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障害者放送協議会 放送・通信バリアフリーセミナー
障害者と放送・通信

第1部 
講演3 情報のユニバーサルデザイン~課題と可能性~

坂井 律子
放送文化研究所(放送研究)主任研究員

こんにちは、坂井律子と申します。今日は、このような場所でお話をさせていただく機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。私はパンフレットにも簡単な経歴を書かせていただいておりますけれども、2年前までNHKの放送現場で、教育テレビの「福祉ネットワーク」という番組のプロデューサーをしておりました。現場で18 年ぐらいディレクター・プロデューサーとして仕事をしておりまして、2年前に研究所の方に移動を致しまして、今、放送のユニバーサルデザインについて勉強をしているところでございます。研究所の研究員という肩書きになっておりますけれども、それは名ばかりで、今、勉強の途上、現場の経験を踏まえて全体的なことを勉強して、放送の今後のユニバーサルデザインの発展に寄与できればいいなと考えております。

最初にお話になった高岡理事長からも、「問題点を洗い出して、そして共有するというところから始めることが大切ではないか」というご指摘をいただいておりますので、お言葉に甘えて、課題、問題点の洗い出しというところから整理していきたいと思っております。

情報のユニバーサルデザイン。これが何故今、重要かというのをまず整理してみました。先程、総務省の上原課長がお話になった、国の政策によってIT社会が急激に進展しているということが、もちろん非常に大きいと思います。それからITだけではなくて、先程もu-ジャパンというお話がありましたけれども、ユニバーサルデザインを進展させようという大きな流れが、世界的にも大きなうねりが来ていると思います。先日、東横インの事件などを拝見すると、まだまだそれが、本当に社会全体の共有の認識になっているのかなというのが不安になる部分も多々ありますけれども、でもやはりここは少しずつ進展をしつつあるのだというふうに思います。

ただ少し勉強をして見ますと、視覚障害者の方々、それから聴覚障害者の方々は、こうしたIT化というようなことが社会的に大きな話題となるずっと以前から、「情報保障」ということを長年求められてきたと思います。それは活字に対する点字の保障であったり、例えば選挙における候補者の方々の演説会に手話や字幕を付けるということであったり、様々な場面で「情報保障」をずっと主張されてこられたという背景があると思います。そこに社会としてのIT化と世界的なアクセシビリティを求めるという流れが合流してきて、今日を迎えていると思っております。その中で、私も所属しております放送事業者に非常に大きく関係するところですけれども、情報伝達や娯楽など、様々な機能を果たしている放送というものが、どのようにユニバーサルになっていくのか。これが今、放送のデジタル化の中で大きく問われていると思います。特にデジタル化していく時に放送と通信が融合する中で、先程ロバートさんがお話になったように、かえってインターフェイスなどが複雑になっていく問題とか、2つの技術が融合していく時に、かえってユーザビリティが難しくなっていくという側面も新たに出てくると思っております。

私自身は、この問題、情報のユニバーサル化が、とても重要だと感じた経験を昨年致しました。お手元にこのような、弱視の方にも見やすいようにということで、協議会の方が色を調整してくださった紙が入っていると思います。これは、おととしの10月に起こりました新潟県中越地震の時に、障害者の方々がどのように情報を得たのか、あるいはどの時点まで情報を得られなかったのかということを20人の方、私が一人で回りましたので、そんなに沢山回れなかったのですけれども、新潟県の聴覚障害者協会と視覚障害者福祉協会の両方の団体に多大なご協力をいただきまして、10 人ずつ、合計20 人の方に聞き取りをさせていただきました。

表も見難くて恐縮ですけれども、視覚障害者の方に点字の表にしたものが、ここにいくつかありますので、もしご入用の方は後ででもお渡しいたします。ここで分かったことは、この時、震度6強あるいは震度7という地震が起きたわけですけれども、非常に多くの方が、情報の疎外の中に置かれました。それはもちろん停電ということが一番大きいです。停電あるいは家具の倒壊によって通常使っている電話やテレビやパソコン、そういう情報入手の機器が殆んど使えなくなってしまったということで、非常に長いこと、情報が届いていない状況が続きました。例えば視覚障害者の方で、まったく停電してしまってテレビも電気もつかないという中で、ずっとコタツに潜って床に体をくっつけて、余震がある間ずっと一人で、何も情報が無い中で耐えていらっしゃった方がいます。また、聴覚障害者の方の中には、この表でいうと一番下のTさんという方ですけれども、バスに乗っておられる時に震度6強の地震に被災されまして、バスの運転手さんや他の乗客の方が言っていることがまったく聞こえず、それからラジオの音も聞こえないということで、2時間後に歩いて自分の家の近くまで辿り着かれるわけですけれども、そこに行って初めて、近所の人が地面に棒切れで「実は大きな地震が起きたんだよ」というふうに書いてくれて、初めて何が起きたかが分かるというような経験をされておられます。

このようなお話をうかがって改めて、情報及びそれを媒介するテレビやラジオの責任の大きさというのを、私も認識をしなおしました。この色分けをした表の意味は、(すいません、視覚障害者の方に見えなくて大変恐縮でございますけれども)、視覚障害の方々は携帯のラジオ、それから近所の人の話を聞いて、被災後1時間ぐらいから次第に情報を得られています。それから視覚障害者の方々で避難所に行かれた方は、そこでのスピーカーからの話なども情報源になっているのですが、一方で聴覚障害者の方々は、避難所に行った方が非常に少なかったのです。避難所に行っても、なかなか自分達のための字幕や手話というものが避難所に整っていないということで、敬遠された方が非常に多くて、ご自身の車の中で過ごされた方が多かったです。

車には今、相当カーナビ・カーテレビが装備されていて、これが役に立ったのではないかというふうに期待したのですけれども、このカーテレビには当然、字幕デコーダーが無いためにテレビの放送はしているけれども、そのテレビの内容は、家族や近所の方やご友人の方がそれを手話や文字に翻訳してくれて、初めて分かったというご指摘を数多くいただきました。ですので、今後デジタル化していく時に、移動体への字幕の配信などは非常に重要になってくると、ここでも思いました。それから聴覚障害者の方々は、大体24時間後から携帯が通じ始め、携帯のメールによって安否確認やお互いの連絡や避難所情報の取得等を携帯メールで、被災後24時間ぐらいから再開されています。これは主に携帯電話の会社の、その数年前にありました東北南部の地震の後、携帯電話の輻輳規制の仕方を変更して、かなり被災地での携帯電話の状況が良くなっていたということがありまして、24時間後から携帯電話が通じ始めています。この聞き取り結果から、情報がユニバーサル化されていることの重要性を認識すると同時に、障害の種別によって情報入手経路が、かなり違っているということを踏まえて、それぞれに対して今後の技術革新とか放送事業者の努力ということで、情報を個々に丁寧に届けなければいけないのではないかと考えさせられました。こうした聞き取りが、私のユニバーサルデザインをもう少しちゃんと勉強しようという一つの動機でありましたし、多くの障害者の方から、そこは是非強調してほしいという声もいただいていたので、ご紹介を致しました。

話をユニバーサルデザインの方に戻しますと、ITのデジタルデバイドの中に障害者の方、あるいは高齢者の方がITを非常に使いにくいのではないかという心配が強調されることがあると思います。実は2003 年の情報通信政策研究所が調査された、障害のある方々のインターネット等の利用に関する調査報告書というのを見ますと、ここにありますように、2003年の時点でパソコンを利用している方、視覚障害者の方は80%弱、聴覚障害者の方は80%強、それから肢体不自由の方が60%弱、知的障害者の方が30%ぐらいということで、今は使っていないけれども以前使ったことがあるという方達を合わせると、非常に高い割合の方がパソコンを利用されておられます。ただ、この調査は、この研究所の調査報告書にも明記されているのですけれども、東京都のそれぞれの障害者団体や養護学校を入り口にして調査をしているので、調査対象者の平均年齢が非常に若い(16 歳.49 歳)ということがありまして、一般の無作為抽出の世論調査と比べると、バイアスがかかっていると、この調査では明記されています。

それにしてもパソコンはこれだけの方が利用していると。それからインターネットについても、右側にグラフですけれども、インターネットもこの時点で、視覚障害者の方が70%、聴覚障害者の方は80%、肢体不自由の方は40%強、知的障害者の方も20%ということで、かなりITの利用というのは進んでいるというふうに指摘する、こういったデータもあるわけです。

もう一つ、情報のユニバーサルデザインを考える時に、問題点を整理しようと思いまして年表を作ってみました。これもお手元に白黒の表をお配りしたのですけれど、左側にITのアクセシビリティ、右側に字幕放送と解説放送の1972年以降の行政での取り組み、放送事業者の取り組みを両方併記してみました。私も放送現場にいる時に、障害者の方達を数多く取材させていただいたのですけれども、本当に取材をする時に、コンタクトする時に、もはやメールでやり取りをするというのが当たり前になっていまして、例えばアメリカの障害者の方に取材を申し込むのも、ALSで全身が麻痺しておられて声も出ないというようなアメリカ在住の方を取材させていただいたことがありますが、この方にもメールでやり取りをしました。そうすると、そのメールを相手のアメリカ人の方は、読むのは読めるのですが、私に返信される時には眼球の動きでパソコンをタイプしてメールを打って送信をするというような視線入力という装置を使っておられて、その方は銀行の重役という仕事をされながら、ALSの地元での障害者に関する活動等もされているという方でしたけれども、そういう方ともITによって、情報のやり取りが出来るということを経験して、私はびっくりしたことがありまた。その時は情報のやり取りのデバイドになるものは、私の英語の語学力でしかなくて、それが最大のデバイドで、ITという道具を使って、本当に生活の幅、情報の取得ということを十分に広げられていると感動しました。

先程のデータにもありますように、障害者の方はITを非常に沢山使っておられるということで、そういったことを踏まえて年表をあらためて見てみます。ITの方では(今は総務省になっている)郵政省、それから(今は経済産業省になっている)通産省、特に90 年代以降に通産省の情報機器のアクセシビリティ指針等の取り組み、郵政省の電気通信に関するアクセシビリティの取り組みというのが、両方あいまって非常に発達をしてきたというところがあります。話が前後して恐縮なのですが、この2つを書いてみて、私もこれはITの方が進んでいるなというふうに正直思ったのですが、障害者の方からもテレビが遅れているという指摘を多々最近受けております。ITの方がアクセシビリティが進んでいて、放送がこれからではないかというような指摘を、例えば静岡県立大学の石川 准さんなどに取材をすると、はっきりと指摘されております。

ITのアクセシビリティというのは、1990 年にアメリカのADA(アメリカ全障害者法)が出来て、アクセシビリティが保障されていない機器を連邦政府及びその関連機関が調達しないというふうに定めたということが影響していると考えられます。IT 機器の輸出を非常に大きな産業の柱とする日本にとっても、世界的な動きに対応する必要があり、ITの方がユニバーサル化の進み方が早かったと、多くの方に指摘されました。

また2004年には、ウェブコンテンツのJIS規格化というのが行われておりまして、ウェブ上でコンテンツのアクセシビリティについて日本規格協会がJIS規格を決めました。たとえば官庁のHPや企業のHPを作る際に細かなルールをJIS規格として定めています。ここには日本規格協会の関 達雄さんという方から教えていただいた実例を2つ持ってきたのですけれども、例えば左側には「明日の天気は」という文字と雨傘の絵が描いてあって、また文字で「でしょう」というふうに書いてあります。これを音声ブラウザで視覚障害者の方が読む場合、テキスト情報は「でしょう」肝心のどんな天気かはこの「明日の天気は」だけですで、画面ではわからないのですけれども、このウェブコンテンツのJIS規格によって、この傘のところを必ず「雨」というふうに音声で読めるようなテキストを入れるということ、そういったことがJIS規格できちんと定められています。これは例えば、絵の説明を機械的に入れるということにすると、「明日の天気は傘でしょう」になってしまって意味が通じない。けれども、きちんとJIS規格では「明日の天気は(傘マーク)雨です」というふうに、きちんと表示をしましょうと決めておられると伺いました。それからウェブ上で音が再生される場合、聴覚障害者の方が、音が再生していますよということが分かるように、画面ではラッパから音符が出ているというようなマークと、その下の方に音声のスイッチのような絵が出ていますけれども、音声再生していますよ、ということが分かるような表示をしましょうというようなことが細かく定められています。これが2004年に定められた高齢者・障害者等配慮設計指針のウェブコンテンツといものだそうです。

こういったことがウェブ上で進んできますと、一番最初に申し上げた、放送と通信が融合していった時に、テレビモニター上で、テレビの方は本当にこのようなことが進んでいるのかというようなご指摘が、障害者の方から上がってきている。今、そういう段階だと思います。放送の方には、こういったJIS規格等もございませんので、このような細かな指針とか配慮・ガイドラインというのは今無い状態で、先程ご紹介のあった字幕放送の拡充の計画ということが放送の方では進められているという状態です。これは総務省のHPから持ってきた数値ですけれども、最新の字幕放送などの実績ということを一応これでご紹介しているものです。解説放送・手話放送が総放送時間に占める割合というのが、まだまだ非常に少ないのではないかというご指摘を放送事業者は障害者の方からいただいていますけれども、少しずつ生放送の字幕付与が進んでいるということと、生の解説放送等の試みというのも始まっていると聞いておりまして、放送時間を増やす努力をしているというところだと思います。

アメリカのお話でも、デジタル化がアクセシビリティを進展させる大きな転換点になるべきであるということだと思います。デジタル化を致しますと字幕放送は、今までアナログ放送では別チューナーが必要だった物が、すべての受信機にあらかじめ付属しています。解説放送については、アナログ放送の時はステレオ放送とか2カ国語放送と解説放送を同時に聞けなかったわけですけれども、デジタルになりますと最大4チャンネルまで同時に聞くことが可能であるというふうに、デジタル化のメリットが挙げられています。ただこれも先程、高岡さんが言われましたように、字幕にしてもスクロールとかサイズの大小というものを、もう少しデジタルテレビの上で出来るようにすべきではないかというご意見が出されているということだと思います。私も研究員という立場で問題を整理しているにすぎないのですけども、問題を整理する過程で障害者の方々に今、指摘されている今後の課題というのをここに挙げました。先程のウェブコンテンツのJIS規格に比べてテレビが遅れていると指摘された静岡県立大の石川先生が具体例として挙げられたのが、EPG電子番組表及びデータ放送のアクセシビリティです。当然ITを使い慣れている障害者の方々がテレビで何故それが出来ないのかなというふうに思われているということをもう少し認識せよ、というお話をいただきました。

それから2番目は、聴覚障害者の方から頂いたご意見です。これまでも、アナログで別チューナーで字幕を受信して、字幕レコーダーで字幕放送を見ていて、それを録画しようとしたときに、放送は録画されるけれど字幕が録画されないという混乱が起きている。それはビデオデッキの問題であるのですけれども、ビデオデッキとテレビとの配線をどうするかなど、混乱していて問い合わせが多いと。デジタル化をしていく段階でテレビ及び録画機器のユーザビリティ・アクセシビリティというのを是非きちんと検討してほしいというご意見です。それから最初にロバートさんがおっしゃられたことですけれども、日本でも今、リモコンのアクセシビリティというものも、もう少し良くしてほしいというご指摘をいただいています。

それから、これは本当に重要なことであると思いますけれども、そういった伝送経路とか端末のアクセシビリティがいくら良くなっても、放送の中身、コンテンツの改善ということが非常に重要だろうというふうに思っています。特に解説放送というものについて、これは私も今後きちんとここの部分を勉強していきたいと思っていますけれども、先程の傘のマークを傘と読まないで雨というふうに読むという実例は、静止画のお話としてあるのですけれども、解説放送の場合にテレビのドラマとか情報の番組の中で、いったいどういうふうに説明をするのか、というのは非常に専門性や配慮が必要な部分ではないかと思います。

これは、リハ協におられて今、国立障害者リハビリテーションセンターに移られた河村 宏先生という方が論文でお書きになっているのを読んだことがございますが、例えばパリのエッフェル塔が画面に映っているという時に、パリという土地の象徴としてエッフェル塔を映して字幕でパリとある場合、解説でも一言「ここはパリです」と言えばいいのか、あるいは世界の名だたる色々な建築物を紹介している番組でエッフェル塔を写して、パリのエッフェル塔がバンと出てきた瞬間に、エッフェル塔の建築物としての価値みたいなことまで含めて、その映像の解説として付けなければいけないのかとか、解説を付けるにあたっての、重要な読み取り能力とか配慮というのが必要な世界である指摘がされています。ですので、もちろん放送事業者は色々取り組まなければいけないことがあると思うのですけれども、伝送経路や放送の端末といった技術の問題、それからもちろんその背景となる法的あるいは行政指針のようなもの、それと同時に放送事業者というのは放送を作る立場ですので、コンテンツそのもののアクセシビリティというものを、もっともっと勉強していかなければいけないのではないかと、これは私も番組を作っていた一人として今、思っているところです。これは午後の議論にも通じていくと思うのですけれども、今まで障害者と放送といいますと、必要な情報を、例えば障害者基本法が変わりましたよとか、障害者の方にとって重要な情報あるいは災害情報のような、必要な情報を障害者の方々に伝えるというのが一つ機能としてあります。それから逆に障害者の方々からの問題提起を社会に伝えるというのも大きな役割かなと思います。それから、もっと大きく社会での障害者観や、あるいは差別問題というようなことを、きちんと問題提起するというような機能も、これまで目指されてきたのではないかと思います。これは午後に私の先輩の泉谷さんがお話になると思いますけれども、障害者の方々が、「健常者によって描かれる」という段階から、次第に障害者の方々ご自身が出てお話になるということ、更には障害者の方々が制作に何らかの形で携わる、あるいは海外の放送局では、障害者のプロデューサーやディレクターが制作するという流れの中に、放送はあるのではないかと思います。ですので、デジタル化の中で進んでいく技術の問題と同時に、コンテンツの作り手として放送事業者として何が出来るかというのを合わせて、今後も考え続けていきたいと思っております。是非また、ご意見を聞かせていただいて、もう少し勉強をしていきたいと思っております。どうもありがとうござました。

資料1(「ITのアクセシビリティ」・「字幕放送・解説放送」小史)
資料2(中越地震・いつ何から(誰から)情報を得たか)(エクセル、21.5KB)