平成17年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した
障害者情報支援に関する調査研究事業報告書
パソコンボランティアの今後の課題
寺島 彰
浦和大学総合福祉学部
1.ボランティア活動の性格
ボランティア活動は、つぎのような性格をもつ活動である。
a.高邁な理念に支えられている
ボランティアの目的は、社会福祉の理念の実現であろう。すなわち、権利哲学に支えられ、個人と環境の不適合として生活問題をとらえながら、障害者や高齢者等いわゆる社会的弱者の生存権保障を具現化する活動である。具体的に言えば、哀れみではなく、同じ人間として、社会の構成員の義務として、これらの人々の生きる権利と社会参加する権利を保障しようとする活動である。
b.高い自由度
ボランティアのもう一つの目的は、ボランティア自身の自己実現である。人間は金や物質のみによっては生きられない。人の役にたつことで金銭や物に代わる満足感を得られる。そのような満足感を得たいためにボランティアを行っているのであろう。この意味からいえば、ボランティア活動は、自由な活動である。まさに質・量ともに自由に活動を行うことが可能である。単純なボランティアをあるだろうし、高度なボランティアもあるだろう。交通費程度を負担してもらう有償のボランティアもあってもかまわないし、完全に無償でもかまわない。長時間・長期にわたるボランティアもあるぶろうし、短時間・短期のボランティア活動もある。
2.役割分担
障害者・高齢者支援は、現在、企業、公的機関、ボランティアによって実現されている。それぞれの関係は、下の表のようなものになる。
a.企業
財政的に採算にのる部分を担当する。例えば、市販製品開発、集団教育などである。機動性、信頼性に富むが、採算にのらないことはしないし、採算にのらなくなったときは、すぐに撤退してしまう。
b.公的機関
採算はとれないが、社会的に意義があり信頼性を求められる部分を担当する。例えば、リハビリテーション訓練、特殊機器開発などである。継続性と信頼性は十分であるが、機動性には欠ける。
c.ボランティア
採算はとれないが、社会的に意義のある部分を担当する。機動性はあるが、継続性、信頼性に欠ける。
機動性 | 継続性 | 信頼性(安全性) | |
---|---|---|---|
企業 | ○ | △(採算) | ○ |
公的機関 | × | ○ | ○ |
ボランティア | ◎ | △(意思) | △ |
3.今後のボランティア活動のありかた
これまで述べてきたことから今後のボランティア活動のありかたについて考察してみよう。
a.支援内容についてのネットワーク
資源効率を考えれば、企業、公的機関、ボランティアがそれぞれの役割を果たす必要がある。これを実現するためには、ネットワークの構築が大切である。ボランティアが自分手に負えないとわかれば、公的機関などにお願いすることや、企業ベースでは行えない活動をボランティアに依頼することのためには、ネットワークによる連携が必要である。
b.支援者の教育
高度ではなくとも、ボランティアを行うためには、最低限の資質が必要である。例えば、権利哲学、支援技術、支援に必要な知識などである。これらの資質を確保するための支援者に対する教育制度を必要としている。基礎的な教育の範疇である。いろいろなレベルにある支援者をどのように教育していくのかについて検討が必要である。また、工学関係者には福祉教育を、また、福祉関係者には工学を教育する必要がある。
c.高度な支援の確保
特に就労支援において、高度な支援が必要としている。例えば、イントラネットの変更に伴い視覚障害者用スクリーンリーダーが使えなくなったような場合に、その不具合を解消できる支援が必要である。これは、企業でも、公的機関でも、ボランティアも、能力次第で可能だろう。能力の高い支援者の確保など高度な支援を確保することが望まれている。この場合、企業が利潤を得て支援することも可能である。
d.幅広い事業者の確保
障害者は、いろいろなニーズをもっている。しかも、そのニーズは、多様である。そこで、企業からもボランティア的な要素をもった制度を構築していく必要がある。また、ボランティア側からも企業的な要素をもった制度を必要としている。具体的には、NPO、社会的企業、生協などの活動も期待されている。
4.当面の課題
昨年、障害者自立支援法が成立した。今後、企業やNPO法人が地域生活支援事業としてパソコンの指導にあたることも可能になっていくと思われる。これらの制度の活用が期待される。そのためには、多様なセクターが多様なサービスを構築していく必要がある。今後、5年くらいにこれらのサービス展開を準備する必要があるだろう。
当面の課題を整理してみると次のようになろう。
a.福祉の理念の普及
高齢化社会が本格化するなかで、今後ますます、ボランティアをやりたいと考える高齢者が増えることが予想される。企業戦士として活躍されてきた方々が、退職後の人生を社会のために役立てたいと考えられることも多いようだ。これは、すばらしいことであるが、ともすれば、障害者を哀れみの存在してとらえられることもあろう。しかし、このような考え方は、現在の福祉の理念とは少し質が違う。権利哲学など福祉を支える理念についての理解を普及していくことで健全なボランティア活動が推進できると考えられる。
b.専門性の高いボランティアの育成
今日、不足しているのは、専門性の高いボランティアである。例えば、イントラネットに詳しいボランティア、電子機器に詳しいボランティア、指導法に長けたボランティアなどのボランティアが不足している。これらの、ボランティアをどのように育成していくのかが直近の課題である。高度なボランティア研修やボランティアセンターを対象とした支援などいろいろな方法が考えられる。
c.NPOや企業などが参入できる基盤づくり
ボランティア以外にも多様な事業者が参加することで障害者の選択の幅が広がる。NPOや企業が参入できるために、助成金の充実やサービス提供に対する支払い制度などを検討していく必要がある。