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障害者とメディア 「マスメディアと障害者」ヨーロッパ大会

全体会議Ⅲ(広告・小説の中の障害者の描写)

Mr. Dominic Lyle
-欧州コミュニケーション局協会会長

当該分野において長年の経験を有するLyle氏は、広告の中の障害者の描写というテーマで、慈善的広告と他の広告の比較を中心に発表します。

Lyle氏は、21世紀を迎えた現在でも、マスメディアが障害者を軽視しているのは、驚くべきことだと述べます。法規によって障害者の権利が保障されている国でも、その法規はマスメディアにおける障害者の描写に適用されていないのです。しかしメディアがどのように障害者を表現するかは、実生活の中で健常者が障害者を理解する上で大きな影響を及ぼすのです。

障害者が広告に登場することは稀です。なぜなら広告では身体の完全性が非常に重視されるからです。広告業者は、障害者をモデルに使うと、見る人に不快感を与える、と危惧する傾向にあります。唯一広告に登場する障害者は、車椅子に乗っている人々です。広告は視覚媒体であるため、社会の多様性を表現したいときは、その一部である障害者の存在を示唆する手段として、車椅子のような用具を使うのです。

Lyle氏は、広告業界は少なくとも2つの方法で差別を助長していると考えます。まず、障害を一般の人々の目に触れないようにすることは、消費者としての障害者の役割を無視していることになります。次に一部の広告主や著名な慈善事業家は、資金調達のため障害者を著しく歪んだ方法で描写しています。慈善事業の広告における障害者の描写が、深刻な問題となるケースがあります。関係団体の抗議をよそに、何でもできる「スーパー身障者」のイメージを誇張した広告が引き続き作成されています。このような広告は他の障害者を「不適格者」と見なす態度を助長することになります。

最近になって、障害者の「できないこと」ではなく「できること」を強調した慈善事業の広告が増えてきました。この変化は望ましい変化の第一歩だと言えますが、しかし変えていく必要性をあいまいにし、慈善行為によって障害者を援護すべきという固定観念を定着させます。「中心に据えるべきは常に障害者であり、私たちが今住んでいる『障害者を作り出す社会』ではないのです。現状は真に必要とされているものとは全く反対なのです。」Lyle氏は、慈善事業の広告を、いわゆる「障害者を作り出すプロセス」の一部としてはならないと述べます。

これらの「障害を作り出す」イメージの問題点は、それを作り出すのが健常者であるという点です。つい最近まで、障害者はメディアや広告における自分たちの扱われ方について発言権を持ちませんでした。広告業界の専門家を公平に見れば、テレビ局の専門家も障害を持つ視聴者がテレビ放送に何を求めているか理解していないのです。放送局はその描写方法について障害者自身が述べる批判に耳を傾けるべきです。

障害者はメディアに対して、障害問題を扱うときは尊敬を持っておこなって欲しいと考えています。障害者の多様性を尊重し、障害者の視点に留意し、まず彼らの意見を聞き、彼らの能力を敬って欲しいのです。そしてメディアの専門職として障害者を雇用することを望んでいます。従って広告業界は、その創造的な生産活動に障害者をより頻繁に関与させる必要があるのです。そうすることで障害者は常に私たちの社会の重要な一員と見なされることになるのです。しかし、一部の例を除けば、広告会社の現状は多くの場合これとは逆です。なぜでしょうか?広告の効果が薄れてしまうことを恐れる余り、そして宣伝するブランドに常に障害者のイメージがつきまとうため、という理由に加えて、これらの企業は社会における障害者の立場にそれほど興味がないからです。広告業者は可能な限り最も効果的な広告を作りたいのです。

よい広告とは、消費者の信頼が得られるような広告だと言えます。広告の中でありのままを表現することで、何かを犠牲にすることにはならない、と認識し始めている会社もあります。ある調査では、障害を持つ消費者は、他の消費者よりブランドにこだわる傾向にあることが明らかにされました。障害者も一般の人々と同じ消費者であることを、広告会社の幹部も認識しはじめています。

保守的な専門家には、障害者を使った広告は、募金目的のものを除き、障害者のイメージに便乗していると訴える人がいます。また同情を誘うことで商品を買わせようとする態度を非難する人もいます。障害者自身の反応はどうかというと、本人の合意を得て、正当な報酬が支払われているなら、搾取とは言えないという考え方が一般的です。社会におけるメインストリーミングという観点から見た場合、システムとして障害者を広告に登場させることは有益でしょうか?その広告が人間の能力と才能を強調するものなら「イエス」です。そうすることで障害者の認知度を高め、一般市民は各種の障害について理解を深めることができます。そして障害者と健常者の交わりの例を示すことによって、障害者が疎外感を克服するのを支援することができます。また高級職に就いている障害者の実例を一般市民に示すことができます。

この目標を達成するため、広告会社と顧客はそれぞれ新しい道を探っていく必要があります。障害者を広告に登場させるのは、そうすることが広告の当初の目的に反することにならない場合に限られます。

結論としてLyle氏は、メディアは障害問題を熟知する必要があると強調した上で、実業界がこの市場の潜在性を認識するなら、広告にはより多くの障害者が登場することになるはずだと述べます。これは必ず広告主、慈善事業家、広告会社そして何よりも障害者自身を利する結果をもたらすでしょう。