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緊急レポート 森本 清文

災害時におけるNHKの字幕・解説・手話への取り組みについて

森本 清文

NHK編成局計画管理部 専任部長

はじめに

本日は災害時におけるNHKの字幕・解説・手話の取り組みについて、3月に発生した東日本大震災での対応と、今後、NHKとしてどう取り組んでいくかということを中心にお話しさせていただきます。

まずはじめにNHKの東日本大震災の報道について、全体の状況をお話しします。

マグニチュード9.0という巨大な地震が発生したのが3月11日の14時46分頃です。NHKは直ちに、テレビ、ラジオ8波で、緊急地震速報を伝え、2分後の14時48分から、すべてのチャンネルで津波と地震に関する報道を開始しました。

その後3日間は、すべてのチャンネルで、震災報道に徹して必要な情報をお伝えし、3月15日以降は、段階的に平常番組に戻しながら、総合テレビで、震災を中心とした放送を継続しました。

総合テレビでの震災関係の放送時間は、1か月で571時間に達していて、阪神・淡路大震災のときの273時間のほぼ2倍に相当する規模となっています。

さらに、インターネットやデータ放送でも、数多くの災害関連の情報を伝えました。

今回、新たに取り組んだこととして、安否情報放送のデータを、Google社の消息情報であるパーソンファインダーと連携して、NHKのホームページでも名前を検索できるようにしました。県から提供される、避難所に避難されている方のリストを放送するとともに、ホームページでも検索できるようにしました。

そのほか、関東地域に関しては、東京電力の計画停電もありましたので、放送だけでなくホームページや携帯のトップページにバナーを貼り、時々刻々と変わる状況に対応しながら、鉄道情報も含めてご提供しました。

震災時におけるNHKの字幕・解説・手話の取り組み

では、ここから本題に入り、字幕・解説・手話に、どう取り組んだかについて紹介します。

まず字幕放送についてです。生字幕付与を始めたのが、地震発生の23分後の15時9分30秒からで、NHKとしては最大限の早さで取り組みました。

少し内幕の話になりますが、地震が起こって担当者はNHKとして早く字幕を付けねばという思いから、すぐにニュース字幕室に駆けつけ体制づくりを急ぎました。このとき放送していた番組は、生字幕に対応していませんでしたので、急遽、生字幕をお願いしている会社に電話で連絡をして依頼をしましたところ、幸いにも大丈夫との返事をいただき、発災後23分後から生字幕を付けて放送を行うことができたということです。

結局、その日は、15時9分から17時46分までと、19時から20時、21時から22時の時間帯で生字幕を付けました。翌日以降もできるだけ多くの時間に字幕を付けるべく取り組みました。

例えば、13時のニュースは平時は5分枠ですが、そのときは14時まで1時間延長して放送していましたので、字幕もそれに対応して延長付与しました。16時55分からのニュースも、平時は10分枠ですが、17時から18時までと、1時間延長して震災報道を行いましたので、この時間も字幕をきちんと付け対応しました。

今回、発災から早い段階で生字幕を付けることができましたが、災害が発生したとき、迅速に生字幕を付けて放送していくためには定時のニュース枠への字幕付与をできるだけ増やしていくことが必要です。緊急事態に対応できるそうした体制を、普段から段階的に整備していくことが、何よりも重要であり、NHKとして着実に取り組んでいく考えです。

字幕放送について、今回新たに試行した取り組みがあります。それが音声自動認識装置を活用した生字幕対応です。3月15日~18日、NHKの放送技術研究所が開発してきたシステムを活用し、生字幕対応しました。これまでの生字幕放送は、当然、人手による入力作業でしたが、オペレーターの数には限界があります。今回は、発災後1週間で、通常時のおよそ2倍にあたる約40時間で生字幕対応を行いましたが、こういった技術を活用して字幕をつける環境の整備にいっそう努力していきたいと考えています。

次に解説放送・手話番組についてです。

手話番組は、現在、教育テレビでNHK手話ニュースを放送しています。通常は1日2回の放送ですが、これを震災直後から拡大して、1日3~4回放送しています。翌日の12日を例にとりますと、通常の11時40分から20分間の枠に加えて、14時50分からの10分間、16時50分からの10分間の2枠を新たに設けて放送をしました。さらに19時55分からの枠についても普通は5分ですが、10分間に延長して放送しています。翌週以降も平日2回のところを4回に増やして対応しました。

また、官邸会見の中継についても、会見場の手話通訳者の方の映像を画面の端にワイプ表示し、放送しています。

その他、Eテレの「福祉ネットワーク」でも震災特集を組み、3月中は災害関連情報を放送しました。この番組には生字幕をつけ、手話通訳者の方々をキャスターとゲスト・出演者の真ん中に配置して見やすい形に位置取りをして、放送しています。VTR部分には解説も付けて、できるだけ皆さまにわかりやすいよう工夫しました。

字幕の話に戻りますが、「きらっといきる」「ろうを生きる難聴を生きる」という番組にも生字幕を付与したほか、NHKスペシャルや、13時台の「被災者がいま訴えたいこと」という震災関連番組にも字幕を付与しています。

また、先ほどのVTRに出てまいりました「あさイチ」には3月16日から字幕を付与しました。「あさイチ」については今年度後半から字幕を付ける予定にしていましたので、震災後は急遽、前倒しをして、他のニュースの字幕室とやりくりをして、緊急避難的に付けました。現在は字幕を付けていませんが、「あさイチ」については、今年度後半からは字幕を付けるよう設備などの準備を進めているところです。

以上が、私どもの今回の取り組みです。

今後の取り組み

次に今後の取り組みについてお話させていただきます。

ご存じのように、7月24日以降アナログ放送が停波します。東北3県は延期の措置がとられますが、それ以外の地域については、デジタル放送に完全移行するということになります。

NHKとしては、こうしたデジタル化や技術の進展を生かしながら、視聴者の皆さまにデータ放送やインターネット、携帯電話といったさまざまな手段で情報発信の強化をしたいと考え、これによって公共放送としての役割を果たしていきたいと考えています。

したがって、災害時における情報提供についても、放送で正確な情報をきちんと皆さまにお伝えすることはもちろんですが、それに加えて、データ放送、インターネット、モバイル端末などにも、放送と同様、あるいはそれぞれの新しいメディアの特性を生かして、さらにきめ細かい情報を出していく必要があると考えています。

特にインターネット、データ放送というのは、文字による情報提供が可能になりますから、放送と合わせてより使いやすくなるよう努力していきたいと考えています。

字幕放送の拡充

まず放送の取り組みですが、字幕放送については、定時ニュース枠への字幕付与の段階的拡大を図ります。さきほども少し申し上げましたが、いざというときに字幕を延長して付けられるように、字幕付与の体制を定時ニュース枠において取り組むことが、皆さまの期待・要望に応えることになると考えています。

そのためには、生字幕室などの整備の計画や、字幕制作会社のオペレーターの方々の育成や確保などの課題を1つ1つクリアしながら、計画的・段階的に拡充し、いずれはどの時間帯でも字幕が付く体制が整っていて、いつ災害が起こっても生字幕が立ち上げられる、あるいは延長できるという体制をとってまいりたいと思います。23年度は新たに、18時台のニュース枠への生字幕拡大を図っています。

そのほか、音声自動認識装置の一層の活用を考えています。生字幕制作のオペレーター要員や、経費・設備の問題は一気に解決を図ることは困難ですので、なるべく人手をかけずに多くの時間帯に字幕が付けられる、1つの方法として音声自動認識装置の活用を図っていきたいと考えています。

今回の震災報道でも、一部トライアルで実施しましたが、実はすべてのコメントに字幕を付けたのではなく、アナウンサーのコメントだけに字幕を付けました。ゲストや現地の方々のインタビューなどについては、残念ながら付けられませんでした。まだまだ開発途上のところもありますが、アナウンサーのコメントについては、ほぼ98%、ダイレクトにキャッチして変換でき、実用化の目途が立ったということです。

現時点での予定ですが、24年3月ごろを目処に、14時台の定時ニュースについて、音声自動認識装置により字幕を付与できるよう準備を進めています。課題を検証しながら徐々に実用化の幅を広げていけるようにしていきたいと考えています。

テレビ画面の工夫、データ放送、インターネット等の取り組み

次に、テレビ画面の工夫についてお話させていただきます。

従来から、災害が起こったときには、地震の震源や規模、津波の予想到達時刻や高さなどのほか、交通や電気などのインフラ情報、ライフラインの情報を、文字や図・絵を多用して、画面だけでもご理解いただけるよう努めてきました。引き続き様々な形で工夫していきたいと思います。

また、L字スーパーも活用して、いろいろな情報を文字で流しています。青い枠でL、あるいは逆L字で出しています。

引き続き、字幕の位置や色などを含めて、皆さまからの要望を踏まえながら、改善に取り組んでいきたいと思っています。

データ放送については、完全デジタル化を契機にこれから大いに力を入れて、充実させていきたいと考えています。たとえばニュースについては、放送で読み上げた内容を文字情報としてデータ放送で見ることができますし、場合によっては、放送より早く掲載する場合もあります。

さらに、データ放送では、放送よりもきめ細かい情報を入手することができます。資料でも紹介しています(文末資料参照)が、津波や地震についてのきめ細かい情報を、ご自分が必要とする時に引き出すことができますし、ワンセグでもこうした情報を入手できます。

資料のなかに東日本大震災で実際に展開したデータがあります。たとえば、和歌山局では、和歌山県から来る避難情報を2~3分後にデータ放送の画面に展開しています。避難に関する最新の情報がデータ放送でテレビよりも早く、あるいは同時にわかる状況になっています。そのほか、身近な暮らしや安全の情報もデータ放送でふんだんに出しています。

防災気象についても、きめ細かいデータが見られます。台風情報として、台風の位置などもデータ放送で確認できるほか、沖縄局ではさらに地域独自の取り組みとして、図を拡大して地名を入れてさらに見やすくする工夫をしています。

最後に、インターネットの取り組みについてお話します。東日本大震災では、インターネットについても力を入れて特別のページを作り、情報を詳しく伝えています。

各局のホームページでも、それぞれの災害特設ページを作って、地域に合った、必要な交通情報、生活情報、避難情報などをお伝えしています。

また、主要ニュースは、「NHK NEWS WEB」として、この6月からデータ放送とほぼ同時に掲載できるようになりました。主要ニュースをテレビの放送に合わせて、文字でご覧いただけます。

ローカルニュースについても、現在、各局のホームページで主なニュースの内容を掲載しています。加えて、新たな取り組みとして、長野局では、ホームページにニュースの動画とアナウンサーが読み上げた内容を文字でセットで掲載する試行をやっています。放送でお伝えした内容が、そこを開けば動画とあわせて分かるようになっています。これは25年度から3年間かけて全国展開していきたいと考えています。

このほか災害用のホームページには読み上げ版もありますが、現在のものは使いづらいとの声もいただいておりますので、今後、改善を図っていきたいと担当者と話をしているところです。

最後に

最後に、繰り返しになりますが、放送と通信が融合する時代において、NHKとして、インターネットやデータ放送、携帯電話など、さまざまな手段を使って、いつでもどこでもNHKのコンテンツや情報を得られるようにしていきたいと考えています。

情報のバリアフリー化、災害時における情報提供についても、こうした考え方の下に一層進めていきたいと考えています。

私どもは、皆さまからの励ましやお叱りのご意見をいただきながら、一歩でも前に進めるよう、努力してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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