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国際セミナー「世界の障害者インクルージョン政策の動向」

講演1「障害者にとって有意義な雇用の創出」

ゲーロルド・シュワルツ
ソーシャル・エンタープライズ・パートナーシップ(SEP) 所長

最初に日英高齢者・障害者ケア開発協力機構にお招きいただきましたことを御礼申し上げます。私は日本に来るのが初めてなのですが、さきほど準備の会合を持ちまして、その中で私は日本のスピーカーの皆様から、日本におけるソーシャル・ファームの現状、また、今後これをどう育成していこうと計画しているかなどいろいろなことを教えていただきました。後で行われますパネル・ディスカッションをたいへん楽しみにしております。その中で時間は限られておりますけれども、ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの開発について皆様のお役に立てる情報を提供できればと思っております。

私のプレゼンテーションは、四つのパートに分かれております。一つ目に、二つの成功事例、をご紹介いたします。これは、ヨーロッパの二つの国における具体的なソーシャル・ファームの例となります。二つ目に若干、ヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの定義、これまでの歴史、特徴についてお話いたします。三つ目では、今までの約20 年、30 年のヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの発展の中での経験から学びとってきた事をご紹介いたします。これまで経験してきたことが他の国の参考になりお役に立てるのではないかと思います。四つ目では、ソーシャル・ファームに関する最近の動向についてご紹介いたします。

ここでご覧いただいております写真は、イタリア、ジェノバの写真です。ジェノバの非常に有名なところでございますね。一番上の写真は有名な博物館、海の博物館 (Museo del Mare)です。これは、港のところに位置しておりまして、水族館の近くでもあります。海の近くということで数十万人もの人が毎年訪れています。興味深いのは、全てのカストマー・サービスが社会的共同組合(social cooperatives)によって行われているということなんです。入場券を買ったり、中でコーヒーを飲んだり、何か食べたりすることができるのですけれども。それから、ガイド付ツアーといったものもあるのですけれども、こういった全てのサービスがラペラサービスというソーシャル・ファーム・グループにより運営されているわけです。

カストマー・サービス以外にこのラペラのサービスは、オーガニック素材を使用して子どもの給食を作るということもやっています。左側の子どもの写真、学校の写真をご覧下さい。

このソーシャル・ファームは、毎日給食事業で1,400 食ほどを学校に届けています。約200校と契約を結んでジェノバ地区とその郊外で給食を配達しているということになります。それ以外にも、ジェノバ近郊にある観光客が大勢訪れる小規模の町と契約を結び、そういったところの海岸の清掃も請け負っています。それから公園の管理、駐車場のメインテナンスなども行っています。私もビーチの近くの駐車場に行ったのですが、だいたい2,000 台くらい車がとめられます。車の入庫から駐車料金の支払い、駐車場のメンテナンスなども社会的共同組合が請け負っているわけです。

このラペラサービスというソーシャル・ファーム・グループですけれども、1994 年に設立されました。220 名ほど従業員がおりまして、このうち85 名が重度の障害者です。そして、売上は500 万ユーロと、かなりの売上になっています。売上げの90% は市場から調達しています。残りの10% が政府からの助成金ということになるわけです。

そしてもう一つの例ですけれども、私もベルリン出身なので、ここは私もよく知っているのですがベルリンを拠点にしている企業です。ペルガモン博物館という、ドイツで最も有名な博物館のうちの一つがあります。この美術館の中のレストランやカフェの食堂が、全て、モザイク・サービスというソーシャル・ファームによって運営されています。この会社ができましたのは1990 年です。設立から15 年以上が経っていますね。この会社は劇場にある子ども連れの家族などが来て寄れるような小さなカフェの経営から始まりました。ここ15 年くらいでだんだんと大きくなって今では13 の会社を構成するグループにまで成長し、さまざまな活動をしています。

メインの活動としては、非常に洗練された8 つのレストランを経営しています。例えば、ベルリンの中心街の壁崩壊後にソニーがたくさん投資をして出来たソニーセンターという新しい街がありますが、そこのメインのレストランの一つは、ソーシャル・ファームにより経営されています。そしてオーガニックのパン屋さん、そしてオーガニック食品店、オーガニック食品の配達、オーガニック・マーケットの中にあるオーガニック食品を売るスタンドなども経営しています。その他に家のペンキ塗りなどの家の改装もやっている会社もあります。モザイク・サービスは全体で165 名を雇っていて、そのうち40% が障害者です。年間約700 万ユーロほどの売上があります。そしてその90% を製品やサービスを提供することによって市場から得ているわけです。

そしてこのスライドに出ているのがヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの定義です。これは、CEFEC(Confederation of European Firms, Employment Initiatives and Cooperatives)という組織の中で決められたもので、CEFEC はソーシャル・ファームの統轄団体であります。私はこの団体で事務局を数年務めておりました。1997 年にヨーロッパ各国がこのソーシャル・ファームの定義に同意をしました。ここで簡単に定義をご説明いたします。 (参照「ソーシャル・エンタープライズとソーシャル・ファームの定義」)

まず一点目ですが、「ソーシャル・ファームとは、障害者或いは労働市場で不利な立場にある人々の雇用のために作られたビジネスである」。つまり、これはビジネスなのですね。もちろん市場におけるビジネスに焦点を当てていますが、営利目的だけではなくて、障害者を雇うということを目的にしています。
そして二点目、「ソーシャル・ファームは、その社会的任務を遂行するために市場志向の商品の製造及びサービスを提供するビジネスである。」つまり、会社を立ち上げて、サービス、製品を売って利益を出すわけですけれども、その利益を使って障害者を雇用する、またその収入を再投資して障害者雇用を促進するために使うということ。
三点目、これはさきほど既に述べましたけれども、「ソーシャル・ファームに雇用されているかなりの数の人々は、障害者或いはその他の労働市場において不利な立場にある人々である。」ここでは「かなりの数」という表現が使われていましてパーセントでは示されていません。後でパーセントのお話などもしますけれども、かなりの数の人が障害者および不利な立場にある人々である必要があります。
次の点は大変重要なポイントですが「各労働者は、各自の生産能力に関わらず、仕事に応じた賃金や給料を、市場の相場によって支払われる。」ということは、ソーシャル・ファームの目的の一つとして、障害のある・なしといったカテゴリー分けによる賃金格差を設けないというところにあります。ですから、通常の雇用標準に合わせた支払いが全員に対して行われるということです。またこの点については後ほど法律の話などとも関連づけしながらお話ししたいと思っております。
そして次の点、「労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場にはない従業員とに、平等に与えられる。すべての従業員は同じ権利と義務を持つ。」というふうになっております。

次のスライドに出ていますのは、ソーシャル・ファームが広い意味でどういう位置づけになっているか説明したものです。まず一般の労働市場があるわけですが、そして授産施設などが左側に書いてあります。ここの授産施設と私が言っているのは、非常に高い政府の助成金を多く受けている形での雇用ということになります。これは、ですから、90%、95% くらいの政府の補助を受けている形での雇用形態が授産施設ということになりソーシャル・ファームとは違ったタイプの形態となります。そして、図の上と下には職業訓練、療法(therapeutic activities)などがあります。全てのタイプが重要ですが、このような様々な形態の真ん中あたりにソーシャル・ファームというのがあるわけです。我々はそういった意味で一般労働市場の一部を担っていますが他の労働形態の側面も提供できるように努力しています。ソーシャル・ファームを運営していく者にとって、これらの適正なバランスをどうとっていくかということが常に課題となってくるわけです。やはり様々な理由から一般労働市場に常に目を向けているということが重要かと思います。この点については後ほどまたお話しをしたいと思います。 (参照「ソーシャル・ファームの概念図」)

こちらに書いてございますのは、イギリスのソーシャル・ファームの全国協会ソーシャル・ファームUK が出しているソーシャル・ファームの共通価値です。企業(Enterprise)とは市場を重視したもの。雇用(Employment)とは障害者や不利な条件の人々に対しての雇用を創出していくこと。そして、エンパワーメント(Empowerment)を挙げて障害者の持つ障害ではなく能力に焦点を当てています。 ((参照「ソーシャル・ファームUK の定める共通価値」)

さて、ちょっと歴史を振り返ってみたいと思います。ここでヨーロッパにおいてソーシャル・ファーム・モデルがどのように発展してきたのかご説明いたします。ソーシャル・ファームはイタリアで1970 年に始まりました。イタリアの北東のトリエステにある精神障害者の病院が初めて解体されました。病院にいた精神障害者はコミュニティーに戻り、病院の職員達も病院以外の仕事を見つけなければなりませんでした。病院に入院していた人たちと、その病院に働いていた職員たちが一般の企業の再就職先を見つけることは非常に難しかった。特に精神障害者にとっては、ほぼ不可能に近いことでした。そこで、何人かが集まり、自分自身の雇用を作り出したわけです。最初は一番小さな活動から開始したわけなのですけれども、これがだんだんと大きくなって発展してきたということになります。 (参照「ヨーロッパでのソーシャル・ファームの歴史」)

このソーシャル・ファーム、社会的協同組合の考え方はドイツにも広がりました。ドイツでもイタリアの少し後に同じような精神医療の改革が行われました。精神病院に入院していた人たちはコミュニティーに再統合される形で戻ってきました。ここでも、どこで自分たちの仕事を見つけることができるのかという同じ問題が起きました。一般労働市場で仕事を見つけることは、ほぼ不可能に近いことでした。同じ理由でこのような人たちが結束して自分たちの会社を設立しました。自ら機会を作り出し、自分たちで仕事をしてお金を稼ぎ、そして政府の助成に頼らないという方法を見つけたわけです。

イタリア、ドイツの後にも、この考え方がヨーロッパ全土に広がりました。今ではソーシャル・ファームといいますと、似たようなモデルがほとんどのヨーロッパの地域に見られます。ここで重要なのは、歴史を見た場合に、1980 年代の半ばから後半にかけて大型のスキャンダルが発生したことです。ギリシャのレロス島(Leros)にある精神病院で起きたものです。非常にひどい状況で患者が収容されている様子がマスコミに報道されました。ギリシャでもこの頃、精神病院のシステム改革が始まっていました。これは非常にドイツ、イタリアで起こったことと似ていました。このギリシャの例がきっかけとなりまして、EU がこの領域に、とても関心を払うようになりました。いくつものプログラムをEU が資金を提供し、社会的協同組合または、ソーシャル・ファームの設立を援助しました。私たちは多くのプログラムを活用しながら、ソーシャル・ファームをヨーロッパ各国で設立しました。1990 年代、初のソーシャル・ファームが英国でも設立されました。これについては後に続く講演で、興味深い事例紹介があると思います。

そして次のステップとして、いくつもの国々でソーシャル・ファームを統括する協会を設 立しました。これは、ソーシャル・ファームの発展にとってとても重要なポイントとなりました。こういった協会があってこそ、ロビー活動が可能となり、ソーシャル・ファームの認知度や人々の意識を高めることが出来るからです。そして、政府に対して働きかけ、政府との協議でいかに支援を政府から受けられるかといった話し合いを始めることが出来ました。現在では非常に強力なソーシャル・ファームの協会が英国にあり、ドイツ、イタリアにも存在しています。そして、ギリシャその他の国々にもあります。

最初のソーシャル・ファーム関連の法律が生まれたのはイタリアで1991 年、ドイツでは2000 年でした。ギリシャが次、2002 年。最近ではフィンランドがあります。

ドイツの法律を例にとり説明をしたいと思います。この法律は非常に広範囲な支援活動が網羅されています。このドイツの法律で興味深いのは、その力点を団体の設立の初期段階に当てていることにあります。皆さんが、あるいはグループ、組織がソーシャル・ファームを設立をする場合には一定の基準を満たす必要があり、この基準はCEFEC の定義に準じるものです。障害者のために創出した1人の雇用に対して最大1 万ユーロまで補助金か、貸し付けを受けることが出来ます。初期段階が終わった3 年目以降は、政府の資金からほぼ独立した運営をしなければなりません。給与に対する補助金は少しずつ減少していきます。1 年目は給与の最大90% 受けることが出来、2 年目は80%、3 年目は70% といった具合です。数値の差はありますが、考え方はこのように徐々に減少させていくというものです。

その他に受けられる支援としては、ビジネス・コンサルティングを受けるための補助金があります。ビジネスの計画作り、資金計画、マーケット・リサーチなどのコンサルティングを受けるには資金がかかる場合もあるのですが、政府から支援を受けることが出来ます。さらに税制上の優遇措置もあります。申請をすることで付加価値税(VAT)が半分免除されます。また、利益に対する課税も社会的使命達成の目的のために再投資が行われる条件を満たせば免除されます。

最初の3年より後にも若干の支援を受け取る可能性があります。これは障害者の雇用による生産性の低下に対しての補償です。しかし毎年審査を受け実際に政府に生産性が下がったことを証明しなければいけなません。1 人の賃金に対して最高10 ?20% が政府によって支払われます。

それでは、ヨーロッパのソーシャル・ファームの現状についての統計を見てみたいと思います。 参照「ヨーロッパのソーシャル・ファームの雇用実態」)

ここで示している国に最も多くのソーシャル・ファームが存在していますが、その他の国にも少ないながらも存在しています。イタリアが一番多く北東イタリアのウディナにある調査協会IRES (Istituto di Ricerche Economiche e Sociali) が3 年前(2003 年) に実施した調査によりますと、社会協同組合、ソーシャル・ファームはイタリアに8,000 あります。そして、6 万人の職員を雇用し、そのうち40% は障害者です。イタリアの法律では40% が障害者または社会的に不利な人達であると義務付けています。ソーシャル・ファーム8,000 社の合計で年間約6 億ユーロの売上があります。売り上げは多いのですが一つのビジネスあたりの売り上げとしてはドイツと比較すると低くなっていますがこれは両国の経済のシステムの違いなどの理由が考えられます。

ドイツですが、2005 年の10 月にドイツ政府が行った調査(German National Association of Integration Offices)の数字が2 週間前に出されました。ソーシャル・ファーム数は700、全体の職員数は2 万2,000 人、そのうち障害者の雇用は約50% です。700 のソーシャル・ファームで全体の売上は年間7 億ユーロということです。1つの会社あたり100万ユーロとなり、これはドイツでは平均的な数字です。

イギリスはソーシャルファームUK が2005 年に行った調査の統計です。ソーシャル・ファーム数は80、職員数500 人、そのうち障害者数は50% です。1 年の売上は3,000 万ユーロです。

さて、まとめです。ヨーロッパのソーシャル・ファームでは少なくとも5 万の障害者が働いており、たいへん大きな数となっております。年間の取引高はだいたい15 億ユーロです。ソーシャル・ファームによる通常の雇用以外にも多くのパートの職の創出とトレーニングが実施されています。これらが追加的なサービスとしてソーシャル・ファームから提供されています。イタリア、ドイツがソーシャル・ファーム数では最も多く、英国、ギリシャ、フィンランド、その他の国が続きます。

ソーシャル・ファームの特徴ですが、ほとんどのソーシャル・ファームはサービス業の分野で活動しています。先ほど、ニッチ・マーケットで活動していると申しましたことが理由の一つです。サービス業ではほとんどの場合、投資がその他の産業に比べて少なくてすむこともその理由です。ほとんどの組織がソーシャル・ファームを開始するときには、投資資金がないわけですから、生産業に関わるソーシャル・ファームは数が少ないわけです。日本そして、ヨーロッパの成長産業である環境分野でもソーシャル・ファームが増えてきています。ソーシャル・ファームの重要な特徴としては職員の制約面を見るのではなく潜在的な可能性に焦点をあてていることがあります。人々が「何が出来ない」ではなく「何ができる」のかを探します。この点については後ほどさらに触れます。

最近ドイツ政府の依頼を受けて特に精神保健の問題を持つ人に関する調査を行いました。ソーシャル・ファームにより精神保健の問題を持つ人達の健康に対してどのような支援が行われ、どのような効果が出ているのか調査をしました。結論はまだ出ていませんがこの調査が示唆していることがあります。ソーシャル・ファームは雇用を提供し賃金や独立した生活をできる機会を提供するだけではなく、精神障害者の健康の向上につながっているという結果が浮かび上がってきました。

実際の例をご紹介いたします。ベルリンにある10 年以上前からやっているソーシャル・ファームがありこの施設は多くの人が見学に訪れ従業員に質問等をして学ぶことができます。ここでは「いったい障害者はどこにいるのか」という質問が必ず出ます。このソーシャル・ファームは、最初に精神病院に入院していた人たちを雇用して始まりました。従業員の中には10年、15 年後には、もうほとんど精神障害者としてのサポートが必要なくなっている人もいるのです。毎日、自分のアパートから職場に出かけるようになり、週に1回、あるいは月に2回程度精神治療を受けるという状況にまでなっています。そして、仕事以外の活動にも関わるようになっています。

このスライド「ソーシャル・ファームの効果」の三つ目の項目(長期的に見た場合ソーシャル・ファームは一般市場から自らの資金を調達し公的資金に頼らずにすむようになる)は興味深い点ですが、私たちの調査の中で、次のような数字が出てきました。ソーシャル・ファームをさまざまな理由で辞める障害者のうち3 分の1 は一般の労働市場で職を見つけることができていたことがわかりました。この調査結果が示唆していることがソーシャル・ファームで働くことが人々の自立を促進し、ソーシャル・ファーム以外の選択肢を模索することを可能にするという事実です。ソーシャル・ファームの強力な効果の一つとしてとらえることができます。また、多くのソーシャル・ファームがそこで働く人にエンパワーメントを与えます。支援に依存していた患者は職員へと変わりました。自立した生活を営み、年金やその他の広範なサポートを受けない生活を可能としました。 (参照「ソーシャル・ファームの効果」)

さきほど指摘したようにソーシャル・ファームの効果として一般労働市場で障害者たちが職を後から得る上での効果があります。また恐らく、精神衛生への改善の働きかけも見られます。政府、ビジネスの両面から見ても、その他のモデルと比べた場合、コスト効率がよくなっています。設立から5 年から15 年以上経過して運営が安定したソーシャル・ファームの大多数は、初期段階の問題を既に克服して政府の補助金からほとんど独立しています。とてもコスト効率のよいモデルとして、障害者雇用の問題に対処してきました。これを実現するには時間はかかりますし、実現するために様々なことがなされる必要があります。

もう一つ重要な点は、ソーシャル・ファームが仕事を創出している点です。障害者の雇用の創出は簡単な解決方法はありません。一般の労働市場、企業というのは決して障害者に関心があるわけではありませんし、失業率が高い地域という場合もあります。現在のソーシャル・ファーム、さらにどうにか初期の問題を克服したソーシャル・ファームは、いつも新しいものに投資を行い、新しいサービス・商品を生み出してきました。今までにないものを生み出し、問題の解決策を打ち出してきたのです。

では、私たちが学んできた点の紹介に移りたいと思います。これは調査、同僚との話、それから私が10 年以上にわたってソーシャル・ファームの設立を支援する組織で働いてきた個人的な経験などから学んだものです。ここで学んだことは、三つのレベルに分類が出来ます。一番目に個人的なレベル、つまり雇用されている者のレベル、二つ目として企業のレベル、そして三つ目に、外的な要因のレベルに分類できます。

まずその個人的なレベル、ソーシャル・ファームというのは、その経営が個人、障害者の能力、そして隠れている能力を引き出すということに焦点が当てられていれば成功と呼ぶことが出来ると思います。

ベルリンの小さな会社の例でございますけれども、これは盲の方が経営している会社であります。この会社は、今日この会議が行われているようなコンフェレンス・センターや音楽会場でのオーディオ・サービスを提供しています。この経営者は盲人なのですが、私の母も盲人ですので、盲人の方はとても耳が良いことは存じております。私が小さかった時に何かを隠すという事は不可能でした。母はすべて何が起っているかを聞くことが出来たからです。この方も非常に耳が良いので、音響の品質を聞き分けるというところに非常に長けているわけで、この能力がビジネスの競争力に貢献しているわけです。本当に一つの例にすぎませんが、成功している例というのはたくさんあると思います。つまり、例えば目が見えないというような障害もこれを有利に生かすということができれば、ソーシャル・ファームの考え方としては良い基礎となります。もちろん、訓練や能力開発といった活動もソーシャル・ファームは行っています。

そして、ソーシャル・ファームの成功のためにとても重要な側面としては、ビジネスの中でオープンにいろいろな障害の問題に取り組めるという事があります。直接お客さんに影響がある商品の質や価格などは最も優先される事項ですが、それとは別に障害の問題をオープンに話しグループの中で解決の糸口を探すことができる環境が重要です。通常の企業ではそれがなかなかできていません。特に精神障害を抱えた人たちについては、その障害については話をせず隠すべきことになっています。支援と保護そしてエンパワーメントのバランスをとるということ。実際には一般企業に雇われていた場合はとても難しいことです。沢山の個々のケースを見て具体的にどのように対処されたか見ていく必要があります。そして企業レベルではどうかということ、やはり製品の品質ということはもちろん重要であります。会社としてやっていくわけですから。そして価格なども非常に重要で、ソーシャル・ファームにとっては決定的に重要な要素になるわけです。障害の問題に入る前に、適正な価格や質の製品を市場に提供できなければ、ソーシャル・ファームを始める意味はないといってよいでしょう。そして人材の管理、会社としての経営理念なども非常に重要になってまいります。つまり、障害の問題を会社の持つ他の要素とどう融合させていくかということです。

そしてあと二つここに掲げてあります点としましては、企業家精神の風土と独立性です。ヨーロッパのソーシャル・ファームはまず大きな慈善団体や福祉サービスとして立ち上がったところが多いわけですけれども、多くは成功を収めることができませんでした。プロジェクトをやっていく中で市場とのやりとりで決定をしなければならない時にこのような環境では決定権の自由がありません。成功しているソーシャル・ファームは独立した法人としての組織となっているところが多いです。株主が慈善目的であるのかどうかということではなく、独自の企業としての形態が確立されていて意思決定ができるということがとても重要です。

結果を出すためにはある程度の数を出していくことも必要です。例えば、大きなグループ企業ですといろんな分野で活躍をしています。小さなソーシャル・ファームというのは、個人個人のニッチな産業の製品などに焦点を当てるかもしれませんけれども、このニッチが上手くいき始めると、他の企業もここに目を向けるということが考えられるわけですよね。そうするとこれはニッチではなくなってしまって、このニッチそのもの自体の市場がなくなってくるわけです。うまくいっているソーシャル・ファームというのは違った分野にもどんどん食指を伸ばしていくことができます。さきほどご紹介したベルリンのソーシャル・ファームの例ではオーガニックを扱っていますが建築もやっているわけです。ここが成功の鍵だと言うことが言えると思います。一つのエリアで問題がありましたら、そこでの投資は少し手控えて他のエリアに行ってみるといった具合ですね。このオーガニックを扱っているソーシャル・ファームは、過去3年で8つのオーガニックの店を閉めましたが他の部門で再雇用をすることが可能でした。

また外部的な要素というのがあります。支援のネットワークは非常に重要でございます。常にビジネスの相談とか、あとは必要な資金繰りの相談に乗るということもそうですし、そのようなネットワークづくり、支援をいかにしてネットワーク・レベルでやっていくのか。情報や自分たちの経験の共有というのがこのネットワークを通じてできます。さらに、人々の意識を高めたりロビー活動などもこのネットワークを通じてすることができるわけです。

それでは最近の動向についてでありますが、二、三の点に絞ってお話ししましょう。最近の動向ということでは、面白いプロジェクトがヨーロッパで始まっております。特に興味深いことは、障害者をソーシャル・ファームの管理者としてとらえていくというプロジェクトがあります。私もこの関連のベルリンの調査委員会に入っておりますし他の国でも起り始めています。もう20 年くらいソーシャル・ファームというのはヨーロッパでは行われているわけですけれども、障害を持たない人々によってほとんど運営されてきました。それが、障害者のソーシャル・ファームの管理者としての可能性に注目を始めたのです。

そしてもう一つ興味深い分野としては、政府との仕事の契約にあります。EU は2 年前にEU 指令(EU 理事会が決定する加盟国の目標達成義務)を出しました。政府の入札に係わる条項に政府が契約を結ぶ際に社会的な影響を考慮することを含めました。我々に係わってくる部分では障害者の職を創出するということが入札の際に社会的影響として考慮されるという意味です。これは最近重要度を増している興味深い分野であります。

また後で、パネル・ディスカッションのときに詳しいお話ができればと思っております。ありがとうございました。