成果がありました。ひとつは、現在のテレビニュースに手話通訳や字幕が非常に少なく、ろう者の情報アクセスが困難であり、大震災においてもろう者が情報を得るという状況にはなかなか至っていないため、すべてのニュースに字幕、手話を付け、聴覚障害者の情報アクセスが可能になるよう実現してほしいという要望を行いました。

また、今回初めて首相官邸の会見に手話通訳がつきましたが、距離が離れているため、後から放送されるニュースの画面では手話通訳が削除されるという現状がありました。

例えばニュージーランドの地震では、当初から、記者会見担当者の横に手話通訳がついていて情報保障ができたという現実があります。ですから手話通訳については、もう少し合理的配慮をお願いしたく、日本でも同じようにきちんとした配慮に基づく情報発信ができる環境を求めたいと申し入れました。

それに対して、会長は、十分対応ができなかった、生放送やニュースについても、現状は十分ではないが、すべて一括して実現はできないが、少しずつ工夫検討しながら進めていきたいとおっしゃいました。メディアについても、今回の地震で、大きな反省点があったということです。政府、自治体、メディアの反省を受けて、連盟としても被災者の声、情報等について、報告をしていただけるとありがたいというメッセージもいただきました。

「目で聴くテレビ」について

CS障害者放送統一機構はご存じでしょうか。これは1995年、阪神・淡路大震災のときに、情報番組に字幕も手話も挿入ができず、手話番組すら、それが消えてしまい、聴覚障害者にとっては不安きわまりない状況だったことをきっかけに、連盟と聴覚障害者関係団体が中心となり、字幕・手話付きの番組を放送する「目で聴くテレビ」として立ち上げたものです。その放送は、専用受信機「アイ・ドラゴン3」で視聴できます。

「目で聴くテレビ」は地震発生30分後、すぐにピクチャー・イン・ピクチャー機能を活用し、民放放送事業者に対し、手話通訳・字幕付きの放送を実施できました。「目で聴くテレビ」の受信機であるアイ・ドラゴン3を持っている人は、地震等の災害時も、一般視聴者と同様に視聴できます。

平成2年、ようやく制度化した聴覚障害者情報提供施設は、今年で22年目になりますが、全国には、まだ未設置の都道府県もあります。特に東北地方においてはその設置が遅れています。現在、山形、秋田、宮城、福島などは未設置です。情報提供施設は、「目で聴くテレビ」の専用受信機アイ・ドラゴン3が設置され、緊急災害時でもきちんと情報が伝えられるという重要な役割を持った施設です。

アイ・ドラゴン3を福祉避難所や関係施設に必ず設置することで聴覚障害者への情報保障ができます。

今後の課題

まとめます。一般的なテレビでの字幕、手話放送はもちろん進めていく必要がありますが、緊急災害では、ローカル地域の番組でも、必ず手話・字幕を挿入していただき、聴覚障害者の情報提供に寄与していただきたい。

また、字幕情報、手話の情報を見ている聴覚障害者以外の方々もたくさんいます。ですから、直接画面や字幕に震災情報を付けることで、情報アクセスがしやすい環境になります。必ず、字幕、手話を付けていただくことを強く要望します。

地方に暮らす聴覚障害者にとって、地域のローカル番組にさらに情報提供ができるように、震災等、緊急時における番組でも手話通訳・字幕をつけることをさらに強く要望します。

現在、国連障害者権利条約の理念の下に、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」がスローガンとなっています。また国では、障がい者制度改革推進会議においても、政策策定の場に聴覚障害者が参画しています。当事者が参画する中での情報保障をさらに広げて実現していただきたいです。

放送事業者においても、ぜひともCS障害者放送統一機構の助言で進めていただきたいと思います。

放送法においては、第1条第1項に、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」という文言があります。それは聴覚障害者も放送を利用できるようにするということで、非常に重要です。放送バリアフリーを目指して、放送事業者による字幕、手話付与の充実がどのように相乗効果があるか、このような取り組みを中心に、放送バリアフリーが実現することの推進力になることを期待しています。