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国際セミナー「知的障害者の自立、社会参加及び就労ースウェーデンから学ぶ」

基調講演
「知的障害者の就労と日中支援活動」

きょうされん常務理事
藤井 克徳

おはようございます。国の内外で今、非常に障害者施策に大きな動きがあります。国の表側では国連での障害者の権利条約。これも2001年に提唱されてから大分煮詰まってまいりまして、おそらく2年後くらいには採択という展望も見えつつある。国の内側では、先ほど来お話がありますように、障害者自立支援法案が今大詰めを迎えつつある。障害を持った人たちの本当の社会参加をどういうふうに実質化していくのか。施設から地域へ、さらに地域を舞台にしながらいかに一般の労働市場に加わっていくのか。そしてユニバーサル政策。精一杯共通の施策で社会参加を果たしていこう、こういう方向に今、あるように思うんです。

今日のセミナーも、福祉先進国と言われているスウェーデン、特に中部ヨーロッパや北欧から日本は多くのものを学んできました。今日はスウェーデンのお二人を招きまして、特に就労、雇用という問題と、もう一つ、重い障害を持った人々の一般の雇用は難しいけれどもいかに地域の中で社会参加を果たしていくのか、このことを別個に聞きながら、かつ融合して考えていこう、こういう趣向でこのセミナーがもたれています。私の役割は今から40分弱ですが、講演に先立ちまして、我が国の実態はどうかということを少しご紹介しながら、後でインガーさんやレイフさんのお話を重ねて聞いてもらえばいいと思います。

まず、日本における障害者の就労問題、あるいは日中活動を考えるときの基本的な視点および基本的な施策として何を考えるべきか。ここからお話を始めていこうと思います。

今日は知的障害者と表題に入っていますが、私は極力、知的障害を超えて障害全般を視野に考えていこうと思っています。

ではまず、障害者の自立や社会参加を推進していくための基本的な視点ですが、4つのことを提唱したいと思います。

一点目は、即応性。即応性というのは直ちに、あるいは時間をおくことなく応じる即応性ということ。障害児学校を卒業した後に間をあけずに、あるいは治療機関、医療機関を終えた後に間をあけずに、きちんとケアをしていくという即応性です。

二つ目は、総合性ということです。後で触れますが、就労を軸にした場合でもこれを支えていくための生活面や医療面、さまざまな分野が重ね合って支援をしていく。区役所や市役所で言うならば、濃淡はあるけれどもいろんな部署が関わってくる。住宅にしても、あるいは所得に関わってくる年金にしても、もちろん福祉サービスの部署も、場合によっては道路関係を含めたまちづくりの部署も関わってくる総合的な視点、総合性であります。

三つ目には選択性ということです。今日いらっしゃるスウェーデンの、大変著名な方で、ノーマライゼーションの原理を提唱したニーリエの8つの原理というのがあるんですけれども、特にこの選択性ということを非常に重んじています。今日ここにいらした方も、おそらく朝起きてここに来るために1時間か2時間、たくさん選択をしているんです。洋服は何を着ていくのか、食べ物はどうするのか、どの交通機関を使うのか、自分が座る場所は?でも多くの障害者はこの選択性が難しいんですね。

だいたいあてがいぶち、あてがわれてしまうということが多いんです。選択性、つまり社会資源で言うならば自分が働く場なり、デイサービスなり、どこを選ぶのかということ。本当に自分に合った場所があると思うんですね。この選択性をどうするのか。

四つ目には系統性ということです。これは先ほどの即応性とも関係がありますけれども、障害を持ってから就学前、学齢期、そして学齢期を終わった後の青年期、成人期、壮年期、老年期。やはり特性を持ちながらもその年代にふさわしい、しかし連続的な支援が受けられる。こういう即応性や総合性、選択性、そして系統性。これが支援における基本視点になると思います。このことを踏まえた上で、四つの基幹的な政策が要るだろうと思います。基幹的な政策。

これもなければ、今日のテーマである自立も、社会参加も、実質化も立ち行かないだろうと思います。

その一つは、働く場。または日中活動の場。これは準備されなくちゃいけない1点目です。二つ目は住まい、あるいは生活の場。これが準備される必要がある。昨今、というよりこの十年くらいですが、日本ではグループホームが非常に大きな進展をしつつあります。しかしよく考えてみてください。本当の住まいというのはグループで住むのが基本なのか。やはりプライバシーを含めて、どんなに小さくとも、どんなに狭くても、我が家、我が部屋。その意味で言うとこのグループホームもとても究極の生活の場とは言い難い。やはり本来は、市民として地域の中で居を構えていく、あるいは配偶者と居を構えていく。ここで見ると、住まいの問題につきましても、今日はメインではありませんけれども、グループホームもあり、家族同居もあり、単身生活もあり、このように選択されることができます。入所施設よりもましということもあるにしましても、やはり方向性という点で言うと、グループホーム等もある意味での一律化、あるいは一つの停滞と考えるのが妥当だと思います。

三つ目には人による支えです。人的なケア。これは障害者施策のある面ではより基本的な政策ではないか。今日のテーマに即して言うならば、ジョブサポーター、あるいはジョブコーチ。おそらく後でインガーさんから詳しくふれられるであろうパーソナルアシスタンス、コンタクトパーソン。もちろんこれに加えてホームヘルパーや手話通訳、ガイドヘルパー。この人による支えというのは非常に大事ですよね。

そして四つ目の大きな基幹的な政策は、所得の確保ということです。所得保障というふうに今日まで言われていますが、これは個人であれ家族であれ、組織であれ、国家であれ、経済基盤というのは自立、独立の基本的な要素。障害者においてもしかりであります。

以上、この四つの基幹的な施策が、その地域にどのくらい質と量が確保されているのか。これがその地域が「進んでいますね」とか「かなり分厚いですね」というバロメーターではないか。そして国策、国段階だけではありません、自治体の熱心度、さらにはそれを推進していく民間の実践力ということとも関係するように思います。

これ以降、知的障害ということを中心に議論していきますが、少し知的障害については押さえどころ、定義、とらえ方をつかんでおく必要があります。今日は専門家がいっぱいいらっしゃいますし、学生さんもいっぱいいらっしゃいます。あえて言っておきますけれども、知的障害という定義は、法的には日本では確立を見ていません。

さまざま研究、検討が展開されていますが、むしろとりあえずなくては不都合でありますから暫定的に使っているものはあります。たとえば2000年の5月に厚労省が知的障害者の実態調査、基礎調査を行っています。このときはこういうふうに言っています。「知能機能障害が発達期にあらわれ」。発達期というのはおおむね18歳以下。「日常生活に支障を生じさせ、何らかの特別な援助を必要とする状態にある者を言う」。こういう仮の定義を使ってらっしゃる。ここでのポイントは、おおむね18歳以前に脳機能障害、知能機能障害に影響を及ぼして、そして何らかの特別な支援、援助を必要とする状態。こんなことがポイントになっていくと思うのです。したがって今日これ以降、知的障害者はこういうことがベースにあるんだなということを考えてください。

アメリカの精神医学のDMS4という、これは精神医学の診断基準ですが、ほぼこれに近い定義を提唱しています。さらにここではIQが70以下ということを加えてやはり18歳以下に発症し、さらにさまざまな高度な不都合が生じる、こんなふうに言われています。

私は個人的にはこの知的障害のとらえ方は、よく重い・軽いということを言いますけれども、やはり重い・軽いということを超えて、例えばIQが高い方であっても、社会生活においてはたくさんの困難を持っています。最近の訪問販売員だとか、かなり強制的な販売物に悩まされてたくさん物を買ってしまったり、あるいは行動力があるために遠方に行ってしまったり、あるいは一般の就労の場におきましてももう少し我慢ができなくてということもあります。

そういう意味で言うと、私は、軽いから重いからということを超えて、さまざまな不都合とか不利益を被っているなという感じを持っています。したがって今日はあまり重い・軽いということを問題にしないという考えでいようと思っています。

そうは言っても、施設から地域へ、病院から居宅へ、さらに地域や居宅から一般の労働市場、オープンマーケットへというとき、これに関しましては一つの国際的な目標を我々は持っています。たとえばILOという国際機関での159号条約。今日は言及しませんけれども、日本でも93年、12年前に批准しています。

これは崇高な理念を掲げています。

さらにもう2つほど紹介しておきますと、今年は障害者の権利宣言30周年。この中でも非常に有力な、あるいは有効な目標値を設定しています。さらにはこれも93年になりますけれども、国連の障害者の機会均等化に関する基準規則、22条項から成っていますけれども、この中でも第7条で就労に関しては大切な方向性を示唆しています。

私は全く目が見えませんから、特に権利条約の第7項目に何が書いてあるのか、それから基準規則の第7項目は何かということを短いですから朗読していだたきます。

障害者の権利宣言並びに障害者の機会均等化に関する基準規則について要点だけ読み上げさせていただきます。

「障害者の権利宣言第7項。障害者は、経済的社会的保障を受け、相当の生活水準を保つ権利を有する。障害者は、その能力に従い、保障を受け、雇用され、または有益で生産的かつ報酬を受ける職業に従事し、労働組合に参加する権利を有する」

はい。有益で生産的な、しかも労働組合にと提唱しています。驚くべきことは30年前にこれを提唱しているということです。後で触れますが、今多くの日本の授産施設や作業所が1万円前後の給与で、そして仕事の内容に関しましても決して有益かという点で言うとたくさん反省させられる。これを30年前に提唱しているということが大きな意味を持つということを考えてみたらいかがでしょうか。

続きまして機会均等化に関する基準規則、標準規則の中での第7項目目の朗読をお願いします。

障害者の機会均等化に関する基準規則
「規則7:就労。第1項就労分野での法と規則は障害を持つ人を差別してはならず、その就労への障壁を築いてはならない。
第7項目的は障害を持つ人が通常の労働市場で就労することで常にあるべきである。通常の就労でそのニーズが満たされない障害を持つ人には、小規模の授産もしくは援護就労が選択肢として可能であるべきである。これらの選択肢は、障害を持つ人に通常の市場での就労を獲得するための機会提供を適切、十分に行えているかどうかという観点から、その質を評価されるのが重要である」

一部はしょりましたけれども、こういう趣旨です。拘束力は条約ほどありませんけれども、国連加盟国が合意した約束事になったわけです。

やはりこういったもののポイントは、たえずこういうものと比較して我が国の位置関係、しっかりとポジションを見るということ。それ以上に自らの実践の位置関係を見るということ。つまりこれは羅針盤そして北極星なわけであります。こういった意味で改めてこういう機会にこういったことをもう一度想起するのもいいのではないでしょうか。

続きまして、では今我が国の障害児学校、教育機関ですね、養護学校、盲学校、ろう学校を終わった方々がどのような進路にあるのか、つまり卒業後の進む道がどうなっているのか。パワーポイントで紹介しますが、まず一つ目は文部科学省が統計を出していますけれども、2003年の5月現在で、障害児学校の年間の高等部を終わる数というのはだいたい1万人弱です。この年は9,210人。ここで非常に際立った傾向が表れています。つまり約6割、59%が施設や医療機関。ここでの「施設」にはほとんど社会福祉施設、授産施設を含みます。そして就業というのは22%に入っているということ。「その他」が15%と書いてありますが、これは地方に行きますとどこにも行き場がないという方々、学校は終わったんだけれども家へ帰ってしまうということです。今日ここにいらっしゃる小川理事長さんをはじめ、松尾さんも、長田さんも含め、皆、かつて学校に入ってきたわけです。それは手段なわけです。

目的はと言ったらよりよい社会人になるために。でもこの15%の中には手段だけあって目的はないという方も含まれている。また59%の中には本当はもっと労働市場で身を置きたいんだということを考えながらもその場がないために福祉施設に入っている。この22%をどう見るか。私には少なすぎるとまず感じます。と同時に、後で触れますが、実は22%自体、その内容は惨憺たる状況であることを報告しておきます。後で分析をいたします。(2)

この中で、日本全体と東京とは少し状況が変わっています。東京を見てみますとどうか。まず公的な施設、あるいは社会福祉法人の施設、これはほとんどが授産施設や通所型の更生施設というところ、これが53%ですね。一般就労は若干増えています。25%です。やはり東京は労働市場が多い地域で、先ほどの22%より少し多いということです。無認可の小規模作業所が11%ということで、これも結構法定外の作業所ではあるんだけれども、支えている。進学もそこそこ全国よりも多いということになっています。特徴はそう変わっていませんけれども、やや一般就労が多いというのと、無認可というのが大きな位置を占めているという特徴があろうかと思います。(3)

いずれにしましても全国にしても東京にしましても、本当の意味での自立、あるいは社会参加といった場合に、共通なのはやはり一般就労がこういう数でいいんだろうかということ。国連ではいち早く1970年代後半から国際障害者年前夜に向けてさまざまな決議を出していますけれども、忘れられない一節に「他の同年齢の市民と同等の権利を有する」という一文があります。「他の同年齢の市民と同等の権利」。成人になった場合にはやはり働くということが、権利の内実を作っていくものではないかと考えた場合、考えさせられる数値ではないかと思います。

続きまして、今の障害者の就労とか日中活動を支えていく仕組みは日本はどうかということを少し現状から説明してまいります。

まず一般就労というカテゴリーが一つあります。第一カテゴリー。それからこれまでは2つのカテゴリーとして福祉的就労と言ってきました。これは雇用環境はないんだけれども就労する。広い意味での就労。ただ福祉的就労というのは、学術用語でもありませんし、わからない。海外に行ってもわからない。ここでは非雇用の就労形態と一応書いておきました。

もう一つのカテゴリーは最近、デイアクティビティと言ったり地域活動支援と言ったり、つまり日中、デイタイムのアクティビティをどういうふうに考えていくのか。だいたい3つのカテゴリーで見たらいいと思うんです。

まず一般就労はどうかということがありますけれども、障害児学校を卒業してもなかなか進出しにくい。今日本では法定雇用率というのがあって、すべての従業員に対して1.8%が障害者で占めるように、つまり1,000人の企業は18人障害者を雇用しなさいということが決められています。最近は精神障害者もこれに入るということで、知的・身体・精神が今、適用されようとしています。精神は一番後発だったんですが。法定雇用率は1.8%なんだけれども、実際は1.46%。この法定雇用率が決められたのは1977年度から施行なんですが、まもなく30年周年を迎えますが、かつて一回もこれを達成していない。1.8に対して今は1.46。達成していないどころか、今は微減しています。大変気になりますね。実数はと言いますと、実は重い障害者の方はダブルカウントしていますので、はぶきますと19万くらい。今わが国は600数十万という障害者がいると言われています。この雇用促進法にのっとって雇用の機会を得ている方々は18万人くらい。では、よく計算しますとわかるように1.8%発生いたしますと実は56人以上のクラスの企業がこの1.8%という数字があてはまるんですね。では、56人以下の企業はどうなるかというと実はここにたくさん障害者の方がたくさんいらっしゃるんです。

この数を入れますと一昨年度の厚労省の統計によりますと49万6千人。これが零細企業を含めた障害者の方が雇用されている。このうち知的障害者が11万人といわれています。仮に50万としましても、600万近い障害者からするとやはり3障害合わせて50万人ですから、やっぱり少ないと考えていいと思います。雇用促進法でいうと18万人くらい対象。もっと零細企業を含むと全部入れると50万人くらいの方々が労働市場で生活している。今日はインガーさんやレイフさんがいらっしゃいますから、申し上げておきます。今日本には1億2600万の人口です。そのうち50万しか労働市場では活躍できていないとうことになっているのですが、それをどういうふうに見るかということです。ふたつめのカテゴリーで、授産施設を中心とした非雇用雇用の就労の場、これは日本は政府も民間も大変力を入れて参りました。授産施設は障害関連で12種類、身体障害者関係が4種類、知的が4種類、精神が4種類、これでも圧倒的に数が少ないので小規模作業所がこれに加わっているということになります。(4)

もっと正確に言いますと、社会事業授産という社会福祉法とか、生活保護授産というのも実際障害者が多いのですが、一応障害関連でいうとこの12種類。プラスワンというのは小規模作業所ということになっている。ぱっと見た瞬間、複雑だなぁ、という感じを持たれると思う。今回はこれを大きく変えようとする政策に動きつつあります。

次に重い障害者、ここにも福祉的就労と言われている、あるいは非雇用就労にもつけない方々はどうかと言いますと、ひとつはデイサービス、知的、身体で精神はありません。精神はデイケアが別個に医療機関にあるいは診療所に、あるいは保健所にあります。

これは医療行為として行われています。従って、福祉型のデイサービスは精神にはありません。これに加えて身体は通所療護、もっと重い方々の療護施設の通所版だとか、あるいは重症心身障害者の通所版も一部運営されています。しかし、ここは全体にやはりまだまだ未分化、施設から地域へという中でさきほど第2カテゴリーの授産施設制度ほど体系化しておらず、その数も十分ではありません。例えば精神障害者の場合は、地域活動支援センターという相談活動の場自体が日中のたまり場になっているとういことであります。(5)

もう少しこれをふまえて、一般就労についている方々の実態を二つの観点からみていこうと思います。(6)

パワーポイントの6枚目になりすが、これは東京都の例。国はまだこういう統計を出していません。障害者を一般就労についた方々が不十分とさきほど言いました。

二つの観点、一つは就労形態、もうひとつは賃金形態。就労形態はここにありますように、東京都の例なのですが、一番新しいデータですが、知的障害児の養護学校を終わった後の264人が一般就労した数。これを見ますと2割が正規職員、あと8割は様々書いていますが非正規職員。身分が不安定なわけです。昨日NHKで若人の働くという問題で議論していました。ニートとフリーターが多いということでしたが、最近のわが国の雇用形態は変わってきております。ただ、この障害児学校を卒業した方々の就労形態は前から正規は2割前後と低いんです。だから最近の社会的な傾向と一致しているのではなく、だいたい10%後半から20%前半、これが正規職員です。つまり雇用に就いた方は一定数いらっしゃるんだけど、さらに5分の一しか正規職員になれないという事実。

二つ目、それでは賃金はどうかということです。(7)

ここにありますように非常に賃金も一般の労働者から比べると低いという事です。これはボーナスも全部ならして10万から14万。ここが48%ということになります。それから9万円以下が28%、3割。そして、よくわかりませんというのが結構あって、次に15万以上というのが8%です。ボーナスやら手当てやら合算してだいたい年収が200万円以下が圧倒的に多いということです。これは、就労形態が非正規が多いということに合わせてみえれば容易に想像がつくと思います。

ついでに非雇用就労の賃金はどうかということを見て参りましょう。パワーポイント9のほうにいってもらえますか。(9)

これは先ほど言った非雇用関係、授産施設はどうかなと見ていくと一般就労は低かったけど、「えっ、これは一桁違うんじゃない?」ってことを、おそらく今日ここにいらっしゃる障害者問題にあまりかかわっていらっしゃらない学生さん達、驚くでしょう。もっとポピュラーな身体障害者通所授産、21,987円、まあ、22,000円くらいですか、月々。福祉工場の身体障害者はだんとつです。18万円、結構高い。しかし多くは通所授産が多い中で22,000円弱。さあ、ところで知的障害者はどうか。知的障害者通所授産というのがもっとも多いです。11,873円、1万円台前半です。福祉工場の身体障害者は18万円ありました。知的障害者は半分ですね。9万円弱下がってしまう。さあ、精神障害者をみていきましょう。同じく通所授産に着目して下さい。一万円を割ってしまいますね、9,688円。そして、福祉工場。身体障害者は18万、知的障害者は8万、精神3万8千円、となるんですね、なぜか。精神の場合は今、医療法人系が多かったりと様々な背景があります。

このように非常に全体として一般雇用にいきたいけど、正規職員の壁は厚い。連動して労働条件は劣悪だということ。また、この福祉的労働と言われている非雇用就労といっても極端に桁が半分ちかく、あるいは一桁くらい下がってしまうくらい低い賃金。これに加えて申し上げておきますと、こういう授産施設の全国的な組織であります、社会就労センター協議会の統計によりますと、この授産施設から一般の労働市場に移行できる数が年間1%くらいでしかない。一方でアンケート調査をとりますと、40%くらいの利用者が労働市場に行きたい、ということを訴えている。これに対して家族は8割が、このままでいいと言ってらっしゃる。

このへんにも今日のこれ以降のありようを考えていくポイントがたくさんあるように思います。

時間もまいりました。レジメの5番目になりますが問題点を挙げておきます。

一つは雇用問題は後で午後から深めますけれども、全体的に一般雇用も含めてなんですが、場が少ないということです。特に非雇用環境の場が少ない。パワーポイントの8枚目。(8)

簡単に言ってしまいますと、非雇用関係だけ見ますと、何らかの授産施設を持っていますよ、ありますよという自治体は依然として4割程度。残りの6割の市町村は空白地帯。(12)

パワーポイントの12枚目、では重い障害者はどうかというとこれも同じようにまだまだ数は少ないです。重い障害者にはデイサービス関係とか通所更生関係となっています。あるいは精神障害者は地域生活支援センターになっています。

第一点目は、まだまだこの国は量が少ない。この量を増やすこと、あるいは法定雇用率を守るということをどうもっていくのか。

二点目は、重い障害者ほどどうも地域生活の場が少ないということ。あるいは制度の支援も弱いということ。

三点目は、就労条件が厳しすぎる。とりあえず一般労働市場に当てはめてみたものの、その内実はきわめて厳しい。

四点目、制度のことを論じるとは別に私たちの支援技術はどうなのか。先ほど、授産施設が1%しか移行できないということも含めて、支援する側の信念とか理念とか、あるいは技術。これも制度の弱さにむしろ悪のりしているのではないかということがあります。

五点目には、就労なり日中活動を支えるときに重層的なケアになっていない。私は視覚障害なんですが、一般就労を今しています。ところが通勤する手段は何もないんです。ガイドヘルパーを使えませんとか、ホームヘルパーを使えません。そうするとさまざまな個人を中心とした系統的で総合的な支援がいるんですが、そうなっていないという点。

これからの課題の前に日本の国は今大きな変化を遂げつつあります。以上のような問題を踏まえて雇用行政も福祉行政もこれではいけない、変えていこうと。

先ほど長田社会参加室長や松尾副会長がおっしゃっていましたように、折しも今、障害者自立支援法が検討されて、就労に関しては新しい方向を考えていこう、つまり一般労働市場にどういうふうに多くを流れていくようにするのか。あるいは非雇用環境の就労にあってももっと高い賃金の水準、あるいは労働者性を一般労働市場ではないけれども増していけないかと検討に入っています。さまざま、利用負担問題等もあって純粋に政策上できにくい状況はありますけれども大きな変化を遂げつつある。

あるいは一般労働市場に関しましても、この間、トライアル雇用制度やジョブコーチということが言われています。方向はでていますけれども、一般の労働に関しては企業側の支援を含めて検討がいる。

最後に我々の課題ですけれども、「二つの脱却」、もう一つは「流動性」というキーワードがあります。「二つの脱却」ということと「流動性」という提起をこの基調講演でしておきます。二つの脱却というのは、一つは常態化している雇用率の脱法行為、ここからどう抜け出すか。1.8という数は決められています。でもかつて一回もこれをクリアしていない。もしこの国が法治国家というのなら、これはおかしいと思います。

もう一点は、福祉的就労とか非雇用就労と言われている場から1%しか一般労働市場に出ていないということ。本人たちは40%希望しているんですよ。どう抜け出せるかということ。

同じように流動性というのは、地域生活、地域をステージとしておきながら福祉的就労、非雇用就労から一般労働市場へ。ちょっと失敗して帰ってきたら一般労働市場から非雇用就労へ。あるいは歳もとってきたしデイアクティビティに行きたい。この関係を固定化せずに本人のニーズと年齢条件等を加味していかに流動化させていくのか。これがポイントであろう。

インガーさんやレイフさんからこれをどういうふうに聞き出すのかということも一つのポイントと思います。今日のスウェーデンの方々の報告を聞く場合のポイントを最後にもう少し整理して終わります。

私は政策というのは三つの要素からなっていると思うんです。一つは理念。二つ目には仕組み。三つ目には財政、つまりお金の面の支援。理念と仕組みと財政。このことがバランスよく、また連携し合って政策の良し悪しが決まっていくであろう。

ぜひ今日のこのスウェーデンの方々のご報告から、冒頭言いましたように日本の位置関係をまず知るということ。と同時にそれ以上に自分の実践の位置関係、ポジションを知るということ。そして、何らかのヒントを得ていくということ。模倣は創造の第一歩と言われています。

何か自分たちの状況、一つ味を加えて作っていく。こんなことを学んでいただければと思います。

以上、雑駁ですが、全体像と今日学ぶべき視点ということを提唱しまして私の分の担当を終わりたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

※( )内の数字はP22~P25のスライド番号を表す。

レジメ:知的障害者の就労と日中支援活動

1.知的障害者の地域生活の実質化と就労および日中支援活動


2.障害児学校高等部などの教育機関卒業後の進路動向


3.就労および日中支援活動についての関連制度の現状

※別表参照

4.就労の実態


a.授産施設
b.小規模作業所
a.通所更生施設
b.デイサービス事業
c.その他の事業

5.問題点





6.新たな政策動向と今後の課題



a.政策上の課題
b.実践上の課題

7.むすび