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放送行政の取組

総務省情報流通行政局地上放送課長 長塩 義樹

はじめに

今の「特別報告」の非常に分かりやすい丁寧なご説明で、実は私が用意してきた情報の半分ぐらいはもう終わってしまっていて、若干重複するところもあろうかと思いますが、本日は約30分間で現在の行政サイドでの取り組み、そしてこれからの課題などについてご説明させていただきたいと思います。

字幕放送、解説放送、手話放送、こういったものも情報通信のひとつでございますので、政府では情報通信そのものをどういうふうに発展させるか、あるいはそれを使ったさまざまな活動をどういうふうに発展させるか、アクションプランを提供し、将来の道筋を立てながら今の取り組みを進めていこうという手法が取られています。視聴覚障害者向け放送と言われる分野も、非常に重要な分野のひとつとして、そういった政府全体の取り組みの中でしっかりと位置づけているところでございます。特に情報通信の中では、放送におけるアクセシビリティの一環として、その普及促進を図ってきましたし、今後も図っていくというところでございます。

字幕放送、解説放送につきましては、先ほどの説明にもありました通り、情報通信の技術や機械化も非常に進んではきているものの、まだまだ人の手で関与をするところが多いという実情でございます。

本日お越しの方々もご存じのことかとは思いますが、先ほどのご説明にもありました通り、実際に映像の中に字幕を付けるには、どこからどこまでのタイミングで、こういう文字を入れて、その文字が適切かどうか、例えば口調が速い場合には、それをそのまま文字化して貼り付けるとそもそも枠に収まらなかったり、あるいは文字数が多過ぎてかえって伝わりにくかったり、そういうさまざまな工夫が必要ということでございます。

どこの部分をどういうふうに要約して、どういうタイミングで画面を切り替えていけば、最も意味が伝わるか、これはもう十数年来の課題でございまして、ノウハウもかなり蓄積されているところではありますが、まだまだ難しい面が残っています。

そういったことから、実は機械化や、あるいはのちほど改めて触れさせていただきますが、音声認識技術なども発達し、活用もできるようになっているものの、最後の最後で人手によるチェックというものが、なかなか欠かせないというふうに伺っています。

解説放送も全く同様で、例えばドラマであれば、風景描写や、主人公の雰囲気ですとか、顔つきや仕草ですとか、そういったものをどこまで伝えれば、ほかの視聴者の方と感動や雰囲気を共有できるか、こういったところが非常に難しい問題だと承知しております。

そういった中で、生字幕についても、実は十数年前は不可能だと言われておりましたが、現在までのさまざまな関係者のご努力などがあり、基本的には付けられるということになりました。今私が申しあげているお話も、まさに生字幕を付けていただいています。このノウハウも、ここ十数年来の賜物であるというふうに思います。

総務省の取り組み

これまでの総務省の取り組みを簡単にご説明させていただきます。大きく3つの柱がございます。

1つは、1997年に放送法を改正しまして、字幕放送や解説放送をできる限り多く設けるようにしなければならないという、制度的な措置を図ったことでございます。

もう1つの柱が、字幕番組や解説番組、現在では手話番組もそうですが、その製作費の一部を、国費をもって助成をさせていただいているということでございます。実は現在は予算の制約がなかなか厳しい中ではありますが、本年度は約4億円、来年度もそれを上回る金額を要求中でございます。ご案内の通り政府全体の予算が非常に厳しくて、消費税の増税まで今お願いしている状況にあります。こういった全体の枠組みの中で、少しでも多くの額を確保できればと、私どもの立場では一生懸命お願いしている状況でございます。

それからもう1点でございます。字幕番組や解説番組をできる限り設ける努力義務の枠組みがあったとしても、ではどのように増やしていくのか、ロードマップのような計画性を持った取り組みを関係者が一丸となってやっていこうということで、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」として10年計画の目標を立ててございます。まず、最初は97年に法律を改正したときを契機に、2007年までの10年計画を立てました。そして、先ほどの話にもございましたが、それに続く第2期の10年計画を、ちょうど5年前に策定しまして、現在はその進捗を図っているところでございます。

情報通信や、それを取り巻く社会環境もさまざまなものが目まぐるしく変わる世の中でございますから、計画の策定から5年たった今のタイミングで、もう一度世の中の状況を見直してみよう、それで必要なものは修正してみようということで、計画の見直しのための検討会を、この春から総務省で設けて議論してまいりました。

そして、その成果を取りまとめたものを、まさにこの10月に、「行政指針」の10年計画に反映させたところです。今日はそのちょうどいいタイミングでシンポジウムが開かれたわけです。

このあとは、今申しあげました国での3つの取り組みを、少し詳細にコメントさせていただこうと思います。

助成制度について

経費助成につきましては、現在、字幕や解説の制作費について、2分の1を上限に助成させていただいています。

字幕番組は、この10年、もっと言えば15年ぐらいでかなり進んでまいりましたが、相対的に見ると、解説番組は、付与率が低い状況にあります。あるいは字幕放送の中でも、在京のいわゆるキー局と言われる方々には、非常に頑張っていただいていますが、キー局以外の方々にも頑張っていただこうと趣旨で、そうした重点分野には、助成額、助成比率を増やしていこうという取り組みも行っています。

このように、分野ごとに単に同じような取り組みを行うのではなく、金額についても、その時々の情勢で最も全体がうまくいく形は何かという背景も含めて、関係者の方々の意見を伺いながら、行政としても柔軟に取り組んでいるところでございます。

この助成制度ですが、実は情報通信研究機構という独立行政法人がございまして、こちらにお手伝いをいただきながら、国本体と連携をする形で進めております。

行政指針について

次に行政指針の策定についてです。先ほどもお話したように、字幕放送の普及をとにかく進めていこうという考え方から、1997年に初めて策定させていただきました。

実はこの最初の10年計画の段階では、字幕番組につきましても、とにかくできるところからやっていこうということで、生番組については、まずは目標から除外しておこうというところから始めました。当時の技術では、生番組まではなかなか無理だろうというのが、コンセンサスでございました。また再放送についても、字幕を付けるのはなかなか難しいんじゃないか、あまり高過ぎる目標を作るのもどうか、というような議論もあって、これを反映したという次第でございます。

ただ、最初の10年間が経ってみると、かなり技術も成熟してきたということがございまして、次の10年間の計画では、生番組につきましても、基本的には目標の対象に組み入れて、次のステップとして頑張っていこうという形で修正を加えたところでございます。また再放送番組についても目標のターゲットに入れていこうという修正を行いました。

それから、解説付与可能な放送番組についても、10パーセントの番組は解説を付与することなどを、目標として設定しました。それが5年前(2007年)のことでございます。そして、5年目の今年、春からの検討の場で、新たな枠組みとしていくつかの修正を行ったということでございます。

スライドに示したグラフは、本年の指針見直しを行うまでの進捗状況でございます。この数値は、目標の対象とされた番組に対するパーセンテージではなくて、実際に放送している全体の放送時間に対するパーセンテージでございますが、基本的に10年前の当初は、大体10パーセントですとか、キー局であっても20パーセントぐらいしかありませんでした。2000年当時は字幕放送は大変限られていました。それがこの10年間に3倍となり、全体の放送時間では61パーセントまで進めてきていただいており、これは関係者の大変なご努力があったものと思います。

実は現在、字幕付与可能な放送時間のうちの字幕番組の割合については、おおむね9割ぐらいのレベルに達しています。ただローカル局については、多数の方が同時にしゃべられるような生番組が多いということで、少し比率は落ちているんですが、基本的にはもうかなりのパーセンテージまで進めていただいています。今回、若干指針を見直してはいるものの、5年後の10年計画終了のタイミングでは、ほとんどの局に目標を達成していただけるのではないかと、国としても期待しているところでございます。

本年の行政指針の見直しについて

本年の行政指針の見直しで、何が大きな議論になったのかということですが、先ほどの「特別報告」にもありましたし、私のあとに高岡様からのご説明もあると思いますので、若干、重複するところもあるかと思いますが、国としての立場からコメントさせていただきたいと思います。

大きなポイントは、2つございます。まず1つは、東日本大震災で大きな被害がありましたが、こういう緊急時に、どのように字幕を付与して情報を伝えていくのか、これは非常に重要だろうという点です。今よりももっと頑張らなければいけないという問題意識が、関係者に非常に深く広まったということでございます。

東日本大震災の際には、NHKや民放キー局、地元局をはじめ、すべての事業者に大変な努力をいただきました。その結果、非常に高い割合で、字幕を付与いただいたという実態がございます。ただもちろんこれは、たまたま首都圏で字幕制作に携わる方々の被害が少なかったということもあって、東北と首都圏との連携がうまくいったということでございます。非常に難しい課題を先取りして言わせていただくと、それでは字幕制作能力の高い首都圏や、大阪圏といったところに災害が直撃したらどうでしょうか。これについては、関係者はすでにいろいろと検討を始めていただいているところでございますが、非常に大きな課題のひとつであろうかと思います。こういう緊急災害時にどのように情報伝達するかを、しっかり指針の中にも反映させるというのが、一点でございました。

それからもう1つのポイントは、手話番組についてです。手話放送の時間は非常に低い水準に留まっています。1パーセント2パーセントという水準でございます。一番多いのがNHKの教育だったと思いますが、これをどうやって底上げしていこうかということが議論になりました。手話放送には従来目標設定はございませんでしたが、新たに目標を設定しよういう議論になり、ただ非常に課題も多く、手話の場合はクローズドの手法がなくて、常にオープンでございますので、一般の視聴者との兼ね合いも難しいという議論も、いろいろあったと伺っています。

そのようにかなりの議論があって、関係者がしっかり目標を定めてやっていこうという、一番のコンセンサスを模索した結果が、研究会の報告書であり、今回の行政指針の見直しの策定結果であるということでございます。

大規模災害等緊急放送については、できる限りすべてに字幕を付与しますということを明記しました。NHKにおきましては、災害発生後に速やかな対応ができるように、できる限り早期にすべての定時ニュース、こういったものに、字幕付与をいただこうということが明記されました。

解説放送も数値目標は従来からございましたが、より具体化することによって取り組みを促進しようということが明記されたということでございます。

また、手話放送につきましても、いろいろ関係者の非常に深い議論があった結果ではございますが、パーセンテージは明記しないまでも、しっかりと位置づけを明記しようということが、今回の改定でございます。

今後の課題について

今後の課題について、残された時間で、簡単にご説明させていただこうと思います。

コマーシャルへの字幕付与というのが、現在大きな課題の1つになってきています。ご案内のとおり、民放各局にとりましては、そこが最大の収益源でございまして、非常に難しいかじ取りが必要である分野でございます。

他方で、CMというのは、これは民放ですので基本的には自主基準によるのですが、放送全体の最大18パーセント、約2割を、CMが占めているものでございます。見ている視聴者の立場からすれば、かなりの時間になるし、その商品を買おうという意識からしても、非常に関心の強い部分であると承知しています。

このCMに何とか字幕を付けようということで、先ほどもお話がありましたとおり、東京エアポートという番組などをはじめとして、トライアルと称する実験的な取り組みが行われてところでございます。

システム的には、番組の系統の機械と、CMを送出する系統の機械は分かれていて、微妙なタイミングで同期を取ったり取らなかったりということがあります。また、キー局では全国配信しているものですから、こういったシステムがまだ十分に配置されていないローカル局との兼ね合いなども考えますと、オール機械化までは至っておらず、人手をかけて、非常に大変なご苦労をされて、トライアルに取り組んでいる状況でございます。これをいかに、よりオートマチックにして、費用負担を減らしていくか。また、先ほどもございましたが、字幕によって、広告の本体の表示が少し見えなくなるようなリスクや懸念を払拭するか。視聴者の方々、スポンサーの方々、放送事業者の方々、その三者にどうやって納得いただけるような形態にしつつ、取り組みを進めていくか。行政としても、何とかうまく進めていくお手伝いができないかと模索しているところでございます。現実のトライアルは、かなりの方々が関与する形でここまで進めてきていただいております。

生番組への字幕付与もかなり取り組みが進んできています。音声認識技術が増えてきたものですから、しゃべっているものをそのままコンピューターで文字化して、それを人手でチェックするとか、あるいは、不明瞭な音声をアナウンサーなどが言い直して、コンピューターが文字化しやすいようにしつつ、最後はやはり人手でチェックして番組に付与していくということが行われています。

これも先ほどお話がありましたが、最先端の技術として、通信と放送の融合とか連携とか言われていますが、今、総務省の中ではスマートテレビといって、それぞれの長所を高め合い補い合うような、新たな伝達方式というものも検討しています。その一環に位置づけられるものですが、手話を一番理想的にはクローズの形で、つまりボタン操作でオンにしたりオフにしたりしてできるようにしつつ、それを、放送回線では現在は容量に限界がございますので、例えば通信回線で送出し、必要な方々のテレビ画面上で合成するという技術も、かなり出来上がってきています。 また、デジタルテレビのメリットとして、データ放送でいろいろな情報が補完的に見られるという取り組みもございます。データ放送の情報を点字端末によって盲ろう者の方が取得できるという取り組みについて、技術開発を重ねていただきまして、技術的には出来上がっていますが、何分実用化するには、企業の方々の協力も必要でございます。ただ企業の方々は、利益を上げなければならないという点で、実用化には少し足踏みしているような状況でございます。

合成音声による読み上げ技術についても、技術開発が行われているということでございます。テレビを見ているときに、緊急速報が入ります。いろんな事件や、災害が多いと思いますが、ピンポーン、ピンポーンというふうに音が鳴り、見ている人には、何かニュースが入ったぞというのが分かるんですが、目が不自由な方にとっては、何かが起こったということは分かっても、そのあとに表示されるテロップは、音声で読み上げられないものですから、内容が分かりません。そういった場合も、何とか技術の開発で、解説チャンネルなどいろいろな方法があろうかと思いますが、うまく音声が伝わるようにしていくことが重要と思っています。

地上放送のデジタル化が、昨年の7月に終わり、被災3県と言われる東北地方でも、今年の3月に終わりました。そのデジタル化の大きなメリットとして、もちろん映像がきれいに映るとか、あるいは音声も美しくなるということもございますが、従来、オプション的な位置づけだったアナログ時代の字幕放送が、標準の位置づけになり、障害をお持ちの方にも非常に使い勝手のいいメディアに様変わりしたということがあります。そういった視点での取り組みを、もっともっと、大きくしていきたいと考えています。先ほど、「北風ではなく太陽」という、非常にいいお話を伺いましたが、そのように皆さんが関心を持って、それぞれの取り組みを評価し合いながら、より一歩前進できればいいなと思っています。行政の立場としても、こうした取り組みを、全体として、どういうふうに声をかけ合いながら、バランスを取ったり、調整したりすれば一番いいのか、ぜひ皆様方からも、いろいろなご示唆を賜わることができればと考えています。

若干、時間が過ぎてしまって恐縮ですが、以上、簡単ではございますが、ご説明とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

 

関連資料:視聴覚障害者向け放送を巡る行政の取組について