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緊急レポート 大嶋 雄三

聴覚障害者にかかわる取り組み

大嶋 雄三

「目で聴くテレビ」専務理事

はじめに

宮城県ろうあ協会の機関紙に掲載された聴覚障害者の手記をご紹介します。

この手記には災害時緊急情報について聴覚障害者に共通する重要な問題が示されています。

個人情報の問題もあるので少し手を加えています。

 

「突然、家中が揺れだし激しくなり、まるで大波の船に乗っているようで、船酔いのように苦しくなりました。家中の家具という家具が倒れて、部屋中にあふれていっぱいになり、狭い中を逃げ惑いました。やっとおさまったので片づけようと、とりあえず片づけなければならないと、動き回っていたところで、近くに住んでいた兄が怒ったような顔で、私を強引に連れ出して車に乗せました。何かが起こったのだなとわかりました。道路では車で逃げる人でいっぱいでした。後ろを見ると黒い煙のようなものが、恐ろしく近づいてきました。雲ではなく、津波でした。渋滞で動けなくなり、兄は窓を開いて、何かを聞いているようでした。そして突然、向きをかえて走り出しました。兄はカーラジオを聞きながら、走っていました。高台につき、降りようとしましたが人がいっぱいで、なかなか中に入れないで、もぐり込むようにして何とか入りました。

そのあと、茫然と、人、家、車、にわとり、犬などが津波にのみ込まれていくのを、涙を流しながら眺めていました。怖かったです。」

被災者の手記から提起される問題

この中には情報に関わる非常に重大な問題が提起されていると、私は見ます。

この方は、まず地震らしき事態を情報ではなくて自分の体感で理解しています。初めは地震か爆弾が爆発したか何が起こったかよく分からなかったと書いています。それから、部屋片づけているところへ、お兄さんが来て連れ出されて津波だとわかった。つまり津波が来ることをまったく知らなかったのです。

お兄さんと車で逃げようとしたが、渋滞で進まない。何とかどこかへ逃げなければならないが、どこへ逃げたらよいのか情報を知らなかった。何とか避難できる場所に着いたが、既にたくさんの人が避難していた後であった。

この1つ1つにどんな情報が発信されていて、この人はどのように情報を受けとったのか、あるいは受け取れなかったのかを、見ていきたいと思います。

まず第1に地震は防災無線などではなく体感で理解しています。津波については全く来るかどうかもわからないわけです。ほっておいたら、来るまで、流されるまでわからなかったということになります。お兄さんが来なければ、避難どころではありませんでした。避難していく場所についてもお兄さんがいなければ、どこに逃げたらいいのかもわかりませんでした。

避難場所に行ってみたら、自分はもう逃げた中では最後ぐらいの到着でした。すぐに津波がきて、あとの人たちが流される状況を見ました。危機一髪というところで助かったというわけです。

情報格差の大きさを思い知らされます。

国の対策について

こうした緊急時の情報保障問題は過去の震災の中でも、常に存在しました。今回の東日本大震災は犠牲の膨大さから見てもこれまでとは比較にならない問題点を示しています。障害者の死者は健常者の2倍に及ぶと言われていますが、前述の手記から、情報が届かなかったことにより犠牲となられた方が少なからず居られることを想像させます。

国民の保護の観点から、国はこれらの問題に対してどのような対策を進めてきたのでしょうか。

国は防災対策で情報の瞬時性を国民保護の課題として重視してきました。

2007年から進めてきた「Jアラート構想」というものがあります。政府が進める国民保護の中心的な取り組みです。全国都道府県の75%ぐらいが実施をしています。どういうものかと言いますと、地震や大きな災害では、地上は破壊されます。地上のインフラを使った伝達手段はすべてダメになることから、震災などから影響を受けない衛星を使って情報を発信するものです。

現在は地震が発生する4~14秒前に前波をキャッチして、早ければ5~10秒前に地震が来ることを伝えます。実際に、学校ではこれに従って訓練をしています。5秒あれば、命を守ることができます。危険だと思うとき、どこへ逃げたらいいか決めておくと、そこへ数秒で逃げ込むことができます。

次は、地震が発生したとき、その地震の規模、災害の程度を伝え地震被害の予測が出来ます。

次が津波情報です。津波が発生するのかどうか、何分くらいに、どこに到達するかの情報が来ます。

これをすべて国民に即時に伝えるのがJアラート構想です。

国はすべての国民にもれなく伝えるようにということで進めてきました。

今回の震災では、津波警報を伝え避難してくださいと市役所の職員が呼びかけていました。それを聞いていた両親は、高台に逃げて助かりましたが、呼びかけていた本人は津波にのまれ、亡くなられたという痛ましい話があります。

最終的に、国民にどう伝えるか。マイクを通じて、即来た情報を伝えろという形をとっているわけです。Jアラートの最終端末です。

これでは聞こえない人はどうなるのでしょうか。見えない人はどうなるのでしょうか。そこの配慮は、Jアラートにはないのです。

消防庁で、この問題をどのように検討されているか、懇談しました。結論として、Jアラートの構想の中に障害者対策はないということです。大切さは分かっても、対策上、政策として存在しないということです。

このような問題は、直ちに解決すべきものです。

テレビ放送局に対して、この信号が届き、直ちに文字に変換されて出ます。でも、見えない人は、どのようにして知るのでしょうか。文字が出るときに、最初にアラームで警報が鳴って国民の注意を促します。だから、注目してよく分かるわけです。

しかし聞こえない人は、事前の注意を促すアラームそのものが聞こえません。だから見過ごす率は非常に高いのです。

Jアラートは、確かに緊急災害時に伝達網を確実にするという意味では進んだものですが、なぜそのシステムに障害者対策が入っていないのでしょうか。ここは、直ちに国として改めていただきたい。ただちに対策をとっていただきたいと思います。

「目で聴くテレビ」の対応について

現実的な問題として、私どもの「目で聴くテレビ」は、手話、字幕、解説放送を緊急時に放送してきました。これにアラートの信号を結べば障害者に届きます。地上では、無停電電源を保証すべきだと思います。障害者がよく出入りする施設に必ず、「目で聴くテレビ」の受信機を備えて、そして停電が起きても必ず緊急信号を受信できる対策をとるべきだと思います。消防庁にも要望してまいりました。ぜひ「障がい者制度改革推進会議」でも取り上げていただきたいと思います。

次に「目で聴くテレビ」が今回の大震災でやってきたことを簡単に話します。地震発生後、3時10分から字幕と手話、解説入りの放送を開始しました。NHKは、まだ字幕が入ってないだろうと思っていたのですが、実は1分前の3時9分から字幕が入っていました。非常に珍しいことです。私どもが遅れたのは初めてで、よかったことです。今後どうなるかと聞くと、いろいろ問題がありますが、それは後でお話しします。

3月31日までこの緊急放送を継続しました。連日、字幕と手話・解説入りの放送を行いました。同時に障害者固有の情報を送り出しました。障害者の安否情報等です。

こういう放送をする中で、原子力発電所の問題がさっぱりわからないという声が随分出てきました。放送を見ていてもわからないし、手話で説明してくれないからわからない。

原子力発電に関する言葉で、いくつか手話になってないものもあります。この問題もとりあげて、障害者にわかりやすい原発問題や、今回の事故と対策について、放送をしました。

さらに、この間できた新しい手話を手話研修所が発表し、それも「目で聴くテレビ」を通じて放送しました。

また、全体的なニュースを放送するのもいいが、地元のことを放送してほしいという要望が出てきました。どこへ行ったらお風呂に入れるかとか、役所の受付は何時までかということを放送してほしいという要望です。私どもは、2月から行っていたラジオ放送の文字、手話変換放送の実験を急遽震災向け本番として、岩手FM放送と、福島FMの各自治体の生活情報番組のラジオ放送を字幕と手話と解説入りで転換放送しました。これをすべてインターネットで見られるようにしました。

その後、東広島市から、アイ・ドラゴンをすべて18箇所の施設に設置したとの連絡が来ました。また広島で起こった災害に関して広島県内の情報を放送してほしいという要望がきました。

今後、災害が起こったその地域で、細かな地域情報を字幕手話解説に転換して発信することができるようになりました。

今後に向けた提起

今後の課題としては、次のものがあります。

  1. Jアラート構想に障害者対策を入れてその一つとして「目で聴くテレビ」を位置づけ視聴覚障害者に緊急情報を発進可能とすることは緊急の課題です。
  2. 放送局との関係の問題です。

NHK編成局の森本さんにも親切にしていただき、懇談をして参りました。NHKはろうあ連盟や全難聴の申し入れに対して、緊急時に字幕を入れることはすぐにはできないという回答を出されています。

字幕の質、スピードという点から見ても、手話・解説についても、私どもが協力できることを申し入れをしました。

申し入れについては今後、検討していくということですので、現在、NHKで検討されていると思います。放送局が字幕を緊急時に付けることについて、改善されるように私たちも協力していきたいと思っています。以上です。