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国際セミナー「世界の障害者インクルージョン政策の動向」

話題提供2
「特例子会社とソーシャル・エンタープライズとの比較」

伊野武幸
ヤマト福祉財団常務理事

伊野でございます。私のテーマとして、「特例子会社とソーシャル・エンタープライズとの比較」というテーマが与えられていまして、これに従いまして、

一番目に「特例子会社の制度と設立のメリット」
二番目に「スワンベーカリーの検証」
三番目に「ソーシャル・エンタープライズへの質問」

ということでコメントさせていただきたいと思います。

一番の「特例子会社の制度のメリット」ということでございますが、障害者の雇用に特別の配慮をした子会社の設立が、一定の要件を満たしている場合、その子会社に雇用されている労働者は親会社に雇用されているとみなして、親会社の障害者雇用率を計算することができるという制度が特例子会社制度でございます。企業が障害者雇用を進めることを容易にすることを目的としたものであります。一般的に次のようなメリットが期待されています。

イ)「障害者雇用率の達成により企業の社会的責任を履行できるとともに、社会的なイメージや信用度がアップする」。
ロ)「障害者の特性に配慮した仕事の確保、職場環境の整備、適切な人材(専門スタッフ、指導員など)の確保が容易になり、障害者の能力を十分に引き出せる」。
ハ)「障害者の定着率が高まり、募集の費用や労力が軽減されるほか、定着に伴う生産性向上が期待できる」。
ニ)「適切な環境整備を図れば障害者の能力が十分に発揮できるとの理解と認識が職場全体に深まる」。
ホ)「個々の職場で障害者受け入れのための整備(ハードやソフト)を行うのに比べて、設備投資などを集中して行えるので費用の圧縮が容易になる」。
ヘ)「各種の助成制度を利用することができる」。
ト)「労働条件を親会社と異なる設定が可能ということになり、弾力的な対応ができる」 などであります。

日本には2004 年10 月現在、この制度を利用して157 社の特例子会社があります。毎年少しずつ増えているようですが、今日の講演にもありました通り、(ヨーロッパには)ソーシャル・ファームは1 万社あるということですから、それに比べてきわめて少ない数だと言えると思います。

特例子会社は株式会社または有限会社でありまして、企業としての利潤追求と障害者の自立との共生を目指しているものですが、両社は二律背反の関係にありまして、親会社からの援助を受けて何とか存続しているのが大半の特例子会社の実情であろうと思われます。

企業活動としては利益を出して株主還元、配当をしたいというところですが、とてもそこまではいっていない。むしろ株主も社会貢献活動のコストとして親会社は見ているということだろうと思います。むしろ親会社から特例子会社が早く自立をしてほしいという状態が現状ではないかと思われます。

二番目の「スワンベーカリーの検証」でございます。私どもがやっていますスワンベーカリーについてご説明いたします。会社の設立が1998 年6 月でございます。資本金が2 億円でヤマト運輸の100%出資会社、特例子会社で、特例子会社の認定を受けましたのが2001 年8月1 日でございます。直営店といたしまして、銀座、銀座のカフェ、赤坂の3 店ございます。チェーン店は全国に13 店、合計16 店が現在の規模でございます。

障害者の数ですが、直営3 店で29 名、健常者が35 名、合計64 名。チェーン店で障害者140 名、健常者81 名、合計221 名。16 店合計いたしますと、障害者の数が169 名、健常者が116 名。合計で285 名でございます。

チェーン店のことは詳しくわかりませんので、直営店の内容についてご報告申し上げますと、3 店の年間の売上は今年度3 月までですが、実績と見通しを含めてですが、銀座店が6,600 万円の売上を見込んでおります。カフェが4,400 万円、赤坂店が7,800 万円。現場の3 店を合計いたしますと1 億8,800 万円の売上を見込んでいるわけでございます。粗利益でございますが、これは非常に原価率が高くて、ベーカリーの場合は約50%ですから、粗利益で9,400 万円です。そうしますと64 名で単純計算して割りますと、1 人当たりの粗利が14 万7,000 円です。とてもじゃありませんが経営として成り立ちません、この内容では。そこで実は隠し技がございまして、何をやっているかと言いますと、本部で別の営業をやっています。ヤマト運輸の社員14 万人いるわけですが、この人たちを中心に、例えばクリスマスケーキの販売などをやっております。それからアニバーサリーケーキとか、会社のいろいろな行事なんかに記念品のお菓子などの受注を受けまして、これが今年度は5 億3,000 万円の売上になっているんです。これによって支えられているわけでございます。

ですから本部の営業努力によって水面すれすれの業績を残しているわけですけれども、銀座店にしろ赤坂店にしろ、スワンベーカリーのショーウィンドウのようなものだということで、こういう陰で営業努力をして成り立っている。これが正直な本当の話です。

しかし直営店の内容を見ますと、障害者よりも健常者の数が多いというのはこれは問題でございまして、こういう陰の努力に甘えてやっているというのが現場の実情で、これは少し改善しなくてはいけないだろう。障害者の数が少ないということは障害者の能力を十分にまだ引き出していないということでございまして、障害者が働く時間が短いというならば、人数を倍にして交代勤務をしてもらうとか、そういうことをしてもっと活用してもいいのではないかと思っています。
またオーブンなどの稼働率もまだ60%台なんです、銀座も赤坂も。ですからまだ余力があるわけでして、製造アップをして売上を伸ばすとか、あるいはパン以外の商品をもっと揃えたりして、営業力をもっと伸ばしていきたいと思っているところです。
皆さまのお手元に新聞のコピーをお渡ししていると思うんですけれども、これは朝日新聞の大阪本社版なんです。ですから中部や関東、北海道、九州にはこの記事は載っておりませんで、たまたまスワンのチェーン店で2 店ほど離脱をいたしました。そういった関係でニュースバリューがあるということでたぶん取材されたと思うんですけれども。私に言わせれば、この新聞記者にも申し上げたんですけれども、どんな業種でも例えばコンビニとかハンバーガー、ラーメン等のチェーン店で100%うまくいっているところはどこもないはずだ。ベーカリーとて例外ではなくて、マーケットで激烈な競争をしているわけですから、一定の確率で不調な店が出るのは想定の範囲内であるということを申し上げました。飲食店というのは立地と人材、責任者のやる気なんですけれども、これに負うところが非常に大きいわけでして、責任者がどんなに意欲的で立派な人でも立地が悪ければいかんともしがたいことなんです。ですからそういうところを選んでしまった場合には、残念ながら早く撤退した方がいいんですね。それにしてはスワンベーカリーは全国でかなり健闘している方だろうと私は思っているわけです。 (参照「スワンベーカリー新聞記事)

わずか2 店が離脱いたしましたけれども、スワンはチェーン店を拡大することが目的ではなくて、これはあくまで障害者の職場の確保と拡大が目的ですから。ですからそういうことをきちんとしてもらえれば結構ですということで、そのへんの確認をして離脱という扱いをいたしました。しかし現在でも非常に友好関係を結んでおりまして、お互いに情報交換をしたり、お互いにいいところがあったら励まし合ってやっていこうということですから、いわゆる俗に言うケンカ別れをしたということではありません。読んでいただくとよくわかると思いますが、苦戦している様子が取材されていますので、世に言うスワン神話というようなことがありまして、スワンを開けば儲かるのではないかというようなことに対して、事実はこの通りやはり他の業種と同じように厳しいんですよということがわかっていただければ。このへんは記事の効用かなと思っているわけです。

このスワンも、しかし現在、京浜急行の特例子会社が横須賀中央駅の一つ先に県立大学という駅があるんですが、そこの駅へ3 月8 日に新しくスワンベーカリーをオープンすることになっています。また4月には敬心学園さんが新浦安駅前にやはり新しくオープンすることになっておりまして、そういった意味では、新聞記事でこのように書かれていますけれども、決して挫折したりとか岐路に立つとか、そういうことではございませんので、ぜひそういう意味で見ていただきたいと思っております。

私どもヤマト福祉財団イコール、スワンベーカリーというイメージが非常に強いわけですけれども、ベーカリー事業というのは非常に競争が激しくて、設備投資資金が必要になったりして、障害者雇用を急速に広げるのは非常に難しいということでございまして、私は昨年のこのセミナーでメール便の話をしました。1 年たちまして現在全国で86 施設で405 名の障害者の方々がこの仕事に従事しています。皆さんのお手元にリーフレットをお配りしてあると思いますが、昨年の障害者週間に合わせまして有名な写真家の平間至さんに、ほとんどボランティアで写真を撮っていただいたんです。「私を待ってくれる人がいます」という、コピーとしてはちょっと幼稚に思えるかもしれませんけれども、実は障害者が街に出て配達をしていたところ、一人の小学生が、毎日クイズの賞品が来るのを待っていたんです。ありがとうって言って大変喜ばれたんですね。障害者の人にとっては、実際こういう仕事を通じて配達をして、小学生からとも言えども感謝をされた。これは非常に大きな驚きであり、大きな感動だったんですね。私を待ってくれてる人がいるんだ。そのことを素直にコピーにいたしました。
こういったことで現在、事業を広げていくことが、非常にこれからの障害者の賃金を得る上で有利だと思いまして進めておりますので、この仕事は障害者も健常者も同じ単価で仕事をしているわけです。違うのは能率だけです。2 人、3 人でやればそれだけでちょっと配分が落ちますけれども、やはり力を合わせてやれば有利なことには間違いありませんし。また、地域で人と触れ合うことによって新しいビジネスチャンスが生まれてくるだろうと思うんです。例えばお弁当を配達するということもございますし、日常品の物品販売、あるいは全国の障害者施設で作っているすぐれた商品のカタログ販売だとか、各地の名産品の取り寄せなど、ヤマト運輸の宅急便のネットワークや代金回収システムを有効に、安く使えば、かなりの収入源になっていくだろうと思っているわけです。ですからメール便配達というのはあくまでもとっかかりでして、私どもは次のステップへの発展を期待しているところです。

メール便は2 年後には年間23 億通ということを会社の方は予定をしておりまして、1 日 に換算すると630 万通も配達することですから、全国どこでも仕事がなくなることはありません。ですからこういった安定した仕事を通じて、次のビジネスチャンスへ飛躍をしてもらえればありがたいなと思っているわけです。ぜひ関心をお持ちの方は私どもの財団にお問い合わせをいただきたいと思います。

三番目の「ソーシャル・エンタープライズへの質問」ということでございますが、先ほどお二人の方のお話をうかがっていまして、まずシュワルツさんのお話の中で、ソーシャル・エンタープライズの仕事、まあソーシャル・ファームの仕事だったんですが、博物館とか美術館とか、いわゆるミュージアムだと思うんですが、安定した仕事の運営を任されてやっているという話でしたが、非常に独占的というか、競争相手がほとんどないわけですから安定していい仕事だと思ったんですが、こういった仕事を受注をするときに、今までこの仕事に携わっていた団体とか組織とか、そういう人たちとの摩擦は起きないんでしょうか。こういう公共的な事業をソーシャル・ファームが受注する場合に、うらやましいと思いながら、その辺のところを懸念しましたので、問題がないのかどうかお尋ねしたい。それから特にアウトソーシングの仕事が多いんですね。公共事業、自治体あたりからも、ですからそういう点でも同じように問題が起きないかということを質問の第一にしたいと思います。

同じくサービス業の仕事が非常に多いというお話をうかがいました。私どもの考え方というか理解でいきますと、日本は最近規制緩和が非常に進んでいまして、先ほど炭谷次官のお話にもございましたが、非常に市場原理主義というのがはびこってまいりまして、規制緩和の結果、駅前の商店街がすたれて、昔はいろんな法律があって商店街がダメにならないような規制、あるいは需給調整というような、参入の規制があったりしたんですね。それがなくなっていって、日本の場合には非常に競争が激烈になってきている。スワンベーカリーもその影響をもちろん受けているわけですけれども。新しいサービス業としてそういうところへ参入していって、競争の中にのみ込まれないのかどうか。一つ心配があったものですから、そういう需給調整というか参入のチェックとか、そういった保護政策的なことがあるのかどうかを二番目にお尋ねしたいと思います。

三番目に、ソーシャル・ファームは利益を株主とかそういうところに還元せずに再投資をしてさらに発展していくというお話がございましたが、利益の出たところはどんどん再投資をして拡大、発展していくだろうと思うんです。マッケンジーさんの水槽の話の中でも、飛躍的に人数を増やすというようなお話がございましたが、そうやって伸びていくところはいいんですが、伸びていかないところ、つまり足踏みをしている事業と、もちろん格差が出ます。そうなってきた場合、モチベーションというかどんな見返りがあるのか。どんどん発展していくことはわかります。あるいは収益の出ないところはそのまま足踏みをして踏みとどまるということはわかるんですが、ただその結果どうなんだろうと。そのままでいいのか。何かないとやりきれなくなるんじゃないか。そんなことを感じましたので、そういった対価というか何か見返りというものがあるのかどうか、お尋ねしたいと思います。

非常に雑ぱくですが、ちょっと急いで整理したものですから。ただマッケンジーさんが一生懸命になってゼロからファームを立ち上げて成功されたということで、本当に敬服を感じました。本当に頭の下がる思いです。この仕事についても何か競争があるのかどうか、ライバルがありそうな気がするんですが、大丈夫かどうかもお尋ねしたいと思います。以上です。