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平成18年度
地域におけるインターネット・パソコンを利用した障害者情報支援に関する調査研究事業報告書

より良いIT支援に向けて

加納 尚明
NPO法人札幌チャレンジド 理事・事務局長

何も無い、あるのはヤル気だけ!

2000年、札幌チャレンジドの始まりは、一冊の本からでした。社会福祉法人プロップ・ステーションの竹中ナミさんが書いた「プロップ・ステーションの挑戦」です。この本を読んだ一人の女性が、『札幌でも竹中さんのようにパソコンやインターネットを活用して、障害のある人(チャレンジド)の自立のお手伝いをしたい!』と思いました。
パソコンも無い、講習会を行う会場も無い、何も無いけど、ヤル気だけはたくさんあるという状態からスタートしました。仲間を募り、パソコンのある場所を探し、月に一回程度、大学のパソコン教室に、チャレンジドに集まってもらって、具体的な活動が始まりました。
それから7年が経ちました。今では、毎日、チャレンジドを対象とするパソコン講習会を開催し、年間、延べ約2,000人が受講しています。最初は、受講者だったチャレンジドが、今では、人気講師になっています。ほとんど全ての講習を、7名のチャレンジドが教えています。
札幌チャレンジドという組織も、できてから二年間は、事務所も無く、専従の職員も無く、ボランティアのスタッフが札チャレ用の携帯電話を持ち歩いていました。三年目に初めて、別のNPOの事務所に机一つ置かせてもらって、専従職員が一人、つきました。今では、約80坪の事務所に5人の事務局員が勤務し、講習会場も三つを備えるようになりました

みなさんのお陰です!

なぜ札幌チャレンジドが、ここまで活動を拡げることができたのか?一言で言い表すならば、『みなさんのお陰です!』。札幌チャレンジドは、たくさんのボランティアさん、企業の方、行政の方、マスコミの方などのご協力によって、今日を迎えています。活動を進めていくには、必ず、いろいろな課題が出てきます。運営者だけの力では、それらの課題は解決できません。多くの方の力があってこそ、その課題が解決できるのです。
パソコン講習では、受講者全員に目配りしながら、講師をサポートしてくれるのが、ボランティアさんです。受講者に講習に関するアンケートを記入してもらっていますが、ボランティアさんがついてくれるので、ちょっと分からないときに、教えてもらえる。テキストのページをめくってもらえる。など、ボランティアさんが居てくれることをみなさんとても感謝しています。講習の休憩時間などにボランティアさんとお話しするのが楽しいという声もよく耳にします。ボランティアさんは、講習には欠かせない存在です
また、札幌チャレンジドは、パソコン講習以外でもボランティアさんに支えられています。まだ、常設の講習会場が無かった頃は、ノートパソコンを都度、借りる講習会場まで運んでいただくボランティアさんがいました。今は、月に一回、札チャレ通信という会報誌の発行作業をボランティアさんが20人くらい集まって、実に手際よくやっていただいています。約1,400部の封入封緘、宛名ラベル貼りなどを3時間ほどで終わらせます。黙々と作業をするのではなく、手と口を動かしながら、楽しそうに作業をされています。月に一回、この発送作業をみなさん、とても楽しみにしています。

私たちは市民活動です!

私は、講師の人たちに研修会で話すことがあります。『札幌チャレンジドのパソコン講習が、ここまで受講者に喜んでもらえて拡がった最大の理由は何でしょうか?』
答えは、『私たちは、市民活動としてパソコンを教えているからです。』心から、受講者にパソコンのスキルを身に付けてもらいたいと思って教えているからです。それは、単にパソコンのスキルを身に付けることが目的ではなく、パソコンのスキルを身に付けることが、チャレンジドの社会参加や就労に役に立つからという想いが全ての講師のベースにあるからです。
すなわち、目的は、パソコンのスキルを身に付けることにあるのではなく、チャレンジドの社会参加や就労などの自立のお手伝いをすることにあるのです。これが、札チャレがたくさんの方々に愛されている理由です。この心を持ち続ける限り、時代の進展とともに教える内容やスキルのレベルが変わっても、札チャレのパソコン講習を受けたいと思う人は、なくならないと思います。 また、講師には、こんな話しもします。『講師の皆さんは、受講者がとても熱心だから、自分が元気をもらって、一生懸命教えることができる。と言われますが、その受講者の熱心さの源は、講師の熱意ですよ。最初にあるのは、講師の熱意です。講師が一生懸命、理解して欲しい、見に付けてほしいという想いを持って教えているから、受講者がそれに呼応するのです』。札チャレ講習は、まさに、講師と受講者の熱意のスパイラルアップ(好循環)によって、創られているのです。

ボランティアの心得三か条!

私がボランティアさんの研修会で話す、「ボランティアとしての心得三か条」があります。この心得をいつも忘れずにいてもらえれば、とても素敵な時を過ごすことができます。
一つ目は、『今、優しい自分であるか?を自分自身に確かめてください』。人は、生活の中で起こる様々なできごとによって、心が揺れ動きます。ボランティアをするそのときに、今、自分が優しい自分であれているか?を確かめてください。優しい自分でいられていれば、ボランティアとして、失敗したり、人とぶつかったりすることはありません。
二つ目は、『継続は、義務ではありません』。ボランティアは、自分ができるときにできることをするものです。一度、始めたからといって、ずっと続けることを義務として考える必要はありません。一年でも二年でも、ボランティアができなくなっても良いのですが、その後、またできるようになったら遠慮しないで参加してください。
三つ目は、『ボランティアは、やらせていただくものと思えるかどうかです』。最初は、ボランティアは、やってあげるものだと思うのが普通です。間違っていません。でも、実際にボランティアをやってみて、私は、やらせてもらっているのだわ。と思えるようになったら、もう何の心配もいりません。相手に喜んでもらえるボランティアになれています。どこか心の奥底で、私はやってあげているという心がある人は、いつか、相手や周りの人とぶつかって、お互いに不愉快な想いをするでしょう。
これが、私が札幌チャレンジドで感じえた心得です。ボランティアをしている方やこれからやろうと思っている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。

新しい市民社会に向けて!

人々の生活の中でパソコンやインターネットが様々な場面で活用されている現代社会において、障害のある人たちにとっても、その活用は、人としての豊かさや可能性を大きく伸ばすものとなっています。
ITがもたらすものの本質がどこにあるのかを考えると、それは、便利さや効率性の実現ではありません。人と人がより理解を深めることであり、ITが無ければ実現しえなかったことが実現できることによって得る満足感です。全ては、ITを使う人の心のありどころが中心です。
その人、その人にあったITの活用方法を、独力で見出せないひとも大勢います。使い方が分からない、使いたくても普通のパソコンでは物理的な操作が困難である、目的が見出せないなど様々なハードルが存在します。
今、日本各地には、たくさんのパソコンボランティア団体が、そのハードルを低くする、取り除くために活動しています。その活動は、単にパソコンの操作方法を教える、学ぶということに価値があるのではなく、人と人が出会い、お互いを理解しあい、お互いが必要なことを自然に行うことに価値があります。
障害のある人へのIT支援の先にあるものは、障害の有無に関わらずユニバーサルな社会の実現に向けて、市民同士が助け合う「市民自治」の実現です。少子高齢化、経済成長が見込めない新しいパラダイムの社会がもう既に始まっています。その新しい社会を持続可能な社会として創っていくのは、「市民自治」です。
市民が自発的に考え、行動して一歩、一歩、歩んでいる全国各地のIT支援の取り組みは、まさに「市民自治」を具現化している素晴らしい現実です。より良いIT支援の輪を拡げていくことで、日本が、誰もが安心して暮らすことができる心豊かな国となっていけるように、みんなで力を合わせてやっていきましょう!