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■ 講演5
適切なリハビリテーションサービスに関する途上国の農村での挑戦、総合サービスへのアクセス

ハンディキャップ・インターナショナル東京事務所代表 ベンジャミン・ゴビン


沼田/ベンジャミン・ゴビンさんは、現在ハンディキャップ・インターナショナル東京事務所代表です。東京事務所の前は、アジアの各国で活動されていました。本日は特にフィリピンでの活動プログラムについてお話をいただきます。

それでは、お願いいたします。

 

ベンジャミン/ 私の自己紹介をさせていただきます。私の名は、ベンジャミン・ゴビンです。フランスの組織であるハンディキャップ・インターナショナルで仕事をしています。また、社会学者としてのトレーニングを受けており、哲学分野での学士号ももっています。私は世界各国で仕事をした経験があり、ルーマニア、ハイチ、アフガニスタン、そして最も長かった活動の場はフィリピンです。この7年間は、フィリピンにおけるプロジェクトのプログラム・ディレクターとしてさまざまなコーディネーションを務めてきました。

今日は、皆さんにとって興味深いと思われる内容をいくつか選び、このフィリピンという国において、どういった課題に直面しているか、いくつかの例を挙げながらお話しさせていただきたいと思います。

今まで、各講演者の方々もおっしゃっていたように、途上国で障害者にいろいろなサービスを提供していくうえで、またアクセスの面で考えても、いくつかの困難な課題に直面します。その中でも特に遠隔地に住む障害者に対してどのようにアクセス、サービスを提供していくかということに対し、お話ししたいと思います。

ハンディキャップ・インターナショナル

まず私の組織であるハンディキャップ・インターナショナルを紹介させていただきます。

このハンディキャップ・インターナショナルは国際NGOで、本部はフランスのリオンにあります。この組織では、障害者の生活の質を高めるという取り組みをし、特に途上国、ないしは紛争後の地域で活動の展開をしています。

我々の団体では3つの活動部門があります。まずは、地雷部門です。この地雷部門においては、地雷廃絶のグループとコミュニティにおける認識を高めるグループがあります。2つ目にリハビリテーション部門があり、障害者のリハビリテーションに関わるさまざまな活動を展開しています。最後に、緊急支援部門があり、世界で大地震や津波などが起こった際に、現地で救助活動を行います。

組織は1977年にスタートし、公式に登録されたのが1982年です。現在では、世界60か国に3,000人近くの職員がいます。我々の組織名は、フランス語で「ビブレデブー」といいますが、これは「立ち上がって生きる」という意味をもち、我々の哲学、つまりは信念につながります。そして、「人の尊厳を促進し、守っていくこと」をモットーとし、連帯意識、相互扶助、同胞愛、正義と公平さという価値観に基づいて活動を展開しています。

こうした価値観に基づいて、我々の団体意識は成り立ち、世界中の人々、特に障害者に対し平等な機会が与えられるよう真剣に取り組み、関わっているのです。また、私たちの団体は地雷廃絶国際キャンペーン(ICBL)に加盟しており、1997年にICBLの一団体としてノーベル平和賞を受賞しています。

ヒルワイ・プロジェクト

次は実際にフィリピンの島々で行なわれた活動についてご紹介したいと思います。

この、フィリピンの遠隔地の島々に住む人々のために企画されたプロジェクトは「ヒルワイ・モバイル・リハビリテーション・サービス」という名称がついており、船を使ったリハビリテーションサービスを提供しています。「ヒルワイ」とは地元の言語であるイロン語で「自由に動ける」という意味です。すなわちある一定の場所に縛られずに「自由に動ける」という意味を示し、我々の活動が目指しているものに非常にマッチした言葉だと思います。我々自身も点々と活動現場に赴き、対象とする人たちが自由にいろいろなところへ行き来できることを目的としているからです。

このプロジェクトは2003年にスタートし、幸運にも世界銀行のコンペに受賞し、活動資金を調達することができました。

リハビリテーションへのアクセスの問題

では、なぜ船を活用していくのかという話の前に、まず、フィリピンの地理を紹介しておきたいと思います。フィリピン群島はこのようにさまざまな島から成っています(図1)。フィリピンには7,100の島があります。1988年に我々がフィリピンで活動を展開して以来、整形外科および身体のリハビリテーションセンターを含んだ、18の施設を開設しました。これらの施設は、地元のNGO、あるいは地方自治体が現在も運営を続けております。私どもが感じた最大の問題点は、そういったリハビリテーションセンターが、都市部に集結しているということです。

            図1 フィリピン諸島の地図

2001年にフィリピンで大きな総会を開催した時に問題として提起されたのが、リハビリテーションサービスに対するアクセスの問題です。特にこの地図の真ん中にあるイサヤス地域は島々がたくさん点在しているので、情報もスムーズに伝達しておらず、リハビリテーションのサービスにおいてもほとんどカバーされていないことが指摘されました。したがって、現状を理解するためにまずチームメンバーを現地に派遣し、事前調査を行いました。結果、こういった島々にも、多くの障害者が住んでいることがわかったのです。

そして、島々の間の移動が非常に難しいという問題にも直面しました。フィリピンのこういった島々では公共交通機関がありません。通常はバンガーと呼ばれるいかだのような木製の小さな船で移動しなければなりません。そして、交通機関の問題が解決されている地域でも、そういったサービスは非常に少なく、患者の移動などが困難でした。

さらなる問題点は、この地域で極度の貧困があることです。フィリピンの国家統計の数字だけを見ると、途上国としてそれほど悪い数字ではありませんが、実際国内では、不均等な形で富が配分され、非常に豊かな暮らしの人と貧しい暮らしの人がいるということになります。たとえばマスバテル島という島がありますが、人間開発指標では、貧困度はパプアニューギニアやコンゴにも匹敵する最貧の部類に入ります。

 

島嶼地域における制約条件

では、我々はどのようにして、何ができるのかを考えていく際に、まずこの地域においてどういった制約条件があるかを考えてみました。すると、次のようなことがわかりました。

まず先ほども申し上げたように、島々の間での移動が極めて難しいことが第一の制約条件でした。もう一つは、個々の島々が非常に小さいため、技術移転が難しく、トレーニングのためのさまざまな施設建設やいろいろな器具を提供し、定常的なリハビリテーションサービスを行うための投資が正当化しにくく、コスト面からもかなり困難な状況であることがわかりました。仮にリハビリテーションサービスをそこで確立したとしても、島々が小さいがゆえに、持続可能な形にしていくことは難しく、スタッフを定常的に駐在させることも難しいことがわかりました。また、島の数が非常にたくさんあるので、島ごとにリハビリテーション施設をつくるには莫大なコストがかかってしまいます。

3つ目の大きな問題点として、地元の人たちにとってリハビリテーションサービスそのものに対する認識が欠如していたり、情報がないことでした。住んでいる人たちにとって認識がまったくない上、「リハビリテーション」という言葉すら聞いたことがないのですから、例えそういうサービスができたとしても、我々のところに来ないことになります。

また、こういった生活環境の人たちを対象にする既存の技術や方法論がないことも問題でした。

開発における障害へのコミュニティ・アプローチ

このプロジェクトを進行するにあたり、まず開発における障害へのコミュニティ・アプローチ(CAHD)のストラテジーを参考にしました。

CAHDの第一の要素は、社会的なコミュニケーションです。社会的なコミュニケーションとは、地元に住んでいる人たちの間で障害者に対する見方、姿勢を変えていくためにコミュニケーションをとるということです。先ほどの講演者の話の中でも、障害者に対する差別が挙げられましたが、フィリピンでも誤解や迷信からくる差別があり、「障害」の本当の意味を知ることもなく、障害をもつ子どもの親は世間から隠そうとします。しかし、私たちの活動は障害に関する認識を高めるための活動ではなく、障害者のための活動をしていけるようにすることです。

もう一つCAHDにおける重要な課題は、開発におけるインクルージョンです。その人の社会での自立、自律性、尊厳にも結びつくのでいろいろな活動を展開していくうえで、この点が非常に重要であると考えています。こういった活動により、障害者の方々が地域社会で教育やトレーニングを受けたりする機会を得て、就労など人生の目標を見出し、他人の手を借りることなく地域社会で積極的な関わりをもっていくことを目指します。

CAHDのストラテジーの3点目が、リハビリテーションセラピーを施すことによって障害者の可能性を最大限に引き出すことです。さらに、計画、管理、評価という面から確実にコスト効率をよくすること、また活動がより長期間に効果がおよぶように作用させなければなりません。これには地元の政府、地方自治体のリーダーを動員し、持続的に行われていくことを意識しなければなりません。

したがって、これらの課題をクリアするために、我々のところになかなか来てもらうことができない人たちのアクセス手段として船を考えたわけです。

船によるアクセス


図2 船の図面。船を側面から見た図と上から見た図。

 

これは船の図面です(図2)。船の左の部分に、ワークショップがあり、(義足等に使用する)補助具等を製造しています。また、こちらの上の図面の左側には貯蔵庫があり、3か月間分の供給品を蓄えることができます。こちらのほうにあるのがテクニカルルームです。エンジン、ジェネレーターも搭載しています。島々を訪問すると大部分の地域で電気も水もない状況がよくあるからです。こちらが生活エリアで、バスルーム、キッチンがあります。3か月はクルーやスタッフが生活できるようになっています。また、右側にオフィススペースがあり、ここにはコンピューター、地域内での連絡手段として衛星電話が備わり、一般業務等が行えるようになっています。そして、下のほうには寝室があり、スタッフやクルーが寝ることができます。現在、この船には13人まで乗り込むことが可能です。

一度下船すると、3か月は島に滞在し、そして3ヵ月後には次の島に移動していくという形をとっています。3か月間という期間を選んだのも、そうした補助具をつくり出し、そしてトレーニングをしていくのに、これくらいの期間が必要だと考えたからです。この地域から5つの自治体を選んで、トレーニング等を行なっております。活動が終わり、島から離れる時は船を時計の針とは反対の方向に進ませ、モンスーンを回避するようにしています。そして翌年、さらに5つの自治体を選び、新しい患者を受け持つ傍らで、以前訪問した時に受け持った患者のフォローアップもします。特にその時子どもであった場合、成長の過程で新たな補助具が必要になってきたりするからです。

ヒルワイにおける戦略・方法

冒頭で、リハビリテーションを行なうにあたって根本的な技術、方法論がないというお話をしましたが、我々は「ヒルワイ」を運営していく上で、どういった形の戦略や方法をとったのかを紹介したいと思います。

このプロジェクトにおいて何より重要なことは、障害当事者が自分の意志や向上心に基づいてチームの活動を展開していくことです。何より、障害者自身がプロセスの中心であるということが基本です。このヒルワイの活動において、3か月経つと我々はそこを離れていくので、障害当事者から行動をとる人、リーダーとなってリハビリテーション活動を進めていく人が必要になってきます。

身体の診察あるいは医学的な処置をする前に本人と今後の計画を話し合っていくことが重要です。いろいろな話し合いをすることによって、具体的な行動計画をつくるわけです。そしてまず成果が出しやすい、短期と中期の目標を設定します。我々のアイディアを押し付け過ぎず、彼らの意見を尊重し、何を望んでいるかをはっきりさせていきます。私が思うに、これはどの国おいても障害関連の開発を行うにあたり、担当者が取るべき対応であると思います。

個人の行動計画をつくった後で今度は地域での活動を展開していきます。目的を達成するためには、その地域に住む人を動員していく必要があります。その他に、資源、エネルギー、資金等が必要になっていきます。

我々の船が来ると、あたかもお祭りが開催されるような雰囲気になるということが嬉しいですね。

先ほど、個人に合わせた行動計画が実施されると話しましたが、それは、インクルーシブな育成を目的とします。個人の行動計画にはたとえば学校で学ぶ、何らかのトレーニングを受ける、結婚する等といった、いろいろなことが挙げられます。そして、実現するためにはその人がどういった研修を受けたらよいかを話し合い、就職活動の世話をしたり、学校でのインクルージョンをしやすくしたり、場合によっては、資金、器具、補助具を提供し、各自の収入源を上げられるように手伝うこともあります。その人の可能性を最大限に生かしていくことが当事者のリハビリテーションとして非常に重要です。

その次にCBRのトレーニングパッケージを展開していきます。そのためには、各コミュニティのニーズに合った、CBRのプログラムを作成し直す必要があります。完全な形のトレーニングを行うだけの時間はなく、またトレーニングに織り込まれている障害がその地域には存在しない場合もあるので、プライオリティを決め、その都度対応していきます。まずは、介護者あるいは家族の方と一緒に、障害者自身のトレーニングを行います。その他に、我々がいなくなった時に彼らが活躍できるように、地元のソーシャルワーカー、医療ワーカーなどの専門家に対するトレーニングも行います。

それ以外にも技術的な面で、CBRとして介入できない部分があるため、整形外科的な処置、義肢の提供、歯科矯正の治療、その他に移動のための器具の提供や理学療法を展開しています。そういった活動を展開していくなかで、その人の目的が何なのか非常に重要になっていきます。

活動計画の中で、障害者のアクセシビリティという点も考慮していかなければなりません。例えば、家の中で障害者が自立した生活が行なえるよう、住宅環境アクセシビリティの改善に努めたりしています。フィリピンのこの地域においては、北海道出身の日本人作業療法士に、ここ2年ほど中心となり、活動を取りもってもらっています。

CAHADのアプローチにおいて重要なのは、計画、管理、評価のプロセスです。その過程で、地元の政府、当局に関わり、彼らに対してもトレーニングを行います。トレーニング後は、現場でどう活用できているかを評価し、話し合いをしていきます。

また地域訪問をする際、障害などに関する情報データを収集します。こうして我々自身のオペレーションの計画の向上に向けて、さらなる改善策を模索していきます。また、個人の具体的な行動計画に基づいた評価プログラムも作成し、経過を見直します。これは、最も重要なプロセスのうちの1つだと我々は考えます。車いすや義肢などの補助具を提供したとしても、それが本人の生活に変化をもたらしていなければ意味がないので、その人の生活、人生においてどのような価値があったかを評価していきます。

ヒルワイの実践

こちらが船に乗っている担当チームの構成です。まずプロジェクトマネージャーが一人、いろいろな供給物資の管理者でもあり、一般業務を行なう人が1人、直接サービスに携わり、CBRの訓練をする理学療法士が2人、整形外科関係の技師が2人、コミュニケーションを担当し、地域の人々の意識づけを高めていく担当者が1人、そして船の乗組員が5人という構成になっています。

また、地元のボランティアの方々も我々の活動を支援してくれています。地元で車を運転してくれるドライバーは地方自治体が提供してくれることもありますし、外科医専門の医師や技師など多くの人の協力を得ています。これらは、地方自治体が無償で提供してくれています。

大規模な災害が発生するなどの緊急事態の際には、我々の船を用いてそこで最善かつ適切な支援を展開していきます。こちらが過去に関わった緊急事態です。3年前のバンダアーチェの災害、2年前のレイテ島の災害、また、去年のマリンデューケの災害では、我々の船が最も早く現地に到着しました。

こちらは訓練などの、さまざまな活動風景です。これは日本の大使が工房を訪れています。車いすを製造し、義肢を製作する工房も備えています。また、非常に高品質な補助具や、各自に合わせた車いすなどを製造できる専門的な環境を備えた設備です。村ではスポーツ・アクティビティの光景も見られます。

我々は12の島々を訪れ、そして70以上の地方自治体にサービスを提供し、2,354人の障害者を対象に活動してきました。さらに340の義肢を製作そして提供し、96台以上の中古品ではない、当事者に合わせた車いすを製作し提供してきました。さらに840人以上を訓練し、84校で働き、また、160人に対して雇用機会を提供してきました。

これらのサービスを実現していくうえでの包括的なアプローチは、適切な資金を得ることから始まります。そして適切な技術、またはサービスを提供していきます。単にそれらは品質が高いということだけではなく、加えて運営のコスト自体が低コストで実現でき、そして利用したい時に利用可能な状況で、地域社会の経済条件に合わせた形で提供されなければ、持続可能な活動にはなりません。こうしたサービスを確実に実現し持続するためには適切な枠組み、システムが必要となります。ご清聴ありがとうございました。

 

沼田/ありがとうございました。フィリピンの島々を船で回るというユニークな活動でした。障害者自身が何を望んでいるのかをもとに、障害者個別のプログラムをつくる。また、外部者が引いた後この活動がどうなるのかにも十分配慮しなければならないなど、多くの示唆に富んだお話でした。