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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

パソコンボランティアとリハビリテーション関係機関とのネットワーク

松本琢麿
神奈川県総合リハビリテーションセンター 作業療法士

1.はじめに

パソコンボランティアとリハビリテーション関係機関は、どのような協働作業ができるでしょうか。IT(Information Technology)に精通しているパソコンボランティア(以下、パソボラ)は、障害当事者(以下、対象者)の不自由さをハードウエアやソフトウエアなどの改善や工夫で対応することが得意でしょう。リハビリテーション関連スタッフ(以下、リハスタッフ)は、対象者の不自由さを身体機能や姿勢動作から治療介入することを専門としています。この両者が、対象者を中心に協力して支援できるとしたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。このような理想を目指して、現在神奈川県で私たちが取り組んでいることを紹介したいと思います。またパソボラが私たちリハスタッフを理解して頂くために、リハの立場から大切にしていることをいくつか述べたいと思います。お互いの理解を深め、より良いネットワークが構築できる契機(きっかけ)にしたいと思います。

2.神奈川県でのITサポートの現状

神奈川県では、神奈川県社会福祉協議会「かながわともしびセンター」と神奈川県総合リハビリテーション事業団「神奈川県リハビリテーション支援センター」の2つの相談機関がITサポートの中心となっています。かながわともしびセンター内の障害者等ITサロンでは、対象者やパソボラ個人、パソボラ団体に対して、(1)IT機器の展示と支援ソフトの体験、(2)アドバイスと情報提供、(3)IT機器等の貸出、(4)パソボラ団体の登録と派遣、(5)IT支援者研修の実施、(6)IT研修コーナーの提供 等を行っています。私たち神奈川県リハビリテーション支援センターでは、地域の医療・保健・福祉スタッフに対して、在宅重度障害者の生活支援機器の活用、住環境整備、福祉制度、社会資源の活用など、身近な地域機関では対応できない専門的な相談を協働で支援しています。この両機関が協力して、対象者のIT支援の実施、パソボラの派遣要請、IT支援問題を啓発する冊子「二次障害発生を予防するために」の発行、二次障害予防学習会の開催 等をおこなっています。  また障害者自立支援法施行に伴う補装具(重度障害者用意思伝達装置)支給に関して、判定機関である更生相談所(神奈川県総合療育相談センター)から神奈川県総合リハビリテーション事業団に判定協力を委託されています。これらの県機関と在宅重度障害者がより良いコミュニケーションがとれて適切なIT機器の支給に結びつくよう援助していきたいと思っています。

3.リハスタッフが出来ること

私たちリハスタッフは、患者自身が自分らしく生活するために「衣・食・住」すべての日常活動の獲得を目指して、治療訓練をおこなっています。例えば、食事や衣服の着替え、ベッドと車いすの乗り移りなど、患者が「こうやればできるんだ」と自信を持って安心した生活できるように、最大限の治療技術を提供しています。しかし、どうしても困難であったり危険がある場合には、代償的な方法として人的なサポートを受けたり、機器を利用するなど支援技術の利用をおこなっています。このような日常生活の全ての活動を支援している視点から、IT操作などのコミュニケーション活動を支援しています。私たちリハスタッフが対応できる具体的な内容を挙げたいと思います。

  a. IT機器を操作する身体部位が決まらない場合
私たちは対象者の身体に触れて一緒に動くことで、どれくらい動きがあるのか、どの方向が得意であるか、対象者の潜在能力がわかります。また顔や指先がわずかな動きを観察したり、筋肉の収縮を触診することができます。機器を操作する対象者の身体に支援者の手を添える技術(誘導)で、IT操作をする身体部位の運動機能を高めたり、操作する入力装置を提案することができます。
  b.操作姿勢に問題があり、疲れてしまう場合
対象者の操作姿勢に無理や過剰な緊張が見られる場合、全身のアンバランスが生じて痛みや変形などの二次障害を発生させることがあります。対象者の適切な姿勢をみつけるとともに、車いすやベッドなど姿勢保持具や枕やテーブルなどの補助具の選定を提案することができます。
  c.道具が合わず、無理をしてしまう場合
対象者の身体機能に操作する道具があってない場合も、無理に頑張ることで二次障害が発生してしまいます。操作の可否だけで問うのではなく、長時間続けるとどうなるか「活動の質」を判断しながら、対象者の適切な道具の選定を提案することができます。

以上のように、姿勢からコミュニケーション活動を支援することは大切です。コミュニケーション活動は姿勢との関連が深いため、安定した姿勢がとれて対象者の潜在能力が発揮できるように支援することが大切です。姿勢が上手に保てる時は活動がうまくいき、活動がうまくいくときは姿勢が上手に保たれています。そのため姿勢と活動を同時に支援する必要があります。適切な活動環境が提供できて、適切な支援者としての介在ができるように心がけることが大切と思います

4.リハスタッフに相談したい場合

現在IT支援を実践している、業務として対応できるリハスタッフは非常に少ない状況です。そういったなかで、お互いが協働する機会を作るさえも困難な状況といえます。そんな状況を打破すべく、日本作業療法士協会では「IT利活用支援のあり方に関する研究会」を設置したり、「コミュニケーション支援技術講習会」などを開催して、IT支援の重要性や役割をリハスタッフへ伝えていくことが数年前から始まっています。またパソボラの中には、「目の前にいる対象者を何とかしたい!」「IT操作や姿勢に悩んでいる!」など、対象者の医学的問題に直面している方もいると思います。リハスタッフに相談したい場合に、どんな手段があるでしょうか。

  a. 対象者を担当している(担当していた)リハスタッフへ相談する
対象者の担当リハスタッフがいる場合は、対象者の承諾のもとに姿勢や動作について相談に乗ってくれやすいと思います。IT支援に精通していない場合でも具体的な操作姿勢や動作を見てもらうことができると思います。業務外での対応となれば、あくまでもボランティアとなりますので、担当リハスタッフの承諾が必要となります。
  b. 知り合いのリハスタッフへ相談する
セミナーや講習会などで、IT支援を実践していたり、興味を持っているリハスタッフと知り合いになれたら、相談相手に引き込むことができるでしょう。リハスタッフには定期的な姿勢動作のチェックをしてもらい、パソボラは日常的な支援を実施するなど、IT支援の役割を分担しながら協働でおこなうことが理想と考えています。
  c. 地域リハサービスの窓口へ相談する
障害を持つ方や高齢者が寝たきりになることを予防し、住み慣れた地域でその人らしく生活できるよう、在宅でのリハビリテーションが適切にうけられる支援体制ができています。前述した各都道府県および地域のリハビリテーション支援センターの設置が進んでいますので、窓口に相談してみてはいかがでしょうか。
  d.外来リハビリに受診した結果を聞く
医療機関の中には、IT支援サービスや姿勢動作のチェックに対応できる外来リハビリもあります。対象者や家族が医療機関に相談のうえ、外来受診をしてみてはいかが でしょうか。その際、IT支援でパソボラが関わっていることをリハスタッフに伝えてもらい、問題への対応策やコメントを聞いてもらうのはいかがでしょうか。今後、支援ネットワークに発展していくことを期待します。

5.リハビリテーション機関の限界とパソボラへの期待

医療制度の改革で入院日数の短縮が医療政策課題となり、患者は数ヶ月から半年で退院するようになりました。現実を受け入れる十分な時間はとれないため、自宅で自閉的になる患者が急増していると聞きます。コミュニケーションは人間が社会のなかで「住まうこと」に関わる大切なことと思いますが、短い入院期間では身体機能の向上と自立した日常動作の獲得を余儀なくされて退院します。そのため在宅でのコミュニケーションを支援する人材(パソボラ)が重要であり、できる限り協力関係を築いていきたいと思います。私たちリハビリスタッフは、対象者の生活クオリティを高めることが最終目標です。そのため社会参加を促すIT活用をはじめとするコミュニケーション活動に注目しています。

6.おわりに

IT支援での成功は、実に複雑な仕組みによって成り立っていると感じます。自分の支援方法が「自由」で自発的な「思いつき」であったのか、それとも機械的かつ潜在的に記憶との連想が生じたのか、分からないこともあります。これらの発想は、日頃の支援経験における試行錯誤の賜物です。自分がおこなった支援の選択が良かったかどうかは対象者が教えてくれます。支援の成功をともに喜び、支援の失敗に真摯に反省していくことが大切です。対象者に関わる支援者各々の専門性を高めることと、対象者に必要な支援のネットワークが拡がることが、対象者の確実なコミュニケーション手段の獲得とセカンド・ステップに役立つものと考えています。今後ともよろしく御願いいたします。