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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

まとめに代えて

日本障害者リハビリテーション協会情報センターは、情報社会における障害者の社会参加を推進するために、特に情報バリアフリー化に焦点をあてた情報提供をしている。具体的には、情報のアクセシビリティに関する動向をいち早くウェブサイトで掲載するとともに、アクセシビリティに配慮したウェブ・コンテンツの作成、障害者の情報アクセス支援を目的としたソフトウェアの開発・普及、そしてパソコンボランティア指導者養成の講習会を全国各地で展開している。また障害者団体の著作権法改正運動の成果である放送字幕の公衆送信の権利を守り発展させるために、最初に認定を受けた字幕公衆送信事業者として聴覚障害者を対象とした「字幕送信事業」も行なうことで、TVの字幕の不足を補うと共に、放送における情報保障確立への啓発を行なっている。

今回実施した独立行政法人福祉医療機構の助成による「地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業」の成果は、情報センターの上記の事業、特にパソコンボランティア指導者養成事業にとって示唆に富むものである。

ここで、アンケート調査結果とIT支援セミナーの報告、更に、当事者団体のIT担当者、ITによる障害者支援の専門家および障害者の社会参加に関る研究者で構成する本事業企画委員会委員の提言等をもとに、今後の展望と当協会情報センターは何をするべきかについて考えてみたい。

パソコンボランティア団体のアンケート調査の結果は、本報告書の前半とIT支援セミナー中の概要の報告にあるように、アンケートに回答したパソコンボランティア団体は、極めて多様な成り立ちを有している。地域性、自治体との関わり、活動の体制、活動内容は千差万別である。グループによっては、2002年から始まった国と県が半々で助成するITサポート事業の委託(これについては附属資料を参照)を受けるなどして、活動範囲を広げている。そのためにNPO法人格を取得しているところもある。また企業(マイクロソフトなど)との連携で就労までの支援を目的としているNPO法人もある。これらの団体については聞き取り調査を行ない、好事例として本報告書に掲載している。

聞き取り調査の結果を見ると、地域のパソコンボランティア活動の指導者の質がグループの活動に大きく影響しているように思われる。IT支援セミナーの発表者であるドリームナビゲーター横浜代表の寺田慶治氏と札幌チャレンジド共同代表の加藤尚明氏の事例発表から学ぶことは多い。このようなリーダーをどのようにしたら育成できるのか、これがパソコンボランティア指導者養成事業の課題である。

利用者の満足度について、今回は支援者側から答えていただいた。「非常に満足している」が20パーセント、「満足している」が64パーセント、「満足していない」と答えたのは2パーセントにすぎない。これは多くのボランティア団体が障害者のニーズに合わせた支援ができていると考えているからであろう。しかし利用者から見たときはどうなのであろうか。今回は、利用者から直接アンケートをとっているわけではないので、本当に利用者のニーズに答えているのかどうかの検証は次の課題である。しかし、IT支援セミナーで利用者の立場から発表した愛知県の吉川さんからは、中途失明の後パソコンボランティアとの出会いにより、人生の視野が広がったという感動的な話があった。吉川さんが所属するグループ(ありんこ)の佐藤さんと山口さんには、セミナーに共に参加し難聴もある吉川さんの発表の支援を行って、パソコン利活用の支援だけではなく社会参加をトータルに支援するパソコンボランティアの好事例を示していただいた。

それでは、どのようなボランティアが必要とされているのだろうか?これについては、まず本報告書に収録された企画委員諸氏の提言を参考にしていただきたい。

単にパソコンができれば良いということでなく、技術の前に必要なことは利用者との十分なコミュニケーションと信頼関係の確立であると企画委員の畠山卓朗氏はセミナーで提言している。そこから利用者の障害を理解し、ニーズが見えてくるのではないだろうか。

企画委員で全盲の会社経営者である望月氏は、全盲文化を知ること、つまり、障害者と同じ目線で見ることがより良い支援につながっていくと指摘する。常に情報障害者の立場に立って考え、ギャップを埋めるためにはITを熟知していなければならないし、同時にそれぞれの障害の十分な理解が必要である。常にアンテナを張って新しい知見を修得する研鑽を積み、支援に役立てていかなければならないのである。

しかしアンケート調査によれば、パソボラ団体は、十分な予算がない、支援者が足りない、支援者が技術を修得する時間や場がない、支援技術に対する情報が不足しているなどの課題をかかえている。このような問題を解決する方法として公的機関を含めた地域におけるネットワークの構築が有効である。多くの企画委員が提言しているように様々な障害の特性を考えると、障害に熟知している障害者リハビリテーション関係者とパソコンボランティアの連携が必要である。

ネットワーク作りについて、札幌チャレンジドの加藤さんは地域における町づくりのようなものだと述べる。アンケートでは多くの団体はネットワークがあると答えているが、聞き取り調査によれば、それはまだ十分でないように思われる。実際どのように連携ができているのか、地域ごとのネットワークの到達点については更に調査・研究を行なっていきたい。

企画委員の河村宏氏がセミナーの中で、障害者のIT支援の対象領域を、リアルタイムの双方向のコミュニケーションへのアクセス、蓄積し記録される知識と文化へのアクセス、集会等の場への参加の保障、と3つにまとめた。それぞれが保障されるための支援体制については、公的な機関の責任と役割があり、同時にそれと連動して地域のパソコンボラティア(IT支援)が生かされるのだろう。

以上のような成果を持って、障害者のIT支援を支えるパソコンボランティアに情報センターができることは、利用者のニーズを把握し、関連する情報収集を、ウェブ(障害保健福祉研究情報システムhttp://www.dinf.ne.jp/)で紹介していくこと。パソボラ指導者養成事業はパソコンボランティアを率いるリーダーが地域のネットワークの要として力を発揮できるような研修を行なっていくこと、そして障害者の情報発信および情報交換の場として、ノーマネット(障害者情報ネットワークhttp://www.normanet.ne.jp/)のサービスを更に充実させていくことであると考える。

(財)日本障害者リハビリテーション協会
情報センター 次長
野村 美佐子