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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

社会福祉法人「浦河べてるの家」

精神障害者へのICTの事例
調査先:有限会社・社会福祉法人「浦河べてるの家」(北海道 浦河郡浦河町)
実施日:平成18年10月14日

【概要】

「浦河べてるの家」とは、総人口1.600人程の浦河町にあり、精神障害を持つ人々の共同住居・共同生活の場となっている。メンバーは約120人で、有限会社、共同作業所・共同住居(グループホーム)・通所授産施設を運営している。そこでは、様々な悩みを抱えた精神障害者に配慮した2つのICTの事例についてあったので紹介をする。

テレビ会議システムの開発

日本財団の助成で、リモートでもコミュニケーションがはかれる方法として、サーバーを利用した「テレビ会議システム」を開発し、2003年に運用を開始した。この開発については、浦河べてるで暮らすようになった山根幸平氏が自分の思い(幻聴など)を皆に伝えて現実なのか現実でないかを確認してもらうことでだんだん社会に復帰できていくことがわかってきて、このことを他の地域の人たちに伝えたいと考えるようになったことがきっかけとなったそうだ。同じようなことをソーシャルワーカーの方も考えていたので一緒にその開発のための助成先を探して、最終的には日本財団が受け入れてくれた。2002年のことであった。
テレビ会議システム 普通のテレビ会議システムにテキストチャット機能、ホワイトボード機能、ファイル共有機能、メッセンジャー機能、アンケート機能、録画・録音機能が付いている。ユーザー側の回線はADSL以上の回線が必要である。同時アクセスユーザーは10人に限定され、分割された画面を通して会議などを行うことができる。ユーザー側のソフトはフリーとなるが、業者によると機材に20万から25万ぐらいが必要だそうだ。現在、北海道は3カ所、本州に何カ所かにつながり、作業所や大学や関係する企業ともつながっている。最初はつないだままにしてあり、他の精神障害者団体の人たちと抱える問題などについて相手の顔を見て話すことができ、当事者のSOSに対処することができた。しかし残念ながらこのシステムを担当するメンバーに逃亡癖があり、一時的に休止状態になってしまっている。それまでは、いつでも連絡を取り合うことができるように24時間、稼動をしている状態であったが、今後、他の団体の人たちと日時など設定をしてお互いに言いたいことを言い合うミーティングを企画・実施したいと考えている。
最近は、テレビ会議の代替方法としてフリーでダウンロードできるスカイプを使うことが多くなったそうだ。

防災GIS(Geographic Information System)システムの開発

国立身体障害者リハビリテーションセンター障害福祉研究部の河村宏氏をリーダとするチームと「べてるの家」の山根氏が共同で障害者と高齢者の防災の取り組みの1つとして、障害者の自己決定のためのGIS(地理情報処理システム)の改良を行っている。20種類あるソフトからアクセシビリティが考慮されているソフトを選んだそうだ。防災GISシステムこのGISを利用することでユーザーは、地震や津波の際の避難経路と避難場所など様々の情報を得られる。このシステムにインプットする情報については、「べてるの家」の精神障害を持つ人々、地域住民、町役場が連携することで進められている。前述の開発者、山根氏は自身が統合失調症であり、当事者の立場から必要な機能をこのGISのシステムに組み込んでいった。そしてできあがったものを地域住民、べてるの家の人たちに評価してもらい、河村氏をはじめとする国リハのメンバーにフィードバックを行なっている。実際に浦河の海岸近くに住む自治体のメンバーやべてるの家のメンバーを集め、津波を想定した防災訓練を行った際に利用してもらったそうだ。山根氏は、今後、自治体と連携をして、地域に必要な生活情報をこのGISに組み込んで、日常生活においても利用してもらいたいと考えている。

防災マニュアルについては、マルチメディアDAISYを使った、地震発生時の『防災マニュアル』製作の取り組みを行なっている国リハチームの援助を受けて、べてるの家では、いつ起っても不思議ではない日高沖地震による津波に備えて、実際に自分達で避難場所まで歩き、その道筋を文字と写真と音声で示した『避難マニュアル』をマルチメディアDAISYで製作を行なっている。自分たちがマニュアルにでてきているのでとても身近に感じられ、こうすれば安心だという感覚がでてきたという。メンバーの一人清水さんは、当協会のインタビューの中で、DAISYについて次のように語っている。
DAISYっていうのは、文字で喋るのが出てきて、映像が出てくるので、考えながら、確認しながら見ることができるので、私達精神障害者がもっている混乱しやすいとか色々障害があるんですけど、そう言ったメンバー達にも、凄く解かりやすくて、親しみがもてました 」    今後、精神障害者への災害などの情報提供方法としてのDAISYの広がりが期待される。
    マルチメディアDAISYを使った『防災マニュアル』    マルチメディアDAISYを使った『防災マニュアル』
               マルチメディアDAISYを使った『防災マニュアル』

【まとめ】

上記①については、日本各地にいる精神障害者がお互いに悩みなどを話し合い、解決をしていくというユニークなコミュニケーションが、TV会議システムを利用することで効率的に進められるという事例であり、②の開発においては、精神障害者のコミュニティと地域の住民、自治体の連携による障害者を含めた安全な町づくりを目的とするネットワークの構築が見られる事例である。