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障害者にとって今後の放送のあるべき姿~当事者・関係者からの提言~

全日本ろうあ連盟 理事 浅利 義弘

 

先ほど、吉井編集長さんにいろいろと話を伺いまして、私が本当に申しあげたいことと合致していたことに驚きました。また、高岡さんの報告内容もそうです。普段から申しあげたかったことが、本当に共通の課題だということを実感しました。

ろう者のコミュニケーションと手話

さて、手話人口は、大体6万人位いると言われます。また聴覚障害者といいますと、国民の中で33万人ぐらいいます。その中にろう者が何人かという詳細は分かりませんが、やはりその数値は、放送を見て楽しんでいる聴覚障害者が沢山いることを表しています。

情報コミュニケーションにつきまして、先ほどからのお話にありましたとおり、昨年8月に障害者基本法が改正されまして、その総則の中に、手話を言語として含むということと、意志の疎通等について選択の機会が確保されることが、明確に示されました。また、付帯決議におきましても、障害者に関わる情報コミュニケーションに関する制度の法整備を検討していくことも加わりました。これから3年間順次に検討していくことになっています。

こうした、国の法整備の流れを受けまして、全日本ろうあ連盟、全難聴、全国盲ろう者協会をはじめとする6団体で、聴覚障害者制度改革推進中央本部というのを立ち上げました。基本理念として、法整備について求めていくということを、指針として出しております。1年間、いろいろ運動をしまして、集めた署名は、116万筆という数にのぼり、内閣府や、衆参両院等に提出をしました。そして聴覚障害者の情報アクセスコミュニケーション保障というものを訴えたわけです。

現在、国では障害者政策委員会が設置され議論が進んでいます。来週には、その小委員会において、情報バリアフリー化の推進というテーマで、議論が行われると聞いております。どのような議論になるか期待したいところですが、放送のあるべき姿というものを期待したいと思います。

ろう者といいますのは、耳が聞こえないことと併せて、手話という母語をもって、手話でコミュニケーションをとりながら日常生活をしている人たちです。放送法におきましては、すべての国民に対して平等なサービスを提供する義務というものがあるわけです。誰でも知る権利、見る権利というものがあり、そのための情報提供が求められます。一般国民と対等に、平等にそういう公共性を担保する必要があります。ですから、民間放送等についても、やはり公共的な放送の使命をもって、きちんと手話、字幕を付与することを求めていきたいと思っています。

ろうあ者のコミュニケーションについて、いろいろ考えますと、手話というのは、やはり手、指、また表情を使って、その概念を視覚的に表現する、まさに視覚言語というものです。これは、ろう者の母語であるわけです。

2006年12月13日、国連総会におきまして、障害者の権利条約が採択されました。世界各国の代表者の中で、手話は言語ということが、第二条に位置づけられたのは記憶に新しいことと思います。日本においては、2011年に障害者基本法が改正され、手話が言語として位置づけられました。ですから、そういう中での法整備を具現化していただきたいと思います。

権利条約の第二条に掲げられている言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語等と規定されています。

また、第二十一条におきましては意思の疎通という項目が設けられ、表現及び意見の自由、情報アクセスの保障ということが記されております。

「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」見直しについて

次に二番目になりますが、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の見直しを拝見しまして、ちょっと気づいたことについて、触れたいと思います。

手話放送の目標については、やはり目標が数値として明確になっていないことを、非常に残念に思っています。やはり、数値目標を明確にしていただきたい。手話放送の実施・充実に向けて、できる限りの取り組みを行うということになっていますが、どういう形でいつ実現するのか、目標値が示されないことによって、つまり見えないわけです。すべての国民の情報バリアフリー、情報アクセスを保障するために、数値目標を明確に入れていただきたいと思います。

さて、韓国の放送事情をちょっと調べてみましたところ、実は視聴覚障害者向けの放送の現状は、日本と比べてかなり進んでいます。例えば手話放送ですが、NHKの総合放送では0パーセント、教育テレビでは2.6パーセントに留まっていて、その他民放では0.1パーセント程度と、本当に韓国と比べても低い数値となっています。韓国の手話放送はどうなっているか調べたところ、驚いたことに8.4パーセントと、非常に高い率になっております。また低い局においても、0.9パーセントは最低限確保しているという、日本と比べて雲泥の差です。この違いはいったい何でしょうか。アジア諸国で、経済が発展しているのは、やはり日本ではないでしょうか。その先進国の日本で、手話放送がこのように貧弱な状況で遅れているのは非常に不思議に思います。皆さん、どうお思いでしょうか。放送事業者の皆様方、ちょっと考えていただきたい。

このことについて、総務省の考え方を見ますと、3つの基本的な回答がなされています。

1つは、技術的な問題があるという回答です。アナログ時代の1974年から、私たちは放送について運動を始め、広げてきましたが、デジタル放送に変わった今になっても、まだ技術的な問題がネックになっているという回答は、依然として変わらないものがあります。これはなぜでしょう。言い訳にすぎないのではないかと思わざるをえません。日本は先進国です。IT技術も進んでいるにも関わらず、なぜ技術的な問題があると言うのか、どうも釈然としない回答です。それから、技術的な問題といいますが、具体的に何が問題なのでしょうか。研究開発でも、必ずろう者自身が企画の段階から参画していく、そういう議論の場が必要になっています。

もう1つは、手話通訳者の確保が困難だというふうな記述があります。しかし総務省は、通訳者が確保できることを知っているはずです。政見放送における、手話通訳士の実績というものを知っているはずです。手話通訳者に関わる体制を万全に整えて、政見放送をやっているわけです。国政選挙では、ご存じのように、手話通訳者の知識また技能審査というものがきちんとした形で省令に定められていて、それに合格した人を登録するシステムが確立されています。2,955人の手話通訳士がいます。また、手話通訳者養成講座を学んで修了して、統一試験を受けた人たち、そして全国の都道府県に登録した人たちは4,813人います。これだけの数がいるわけです。それを総務省の政見放送に関わる担当者はよく知っていますので、実際に聞いていただきたい。

3つ目として、正確な翻訳表現に問題があるという記述があります。こういう記述は非常に不可思議に思います。今、社会福祉法人全国手話研修センターの日本手話研究所におきましては、厚生労働省から委託を受けて、標準手話の研究というものをしています。また、例えば新しく生まれたカタカナ語などの、新しい手話の開発や、昔からある手話の日本語翻訳等についての研究が進んでおります。そういう研究もあるわけです。その手話は、速やかに研修センターのホームページに紹介します。また、CS障害者放送統一機構「目で聴くテレビ」を通して、その新しい手話を紹介しています。ホームページやいろいろな動画などを見て、新しい手話についても学び、常に磨きをかけている手話通訳士等がいるわけです。

実は、東日本大震災のときに、研修センターにいろいろ問い合わせがありまして、いろんな手話を新たに発表したという経緯があります。災害に関する表現をこのような冊子にして出しました。ですから、技術的にはなんら遜色がなく、難しいことはないわけです。総務省に聞いていただければ、それはよく分かっていただけるでしょうし、また全国手話研修センターにもお聞きいただきたいと思います。

東日本大震災について

東日本大震災が発生しましたが、被災生活は非常に大変でした。その情報がたくさん入ってきています。ろう者や、ろう学校など関係者の復旧復興再生に向け、継続した努力を現在もしております。支援を手厚く行い、がんばっております。

地震などの災害が発生したときに、テレビの情報へのアクセスがなかなかできません。やはりテレビ放送に手話通訳、字幕を付与していただきたい。国民の中に、ろう者もいます。ろう者も国民です。ですからすべての人に正確な情報を提供していくことが必要です。その中で、正しい判断ができます。安全で安心な暮らしができます。そのためにはどうしたらいいのかを、まず真剣に考えていただきたい。

放送事業者は、音声言語で一方的に情報発信するのみならず、やはり情報難民という人たちもいることをしっかり把握していただきたい。テレビの情報は、命にも関わることを、しっかりと考えていただきたい。

これは災害だけの問題ではないのです。例えば豪雪地帯で雪の生活経験のある方はいらっしゃるでしょうか。私は青森に住んでいますが、本当に生活は地域によって違います。豪雪地帯の場合、車が渋滞します。除雪車がないと、車が通れません。そういうときに、どうやって情報を得るのか、これは重要です。例えば、車の中にワンセグがあって、その放送に字幕があれば、非常に助かるわけです。地方の多くは車社会です。車での生活がほとんどです。都会の環境でテレビを見るのとは違いがあります。そういったことも頭に入れていただきたい。

放送事業者の取り組みについて、国のアンケート調査があったのですが、聴覚障害者のテレビの利用状況について、調査結果を見ますと、いくつか気づいたことがあります。緊急災害のときの臨時報道の番組に、ぜひ字幕を入れてほしい、手話を入れてほしい、という声が、72.3パーセントにのぼっています。ニュースや天気予報、これも重要です。これは80.2パーセントの人が求めています。非常に数が多いです。これだけのニーズがあることをご理解いただきたい。

それから、地方ローカル局のことも挙げられています。これは非常に重要なことですが、ぜひ地域の情報を提供してほしいという声が、たくさん出てきています。地域のローカル局の放送にも、字幕、手話などを入れて、ろう者が安心して生活できるような環境を整備していただきたい。当たり前ですよね。いろんな情報が当たり前に入ってくる中で、何か起こったときに、ローカル局の情報が入ってこないのです。例えば、福島県で、原発事故が発生したときに、その情報を、福島に住んでいる人たちが、全く分かりませんでした。つまり聴覚障害者は、手話も字幕もなかったので、テレビを見ても、何が起こったのか分からないのです。3.11のときは、本当にいろんな問題が起こりました。ですから、字幕、手話の重要性を再認識する必要があります。

放送に期待すること

「補完放送」につきましては、総務省にも話をしておりますが、1989年以来、手話、字幕を付与した番組を制作してきた実績があるのは、CS障害者放送統一機構「目で聴くテレビ」だけです。手話放送などはなかなか難しいということが報告書に挙げられている中で、実績ある「目で聴くテレビ」にぜひ助言を求めていただきたい。目で聴くテレビが撮影した手話や字幕を「補完放送」とすることで、解決できる道筋はあるはずです。

それからガイドライン(行政指針)の見直しに入っていなくて残念だと思っているのが、モニタリングという言葉です。モニタリングが、ぜひ必要だということを訴えたいです。ガイドライン(行政指針)には、手話放送を充実させるというような記述があります。その目標を達成するためには、達成状況をモニタリングしていくことが必要です。研究開発や技術の活用というものがどの程度進展したのか、順次モニタリングしていくことが非常に重要です。例えば1年に1回でも設けていただければと思います。地方ローカル局の放送の数値目標も出し、ろう学校など子ども向けの手話字幕付きの放送の目標値とか、コマーシャルへの字幕の目標値など、数値目標をきちんと立てて分析し、モニタリングしていくことが非常に重要です。

先ほど高岡さんからも発言がありましたが、国の審議会、研究会検討会、委員会などに、やはり当事者が参画することが重要です。当事者が参画して、当事者の意見をきちっと反映させる。参画して議論に加わる。そして決定したことを推進し、その状況についてモニタリングをしていく、このモニタリング機能というのが非常に大切なことです。

障害者政策委員会が設置され、障害者基本計画の議論が進められている最中です。障害者権利条約のスローガンである「私たち抜きに私たちのことを決めないで」は、ご存じのことと思いますが、共生社会をつくるために、そのスローガンに則った施策を作るため、当事者参画が行われています。政見放送に手話を導入することなど、いろいろ議論をしてきました。ぜひとも当事者が施策に加われる、そのような審議体制を作るとことが重要です。

放送の平等なサービス、情報アクセスをお願いして、話を終わらせていただきます。ありがとうございました。