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平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

専門家の立場から
世界への入り口とIT

―知的障害を持つ人にとってわかりやすい情報とは―

湯汲 英史
(社)発達協会王子クリニック言語聴覚士/精神保健福祉士

1.知的障害とは何か?

ある母親が「ウチの子は、動物園はわかりますが、動物はわかりません」と話してくれた。この言葉は知的障害の本質をついている。ライオンや象、キリンは実在する。ところが「動物」は存在しない。こういう言葉を抽象語(分類語)という。「食べ物」「乗り物」「運動」「外食」なども同じ抽象語である。動物園は見えるし行くこともできるが、「動物」は物事を整理するために作られた言葉であるために、見たりさわったりできない。

たとえば「好きな動物は何ですか?」と質問する。あるいは、「動物の中には哺乳類や鳥類などが含まれます」と話す。「類人猿から進化して人類が生まれました」と説明する。このように抽象語は頻繁に使われ、それを使って物事を考えることが多い。これがうまくできない障害を知的障害という。

2.視覚的言語が優位なパソコン

「好きな動物は何ですか?」と質問されてわからない人が、「ウサギ」の写真を見ながら「ウサギは好きですか?」と問われると「ハイ」と答えられたりする。哺乳類や鳥類の写真を見ながらであれば、「これらを何といいますか?」に「動物」と答えられる可能性が出てくる。「進化」は難しい言葉だが、類人猿から人類までの変化が絵で示されていれば、意味を理解できるかもしれない。最近、ほかの人に説明する際には文章だけではなく、「見える化」の重要性が説かれている。知的障害を持つ人にとっても、「見える化」が理解を促すことは同じだ。

3.世界の入り口となってきたインターネットの世界

店員がいる店での買い物が嫌いな知的障害を持つ人が多い。そういった店では、あれこれと質問され、それに答えなくてはいけないからだ。そういう人がネットの商店街にはまったりする。クリニックにくる知的障害を持つ青年を見ていると、精神年齢が5、6歳になればインターネットの世界を楽しめるようだ。○が描けるようになるのは3歳だが、これが描けるとマウスを使えるとの研究もある。

情報の入手先が、ほかの人や友だちに聞く、図書館で調べるなどから、ここ数年で劇的に変化してきた。今では「ネット上で検索」がもっともポピュラーであろう。この流れは、知的障害を持つ人にとっても無縁ではない。特に言語に問題を持つ、友達がいないといった人にとり、パソコンは必須のアイテムになりつつある。

4.障害特性を踏まえた情報提供と被害防止

とはいうものの、パソコンのお蔭で知的障害がなくなるわけではない。これまでよりは、情報がわかりやすくなってきただけである。今後はさらに情報の入手先としての使用が増大するであろう。このためにも、知的障害の特性を踏まえた、わかりやすい情報の中身作りが求められている。あわせて、素直に信用しやすいなどのために、ネット被害の可能性が拡大している。これからは被害の防止策についても、一層の配慮が求められている。