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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

サポートはどうあるべき?

畠山 卓朗
星城大学リハビリテーション学部教授

何でも自立してやりなさいということで、ここから先は自立してやっていきます。家では「あなたが自立をしていない」ということをよく言われています。「外で偉そうなことを言って」と。

畠山と申します。よろしくお願いします。こんにちは。

実はこのタイトル、「ITサポートを考える」ということで、実は「IT」が付いていたんですけれど、私自身の仕事というのはあまりITを意識しながらサポートしているということはないんですね。ですから講演の直前でこの「IT」を外させていただきました。「サポートのあり方を考える」ということでお話をさせていただきます。

現在、大学の教員で4年目になるんですけれども、それ以前の28年間は臨床現場、特に横浜市の総合リハセンターとか神奈川県の総合リハセンター、そういったところで在宅訪問サービスを通していろんなことを学ばせていただきました。

何をサポートするのか。ITサポーターの話ですから、当然障害のある人のITの利活用とか活用をサポート、支援するんだということ、当たり前のような話なんですけど私自身の実際の感覚では、本当にそうなんだろうかということを考えます。そうだけじゃないし、本当にそこからなんだろうか?ということを考えます。

と言いますのは、なかなかサポートがうまくいかないんですね。私自身はパソコンボランティアということを、ごめんなさい、やったことがないんですね。リハビリテーション・エンジニアとして仕事を通していろんなサポートをさせていただいています。そういった中では、パソコンを何とか使いたいんだけどという相談がきて、それをサポートしていくんですけれども、どうもいまひとつノリがよくない。変な言葉かもわかりませんが、どうもサポートしたことに対して喜んでくださらない。それから、何とか使えるようになったにもかかわらずうまく活用されていない、いろんな場面があります。

ここではある一人の方のエピソードをご紹介して支援のあり方を考えるということをお話ししたいと思います。ここではITは出てきません。もう既に何度か私の話を聞いていただいた方にはもう何度目にもなると思いますけれども、この方はお風呂場で滑って転んで浴槽の縁に首の辺りを強くぶつけました。具体的に言いますと上から4番目に損傷を受けた。頸椎の4番目、C4レベルの頸髄損傷の方です。肩を上げることはできますけれども下げるのは重力で下げる。もちろん前腕を上げたり力こぶを作る、こんなことも難しいです。首から、あるいは肩から下の機能がほとんど麻痺した状態です。

ご家族の要求としては何とか文章を打てるようにさせてあげたい。いろんな要求があったようです。そういった要求が、まず当時、保健婦さんと呼んでいましたが保健婦さんからあがってきました。私、エンジニアとその保健婦さん、それから作業療法士とチームを組んで直接利用者のお宅にうかがいます。ご家族の要求はわかっていましたけど、改めて「どんなことでお困りですか」と私の方からお聞きしました。そうしましたら、「誰が呼んだんだ」というふうに言われました。「何も困っていない。特に要求はない」とおっしゃいました。「あ、そうなんですか」。

実は今、お使いになっている様子が写真で映っています。口元に白いチューブが来ていまして、そのチューブを口にくわえて息を吹いたり吸ったりします。チューブがずっとベッドの上に置いてあるオーバーテーブルの上につながっているんですね。オーバーテーブルの上に白い箱がありまして、白いチューブがずっと白い箱の中に入りまして、1本のチューブが2つに分かれています。両側に風船が付いていると思ってください。原理をお話しします。小さな風船です。片側は普通の風船のように普段はしぼんでいます。片側は最初から膨らんだ形をしています。この方が口にチューブを加えて息を吹きますと、しぼんでいる風船がぷくっと膨らみます。今度は息を吸いますと膨らんだ形の風船がしぼむという形です。実は膨らんでいない風船の表面にはスイッチがくっついていまして、息をフッと吹くと膨らんでそれを押す。今度は息を吸いますと膨らんだ形の風船がしぼんで、実は風船の中にスイッチが入っていると思ってください。スイッチを押すんですね。風船の内面で押します。2個のスイッチがあって、テーブルの上にあるテレビの電源を操作する、あるいはチャンネルを操作するリモコンにつながっています。息を吹くとテレビの電源ボタン。息を吸うとチャンネルを変えるボタンを押すことになるんです。

実はたった3時間で私、組み立てた道具なんですけれども、これをお使いいただくまで1カ月かかりました。決して遊んでいたわけではないんですけれども。その1カ月かかった理由をご紹介します。

先ほど言いましたようにチームを組んで行って、「どんなことでお困りですか」と言うと「何も困っていない」、もう来るなというような感じですね。1週間してから、今度は私一人で訪ねていきました。「また来たのか」とあきれられます。実は3週目も通うんです。これ、何をしているかと言うと、私自身にはオーダーが出ていまして、とにかく4回通ってその中でニーズを見つけてください。もしニーズがなければそこで訪問サービスを終わらせましょう。嫌がられてもとにかく顔を出すんですね。3回目はそそくさと帰ってきました。4回目です。今日最後の日。保健婦さんが運転しながら、私は助手席に乗りながら。保健婦さんが「今日最後ですね」という話をしながら。保健婦さんが重要な情報をくださいました。「そういえばこの人、昔野球の監督をしていた」と。そこまではカルテに書いてなかったんですね。それで有名な野球選手を中学校時代に育て上げた有名な野球監督だったと。「へえー、そうですか」と言っている間に着きました。今日はもう最後だから、そんな話をしながら「こんにちは」と入っていきましたら、「また来たのか、もう来るな」とまでおっしゃいました。そのときとっさに思いついたのが、先ほどの野球というキーワードです。「野球をお好きなんですってね」と言いましたら、「どこのファンだね」とおっしゃいまして、私、正直に「アンチジャイアンツで」と言いましたら嫌な顔をなさって。嘘をつけばいいと思ったんですけど、野球の話だけは続いていきます。

保健婦さんのほうから「今日が最後、何もないの?サービスいらないの?」。やっぱり「特にない」とおっしゃいます。次に保健婦さんから出たキーワード、これ重要なキーワードが出ました。「どうせダメでもともとでいいから、何か言ってみたら?」。

この「ダメもと」という言葉が結構効くことがあるんですね。これ、決してふざけて言っているわけではないんですね。ご本人から出た言葉が、「どうせダメだろうから」というのが、このテレビのチャンネルを変えるということでした。奥さんが台所に立っているときに好きな野球放送が始まっても自分でつけられない。保健婦さんからは追い打ちをかけるように、「そんなの奥さんを呼んで変えてもらえば」と言いました。「いや、こういうことは我慢するんだ。ただでさえ迷惑をかけているから」。そんなやりとりがありました。

とにかく今日は帰りますと言って、一日おいて。今これ使っていただいている様子です。半分押し売り状態かもわかりません。「とにかく黙って使ってみてください」。そして、記録の写真を撮らせていただきました。

少しずつ表情が変わっていきます。テレビがついてチャンネルが変わっていく中で、少し目の表情も変わってきます。もう来るな来るなと言われていましたので、「今日は本当に最後にさせていただきます、どうもすいませんでした」と謝りましたら、「いや、来たいんだったらもうちょっと来てもいいよ」とおっしゃったんです。「あ、ありがとうございます」って。若いスタッフに「なぜお礼を言うんですか」って後で怒られましたけど。本当にうれしかったんですね。全く向こうを向いている人が振り向いてくれる瞬間があるということを感じています。

あるホームページ、早稲田大学人間科学部の向後千春氏のホームページを見ていて、ある言葉に出会ったんです。うまく私たち言えなかったんですけれど、「スモールステップの原則」という、認知心理なんかの世界ではあるようです。とにかく私たちは、とかくその人の価値観というよりも「あの人にはこういうふうになってほしい」「この道具を使わせたい」、これ、非常に横柄な言葉かもしれません。そう思ってしまいがちです。ですけど、相手の方がそこまで自分の気持ちが整理できていなかったり、見通しが見えないということがありますよね。とにかく最初のステップは小さくてもいい。でもそれを継続的に関与していく中で少しずつ相手のニーズが見えてくる。1週間後に奥さんから電話がありました。「主人がこんなことを言っています。もし先ほどのテレビのチャンネルが変えられるんだったら、電話を受けることができないか。せめて電話を受けることはできないか」。奥さんが外出しているときにリンリンと鳴っていて、奥さんが事故に遭ったんじゃないかと不安でならない。「もちろんできますよ」と。これはNTTと一緒に開発しました、息でダイヤリングできたりあるいは受け取ったりする電話機があります。シルバーホンふれあいSという電話機です。それをご紹介できますと言いましたら、「なんで紹介しなかった」って怒っておられるようです。そこから先は私のいじわるな本心が出てきまして、「奥さん、何もいらないっておっしゃっていましたよね、確か」って。そしたら電話の向こうで「謝っとけ!」という声が聞こえて。こちらはちょっと何か満足というか、これはよくないですね。あまり真似しないでください。

何をサポートするのか、もう一度考えますと―ごめんなさいITのことが全然出てきません―利用者の精神面、私は精神科でも心理でも何でもないです。ですけど皆さん既にお気づきのように、障害のある方、利用者の方の精神面に触れながらサポートしていく。そういった取り組みなんだということを改めて感じます。

それから動機付けですね。モチベーションをいかに導き出すか。これ、実は必ずしもITにつながらなくてもいいんじゃないかとすら思います。中にはITは頭にしっかり置いておいて、今は人と人との関係の中でサポートしてもらう、決める人がいます。それも実は成功なんだ。プロジェクトは成功したんだ。それから、ご本人だけではなくて家族とか介護者の方も含めた理解と協力。これをサポートしていかないと実際にはうまくいかないというふうに思います。

私、自分で仕事をしながらサポートはどう進めるかということで、先ほども言いましたが、なかなか私自身も難しいんですけど、相手の価値観に接近していく。これ、常に心がけたいと思います。それから先ほどご紹介したような生活支援の一環としてITサポートをとらえたいと思います。パソコンができる、もちろんすばらしいです。でも人と電話、かかってきた電話を受けられるとか、かけたいときに電話。それもサポートのうちの一つ。それから、これは先ほどからも出ていますように、人と人とのネットワークにつなげていくというのが私たちの課題かなと思います。

すいません、最後までITの話は出ませんでした。失礼しました。ありがとうございました。