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国際セミナー「世界の障害者インクルージョン政策の動向」

ディスカッション

山内:どうもありがとうございました。それではいくつか今質問が出ましたので、まずそれから先に行きたいと思います。
まず、伊野さんのほうから、シュワルツさんに博物館などの仕事、あるいはアウトソーシングの受注などの場合に、既存の業者、サービスとの間で競争があってトラブルが起こらないかという質問がありました。
それからもう一つ、おそらくかなり共通する部分があると思うのですが、普通の企業としては競争が激しいので、利益が出なかったときにどうするのか。この辺について、シュワルツさんのほうからコメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか。

シュワルツ: 政府の仕事などをどう取ってくるかということですけれども、さきほどご紹介した博物館がいい例なのですが、契約はもちろん入札によって取りました。日本でもそうだと思います。こういった契約を取る際には必ずまず、公示がありまして。ベルリンの博物館での仕事を取りたいというところはたくさんあるわけですね、利益率がいいですから。ベルリンでは、このソーシャル・ファームがいちばんいい提案をしたというわけです。そして契約を取ることができたわけです。
なぜこれがうまくいったかというと、たいへんきちんとした、成熟したビジネスを提供することができるからです。そうでなければこんな契約は取れなかったと思います。最もプロ意識の高い、効率のいい仕事をこの博物館ですることができると認められたということですね。ソーシャル・ファームだからといって特別扱いでクォリティがよくなくてもいいということにはならないわけです。
今、ヨーロッパのいろいろな国において、政府の仕事を引き受けることができる可能性が着目されています。私のプレゼンテーションの中にもありましたけれども、EU 指令(EU 理事会が決定する加盟国の目標達成義務)がEU 委員会から2 年前にだされました。政府の入札に参加する際には、参加者から、サービス、価格、品質だけではなくて、社会的にどういう影響を持つか、この契約を政府がすることでどのような意味があるのかということを示さなければならないことになっています。そういった意味でもソーシャル・ファームが、このような契約を取れるようになってきているわけです。
ジェノバの私の2 番目の例では、ジェノバのコミュニティが既にこのような条件を契約の際には提示しております。そしてもちろん他の民間企業とも争わなければならない、競争しなければいけないわけです。品質、価格でも、少なくとも他と同じレベルか、あるいはより良い条件を提示しなければならないわけです。
ジェノバの地域において、この契約をすることで地域の中にどういった影響をもたらすか、またこのラペラサービスの提供により、もちろん障害者を雇用するということも含めて、社会的にどのような影響を及ぼすことができるのかを示さなければなりません。そういったことを明確にしてからジェノバの自治体は契約を決めるわけです。
会社に対しては、どういったサービスを提供しているのかといった評価が常に行われております。もし良いサービスが提供できてないとなると契約が打ち切りになってしまい、それに契約上の保護は設けられておりません。

山内:競争の激しいところで、普通の企業と同じように競争して、そしていい成績をあげているというわけですね。

シュワルツ:はい。そうです。

マッケンジー: 私どもの市場への取り組みということですが、来週火曜日に私はイギリスに戻りまして、水曜日に新しいビジネスを取るためのコンペがあります。私はここでフランチャイズ化することを考えております。このコンペに勝てば、この地域に入っていけることになります。
デボンとコーンウォール地方にあるアクアマックスは、イギリスだけではなく、恐らくヨーロッパでも、今現在最も大きい会社規模と言えると思います。
会社を急激に拡大していくということはどうかというご質問でしたが、まずスタッフを選別するのは非常に慎重にすることが大事だと思います。そしてビジネスの所有者、そして経営にあたる人はスタッフを慎重に選ぶことでリスクを最小限にできます。フランチャイズ化することにより、それぞれの店は自分たち自身でビジネスをしっかりとやっていく事が必要となります。私のアクアマックスを拡大するより、フランチャイズ化することで、このビジネスを広めていこうと思いました。なぜなら私は国の北から南まで、きちっとスタッフが仕事をしているかということに目を光らせることができないからです。
アクアマックスを始めたときには、有限会社として始めたわけではなく、自営業(sole trader)として設立しましたが今でも同じ会社の形態をとっています。私自身でリスクを負うことで会社は急成長を遂げたわけです。
テレビや新聞に私の件が大きくとり上げられますと、お金を出そうという投資家の人がやってきて6 つもオファーを受けました。でも、私は彼らの主たる目的はお金だと思いましたから信用できませんでした。そこで私は慎重にパートナーを選びました。そして、ソーシャル・ファームUK が私のところにやってきて、パートナーシップを組まないか、と言ったわけです。それは有限会社としての提案でした。ですから私は、個人的にアクアマックスの50% を所有する。そして、ソーシャル・ファームUK が残り50% を持つという提案でした。我々は、いつの日か、アクアマックスを売却したいあるいはしなければならないときにはソーシャル・ファームUK に売却するということで合意しました。私がなぜ、このビジネスを売却する可能性があるかと考えたかというと、まず私自身の子供時代の経験やアメリカでマクドナルドの取締役やビザハットから研修を受けて学んだ事、それから私は交通事故に遭いまして職を失ったという経験をしましたし、私の家族を養わなければならないという理由もありました。

山内:上野先生、よろしいですか、今のお話で。
シュワルツさんにお願いしたいのですが、ヨーロッパでこういう制度、ソーシャル・ファームを作り上げていくプロセスについてお話ししていただければという質問が上野先生から出ました。プレゼンテーションの中でずいぶんお話いただいたと思うのですが、具体的に付け加えるところがあれば、ぜひこの際お話いただくとありがたいと思うのですが。

シュワルツ: はい。既に申し上げたこともたくさんありますが、具体的に申しますとソーシャル・ファームは大きな慈善団体、ソーシャル・サービス団体などによって立ち上げられることが多いわけです。例えば、障害者を雇用する、あるいは障害者の自立を支援することに関わる組織によって設立されます。そして、雇用の問題を抱える人たちに対して、何らかの仕事をつくり出そうと試みます。例えばドイツの例で申し上げますと、こういった団体が、何をやったらいいか、どんな支援が得られるのかなどさまざまな質問ができる場所を設けることは重要なことで、これらの質問に答える支援団体が設立されました。そしてこの支援団体で私は長い間働いておりました。
ネットワークをどのようにつくるかいうことになりますけれども、質問ができる場所があるということが大事ですよね。日本でも、今までのプレゼンテーションからもわかりますが、ソーシャル・ファームを立ち上げる上でたくさんの可能性や選択肢に対するサポートをどこで得られるのか、ソーシャル・ファームを立ち上げる際の質問を聞く所が必要だと思います。
例えば融資などでも、どういった銀行がそのソーシャル・エンタープライズ用の融資をしてくれるのか。あるいはどのような政府のプログラムを利用することができるのか、ビジネスを立ち上げたいというときに、どこに行けば情報を得ることができるのか。そういったことが重要になります。例えばアクアマックスでしたら、魚市場についての情報をどう取ってくるか、とかですね。イタリアとドイツ、イギリスの話が出てまいりましたけれども、ある一定の数のソーシャルファームが立ち上がると、地域や、全国レベルでの協会ができます。その協会では、スタッフを抱える立場で出てきた問題や特別な市場やビジネスといった情報を共有することができます。そしてこれらの知識を一か所に集めるセンターとしての役割を担うことができます。またそこからさまざまなサービスを提供することができます。
具体的なビジネス支援をする場合、特別な市場についての専門知識を持った人を雇うことによって、特別なマーケットの知識を得ることも可能になるでしょう。財政的な情報や人的資源、例えば仕事場における障害の問題にどう対応するかといったトピックのセミナーを開催しております。このようなことを通じてソーシャル・ファームについて学びたい人、興味のある人が一堂に会してさまざまな話し合いをする。具体的な話や情報の交換をするということや、直接的に情報をやりとりするということは、ヨーロッパ全体においてとても重要なことです。
スワンベーカリーの事例にもありましたように、詳細にわたりビジネスに対する情報・知識が必要です。こういったすべての活動を共有することで、非常に優れた支援体制が可能になります。私たちはこれを実現することができました。だからこそこんなにたくさんのソーシャル・ファームが今、ヨーロッパに存在しているというわけです。

山内: 関連して今のお話に関連する質問がいくつかきております。もう少し具体的に、こちらのフロアのほうからの質問に則して、今のお話をもう一度おまとめいただければと思うのですが。
どういう質問かといいますと、障害者の働く施設で、運営の問題についていくつかの質問がきています。つまり、障害者の人と支援するスタッフ、あるいは経営スタッフとの関係がどうなっているのか。今のお話から考えますと、経営あるいはマーケティングなら、それの得意な人にきてもらって働いてもらう。そうすると、その中には障害者の人は必ずしも入っているとは限らないというふうに考えてよろしいですか?つまり、経営としては普通の企業と同じような経営をしている。その中に、障害者の方が、例えば25% ならば25% 入っている。その障害者の人と一緒に働くことも、マネジメントも上手な人が中にいる、という理解でよろしいでしょうか。

シュワルツ: はい、私のほうから申し上げられると思います。そのあとスチュアートさんにお願いします。
この質問は、障害者のエンパワメントに関連していると思います。ソーシャル・ファームは、障害者に仕事を提供する実際的な給与やそのための商品を提供する手段です。障害者が政府などから助成金をもらって商品がどう使われたかわからなくなるような手法とは違います。
ヨーロッパでは約30 年かけてソーシャル・ファームは、エンパワメントの一つの段階にまで達するまで進展をみせました。しかし次の段階として問わなければならないのは、継続的にエンパワメントの概念を押し進めるために、障害者の人が仕事をこんなにできるのであれば、会社の運営もできないかのという問いかけです。
こういったことに対応する多くのイニシアティブ・プログラムがあります。例えば私はアメリカのニューヨークで2 年間働いたことがありますが、その時、精神障害者が電話会社を所有し運営するという精神障害者のためのプログラムがありました。150 万ドルをニューヨークの厚生部から資金提供して、ビジネスの設立につながったわけです。この精神障害者の場合、支援を受ける権利を得られれば、完全に自らのビジネスを運営する能力があるわけです。
障害者であってもビジネスにおいて非常に素晴らしいアイディアを持っている人たちがいます。ニューヨークにおけるプログラムにおいては300 人の顧客、クライアントがいましたが、3 年間の間で約20 人がかなりの成功を収めました。成功率は300 人のうちの20 人ですので、障害者の方が会社を運営する例が多いというわけではありません。しかし、障害者であってもクリエイティブな潜在能力のある人がいるわけですから、経営することが選択肢として可能であるということを覚えておいてください。
ベルリンで一年前にエンタビリティ(Enterability) というプログラムが始まりました。これも具体的に障害者であってもビジネスのアイディアがあり、自分でビジネスを始めたい人のためのプログラムです。1 年経ちまして、このグループは約200 人が参加しているのですが、そのうちの12 人が自らの企業、仕事を立ち上げました。
障害者が会社をたちあげることは可能なわけです。もちろん全員ができるとは言っていませんが障害者の方だってもちろん経営者になれるわけです。

山内: 関連してマッケンジーさんにお聞きします。日本ではですね、障害者が比較的定型的な仕事をして、マネジメントはスタッフがやっている場合が多いけれども、アクアマックスでも同じようなやり方をしていますか。その点について、マッケンジーさんの方から、どのようにアクアマックスでおやりになっておられるか、お答えいただければと思います。

マッケンジー: アクアマックスの場合ですと、職員の50% が障害者です。精神障害や身体障害者です。フランチャイズの場合は、マネージャーたちは全員健常者です。それからソーシャル・ファームUK の場合には、少なくとも25% の職員が障害者でなくてはいけません。しかし、典型的な場合は50% の人たちが障害者です。障害者・健常者の割合が1 対1 であればいちばん理想的だと思っています。

山内: 簡単な質問がいくつかあるので、それにまずお答えしたいと思います。 雇用率制度がイギリスにあるかという質問がありますが、イギリスには雇用率制度はありません。ですから、国によってこれは違いまして、日本にはありますがイギリスにはないということです。
それから、ソーシャル・ファームの労働市場での割合がどれくらいかという質問がありますが、これは表 (参照「ヨーロッパのソーシャル・ファーム雇用実態」) を見ていただければ、ソーシャル・ファームの売上がユーロで書いてありますので、ヨーロッパの現状でどれくらいの規模のものかということはご想像いただけるかなと思います。
炭谷事務次官に、日本で起業に際して、初期の支援にどういうものがあるのか、という質問が来ておりますが、お願いできますでしょうか。

炭谷:ご質問どうもありがとうございます。 このような質問が出ること自体が、「今度自分がやってみたいなあ」という意欲の表れだということで、このシンポジウムもずいぶん効果があったのではないかなというふうに感じました。
まず、このような起業、例えばこのソーシャル・ファームというものを起業しようという場合については、残念ながら今の日本ではソーシャル・ファームというもの自身がまだこれからということですから、まだありませんね。ただ一般的に例えばビジネスを興すという場合は、政府系の金融機関、例えば国民生活金融公庫とか、そういうものが一応利用できます。またこれは地方自治体の中には、このような起業、今度のテーマの社会的な起業、ソーシャル・アントプレナーという社会的な起業を起そうといったような場合の先進的な地方自治体ではこのような制度を作り始めているというところがあります。
実際、私自身が関わっております大阪府大阪市の例をいいますと、今日も来ていただいていますけれども、古着のリサイクルをやろうとしています。これは主に障害者の方というよりも、釜ヶ崎を中心にしていらっしゃるホームレスに対する雇用を進めるための古着のリサイクルのビジネスプランを作ろうということで、これは地元の地方自治体からお金をいただいて、今ビジネスプランを作っているところです。そして、それに基づいて、うまくいけば地元の地方自治体もたいへん関心を持ってくれていますので、それに応ずるいろいろな財政的な支援というのをしてくれる可能性がずいぶんあると思っています。
ですから、今日私が言いたいのは、それにあてはまるきちっとした補助制度とか助成制度はないということです。しかし、探してみれば利用できるものがいっぱいあります。ただわからないだけなのですね。ぴったり合うものは実際にはないのだけれども、関連するものが実際は日本の場合はたくさんあります。そういうものをいかに利用するかという情報や工夫をぜひ知っていただきたいなあと思います。具体的に何かをやりたい、例えば千葉県で何かをやりたいというような希望を持っていらっしゃれば、むしろ、そのやろうとしていることをまずビジネス・プランを作っていけば、必ず利用できるものが発見できるんですね。日本はそれほど制度というのがしっかりしてきた、というふうに思っています。

山内: そうしますと、そういうことに長けた人を養成しようというようなことは、そのうちにスコープに入ってきますか。

炭谷: たいへんいい質問ですね。その通りですね。ですから、今回こういうソーシャル・ファームというものをいかに日本全体に引き上げていくためには、いろいろな要素が必要ですね。一つはやはり、それをうまく、経営、いろいろな助言をしてくれる、今日も、シュワルツさんもマッケンジーさんもおっしゃっていますけれども、助言してくれる人、そういう人たちがいたらいいな、というふうに思います。
今日このようなシンポジウムをやりましたので、この中ではたぶんビジネスに長けたような人がいらっしゃると思いますので、ぜひそういう、ソーシャル・ファーム経営コンサルタントと、明日から名乗ってやっていただくという人がいらっしゃればいいのではないかと思います。今日得た情報をもとにしてでも、もっといろいろと勉強すれば、ずいぶんしっかりした指導、助言ができると思います。そういう人材というのは、今山内先生がおっしゃったように、いちばん必要だろうというふうにも思います。

山内: 実は質問票は、炭谷事務次官宛がいちばん多いんです。
ソーシャル・ファームというものをもう少しはっきりわかりたいという質問がいくつかありまして、一つはワーカーズ・コレクティブなんかの運動等をイメージされているのかどうかということが一つ、それから、今お答えになったことで尽きているかもしれませんが、ソーシャル・ファームについての法律がない状況でどうすればいいでしょうか、という質問がきております。お願いできますでしょうか。

炭谷:わかりました。
最初の、一番目の質問は、たいへん今回のソーシャル・ファームの本質を突いた、たいへん良い質問だと思います。たいへんよく勉強されている方だなと思いますね。今日シュワルツさんの説明していただいたことの中に、1970 年代にイタリアで発生したとおっしゃいましたね。
なぜイタリアなのか。イタリアが、実はこのような人たちのいわば共同体といいますか、コーポラティブ、そういうものの下地のある国なんですね。ですから、まさにコーポラティブの流れを汲む、それともいわば親戚同士じゃないのかなと思うんですね。大きく言えば、ソーシャル・エンタープライズの中にいろいろなものが入っているのだと思うんですね。名前は違うけれども、ある意味では重なり合っているのではないかと思います。もしその部分をさらに勉強していただきたいということであれば、今日も会場に来ていただいていますけれども、大山博さんと細内信孝さんと私とで一緒に作った、「ソーシャル・インクルージョンと社会起業の役割」という、ぎょうせいという出版社から出ている本の中に、その部分を詳しく解説してありますので、図書館では入手できると思いますから、ぜひそこで勉強していただくとありがたいなあ、というふうに思います。
私は今のソーシャル・ファームの運動を見ていて、かつて協同組合、コープがスタートしたときに、こんなに大きな地位を占めるとは誰も想像しなかった。しかし、今の時代ではコープはいわば、通常のスーパーマーケットと闘うくらいの力がありますね。灘生協が代表的だと思います。必ずソーシャル・ファームもそうなれる、というふうに確信しています。
それから法律がない、と。確かに法律があればうまく進むだろうというふうには思います。既に先ほどもシュワルツさんからいい情報を提供していただきました。イタリアや、ドイツや、フィンランド、ギリシャなどに既に法律があるということなんですね。日本の場合は、やはり実態がある程度進んで初めて、法律というものが作られ始めると思うんですね。私はやはり、日本においてもソーシャル・ファームというものが、ある程度出てくればそれを支援するようなソーシャル・ファームの支援法といったようなものは必ず必要になってくる。それはある程度読めるのではないか。そして既にヨーロッパの方にこういう実例があればなお加速されるというふうに思います。

山内: それから、シュワルツさんにですね、小学校の先生からの質問なんですが、ソーシャル・ファームで働こうという新しい子どもたちも育ててもらえるわけで、子どもの教育の場合、障害児の教育に際して、そういうことも想定したうえでなにか教育としてやっておくことがあれば、教えてほしいという質問が来ておりますが。

シュワルツ: そうですね。イギリスでは、学校でもいろいろなことが起きています。最近では起業家週間というのがあります。その1 週間で起業、ビジネスを興すということについて学ぶわけです。そこでは、成功しているケースなどから学びます。これは初めての試みだったのですが、そのうちの1 日にソーシャル・エンタープライズの日がありました。そしてその日に中学、高校位の生徒たちも招待され起業家精神についての勉強をしました。そしてそのディスカッションの結果などをこの起業家週間に発表します。
だから、イギリスでは今、ホットなトピックになっています。まあこれはトップダウンのやり方ですけれども、大きなイベントで学校まで巻き込んで行こうとしています。それで教室で話してもらおうと教師の意識を高めようとしています。それからまた学校においては、社会経済の問題は非常に大きくなってきております。意識も高まっておりますので、学校から、我々の組織にいろいろな質問が寄せられるということが実際に起きています。学校と我々の組織の間でもいろいろなやりとりがなされるということが現実に起きています。それはいいことですね。どんどんそういったことを起こしていくべきだと思っています。

山内: ソーシャル・ファームとして、老人ホームとかグループホーム、あるいは福祉施設などの事業を行うことが必要ではないだろうかというご意見の方がいらっしゃいますが、これは炭谷事務次官宛なので炭谷事務次官にお答えいただいて、それからフィリーダさんがイギリスの状況について統計を少しおっしゃったので、そのへんについてフィリーダさんにも同じことについてお答えいただければと思います。老人ホームなどの福祉施設を経営することはいかがですか、という意見です。

炭谷: アイディアとしては面白いと思いますね。可能だというふうに思います。ただ、それぞれの経営主体によって、それぞれの法律によって、例えば公的団体とか社会福祉法人以外は認められていないという原則があります。例えば保育所などは大都市でしか株式会社は認めていないというような規制がありますので、そういうものに留意しなければなりませんが、グループホームについてはどんな経営主体でもいいわけですから、ソーシャル・ファームとして経営するというのは可能だと思うんですね。ただ、日本の法制においてはソーシャル・ファームというのは、いわば現行法制上は、法人格という目で見た経営主体ではないわけですね。ですからソーシャル・ファームとしては何か違った法人格、例えばそれはNPO というふうなのがいちばんピンとくることですし、また、最近で言えば企業組合とかですね、違った法人格を取って、機能としてはソーシャル・ファームとして行うというふうにしなければならないんですね。もちろん将来、先ほどご質問で出ましたように、ソーシャル・ファーム支援法ができればまた話は違ってくるのかなと思いますけれども、ソーシャル・ファームがですね、何か社会福祉施設を作っていく、そして運営していくというのはもう一つの仕事の分野としては十分考えられるし、あり得るのではないかなあと思います。

山内: フィリーダさん、その何パーセントか、というお話をされましたけれども。

フィリーダ: はい、そうですね。私が申し上げたのは、全般的にソーシャル・エンタープライズということで申し上げました。具体的なソーシャル・ファームではありませんでしたので、ソーシャル・ファームが具体的にどんなふうに運営・経営されているか、施設レベルの話はわかりません。しかしいくつもソーシャル・ファームが、既にサービスを提供しているところもあります。事実、アクアマックスもそうですね。そして、水槽を作って高齢者の施設、病院、養老院、そして刑務所にも出しているということでしたよね。とても治療に役立つということですし、学校でも仕事をしておられるということでした。ですから、ソーシャル・ファームはもちろんこういったサービスを提供していますが、まだどんなふうに運営しているかまでは存じあげません。
ちょっと一つ申し上げたいのですが、英国では法的な形でのいわゆるソーシャル・エンタープライズというものはありません。しかし、昨年政府が、新しいコミュニティ・インタレスト・カンパニーというものを創設いたしました。これはソーシャル・ファームが、もし希望すれば特殊法人として活動することができるというものであります。政府が実際にこういったことを始めたわけです。こうすることで社会でのソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズの本質や社会的な価値の認知度を高めようというものです。ソーシャルファームが法的な形をとるということは強制ではありません。もちろん慈善事業として活動できるわけですし、産業レベルでの活動もするわけですが、もし希望すれば特殊法人として活動もできるようになりました。これが英国としての回答になります。

山内: 最後だと思うのですが、今の関連で、農業対策として若者が農村に行って、ホームステイして農業体験する、そういう形での経営があるだろうか、そういう実例があれば教えてほしいという質問が炭谷事務次官に来ております。

炭谷: まずですね、これは私の関係している話ですけれども、東京の福生市に、NPO 青少年自立援助センターを経営している工藤さんという方がいます。閉じこもりの青年とか、登校拒否の人たちをいかに社会に復帰させるかということでいろいろと努力をしている方です。そこで、私どもの方からお願いをしまして、今のように自然の中でそういう子たちを援助、支援することで、立て直せることができるのではないかなということで、今年度まで3 年間かけていろいろと試してもらいました。彼はたまたま、北海道のある村の出身でした。その村に行って、いまのような農業体験をするということで、かなり効果があった。
また同じようにこれも岡山県の、ある山の、本当に鳥取県寄りの小さい村ですけれども、その村ではちょうど小学校の廃校になった校舎がある。その校舎に、青少年ではないのだけれども、大阪の私の関係しているホームレスを自立させるために、そこで農業・林業の研修を受けてもらったらどうかなあ、ということをその村長から私あてに話がありまして、これについても検討しております。ですから、いまのような話はたいへん面白い、チャレンジングな話だと思うんですね。
これは、千葉県の事例ですが、千葉県の銚子に大きい牧畜業を行っている方がいます。千葉県でいちばん大きい牧畜業をやっている方ですけれども、椎名さんという方ですけれど、名前をご存じの人もいらっしゃるかもしれませんが、私どもと一緒に考えているのです。千葉県はゴルフ場の土地でいろいろと失敗をした。そのゴルフ場の予定地を買い上げて、これは今のように青少年ではなくて、知的障害児・者、知的障害を持つ人、またリタイアした高齢者の生き甲斐対策として農業をやってみたらどうだろうかということで、今計画をしています。
ですから、本当にいろいろなところで同じような試みが既に実施されていたり、またこれから着手しようという事例があると思います。かなり面白い、また将来性のある話だろうと思っています。

山内: ありがとうございました。それでは最後に、これまた炭谷事務次官で申し訳ないのですが、かなり大事なことだと思うのです。福祉の世界でずっと活動してきた人は、ビジネスということだけで、あるいはお金儲けということだけで嫌ってしまって話を聞いてくれない人が多い。こういう人に、どうすればいいかというご質問が来ているのですが。

炭谷: そこは、たいへん重要なところだと思います。ビジネスという言葉自身が営利を目的とするわけではないのですね。それはあくまで、効率性といいますか、やはりこの世の中で、社会の中で勝っていくためには、一種の戦いですから、そこに効率性というものを求めていくということだと思います。
そういうものの、いわば福祉の世界におけるパラダイムの変更というものが必要なのではないかなあ、というふうに思います。つまり、福祉というものはかつては保護されているというところから、やはり福祉においてもやはり自立をして、本当の自分の人生を形成していくということが重要です。その場合には、その中心になるのは仕事。仕事にあってはやはり、他の一般社会との、あるいは競争に勝っていかなければならない、ということだと思います。そういうものが、やはり中心になる考え方を変えなければならないのではないかと思います。
私は今日の、マッケンジーさんのお話を聞いていて、たいへん感銘を受けました。本当に、心の軌跡ですよね。たどっていると、まさに福祉の心とビジネスの心が一致しているというふうに思うんですね。
でも、日本にも、かつて渋沢栄一がどう言ったか。渋沢栄一というのは企業家精神をもちながら、商業道徳というものを重んじた。そして、この全社協を作った初代の会長が渋沢栄一ですね。まさに渋沢栄一の精神自身の中に、今のような福祉の心、またビジネスの心を説いているのではないかなと。今日、いみじくも渋沢栄一が初代の会長をした全社協でセミナーを開催したことはたいへん意味があるのではないかと思います。そういう意味で、私自身は、決して矛盾はしないというふうに思っています。

山内: どうもありがとうございました。質問票をお書きいただき、多少私が勝手にモディファイしてしまったところもありますけれども、一応これで全部の問題提起を出すことができたと思います。ちょうど時間を過ぎましたので、フロアからのご質問は受ける時間がなくなってしまいましたが、これで第2 部のセッションを終わりたいと思います。ご協力、たいへんありがとうございました。

司会: 山内先生、どうもありがとうございました。
山内先生にもう一度拍手で感謝の意を表したいと思います。よろしくお願いします。