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障害者にとって今後の放送のあるべき姿~当事者・関係者からの提言~

CS障害者放送統一機構 専務理事 大嶋 雄三

デジタル放送は日本の社会に何をもたらしたのか

10年間をかけて法律も変え、そしてすべての家庭のテレビの買い替えも進めて準備されてきたテレビ放送のデジタル化が終わって、1年半以上が過ぎました。画面はハイビジョンになり、5.1サラウンド音声でより立体感を増したと言われてきたデジタル放送です。これが、今の時点でどのような結果をもたらしたのかを振り返ってみることが必要だと思います。

期待された経済効果は、シャープに代表されるように、家電メーカーは軒並みに大変な不況に陥っています。そして雇用の不安定をもたらす大きな要因になっています。世界の自慢であった日本のデジタル技術もどんどんと他国に追い抜かれています。

さらに、デジタル放送は障害者にも優しいと宣伝されてきましたが、この点はどうだったのでしょうか。障害者の立場から見てみると、手話、解説音声の技術的な未解決問題。加えて、データ放送の新たな未解決問題。難視聴地域への補完放送は実施されているが、デジタル放送の不足分を補う障害者に向けた補完放送は全く考えられていません。障害者に対して優しいとはとても言えない結果となっています。

「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送の充実に関する研究会」と「行政指針」の影響

こうした中で、今年、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送の充実に関する研究会」が行われその後、「行政指針」の5年目の見直し「指針」が発表されました。この見直し指針が発表された段階で、総務省がまとめた字幕、手話、解説の実情のデータを見てみますと、字幕では一定の前進が見られるものの、解説やあるいは手話に至ってはまったく前進は見られない。むしろ字幕が進んだ分だけ、解説と手話は低まったと言ってもいいようなデータが出ています。

この見直し指針は、研究会の議論を経て、パブリックコメントも求めて発表されていますが、発表されたと同時に、どのような受け止め方があったでしょうか。放送局、特にBSは、ほっとしたというのが実際であります。あるいは安堵したと。

障害者はどうか。この研究会の委員になった人を含めて、自分たちの要望が受け入れられなかったと見ています。

いろんな研究会がありますが、こんな不思議な研究会はありません。発表されていることや、質問されていること、提案されていること、そのことが議論されずに、別の内容が報告議論されている、そうした経過をたどっています。

まず、全体を見れば、放送局の意見に押し切られたという感じを強く受ける「指針」であります。放送局側にしてみれば、予算から見てもデジタル化には大きな負担がかかり、それに加えてバリアフリー化に予算をかけられないという実情から、障害者の強い意見だった放送のバリアフリーの義務化には強い抵抗がありました。

放送局はまったく努力してないのかといえば、そういうわけでもないという程度の努力? はしています。これは、吉井さんもお話をされました。だから、北風ではなく太陽のようにやろうじゃないかというご意見もありました。太陽というと、そんな名前で消えた党もありました。それはそれとして、しかし放送局の全体の見方、意見はこういうものであります。

放送における課題と当事者参加

とりわけ、今の時点で問題として指摘をしておきたいのは、今、電波として降り注いでいる地上波放送は何局あるでしょうか。東京で10局近くでしょうか。大阪が、大体6から7。ところが全国で見たらBSを含めて、約170局の放送が降り注いでいます。

今日何人かの方が発言されたような障害者の要求は叶えられないものだろうか、それは特別なことなのだろうか、と考えますと、誰もがテレビを見て聞いて情報を得て、楽しみ、学習する、このことは、今、人として生きていくうえで当然の要求であり、憲法にも定められたように平等でなければなりません。これは、障害があるとないに関わらずみんなが望んでいることです。しかしそれが予算の関係などを理由に170局以上から情報を受けている人と受けられない人との差別が生まれている。このようなことはあってはならないことです。

そういう実態を変えていくうえで、今大切なことは、放送の運営、制作過程に障害者が必ず参加をして意見を述べていく、そしてそれがいろんな形で検討され採用されていく、そういう経過をしっかりと作っていくことだと思います。しかし、今の日本では、やはり障害者が参加していない、排除されている、意見が無視されているのが実情であります。NHKの経営委員会などもそうです。障害者が参加していない。健常者が障害者の意見を代弁するんだという形になっている。こうした実情を改善し、常に障害者の意思が反映されるシステムの下で放送運営されることが望まれます。

他国の放送政策について

さて、他の国と少し比較してみてはどうかということで、先ほど浅利さんからもお話がありましたが、韓国の実情を最近調査して日本の実情にがっかりしました。韓国が、特別に進んでいるというようには私も思いません。問題を抱えているところもあります。しかし、学ぶべきところは学ぶ必要があるんじゃないかという部分がたくさんあります。

まず、韓国と日本の障害者の放送にかかわる基本問題について見ますと、日本の障害者基本法では、第三条の三を読みますと、「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。」と書かれています。なんだかレポートを読んでいるようですが、具体的に何をさせようとしてるのか極めて不明確です。韓国の法律を見てみますと、ちょっと違います。放送法の中で、放送事業者は障害者の視聴を助けるために手話、字幕それから解説などを利用した放送を行わなければならない。また必要な場合、放送通信委員会はその経費の全部、または一部を放送通信発展基本法による放送通信発展基金から支援することができる、と書いています。放送局に対して字幕、手話、解説放送の義務を明確にしていると同時に、それができない場合、お金でできるのなら政府はお金を出しますよということを、はっきりと述べている。時間がないので省略しますが、他の条項を見ていきますと、放送局の義務がいっぱい書かれています。また、「誠実に実施しなければならない」のように、「誠実」という言葉をたくさん使っています。これは、字幕や手話の品質の問題を含んでいます。日本のどこかの字幕事業者のように、字幕はとにかく出ていればよいというのとは違って、誠実にちゃんと理解できるようにするということを義務化してます。さらに、放送全体を統括する放送通信電波振興院という機構が作られて、その放送通信委員会の下に障害者の小委員会があり、小委員会の下に実行する部会の職員がたくさんいます。この人たちは何をしているかといいますと、毎日毎日その状況をチェックしています。それから放送局に対する立ち入り調査権を持っています。ここが日本との大きな違いです。日本は、ちょっと逆転していて、放送局に物を言ったらいけないという観念がすごく行政側にあります。

確かに、放送や表現の自由を保障する、これは憲法で述べられた重要な項目です。しかし、そのことと、義務化されたことを指導することとは別です。ここはしっかりとやっていかなくてはなりません。

品質低下の問題

それから、一つ重要な問題として挙げられるのは、解説放送、字幕放送、手話放送の品質の低下です。多分来週の障害者政策委員会の情報バリアフリーに関する小委員会でも議論されるのではないかと思いますが、予算の削減から来る品質の低下の問題です。解説放送というのは、単に場面解説をやればいいという問題ではないんです。例えば政治問題などの番組に解説を入れる場合、音声がまったくなく、一つの絵が最後の結論を導き出す、ものすごく重要な要素を持っている場合があります。それをきっちり解説して聞かせておかなければならないことがあります。そうしたことを抜いてしまうと、なぜこの結論が出てきたのか分からないということになります。

それから、字幕放送の品質の問題について、一つ事例をお見せします。

 

〔テレビドラマの映像を映写〕

 

時間がありませんので、手短に説明します。まず音楽の部分に音符マークがない。セリフに色分けがされていない。左下に位置が固定されている。役名表記なし。それと文字、字幕の切り替え部分で「ス」が入っています。これは次の映像を出すときに混乱を起こしているんです。字幕を打ち込み信号を連続させれば、次の字幕の段階に自動的に入るんですが、信号を切って処理せず出せば、安く作れます。ところが、皆さんが日ごろなじんでおられる字幕は、センターにきちっと字幕があって、色分けもされて音符マークもついて、そして字幕の切り替えもきちっとされているという編集がされています。これは、東京キー局を中心にして確立してきた字幕のマニュアルに基づくものです。

これが、どんどん無視されているわけです。そして品質が低下しています。さっき言ったように解説放送の分野でも同じことが起きています。これらの問題を、やはり現場の人たちと一緒になって解決していくことが必要です。

最後に

政府は以上のような問題をしっかり解決すると同時に、バリアフリー化に対して思い切った措置を取っていくことが必要だと思います。まもなく新しい政権が生まれるんだろうと思いますけれども、そこはしっかりと総理がやってくれるように期待をしたいと思います。

最後に一つだけ申しあげたいのは、補完と同時に緊急時などを考えるとどうしても障害者の専用放送が必要です。韓国では、日本から学んで、障害者向けの専用放送の立ち上げを政府が行う方向で検討が始まっています。私たちとしても、今後の方向として、今ある「目で聴くテレビを」すべての障害者の放送局として、もっといいものができるようにしていくことが必要です。そのことを投げかけて終わりたいと思います。