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日英セミナー「障害者のための社会的な仕事と雇用の創出」

意見交換

●パネリスト

フィリーダ・パービス氏
マイケル・フルーデンバーグ氏
マーティン・ロッジ氏
上野容子氏
伊野武幸氏
炭谷茂氏

●司会

山内繁氏

意見交換の様子
山内: ただいまご紹介いただきました国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所長の山内です。このパネルディスカッションでは最初に3人の方からプレゼンテーションをいただきます。その後で全員壇上にのぼりましてそこでディスカッションを開始するという順序で進めてまいりたいと思います。
それでは最初に、ヤマト福祉財団常務理事の伊野武幸様からお願いしたいと思います。ご紹介はプログラムにありますので、それをご覧いただければと思います。伊野さん、よろしくお願いします。

伊野: ご紹介いただきましたヤマト福祉財団常務理事の伊野でございます。ヤマト福祉財団の事業についてご説明いたします。実は皆様のお手元にレジュメがいっていると思いますが、私がここでお話をする内容を個人的にまとめたものでございまして、ちょっと足りない点もあると思いますので、補足を加えながらご説明していきたいと思います。
私どもの財団は、設立は1993年9月でございます。設立の動機ですが、現在の私どもの小倉昌男理事長が、ヤマト運輸株式会社で宅急便という商品を開発いたしまして、これをなし遂げられまして、社長、会長を歴任されましたが、一切から退きましたときに、ご自身がお持ちになっていた株式の大半を、いわば財産ですが、寄付をされましてこの財団を作られたわけです。ヤマト運輸の株式320万株を寄付されまして、当時のヤマト運輸株式会社から5億円寄付をいただきまして設立いたしました。基本財産は約56億円ということになっています。1993年ですから今年で足かけ12年目ということになります。まだ若い財団でございます。

財団の目的でございますが、障害者の自立と社会参加に関する活動に対し、幅広い援助を行い、障害者が健康的で明るい社会生活を営める環境作りに貢献することを目的とする、このように書いてございます。簡単に申し上げますと、障害者の自立と社会参加を支援するということで活動を続けてまいりました。
主な事業として二つありまして、一つは助成事業でございます。二つ目が自主事業でございます。助成事業というのは本日のテーマにそぐわないのであまり詳しいご説明をしても仕方がありませんが、せっかくですからかいつまんでご報告いたします。最初に障害者に対する奨学金の供与というのがございます。これは障害者で家族を合わせても非常に収入が少なくてお困りの大学生に、月額5万円、年間で60万円ですが、4年を限度に差し上げています。留年される方にはご遠慮願うということでございます。4年を限度に差し上げています。またこれは制度上の不備があるのかわかりませんが、大学院に行かれた方にもその時点で打ち切っていますので、そのへんにまだ問題があるかなとは思っていますが、限度は4年でございます。平成16年度は34名の方が対象になっています。

二番目に、障害者施設に対しまして、備品購入や設備改善に助成を行っています。特に国からの補助金がない、少ない無認可の共同作業所ですね。全国に約6,000カ所あると言われていますが、そういうところを重点に、たとえば男女のトイレが一緒であるのを別々にしたいとか、施設に雨漏りがするから直したい、あるいは夏でもクーラーがない。非常にお気の毒な状況ですから、こういったところにまず重点的に設備改善費を差し上げるようにしています。それから備品の購入ですが、主に販売促進とか生産性向上につながってその施設の収益が上がるようなものに対して、たとえば車を買って配達をしたい、それによって売上を伸ばすとか、あるいは梱包のパッキングマシンを買って効率を上げたいとか、炭窯を作って炭を焼いて売りたいとか。そういった事業に対して助成を行っております。その他、講演、研修、出版、啓発、調査・研究、文化・スポーツ等ございますが、今日のテーマとはあまりそぐいませんので省略させていただきます。

平成16年度の助成総額は件数にして128件、金額は8,000万円です。しかし実際に申請をいただいた件数は1,522件ございまして、申請総額は9億7,000万円にも上ります。今まで助成を差し上げた累計では7億3,000万円ということになっております。
これが助成事業でございますが、自主事業というのが私どものメインでございます。1番目にパワーアップセミナー、これが一番大きな事業でございます。なぜこのパワーアップセミナーを始めたのか。ここに書いてありますように、当財団の小倉理事長には「福祉を変える」という著書がありまして、日経BP社で出しておりますが、その一節に次のようなことが書いてございます。これをお読みいただくと一目瞭然、おわかりになっていただけると思います。「障害者の自立とは何か。具体的には障害者が働いて収入を得て生活できるようになることではないか。現実の社会を見ると、障害者には働く場がほとんどない。あるのは障害者雇用のための共同作業所のような福祉施設だけである。しかも月給はたったの1万円というのが現実である。これは黙視できない。ではなぜこんな現状が放置されたままなのかというと、こういった施設の運営に携わっている人たちが、福祉の知識はあっても経営のことを知らないからである。ならば障害者が月給1万円の世界から脱出するのを助けることは、ヤマト福祉財団の事業としてふさわしいことではないか。そう考えた私たちは、この人たちに経営の知識を与えるため、ヤマト福祉財団の事業として経営パワーアップセミナーを毎年開設してきた」。

このように、そういう目的でこのセミナーを始めましたのが1996年で、今年で9年続けてまいりました。
あまり人数が多いと集中心がそがれるということで一回30名を限度にしまして、全国で8~10カ所、毎年、北海道から沖縄、九州と沖縄は別々にしたこともありますし一緒にすることもありますが、開催してまいりました。今まで受講された方は2,700人を越えています。
どういう人たちを対象にしているかと言いますと、各施設の施設長など幹部職員をお招きしまして、いわば福祉のプロではあっても経営にはあまり慣れていらっしゃらない方においでいただいて、二泊三日でホテルに泊まっていただき、どうしたら経営というものがスムーズにいくかという基本的なお話からグループ討議、あるいは各施設で作っておられる自主製品をお持ちいただいてそれに対する批評などをお互いにしてもいいのですが、プロの人たちにしていただきます。大半が商品にはほど遠い。製品、作品だという酷評を受けますが、そのように刺激しながら、いかにマーケットで売れるようなものを作り上げるか、レベルを高めるか、こういったことを中心にした講座を行ってきました。

偉そうに受講生を前に経営などを言っても説得力がないから、自分たちでも事業を起こして見本を示そうと言って始めたのがスワンベーカリーです。これは実験として始めたわけですが、たまたま広島に本社のあるタカギベーカリー、アンデルセンというブランドで売られているベーカリーの会社です。この高木社長さんとうちの理事長が出会ったのです。これは余分なことかもしれませんが、タカギベーカリーさんの社内報の対談の相手に、小倉さんと、サービスのあり方について対談をしてほしいということで、それがきっかけでございます。そこで、高木社長と対談をしました折りに、障害者の仕事として何かないかというお話をされたときに、冷凍生地を使ったパンというのが話題になりまして。たまたまこの冷凍生地を開発したのがこのタカギベーカリーさんだそうです。聞くところによると先代の社長が開発されたそうですが、特許をとって利益を上げるよりは、むしろ特許を解放してパンの需要を増やした方が、結果として自分の会社の利益に戻ってくる。それが一つと、もう一つは、パンの職人というのは夜中に起きて苦労しながら熟成させてパンを作り上げる重労働だから、その重労働からも開放させてあげたい。こういう二つの考え方で特許を解放されたそうです。ですから今はほとんどのパンが冷凍だと思いますが、この冷凍の生地を使うことによって障害者でも簡単に、まあ訓練が必要ですからそう簡単にというわけにはいきませんが、比較的簡単にパンが作れるようになった。

しかもパンのプロというのは世の中にたくさんいるわけですから、とてもかなわない。そこで大手のパン屋さんに太刀打ちできるのは焼きたてパンだと。したがって店頭のパンは焼きたてのパンを、お客様に作っている姿が見えるようにして売れば、買っていただけるだろう。それが大手のパン屋に太刀打ちできる戦術ということで始めました。
1998年に、第一号店が銀座にできました。昨年末に札幌の時計台のそばに札幌時計台店というのができまして、ちょうどチェーン店が16になりました。いろんな特徴のあるお店がありまして、チェーン店の一号店の十条店というのは小島先生という有名な先生がいらっしゃいまして、立地条件が悪くてマーケティングリサーチをやったんですが、どうもこの土地ではパンは売れませんとタカギベーカリーの専門家に指摘されたんですが、パンが売れなければ私が売りにいくとお考えになりまして、現在は厚生労働省の地下にも売店を出していただいたり、東京都庁にも毎日出向いていって売らせていただいている。そういう積極的な事業展開をされているところもございます。群馬県の太田市の清水市長が、設備を作るときは一時お金はかかるけれども、一度作ってしまえば障害者が一生懸命働いて利益を生み出すのだから、長い目で見ればプラスになると言って、スワンベーカリーのチェーンに入っていただいたり。全国16あるお店の中にはそういった特徴的なお店があります。今は16ですが、さらに増えるような状況でございまして、近いうちに20店舗くらいにはなるのではないかと思っています。

ただスワンベーカリーの難点というのは、設備投資にお金がかかるんです。設備資金が必要です。だいたい全部で4,000万円くらいかかるのじゃないでしょうか。そういった点がありまして、理念はいいのですが、現実にはなかなか中小の施設などでは難しい。それから立地条件に左右されます。店売りを主に考えますから、一等地ですとどうしても家賃が高いとか、そういうことがありましてなかなか難しゅうございます。しかしそういったいろんな悪条件をクリアして、ぜひパンをやりたいという方も結構いらっしゃいます。
ただ私どもで条件を付けております。障害者には必ずその地域の最低賃金、時給ですね、これはクリアするようにと注文を付けております。障害者を安く使って利益を上げる、収益を上げるというのはダメという理念です。たとえば東京都の最低賃金は705円だそうです。しかしスワンベーカリーの直営店では最低でも750円お支払いしていますから、健常者とそんなに違わず働いていただいているということでございます。
スワンベーカリーというのはもちろん私ども財団が直営でやるわけにはいきませんので、ヤマト運輸の100%出資の子会社でございます。

スワンベーカリーというのは、いいのですがなかなか広がりが鈍いというか遅い。そういったことがありまして、もっと身近に仕事はないのかということで考えましたら、ちょうどヤマト運輸でやっておりますメール便という事業がございました。郵便に似た、カタログやパンフレット、あるいは書籍などをポスティングする仕事です。ダイレクトメールとか。これが非常に伸びておりまして、昨年度で9億8,000万通ありました。今年度は3月までに14~15億通までいくだろうということになっています。だいたい1日あたり全国で配達が4,000万通あるのです。これを全国の共同作業所など障害者の施設が6,000~8,000カ所あるということですから、こういった人たちがもし希望すれば、仕事をやってもらった方がいいのではないかということになりました。

一番初めに始めたのは、沖縄の「わんからセンター」です。これは精神障害者の施設ですが、全国精神障害者家族連合会の機関誌に、メール便の仕事は全国各地の作業所で取り組める仕事だということで、次のように紹介していただきました。
「1.全国どこでも取り組める。2.いくらでも仕事が細分化できる。3・お客様からありがとうと感謝される。4.セールスドライバーから働く姿が学べる。5.地域交流ができる。6.犬とも仲良くなれる。7.しっかり収入にもなる。8.なんと言っても楽しい」

私の方からすれば微笑んでしまうようなことでも、社会参加するというか、社会に慣れていない障害者の方、施設の中で今まで仕事をしていたわけですから。実際、こうやってポスティングをしながら世の中の多くの人たちと触れ合うと、ありがとうと感謝されるとものすごくうれしがるとか。犬なんかとも、実際に餌付けをしないと吠えられますから。そういう知恵。これをヒントに、餌付けをした犬というのは愛犬で飼われているわけだから、ドッグフードもついでに売ったらいいじゃないかということで、売りに行っているんです、実際に。そういうお家へ、配達したついでに。そういうところにビジネスのヒント、チャンスがあるわけです。そういうことをされている。

お米も、何キロも一度に買うのではなくて、毎日精米したてのお米を売っているんです。組み合わせてビジネスをやっている。ですからそういったことをやれば、全国どこでもできるんじゃないかというのが、この永山さんの提案だったわけです。
これを受けまして、ちょうど昨年の5月に、きょうされんさんとゼンコロさんとセルプ協さんから、ヤマト運輸の社長宛に要請文が来ました。全国の障害者にも配達をさせてほしいと。私が社長といろいろ話をいたしまして、いろんな条件、これは品質に関わる大事な問題ですから、そういった点できちんと仕事をする。それから現在既にメイトさんといって、家庭の主婦の方が大半ですが、これを請け負っている人たちがいますから、その人たちをいきなり排除するわけにはいきませんので。ですから急に明日から全面展開できるということではございませんが、時間をかけて、障害者の人たち、施設の人たちにこういった仕事をやってもらおうと。これは会社としても社会貢献の一環として仕事を提供することについては、何ら異論はございませんので、そういったことがあったらどんどん協力するし、障害者だからといって単価を低くすることはしません。同じようにします。そういう話をされていまして。

ここにきょうされんさんの文が書いてありますが、「全国的な仕事である。地域に密着した仕事である。システム化すれば障害者にも容易にできる。設備投資などの資金が要らない。他の仕事と組み合わせて新しいビジネスの創造が期待できる。」中途障害者、これは脳梗塞とかそういう方のようですが、リハビリを兼ねることができるんだそうですね。片腕が上がらないとか、そういった人たちがリハビリを兼ねてやる仕事、頭脳の方は異常はありませんから、そういう点では非常に適しているということもございます。
少なくともこの仕事を軸に、いろんなことを考えていける。たとえばお弁当の配達をするとか。これは相手のあることですから一律にいかないかもしれませんが、地域のガス会社、電気会社のメーターの検針、水道の検針とか、そういったことも合わせてやるようにしていけば、これから障害者が地域で共生するというノーマライゼーションの理念の実現には、具体的な一歩になるのかなという感じがします。

ただこれをビジネスに結びつけるまでにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが。少なくともこういったことをスタートにして。これは元手が要りません。元手が要らないということは設備投資の資金が要らないんです。ですからたやすく取り組める。地域と密接に触れ合うチャンスなのではないかと。ヤマト運輸のメール便というのは地域に密着したビジネスですし、障害者の施設というのは地域と共生するということですから、そういう点で一致点があります。これを結びつければいろんなビジネス展開か可能だろうと思っています。
昨年の暮れまでに9カ所の作業所が参加して配達していただいています。昨年の12月には宅急便の配達というのはピークでございまして、年末にかけていろいろ申し出があったのですが、なかなか、年を越してからということになっていましてお預けになっています。40件ほどエントリーされていまして、この中で条件が合えばどんどん実現していくのではないかと思っています。
これからも私どももこれが広がるようにいろいろなお手伝いをしていきたいと思っております。
次は、スワンネットの野菜販売。これはヤマト運輸の100%の子会社でございます。一年中、ジャガイモやタマネギなどを全国から仕入れて作業所に供給しているわけです。一部の作業所では野菜などを作って地域に売っているのです。ところがジャガイモなど野菜のとれる時期というのは決まっていまして、一年中はないわけです。ところがお客様には、どうせなら一年間ほしいという声があるものですから、ある施設ではスーパーマーケットの前に旗を立てて、スーパーマーケットのお客さんがスーパーマーケットに行く前に施設のジャガイモやタマネギを買ってくれるという、そういう話もございます。非常に期待されています。これもほとんど元手がかかりません。売った結果、お金を払ってくれればいいわけですから。現在、ネットワークが150カ所くらいですが、もっと増やして300カ所くらいにしたいなと思っております。こういった仕事も、先ほどのメール便と組み合わせればいいのかなと、私どもも思っております。
あと、スワン製炭の炭。これは中国の炭の輸出禁止によってだんだんこれから需要が増えてくるだろうという見通しがございます。これを積極的に支援していきたいと思っております。

それからヤマト福祉財団賞の贈呈ですが、障害者の自立支援に貢献のあった方から二人を選んで、毎年表彰しています。基準は次のとおりです。書いてあるとおりです。実は、パワーアップセミナーで最初に参加された方が、一念奮起されまして事業を起こされまして成功した方が、昨年の暮れ、ヤマト福祉財団賞の一人に選ばれました。町田市の天野さんという方です。スクエアあじさいの施設長だった方です。この方は新しいビジネスチャンスにチャレンジしまして、お弁当屋さんを始めました。地域でお弁当を売って、障害者に5万円、3年目で5万円にまでなりました。賃金、工賃を差し上げていると。
もう一人、去年の方は松村さんと言いまして、千代田区の九段にいらっしゃる36歳の養護学校の先生だったのですが、卒業生が皆、社会から拒絶されてうちひしがれているのを見かねて、それなら自分が彼らの働く場所を作ってやろうということで、千代田区内で5年間うどん屋さんの見習いをやりまして、それから大阪のうどん道場に入門して腕を磨いて、それで店を出したのです。それで今4名の障害者がいます。彼は授賞式のときにこう言っていました。「私は店内失業者です。障害者が主役です。朝4時半から来て仕込みをしたり出汁作りをしたりして店の主役になっています。第2号店、第3号店を考えるのが私の仕事です」と、もうそこまで手がかからなくなったとおしゃいます。こういった方にヤマト福祉財団賞を差し上げました。

その他に昨年は特別賞としまして、障害者分野では有名な精神科のお医者さんの秋元波留夫先生。それからゼンコロの会長になっておられます調一興さんのお二人に特別賞を差し上げました。これは障害者のいろいろな支援の先駆けの方です。そういった先駆けの方と若い方、4名の方に差し上げました。

私どもがやっていることは、今日のテーマであるソーシャル・インクルージョンとかソーシャル・ファームか、アカデミックなことはちょっとわかりませんが、私どもはこういった事業を今までやってきましたので、これからも地道にこの仕事を続けていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

山内: ありがとうございました。それでは次に東京家政大学助教授の上野容子様、よろしくお願いします。

上野: 東京家政大学の上野容子と申します。

まず、今日このような機会を与えてくださいました(財)日本障害者リハビリテーション協会、日英高齢者・障害者ケア開発協力機構日本委員会の皆様、そして炭谷先生に心から感謝申し上げます。

私は、1971年から、精神科ソーシャルワーカーとして病院や地域の支援機関で、精神障害の方々の相談援助や地域生活支援の活動に携わってまいりました。
日本の場合、精神障害は長い間、社会から排除されてきました。1987年の精神保健法で社会復帰施設が制度化され、1993年の障害者基本法で身体・知的障害者と同じ障害者として福祉の対象となり、1995年の精神保健福祉法でやっと精神障害者の生活権が明記されました。福祉、雇用制度など制度の谷間に置かれていた時代が長かったのです。
その間、地域で生活する精神障害者を支えてきたのは、ご家族や関係者、関係民間団体、それから精神障害のある当事者の方達です。行政の制度化は、そのような先駆的な活動の後追いをしてきたと言っても良いと思います。

今日お話しする東京・豊島区にあります(福)豊芯会と民間団体ハートランドの活動も、精神科医の穂積登医師が、東京都豊島区で精神科クリニックを開業し、その近くに、1978年、地域で暮らす精神障害の方達が、同じ仲間どうしで集い、憩える居場所を作りたいと自己資金を出され、「みのりの家」という場を創られたのが私達の活動のスタートです。
豊島区は、現在人口約26万人、東京の北東部、23区のほぼ中央に位置しています。デパートや繁華街も多く、オフィス街あり、古い住居地域あり、戦前からの外国人住居あり、大学も4つありと様々な用途を合わせ持った地域です。

豊島区は、保健福祉領域として、区内を東部、西部、中央と分けており、それぞれに保健福祉センターを配置しています。後でお話します私達が行なっている食事サービス事業は、中央保健福祉センターのエリアを担当しています。
後程お手もとの資料のあゆみ、組織図をご覧いただきたいと思いますが、両面でご紹介する現在の私達の活動は、
一つは、精神保健福祉制度関連補助金を活用して、精神障害者の居場所、社会参加と働く場所の提供として、作業所と授産施設、日常生活の具体的な支援として、地域生活支援センターとショートステイ、住居提供としてグループホームなどの福祉活動を行なっております。
二つ目は、精神障害者の雇用の場として、1995年に豊島区の建物の一部を提供していただき、同じ区内の関係団体、フレンドシップと共同で「喫茶ふれあい」というコーヒー専門店を経営しています。豊島区はこの店が継続発展していくようにと、年毎に減額していく方式の補助金を運営資金の一部として出してくれています。これが実現できたのは、豊島区にある4つの福祉団体が協力し合って、豊島区に10年程ずっと継続して「精神障害者の働く場をつくって欲しい」と要望してきた結果です。周囲に飲食店も多く、厳しい経営状況ですが、なんとか頑張っています。
それからもうひとつ、雇用の場というよりは、精神障害の方々と共に働く場として、2001年から豊島区から委託を受けて、「ひとり暮らし高齢者配食事業」を行なっています。
3つ目は、2002年から、高齢者のケアマネジメント、高齢者・精神障害者のホームヘルプサービス事業も始めています。

今日は、精神障害の方々が働いている食事サービス事業を画面でご紹介したいと思います。
居場所を利用していた精神障害の方々が働く事を希望するようになり、色々な作業を試みながら、子どもが小さく、外に働きにいけない若いお母さん達、同じ作業所仲間、近所の主婦や高齢者の人達の協力を得て仕事のネットワークをつくり、作業に協力してもらえるようになると、得意先も、仕事の種類も、手にする収入も増え、表情が生き生きしてくるのがはっきりわかりました。
他に精神障害に対する啓発活動としてバザーやコンサートを毎年定期的に行い、近隣の住民や町会、商店街の方々、ライオンズクラブや民生委員さん方と関係をつくっていきました。その中で私達の方から何か地域貢献できることで事業として成り立つことはないだろうかとリサーチをし、1994年に近隣の高齢者や障害者で食事づくりに不自由な人達に、家庭料理を作り、宅配する食事サービス事業と、近隣の方々に来店してもらえるお店「ハートランドひだまり」を精神障害者の作業所として立ち上げました。
延べ29人の精神障害者、4人の専任スタッフ、2人の非常勤スタッフ(その内、1人は精神障害の当事者です)それと6人のボランティアが共に働いています。仕事は決して楽ではありません。これからその様子を見ていただきます。
お店の開店は10時半です。
通りすがりのお客さんの目に止まるように、今日のメニューを看板に書き、通りに出します。

厨房の方では、午前9時から食事づくりの準備が始まります。完成まで大忙しです。10畳ほどの決して広いとは言えない所で作業をしています。
いよいよでき上がり、お弁当形式の器に盛りつけます。
配達・店内合わせて一日平均100食でます。1食650円です。全て手作りです。冷凍食品は使いません。
食事を待っている人達から感謝され、自分を必要としている人達がいる充実感や生きがいを感じるようになっていきます。そして、病状や障害が回復・改善していった方々を多く見てきました。配達は、車、バイク、歩き、自転車等です。
お店は、16席あります。近隣の人やお勤めの方が、毎日平均40人程来店します。開店して10年経ちますが、最初からお客さんも続いて来店してくださっています。
皿洗いや調理、接客以外にもユニホームやおしぼりの洗濯やアイロンがけ、メニュー作成、帳簿付け等、様々な作業があります。ここで生かせる技術を持っている人、料理が大好きな人、これからこの仕事で就職を考えている人など、ここで働く精神障害の方々は一人ひとり、その動機や目標も様々です、それぞれのニーズに応じた作業を提供することが作業所の役割としてありますが、一方では、食事サービスそのものの事業を継続、発展させていくことも考えていかねばならず、その両立はなかなか難しいのが現状です。
そのようなジレンマに試行錯誤していた時に豊島区が「一人暮らし高齢者配食サービス事業」を立ち上げました。私達は、福祉専門職のキャリアを生かして「インテーク面接と健康状態の見守り」を営業としてピーアールし、仕出し弁当業者と互角に入札で競い合い、この事業を勝ち取ったのです。1年ごとの更新なので、信頼を損なうことがあれば、翌年の事業継続の保証はありません。厳しい仕事ですが、今年度で4年目です。

この事業は、私達の法人本部があるこのビルの2階の厨房を使っています。
精神障害者授産施設の厨房であり、地域生活支援センターの夕食サービスの調理場でもある所を兼用しています。衛生面にかなり神経を使います。現在は平均一日70食を越えます。
ひだまりのお弁当と違うところは、区の事業なので、おかずの種類やご飯の固さ加減など、細かい約束事があり、調理や盛りつけにも技術を要します。このお弁当は、1食につき、区の補助は平日で550円、祭日で620円、利用者の負担金は400円です。
起きあがれない人には、ベッドの側までもっていき、後は、ホームヘルパーさんにお願いする場合もあります。精神障害の方々は、作業がゆっくり、ていねいな人達が多いので、高齢者に信頼を得ています。この事業は、作業所の活動ではありませんので、ここで働く精神障害者は最低賃金をクリアしている労働者で、現在2人働いています。ジョブコーチ的な関わりができる福祉関係のスタッフが一名、調理専任スタッフ1名、調理、配膳、配達の非常勤スタッフが5名ほどです。

それから、授産施設の現在の作業は、印刷関係の仕事で、デザイン作成、印刷、ダイレクトメールの発送作業等を行っています。ここは、今後、外の一般企業やお店に就職をしていく人達の職業前訓練としての役割が大きくなるかもしれません。厚生労働省は、就労支援の制度、施策をさらに充実していこうとしています。確かに就労経験の乏しい若年の人達、一般就労を希望する人達には、最大限の支援も必要で重要です。精神障害者の法定雇用率の導入も目前に来ています。更なる法的整備も必要だと思います。しかし、それだけでは、精神障害のある方々の働く場と機会を保障していけるとは思えません。

今日のお話のように、障害のある人達も一緒に働ける。そして収益を得て継続していけるような事業を起こしていくことが必要です。北海道の帯広ケアセンター、べてるの家、沖縄のふれあいセンター、長野県上田市商工会議所と連携した就労支援、富山県のフォレスト八尾会、島根県の(福)桑友、高知県のさんかく広場等、日本でも全国各地で精神障害の方々と共に働く場ができ、実績を伴った事業展開をしている所が増えてきています。
ひとつの事業が新たな人を集め、そこで出会った人が、もっている力を生かして、さらに新たな事業を生み出していく循環と繋がりをつくっていくことが成功の秘訣のような気がいたします。
先ほどお話したハートランドひだまりでボランティアをしていたお二人が、豊芯会でホームヘルプサービス事業を立ち上げる時に、一級のヘルパー資格を取り、その立ち上げに大きな貢献をしてくださいました。また、ひだまりの近所にお住まいの方で、よくお店に食事に来てくれていたお客様がヘルパーの資格をとり、現在は、登録ヘルパーさんとして働いて下さっています。このような人と事業が、人と人との信頼関係から繋がり、それを地域ベースでシステム化していくことが地域に密着した仕事起こしにつながっていくのではないでしょうか?

今日のお話の中から多くのヒントをいただき、従来の障害者の就労支援に留まることなく、日本の地域システムと今後の新しい施策を連動させて、障害者の新たな雇用、共に働く場とチャンスを創出していくことに、さらにチャレンジしていきたいと考えています。

山内: ありがとうございました。それでは次に、フィリーダ・パービスさんに発表していただきたいと思います。

パービス: ご紹介ありがとうございます。フィリーダ・パービスと申します。リンクス・ジャパンの代表としてお話しさせていただきます。二人のお話にありましたように、2カ月前、障害者差別禁止法の最後の部分が、イギリスで発表されました。これによって、障害を理由に、サービスの利用や雇用において障害者に対して不利な扱いをすることが違法とされるようになりました。イギリスでは労働年齢にある人々のほぼ4人に1人は障害者です。ですから、同法が定められ、このように障害者の地位が確立されるに至ったのも、十分に時機が熟していたからだといえましょう。これは障害問題が、人生のある段階において、特に年老いたときに、私たちすべてにとって関わってくることであるという事実を、一般の人々が認めるようになってきたことを反映しており、また法律の制定により、そのような人々の認識が方向付けられていったといえるでしょう。

更に複雑ではありますが、全体的な試みとして、障害者が福祉制度に代表される国の福祉に依存することをやめられるよう、雇用機会を創造することを通して、障害者の地位向上を積極的に進めることが行われています。現在、福祉制度のようなトップダウン方式の利益の配分が、官僚的で親身でなく、また本質的に非民主的な性質を帯びていることが広く認識されています。しかしそのシステムを改革しようという試みは、多くの場合、提供者側のコスト削減政策が中心で、人々が自分自身の生活を更に強力にコントロールできるようにすることの重要性が認められるようになったのは、ほんのここ2,3年のことに過ぎません。

イギリス政府は、過去数年間に渡り、人々を「福祉から労働へ」と移行させようと大変な努力を続けてきました。同時に、多くの新しい主導者により、私たちの健康、福祉そして幸福が、コミュニティー内の関わり合い、ネットワーク、信頼そして協力と結びついていることが認められています。これらの主導者の先頭に立ち、政府の力が及ぶ範囲を越えたところで活動を進めているのが、社会起業家です。彼らは起業家のやり方で活動することにより、従来の問題に対する新たな解決方法を見出しているのです。社会起業家は、十分に活用されていない資源、特に人材を見つけだし、未だに満たされていない社会的ニーズを満たすために利用することで、国中のコミュニティーの再生を支援しています。社会起業家は主に人々を支援する職場を作りだしています。障害者やその他の労働市場で不利な立場にある人々の場合、適切かつ支援的な雇用機会の創造と、資格獲得につながる研修の提供が何よりも強く求められます。これまで、そのような支援と研修が無かったために、また別の福祉に頼ることになり、それが雇用への大きな障害となっていたのです。障害者が何の資格も持たない割合は、健常者の場合の2倍以上にのぼります。その結果、全体として、イギリスの障害者のうち、働いているのはその半分足らずに過ぎません。(健常者の場合はその80%が働いています。)しかし、調査によれば、これらの「経済的に活動していない」人々(約100万人)のうち、3分の1を超える人々が、働きたいと望んでいるとのことです。(これに対し、経済的に活動していない健常者の場合は、その4分の1しか、働きたいと望んでいないのです。)

今日、発表者の皆さんのお話にありましたように、社会起業家の多くは福祉部門出身の人々で、ソーシャル・ファームを作ることによって、これらの問題に取り組み始めました。ソーシャル・ファームは現在まで欠けていた、精神障害者及び知的障害者が労働の世界に入るための機会を提供するものです。ソーシャル・ファームに関するプレゼンテーションから、私たちはそのイメージをつかむことができました。つまり、ソーシャル・ファームが、理想としては、一方では保護されている労働プロジェクト、そして他方ではオープンな、支援的な雇用という、2つのサービスのスペクトラムの間に位置するということです。ソーシャル・ファームでは、すべての従業員は支援を受けられ、機会を提供され、また有意義な仕事と市価の給料を与えられます。ちょうど他の社会的企業と同様に、ソーシャル・ファームもまた、単に取引をするプロジェクトというよりは、むしろ支援的なビジネスということができるでしょう。私は、イギリスの2箇所のソーシャル・ファームの説明と、そこで働く人々の成功例や、今なお続く課題に関する経験談を皆さんがお聞きになったことで、今後思案すべきことがらや、インスピレーションを刺激されるようなアイディアが見つけられればよいと願っています。

さて、私が代表を務めますリンクス・ジャパンは、日英間の交流を促進し、支援する為に活動しており、両国のコミュニティーや、その他の国々、特に発展途上国で活動する、新たなそしてまだ満たされていない社会福祉のニーズに取り組んでいる人々を支援しています。私自身も国際的なNGOである、グローバル・リンクス・イニシアチブに参加していますが、これは主にインターネットの利用を通じて、特に社会的企業によって社会的排除の問題の解決に取り組む活動をしている人々の経験を、世界的に共有することを目的としています。これに関する情報は、www.glinet.org.で見ることができます。たとえ国が地理的には遠く離れていても、また両国の歴史と文化が大きく異なっていても、共通の社会問題に草の根で取り組んだ経験を分かち合うことから、お互いに相手から得られるものが、常にあるのです。例えば、過去2年の間に、日英の社会起業家の交流が行われました。2003年、日本の社会起業家がイギリス全土の社会的企業を訪問し、また昨年の夏には逆にイギリス側が日本を訪問しました。イギリスからの訪問者は、地域の人々に発言権や個人的選択権などの権限を与え、更に社会的に排除されている人々に自信を持たせ、自分たちは政治にも影響を与えられるのだという信念を持たせさえしている、日本の社会的企業に大変感銘を受けました。私たちは、これらの交流プログラムにおいて、炭谷茂氏の指揮と、故初山博士の指導の下、日本側の日英共同チームによる前例とアドバイスに励まされながら活動してきました。そして、今回、同チームによって、ソーシャル・ファームに焦点を絞ったこのプログラムが実現されたことと、イギリスのソーシャル・ファームの開発に大変深く関わってきた2人の人物の経験を分かち合う機会を実現できたことに、私たちは非常に感謝しています。私たちは日本で同じように活動している人々を訪ね、日本特有の問題について多くを学び、またほとんど支援や理解を得ることなくそれに取り組んでいる人々の成し得たことを知り、刺激を受けました。この会議が、精神障害者及び知的障害者の生活の特別な状況と、その家族や介助者が直面する困難に光を当てることを願っています。そして特に、ソーシャル・ファームの開設を通じて、新たに支援的な雇用の機会を作ることによって、大きな可能性が生まれるということを強調したいと思います。何よりも、私は、心身障害者は働くべきではないという固定観念を私たち全員が捨てなければならないというメッセージが、これからも伝えられ続けることを願っています。障害は、働く機会に対するバリアであってはならないのです。

山内: 最初の基調講演、それから今のパネリストの皆さんのプレゼンテーションを踏まえて、今日ご参加の皆さんが一番知りたいことは、日本の現状を踏まえながらイギリスの新しいソーシャル・ファームの考え方、あるいはその運営から我々が何をくみ取るのかというのが問題だろうと思います。
そのためには、現状についてお二人からご説明をいただいたわけですが、さらにより詳しく、日本の現状もお話ししましたので、それを踏まえてもう少し知りたいということがあるのではないかと思います。どなたか、ご質問をお願いしたいと思います。

炭谷: ソーシャル・ファームについてイギリスのお二人からお聞きして、したいことがいっぱいあるのですけれども。時間も1時間程度はとれるとのことなので、まずお聞きしたいと思います。
ソーシャル・ファームのイギリスでの現状はどのくらいのウェイトを占めているのか。私はイギリスのことは大変よく知っているつもりなのですが、ソーシャル・ファームについておぼろげながら知っていましたけれども、これまで十分には知りませんでした。現在の障害者の施策の中で占めるウェイトとか、雇用で占めるウェイトはどの程度なのか。我々がイギリスと言えばすぐ思い出すのは、レンプロイ。工場があんな大きい、すごいなと思ったのですが、そういうふうになりつつあるのか。そのあたり、どのようなウェイトづけになっているのか、そのあたりをまずお聞きできればと思っております。

山内: ではロッジさん、お願いします。

ロッジ: ありがとうございます。最初のご質問に答えさせていただくのはありがたいと思います。現実問題としてソーシャル・ファームを実際にイギリスで運用しているところはまだ数少ないのです。ソーシャル・ファームというのは一つの方法であって、全部に対する解決ということではないわけです。いろいろな機会を通じて障害者が働けるようになっていかなければいけないと私は思っています。ソーシャル・ファームを一つの方法として見ると、非常にリスクが出てくることになるわけです。つまりビジネスをただ単に障害者だけのビジネスにしてしまうという危険があるわけです。こういう人たちを社会に完全に統合するということが目的なわけですから、まずその人たちをさらに本当に実際のビジネスの世界へつなげていく役割ということが大事だと思っています。そのためには企業にも学んでもらわなければいけないということと、障害者だけでなく健常者にもわかってもらわなければいけないのです。それによって本当の社会での統合ができると思っています。
企業、そして障害者自身を教育していくことによって、つまり障害者をどう考えるのか、どうとらえるのかという考えを変えなければいけない。ですから本当に真の意味のソーシャル・ファームというのはまだそれほど多くないと思いますし、ソーシャル・ファームの立ち上げが行われていますが、その結果、何人くらいが実際に雇用を受けられるようになったのかということは、まだまだ検討の余地があるかと思います。

フルーデンバーグ: 私たち自身の統計によると、イギリスにおけるソーシャル・ファームは、私の話にもありましたように、51のソーシャル・ファームがあります。そして126の新興のソーシャル・ファームが出てきつつあります。その他にも、まだ我々が知らないものがあるかもしれません。たとえば今日の日本におけるスワンベーカリーという話がありましたけれども、ソーシャル・ファームとしてのそういうビジネスが、見てみればイギリスにもあるかもしれませんが、まだ非常に小さいセクターではあります。

山内: いまだ規模的には小さいけれども、非常に急速に伸びつつある領域であると、そう理解してよろしいでしょうか。

フルーデンバーグ: そうですね。今出てきつつある分野ということです。

山内: 他の観点からのご質問は? お願いします。

伊野: イギリスの障害者の賃金のレベルというのはどのようになっているのでしょうか?

ロッジ: 大変面白い質問だと思います。伊野さんのお話を聞きながら私たちの賃金を円に換算しようとして計算していたのですが。私のソーシャル・ファームの場合ですと、だいたい1時間1,000円くらいの時給になります。つまり、最低賃金をクリアしなければいけませんので、彼らがやる仕事に対しての支払いということになるわけですけれども。残念ながらトータルの額はまだ政府によって制限されているわけです。あるレベルを超えますと、利益の方に影響が出てきてしまう。そういう意味ではまだ全員の障害者がすぐに仕事に就けるという状態にまではいっていないわけです。それは手当の関係になります。ただ、国で決められた最低賃金というのはクリアしなければいけない。
週に16時間という労働制限もあります。つまりあまり働きすぎると政府から受けている手当が受けられなくなってしまうということがあるわけです。また中途障害者の場合、イギリスにおきましては大半が中途障害者です。たとえば交通事故による障害者という人がいるわけです。そういう人たちは病気が治ったら仕事に戻りたいとも思っているわけですが、そこの問題がありまして、仕事を以前と同じようなレートでは仕事に就くことができないということで、その意味でもまだ中途障害者のニーズに応えているとは言えないと思います。
まず雇用という中にまた戻っていける、あるいは足を踏み入れていけるようなお手伝いをしなければいけないわけです。賃金を得ることでだんだんと手当を減らしていけるような方向にもっていかなければいけません。

フルーデンバーグ: 私からも付け加えますと、我々の国内の統計によりますと、私どもの組織では22名雇っています。2004年11月の統計です。パートタイムが3人、14人がフルタイムです。先ほども言いましたように週16時間という制限があります。3人のボランティアがいまして、トータルが22になるわけです。夏になりますとまたさらに追加のスタッフを雇いますので35人になります。フルタイム、パートタイム、そしてトレーニング中の人も含めてそういった人数になるわけです。
グリーンチームの場合ですと、クライアントエンプロイーとしては4対3の割合になります。そして小さな病院においては50対50の割合。コアのスタッフは5対3。これはノンクライアントのエンプロイーです。

山内: 週16時間の労働制限というのが出てくるのは、この対象は生活保護を受けていることからくる制約ですか?

ロッジ: そうです。それぞれの方たちはそれぞれの障害によって給付金をもらっています。生活保護ということです。これは理論的にはその障害者が自分で働いて1ポンドのお金をもらった場合には、生活保護からその1ポンドが引かれることになるわけです。いずれにしても生活保護は週に75ポンドくらいは支払われています。それが一応生活の糧になります。生活保護にプラス住宅手当もあるわけです。

山内: 最低生活のためのものなのか、あるいは障害者に対する特定のベネフィットが制限されるのか、それはどちらなのでしょうか? 誰でも生活保護を受けるような場合の話なのか。そのあたり、もう少しはっきりしていただけるとうれしいのですが。

ロッジ: このイギリスの給付金のシステムというのは非常に複雑で私自身、政府で22年働いた私ですらよくわかっていないというのが現実です。基本となりますのは、たとえばその人の生涯の中でどういう節目があったか。たとえば子どもが生まれる、退職をする、あるいは家を建てる。こういった自分の人生におけるイベント、いろんな節目がある。それを想定して給付金というのは決まってきます。
障害者の場合には障害に応じた給付金というのがあるのであって、この手当は節目に関係なく障害に応じて支払われる。それから住宅手当、これはまた各人に対して評価をして、個別アセスメントの結果支払われることになります。よく冗談で言うのですが、申込書が96ページもあって全部記入して出さなければいけない、さらに医療的な病院でのアセスメントをもらってすべての検査をして、住宅手当が必要な場合どういう状況、どういうケアのニーズがあるのか全部記入して、それで申請しなければいけないということで、非常に複雑なんです。そのあまりの複雑さを笑い話にしてしまうことがあるのですが、いずれにしてもケアパッケージというものがありまして、年間36,000ポンドになります。これを得ることになると相当な補助を得られることにはなります。
ちなみに知的障害者が自分で仕事をしよう、働いてお給料をもらおうというときに、そこの切り換えを注意深くしなければなりません。でないと今までの給付金や手当が急に打ち切られてしまうので。そのへんは注意しています。

上野: またお金の話になってしまうのですが。公的な行政から出る助成金ですが、先ほどのお話の中にケアマネージメント、今もケアパッケージの話が出ましたけれども。ソーシャル・ファームをより発展させるとき、それから立ち上げるときに、公的な助成金が、それに関わる専門スタッフの人的なお給料として出るのか、それともソーシャル・ファームそのものに何か出るのか。どんなふうに評価されているのか。たとえばうまくいかなくなったときに打ち切られるんだろうと思いますけれども、そのときの評価はどんな評価なのかとか。そのあたりが知りたいのですけれども。

ロッジ: 私たちの場合、政府からの財政的支援は一切ありません。我々の場合は慈善団体ということで、資金の出所は寄付などになります。ただ一方で私たち、ビジネスも行っています。ビジネスの方で黒字を出せれば。そして長期的にそれが刺激になっていければと思っています。ただスタッフのお給料についてはやはり難しいところです。知的障害を持つ人たちにもお給料を、働いていくわけですから。
私たちは果たして、知的障害者がケアをできるように育成していきたいのか、それともケアをできる人を採用して社会企業家にしていきたいのか、そのへんが頭を悩ませるところです。
知的障害や精神障害を持つ人たちが働く場としては、持続可能なもの、長期的に維持していけるものにしたい。ですからそのあたり黒字を出せるかというと難しいところはあります。たとえば、1年間に18万ポンドの利益を出すとか、そういうこともときとしては難しいこともあります。
もちろん、障害者差別禁止法というものもありますが、それに応じて1日あたり760ポンドといった額を提示するということもあります。いずれにしてもお金については、慈善ですので、全部寄付からいただいております。

フルーデンバーグ: 助成金、subsidyという言葉の定義が難しいかもしれません。先ほど数字を挙げたのですが、先ほど2人が限定給料、limited earningを得ているということを言いました。私たちの場合も、彼らに払っているお給料は政府から来るわけでは……。補助金、subsidyという言葉、日本の皆さんがどういう定義をしていらっしゃるのかわからないのですが、私たちの場合は基本的には慈善団体ですから、たとえばEUの他の慈善団体に申請するという形になっています。ですから政府に申請してお金をもらうのではなく、その他の慈善団体に対して申請する。そしてソーシャル・ファームのマネージャーは、そういった機会を常に探し、それを最大限に利用するようにしなければいけません。
そしてどういったセクターに自分たちがあるのか、そこでいろいろな制限というのがあるかと思いますが、どんなシステムを利用したいのか、それを常に探す努力は必要になるかと思います。
一方で慈善団体であり、また一方で企業(enterprise)であるということで、当然資金は必要になってきます。昔ながらの商業的なルートでお金を得るというやり方もあるかもしれません。マーティンさんもさっき言っていましたが、それこそ社会報酬じゃないですけれども、どんなに複雑な申込書であってもうまく記入ができるような、そういうのに長けている人もいるでしょうから、やはりいろんなチャンスを使って資金を得るように努力しています。

炭谷: ソーシャル・ファームというのは民間企業的な経営でやっていくというのが一つの本質になっているわけですね。しかしドライに、冷徹に考えてみると、普通の企業と競争しなければいけないということになると、冷たい言い方をすれば、負ける運命にあるのではないかなと、普通であれば。なかなか競争に勝つというのは難しいと思うのです。そこで、持続可能な経営となるためには、いろいろな工夫を要するのではないか。そういうことについてお話をお聞かせいただければありがたいなと思います。
ソーシャル・ファームが一般企業との競争に勝つためには、大きく分けて二つの方法があるのではないかと思います。一つは、一般企業が入らない分野。競争しなくてもいい分野ですね、もしくは非常に弱い分野。そういう分野でまず仕事をするというのが一つ。これは勝てると思うんですね。そういう分野でイギリスでは何か他の民間企業との競争の必要がないというものがあるかどうか。そういう分野での仕事の開発があるかどうか。まずお聞きできればと思います。

ロッジ: 大変すばらしい質問だと思います。もしビジネスが入っていないものがあれば、ビジネスとしては十分に成り立つと思うので。ただそれを考えつくというのが難しいと思うんですね。まだ誰も考えたことのないような、参入したことのないようなところがあれば、それこそまさにすばらしいビジネスのアイデアだと思うのですけれども。
スワンベーカリーの例ですが、これは成功例だと思います。すばらしい製品も出てきてサービス、品質もそこにあるわけです。それこそまさにニッチ市場と言うことができます。それほど我々は優れているとは言えないのではないかと思います。ユニークな販売店があるかどうかというところがキーだと思います。
つまり我々のビジネスにはどういったところに特異性があるのかということ。我々がベストなサービスを提供できるものは何なのかということです。それに対して障害者を雇うということでどういう特異性を出していけるのかということ。これは研究施設ということではなく、ビジネス、企業ということです。質的にもいいもの、サービス、環境などすべてにベストなものを出さなくてはいけない。それが企業として立ち入っていく点だと思うわけです。これが他の企業と対等の価値を認められるようになるということだと思っています。そして尊厳を持って迎えられるといこと、そしてふさわしい支払いを得ることができることが大事だと思います。
いくつかのアイデアはあります。私どもの二つ目のビジネスとして買った企業があります。ここで売上を立てていくわけですが、これは全く何もないところから始めたものではありません。イギリスにおいてはたくさんの企業、たとえば家族でやっている企業、継ぎ手がいない、子どもがいない小さな中小企業というのがあるわけで、それが理想的な場所にあればそういうものを受け継いでいくこともできるわけです。大変熟練した、たとえばアート、陶器づくりのような技術を要するものはあるわけですが、ビジネスとしてたちいくためにはある程度の量をこなしていかなければいけないという問題もあります。まず実際、ビジネスとしてのアイデアがあるのか、プランニングはどうなっているのか、ビジネスの計画作りはどうなのか。そして利益を出していく。
そしてリスクも当然負わなければなりません。たくさんのビジネスは一人の人によって立ち上がったものです。そういう人たちにはリスクをとる勇気があったわけです。

フルーデンバーグ: 今、マーティンが言ったのはデミング先生が言ったサイクルのことだと思います。改善のアプローチも指摘すると思います。デミングや改善について知らなくても、たまたまそういう手法をとるということはヨーロッパにおいて行われてきたわけです。
ヨーロッパのソーシャル・ファームの動きというのは、どんなビジネスにもソーシャル・ファームによって言えることができるという考えです。ホテルもそうですし、観光案内、パン屋さん、レストラン、広範囲のソーシャル・ファームを取り込むことができるという考えです。
ここで重要なのは、それをどう運営・管理していくという点です。これもまた改善の問題と重なるわけですが、つまり人々を巻き込んでいくことで問題を解決していくというのが原則です。そしてクオリティのあるものを出していく。これがコアとなるわけです。
クライアントグループに対して利益を生み出すということで彼らの信用が高まる。そして家に帰って自分のやっていることを自信を持って家族に言うことができる。そしてコミュニティにも参加していくことができる。この二つの原則が一緒になることによって理念が実現されるということです。
簡単ではありませんけれども、やはり真剣にビジネスとして考えていかなければいけない。近道はないと思います。

伊野: 週16時間というのは法律だそうですから仕方がありませんが、これに対して障害者全部を一律に扱うというのは、果たしてイギリスの国民は納得しておられるのかお尋ねしたい。つまり、もっと働きたい、働ける能力がある人も16時間以上もダメという制限だと思いますのでそういう質問をさせていただきます。

ロッジ: 障害者に選択肢はあります。つまり16時間まで働く、そしてなおかつ障害者手当をもらう。16時間以上働きたい場合は手当が減るわけです。これは全体的なアプローチになっています。最初はたとえば週に4時間、そして8時間、12時間、16時間と増やしていくわけです。彼らとしてもどの時点から自分の障害者手当が減っていくのかわかります。そして賃金の中から自分の必要なものを支払っていくというような全体的な移行ができるのです。これには時間がかかるわけですが、それによって人々が自分自身のお金を管理していくことができるようになります。
つまり社会がチャンスを与えていくということです。そうではないですね、自分自身の人生を送るということができないわけですから。
ですから、どちらがいいか悪いかということではなく、何かを変えていくことができるということです。一夜にしては変えられません。また自分のお金を全員がうまくコントロールできるとは思いません。法律が制定されてから多くの銀行、特に知的障害者に対して銀行が口座を開くように勧めています。自分のお金をすべて管理することはできないからで。
16時間というのは、障害者手当を受けながら働ける時間内ということです。それを超えれば当然手当の方に影響が出てくるということになります。つまりリスクとしては、たとえば突然病気になって働けなくなったらどうするかとか。そういうことも考えなければいけないので非常に複雑な分野になっています。もし政府の希望があれば、もっとたくさんの障害者が働けるようにサポートしたいということになってくるわけですが、システム自体が非常に複雑ですので障害者にとってバリアにもなっているのですが、特に家族にとっては障害者手当を全部なくしてしまうことはリスクにつながるわけです。ですから企業、銀行、政治家、家族に対する教育がもっと必要になってきます。

炭谷: ソーシャル・ファームがもし同じ分野で一般企業と競合して戦っていく、その競争に勝つというのがまさにソーシャル・ファームの真骨頂だと思いますが、それを実現させるためにいろいろ工夫されているのではないかと思います。
そこで、私自身の頭の中でどうやったら一般企業に勝てるのかと考えると、いろいろなポイントがあると思います。
一つのポイントは、今日いろいろ教えていただいたように、時間管理をしっかりやるとか、計画をしっかり実現していくとか、人事管理をする。そのように一般企業的なやり方が一つあるでしょう。
二つ目には、労働者が障害者であるがゆえの特性というものが、何か開発できないのかなと。先ほど上野先生は、精神障害者が配食サービスをする場合、大変やさしくて丁寧で、むしろ高齢者の方に歓迎されているというプラス面をおっしゃっていました。むしろそういうプラス面を強調していく、活用していくというのが第二ではないかと思います。
それから第三には、一般の消費者側も、むしろ、適切な言葉ではないかもしれませんが、単に福祉のためとか同情のためというので買うのではなく、そこに新しい価値観のようなもの、普通の企業にない価値観を見いだして、むしろそこを進んで選ぶ。そういう社会的な風土があればいいのかなと思うんですね。
似たような運動は実は世界各国で起こっています。環境の分野で起こっています。環境の分野では、値段はより高くても、質は変わらなくても、環境にやさしい物品を消費者はあえて買うようになっている。これは先進国、英国もそうですし日本もそうです。そういう運動が起こっている。それと同じことが、このソーシャル・ファームの中で考えられないか。むしろ消費者の連携というか。環境の場合はそういう連携は、世界各国、イギリスにもドイツにも日本にも、グリーン・コンシューマーという運動があるわけです。企業でも役所でも、環境にいいものを買うように努めております。それと同じように、新しい価値観を見いだして、福祉のためとかそういうものではなくて、違った価値観を見いだす消費者グループの形成というものが、こういう分野を伸ばす場合には大変重要な要素ではないかというのが第三番目にやることだと思います。これはむしろ市場原理に基づくことでやるべきだと思います。
このような三つが思い浮かぶのですが、そのあたり、何か同じようなことがあれば教えてほしいと思います。

フルーデンバーグ: ありがとうございます。今おっしゃった方向性は、私たちも考えていることです。ソーシャル・ファームと通常の企業の活動の間に確かに重なる部分もあります。おっしゃるとおり、通常の企業にとってはブランドということが非常に重要になってきます。ソーシャル・ファームにとっての課題は、ソーシャル・ファームとしてはどんなブランド戦略をしていくかというところでしょう。それによってどんな付加価値を付けることができるか。たとえばさっき、石鹸の話をしましたけれども、同じ石鹸を売り出すにしても、市場にあるその他の石鹸と比べて、どういう形で差別化できるのか、どんな形のブランドができるのかというのが重要なポイントになると思います。もちろんそれを努力はしていますが。
またその他に、台頭しつつある分野があります。ボランティアと一緒に仕事をする、たとえば教会で活動をする一方でコーヒーなどを売ってそれで利益を得ようとしているグループがあります。カフェディレクトというブランドですが、このカフェディレクトはコーヒー豆を生産者から直接買い付けて、それを市場に提供しています。消費者は非常に気に入っています。通常の市場での流通の6倍という非常に早い速度で消費者の手元に提供できるというプラス面があります。ビッグイシューというホームレスの方が販売している雑誌があります。また、日本でも同じような動きがあると聞きました。日本でも最近始まりましたね、ホームレスの方々がタブロイドのような新聞を出して、その利益を自分たちの生活の糧にしている。これもイギリスでもありまして、非常にうまくいっています。
つまりソーシャル・ファームの場合は通常の企業よりもニッチ、すき間市場を狙うことができると思います。
部分的にはソーシャル・ファームの場合は、自分たちの焦点を非常に絞ったところに向けられるからです。
イギリスやスコットランド、またその他のヨーロッパでも同じですが、おそらく我々の場合は民間の企業と比べるともっと焦点を絞ることができる。そしてそこに向かうためのルートをもう少しはっきりできるのかもしれません。
炭谷さんがおっしゃったように、もちろん私たちも民間企業が出している同様の商品よりもより良いものをより多く売ることができればと思っています。

ロッジ: ぜひ、会場の方々にお聞きしたいのですが、スワンベーカリーのパンを買ったことのある方、手を挙げてください。
では別の質問。東京で一番おいしいパンはどこで買えるか? そのときに皆さんはスワンベーカリーと言うべきなんです。そしてそれを口コミでどんどん広めてみるといいと思うのです。これも一つの大きな動きになると思います。その動きを見たたとえば政府が、自分たちの予算の0.5%を、そういった動きがあるならソーシャル・ファームに割り当てようかと、もし思ってくれたら最高だと思います。
これはビジネスです。もちろん政府についてのことも言いましたが、まずはお客様に受けるものを提供するしか生き残る策はないと思います。
ちなみに私たちが運営しているカフェでも、実は価格的には他のカフェより高いのです。私たちは値段はちょっと高いかもしれないが、最高のサービス、最高のクオリティのものを提供している、最高のサービスをお客様に提供しているということは言えるように、常に努めています。やはりお客様の声を十分に聞いて、そのニーズに応えられるような商品やサービスを出していくしかないと思います。
最終的に私たちが得るお金、それに対して最高の価値を提供する。それができないと、ビジネスとしては生き延びていけないと思います。
さっきも言いましたが、政府がもしも0.5%でも予算をソーシャル・ファームに向けてくれることになれば最高だと思いますけれども。

山内: 今のロッジさんのお話はクオリティで勝負すべきだと私は聞きましたが、それでよろしいですか? その点について伊野さんのご感想をぜひお伺いしたいと思ったのですが。

伊野: 私どもは全く同じ考えでやってきましたし、これからもやっていかないといけないだろうと。障害者の施設だからといって、世の中の同情を買うような、バザーとかで売るのが正しいのではなく、やはり一般のマーケットで競争して、一般のお客様に選んでいただく。つまり施設の方々も一般消費者なわけですから、自分たちが作った商品が果たしてマーケットで売れるかどうかということを自問自答していただきながら、商品作りをしていただきたいということを、うちのパワーアップセミナーではいつもお願いをしています。ですから全く同じ意見で感銘いたしました。

山内: 非常に大きいところで一致していることを図らずも発見したと思います。
他に炭谷さんからございましたらどうぞ。

炭谷: ソーシャル・ファームが質や効率性で勝ち抜いていくというのは大変本筋だと思います。それが基本だと思うのですけれども、すべてのソーシャル・ファームがそのようにいけるわけではないだろうと思います。そのためにはどうしたらいいのか考えますと、一つはやはり、ロッジさんのところの団体を見てみますと、経営がわりと安定してらっしゃるのではないかと思います。割合大きな団体で、カレッジが二つあって、入所施設が数個ある。年間の予算額は、日本円にしてみますと大体13億円の予算規模ですので、その中の一部程度をこういうエンプロイメントにやっても、赤字でも大したことないというようにやってらっしゃるところがあるのではないか。
それに対して失礼ですが、フルーデンバーグさんのところは青息吐息で大変経営が苦しいというのは、やはり母体の問題があるのではないかと、勝手に推測しています。もし間違っていたら訂正してください。常に経営を心配しなければいけないという状況にあられるのではないかと思います。
そうすると、これからのソーシャル・ファームの一つの方向としては、一番手っとり早いのは、日本でも社会福祉法人で大きくて力に余裕のあるところがある。そういうところの事業としてまずやってもらうのが非常にやりやすいのかなと思います。それとともにもう一つは、いずれのソーシャル・ファームも、上野さんのところも、ボランティアが大変頑張っていらっしゃる。そのボランティアの労働力というのは大変期待できるし、コストを下げる意味では役立つ。そういう一般市民の強力。場合によっては企業の支援金。このシンポジウムも企業の方にお金を出していただいていますけれども、そういう企業の教育。そういうものも、本筋ではないとは思いますけれども、考えていかなければいけない。
それとともに、公的な仕組みというものもやはりあるのかなと。ぜひお伺いしたいのは、イギリスでソーシャル・ファームについての法的な仕組みがどのようになっているのか、教えていただきたい。まとめてご質問させていただきます。

フルーデンバーグ: そうですね。全く保障というのはないわけです。つまり必ず適切な戦略を考えなければいけない。そして法的な枠組みというのも一つの考え方ですが、ソーシャル・ファームは我々自身がやっているというところに意義があるわけです。こういった意味の企業が一緒になっていくことで生き残るチャンスが増すということはあると思います。
我々が促進しているこのモデルは、理想的には30、40、もっとたくさんのソーシャル・ファームが傘下に入ってくれること。それによって雇用を保障していくことができると思います。つまり、障害者のグループをもっと保護していきたいのです。大きくなればなるほど生き残っていける可能性は大きくなってくると思います。これが一つのレベルでの私の夢です。同時にヨーロッパ全部においてそういうやり方をしています。ドイツだけで360ほどのソーシャル・ファームがあります。多くのソーシャル・ファームはそういう運営の仕方によって成り立っています。ですから規模が大きくなればなるほど生き残るチャンスが大きくなるというのが一つ。
二つ目に申し上げたいのは、法的な形ということですが、いろいろな形の法的な枠組みを持つことができると思いますが、イギリスの法においても慈善団体としての位置づけということもありますし、あるいは協同組合のようなところで仕事をしたいという人もいたり。特に組合と仕事をするためには特別なコミットメントが必要です。それができない人もいます。私は有限会社のようなところであっても、より柔軟性の高いものを提唱したいと思います。雇用が保障されるためのやり方ということです。私たちがイギリスにおいて我々の会社を作っていくときには、まず手を携えていくことで強くなるということもありますけれども、我々自身を組織化していって全国展開していくということも考えています。
私が本を書いたときにもそういう考えがありました。出版社の方でどうやってこれを売っていくのかを考えました。まず地域会議を開いてこの本を提唱しようと考えました。それによって各地域ごとにネットワークが生まれました。それと同時に出版社の方でも利益を得ることができました。
ソーシャル・ファームを提唱していくことによって、管理していくことができる。常に誰かにお願いするということではなく、自分たちが大きくなっていくということです。
これは意図的に中央をベースにして行います。私どもはスコットランドですが、本が出版されたことによって、新しい素材としてインターネットなども使うことで、多くのところにソーシャル・ファームを提唱できるようになりました。国の組織の方も理解することができるようになりました。起業家になるということ、そして国家的な組織になるということ。もちろんトレーニングを必要としますし、動かしていくためにはサポートも必要ではあります。ご質問のお答えになったでしょうか。

パービス: 法的な枠組みというご質問でしたが、イギリス政府の場合は、非常に複雑なシステムであることは認識しています。たくさんの組織がリンケージと仕事をしています。これは慈善的な活動です。利益が出た場合でも慈善活動に戻します。これはギャランティによって制限されている会社ということになります。つまり、一般大衆の心の中にそういう認識がないのです。また異なる法的な枠組みを作るものがないわけです。新しいCICという法的な枠組みがあり、これはコミュニティ・インタラスト・コーポレーションという会社の形です。この目的は、税金がないということです。チャリティのためには税金がかからないということです。これによって一般大衆の人もCICというやり方、つまり社会の利益のための企業であることがわかるようになってきました。これで銀行からの融資も受けることができますし、それによって銀行側も社会的な資金の導入を考えてくれるわけです。社会的な資金を得ることによって法的な枠組みを整えようというのがイギリス政府の狙いでもあります。社会的な起業家、ソーシャル・ファームということと関係しています。日本の政府もそれを考えてくださるといいと思います。

フルーデンバーグ: 私は元々がシンプルな人間なものですから、単純な解決策があれば一番いいなと思います。皆さんの中にもいろいろなスキル、経験、知識をお持ちの方がお集まりだと思います。それぞれの異なる知識や経験を持つ人たちが一緒に集団として口を出し合ったら、おそらくすごくいいソーシャル・ファームができると思います。情報をやりとりして、「これだったら一つのソーシャル・ファームとして立ち上げられるかもしれない」となれば、ぜひその計画をまとめて、融資を受けるために動いてみるといいと思います。コンピュータシステムがあればこれができるだろうとか、何か足りないものがあれば、それを埋めるための努力をぜひしていきましょう。
もちろんお金があるのにはこしたことはありませんが、何が一番必要かというと、その場その場の専門知識や知恵だと思います。この場合これをやるためには自分たちは借金をしなければいけないのか、あるいはリースをすればいいのか、購入しなければならないのか。そのへんの判断は、やはり十分な専門知識があれば的確にしていけると思います。

山内: 時間がなくなりつつあるのでフロアからお伺いするとしても一つか二つしかできないと思いますが、何かございますか? ぜひお伺いしたいというご質問。

会場: 今までお話をお聞きしまして感じたことがあるのですが、述べてよろしいでしょうか。ソーシャル・ファームという考え方は非常にすばらしいと思います。今日のお話というのは、障害者のための社会的な仕事と雇用の創出ということで、それに対して専門家の方がいろいろ述べられたわけですが、私がここでまた述べても仕方がないので、別の視点からちょっとだけ意見を述べさせていただきたいと思います。
企業や国などのシステム構築というのは大事だと思うのですが、僕が考える面としては、医療に携わっている者なので、作業所などで体験している者です。実は当事者なんですけれども。強迫性障害ということで。
いろいろな作業所で働いている人を見て、やはりこの人はほとんど働けないなという人もいれば、この人は相当働けるという人もいて。そういう人を見た場合、今の企業、たとえば僕は38歳になってしまったわけですが、そういう場合、再雇用という面が一般企業の方で、自分の過去の能力からいけば、自尊心が強いのかもしれないですが、十分この企業でやっていけるというのがあっても、そこで採ってもらえない。
病気であっても、雇用の方から作っていく面、システムから作っていく面も大事なんですけど、やはり僕が体験した上では、日本における医療というのが、精神科医療が特にそうなんですけど、ちゃんとしていて進んでいる先生と進んでいない人がいるという問題があります。別に批判するわけではないですが、医者が、治すことをもっと進めて、僕は認知行動療法というのでかなり治ったんですが、話が長くなるのでそれは省略しますが、精神科医が治せば、この人もその治療を受けていれば治ってるなと、作業所で働いていて思います。その人の潜在能力を上げてもらうことによって、企業やソーシャル・ファーム的なところで働けるだけの人材になりえるのではないかと。そういう医療的な面も同時に見ていかなければならないのではないかということで、議題と重なるかどうかわかりませんが、その点、関係の方、特に炭谷さんなどは厚生労働省の方たちとそういう点についてやっていっていただきたいと思いまして、述べさせていただきました。ありがとうございます。

炭谷: どうもありがとうございました。大変いい質問だと思います。二つの問題があろうかと思います。一つは現在の精神科医療の問題を指摘されました。特に精神科医療について、やはり患者さんと精神科医との相性の問題。これはものすごくあるんですね。その患者さんにとって一番適切な精神科医療を行う、これはある程度個別な医師との関係が大変重要だというのはご指摘のとおりだと思います。
もう一つは、いわば日本の社会というのは中学校、高校、大学という一定のルートになっていて、途中で落ちてしまうとなかなか大企業や官庁はとらない。これはなかなか直らない。私は今、東京の福生市のNPOの青少年援助自立センターの工藤という男と一緒に閉じこもりの問題に対応していますけれども、閉じこもりは治るんです。治るけれども社会が受け入れない。私の言葉で言えば、社会的事由に基づく人たちもそういう仕事づくり、今日の私の狙いはそこにあったのですが、仕事づくりをしていく。別に他人に雇われる必要はなくて、自ら自営する場合、仕事を作り出す場合もいいでしょう。またそういう人たちの収入になる仕事場を社会が用意していくということが非常に重要で、今の日本の社会に欠けている点ではないかと思います。
今日の狙いは、今のご質問でまとめていただいたところです。大変ありがたいご質問でした。どうもありがとうございました。

山内: 今のお話の関わりを上野先生から一つと、最後に日本とイギリスの両方をよくご存じのフィリーダさんにまとめをお願いしたいと思います。

上野: 今ご質問いただいた方は当事者の方ということで、今日はそういう方もたくさんいらしているのかなと改めて思いました。今まさに今日の研修の目的がそういうことに対して、これからどう考えていけるのか、何ができるのかということを考えるためのものですよという話を、炭谷先生からあったと思いますが。
医療というのも確かに大事なんですが、私は生活の一部だと思うんですね。私たちも病気をするわけです。でもいろんな生活をしていて、病気をして医者にかかるというのは、私たちのあくまでも生活の一部であって、すべてではないと思うんですね。ですから当事者の方たちも、今日は時間がないので原稿を削減してしまったんですけれども、思春期に発病した方たちがいろいろな挫折感を味わってこられて、もう仕事はいいと、どこかで諦めてしまっている方にもたくさん出会いました。でもいろいろな仕事を共有する中で、間近にそういう方たちと一緒に仕事をしていて、何か一つのことがうまくいったり達成感のあることに出会うと、その方の表情が全然変わってくるんですね。それから収入も、最初は簡単な内職専用のようなことをやっていたときと比べて、いろんな仕事に取り組んだらマルが一個違う収入が得られるようになると、皆さんの表情が全然違うんです。そういう体験というのは、一生諦めちゃいけないのではないかと思っているんです。それをいろいろチャレンジして、先ほど、大きな組織であればあるほどいいのではないかというお話があったんですが、私はそれに対して自分の中では疑問があるんです。小さな組織でも、その人たちが本当に何をしたいのか、何がしていけるのかを一緒に探して、まず実行してみるということから始まるんだろうなと思うんですね。そこにいる人たちというのは、当事者の方ばかりでもなく、家族だけでもなく、私たち支援者だけでもなく。いろんな立場の地域の市民の人たちが、そこに参加できるようなものを仕掛けていく。こういうようにいろんな関係性を広げていけるようなものを考えていく。そういうところに視点を置いていくと、少し楽しく夢のあることを考えていけるのではないかと。
私はとても単純で脳天気な人間だものですからあまり深刻に考えないんですけれども。でもやはり、仕事を起こしていく、何かを起こしていくということはそういうところから始まるのではないかなと思っています。

山内: ありがとうございました。それでは最後に、フィリーダさんから何か我々にサジェストいただくことがございましたらお願いします。

パービス: 最後のまとめをしなければいけないというのは大変な仕事ですね。私が申し上げたいのは、申し上げたようにイギリスと日本との架け橋となることが役割だと思っています。今日はこんなにたくさんの方にいらしていただいて、日英間の協力というものをこういった草の根レベルで関心を持っていただけるというのは大変うれしいことですし、また今日の会合に参加していただいた皆様方に感謝したいと思います。このように意見の交換ができるということは大変すばらしいことですし、それによって我々のやろうとしていることに価値を付加していけると思っています。我々が互いに直面しているさまざまな問題に対して、解決を見いだしていくことができると思っています。また個人的な橋をもっともっと架けたいと思っていますし、こういった話し合いを、どんな皆様方とも継続していきたいと思っています。
ソーシャル・ファームやソーシャル・エンタープライズについて、私たち自身も作っていくことができるのではないでしょうか。日本と英国との草の根レベルでそういう活動もやっていけるのではないかと思っておりますし、またこういう経験を共有することによって我々が得ることができるものがあるということを強調したいと思います。ご自分の経験をお話しくださった皆様にも感謝したいと思います。本当にありがとうございました。山内先生、ありがとうございました。終わらせていただきます。

山内: どうもありがとうございました。それではこれでパネルディスカッションを終わらせていただきます。