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障害者対策に関する新長期計画推進国際セミナー

総括質疑(東京会場)

広田(神奈川県精神障害者連絡協議会)

 ジュディさんにお尋ねします。91年に八代先生とご一緒に渡米した際、ジュディさん にもお会いしました。そこでお聞きしたいのですが、まず1点目は、ADAができてか ら精神障害者の問題がどのようによくなったのかです。2点目は、日本では欠格条項と 申しまして、精神障害者は通訳にもなれない、運転免許証も取れないという条項が何百 もありますが、アメリカではそのような欠格条項があったのか。あったとしたら、AD Aができて変わったのか、それとももともとなかったのかを伺いたいと思います。

ジュディ・ヒューマン

 法律ではある種の障害があるからといって、この仕事には就けないと言ってはならな いとあります。例えば精神障害とか、精神遅滞があるからといって、この仕事に就けな いというのは違法であるとしています。ですから、ある仕事に就くときには、2つの基 準について考慮がなされます。1つ目が、障害の有無です。アメリカでは障害が非常に 広汎に定義されているわけですが、例えば精神的、あるいは知的な問題があって、日常 の活動ができない場合、精神的な問題があったけれども、既に回復した場合、つまりそ ういった病歴がある場合、それからもしもほかの人がその人を障害者だと思った場合、こ の3つの場合のどれかを満たせば、その人は障害をもつ人ということになります。そし て、もし仕事に就く際に、障害のゆえに差別された場合はどうでしょうか。そこからさ まざまなプロセスが生じます。例えば精神遅滞がある人が、事務所で事務の仕事をしよ うと思ったとします。きちんと書類は並べられるし、時間通りに事務所にも来られるし、 十分に事務の仕事を行えると自分では思っています。にもかかわらず仕事に就けず、そ して、その理由が精神遅滞であった、あるいは精神的な障害が過去にあったからだとし ます。そのような理由で仕事に就けないというのは、完全に違法状態なのです。

「障害はあるか」、「イエス」です。そして「仕事に就く能力はあるか」、「イエス」です。 障害をもっていても、その仕事のほとんどの部分は、十分にこなす能力がある。だから、 それで断るのは違法ということになるわけです。例えば、車椅子使用者であっても、交 換手にはなれる。しかし、例えば料理長にはなれないかもしれない。障害をもつ人が、こ れになれる、これになれないというように、障害をもっているからという理由で差別を することは、アメリカでは完全に違法であると考えられています。

八代

 ありがとうございました。それでは続いての方、伺いましょう。どうぞ。

亀山(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会)

 スウェーデン、デンマークの関係でお伺いします。我が国日本と北欧諸国の社会保障 費というか、社会保障税、これと国民所得の割合についてです。北欧諸国は、日本と比 べて税の負担率がかなり高いにも関わらず、国民に不満がないというのを本で読みまし たが、実態はどうなのでしょうか。

 またもう1つのご質問は、ちょっとお伺いしにくい点なのですが、お年寄りや障害者 の自殺についての問題です。いわゆる1人住まいというのは非常に精神的に動揺を与え ると思われます。スウェーデンなどでは1人で6人ぐらい雇って、24時間を世話してい る。日本も24時間体制を取るようになりつつありますが、しかし、やはりこれは他人で あって、地域の中で自立自助をするをするにしても、スープの冷めない距離に近親者が いることが非常に大事なことではないでしょうか。制度やお金のほかに、自殺の予防と いう点について、どういう配慮をされているかということをお伺いします。

八代

 それでは伺いましょう。まず北欧の福祉、社会保障というのはかなり国民の負担率が 高いと言われています。日本はいま大体40%台だと思いますが、やがてこれを超えてい くだろうと思います。が、せいぜい45%以内で収めないと、日本は難しいというのが一 般論なのです。そこでスウェーデンはいま国民の負担率がどのくらいであるのか、デン マークはどのくらいであるのか。また先ほどはおおよそ50%、60%という数字を申しあ げてしまいましたが、アメリカについても伺いたいと思います。それではまず国民の税 の負担率を平均的で結構ですからお願いします。

ベンクト・リンドクビスト

 スウェーデンの場合は50%くらいだと思います。正確な数字はちょっとわかりません が、40%以上だと思います。

 それから自殺についてちょっとコメントさせていただきたいと思います。自殺率が一 般的に障害をもつ人の中で増えてきていることは、大変心配なことです。もしも1人で 住んでいて、自殺が増えているのであれば、大変心配なことです。ですから十分に検討 する必要があると思います。もしも孤独で自殺者が増えるということであれば、十分に そういった人たちを地域社会に統合することが行われていないのではないか。支援サー ビスが十分ではないのではないかと思います。

 私たちの国の場合には精神病院を退院した人たちの問題が大きくなっています。とい うのも、地方自治体に十分なサービスを提供する受け入れ体制が整っておらず、満足な 生活ができるような支援がまだできないからです。現在はまだ移行期で、そのような問 題があるために、自殺率が高くなったり、また事故が増えたり、暴力が増えたりしてい る面もあると思います。しかしながら、さまざまな経験の中から私たちが得た結論は、そ のような問題が起きたから、支援体制が十分でないからといって、施設に戻すことはや めよう、それよりも統合するほうが道筋であるということです。

 そして、個人的なことになりますが、もしも部屋にいて何もしなければ、より安全な 生活を送れます。逆に社会の中で活動すれば、楽しいことは楽しいけれども、リスクも 伴います。しかしそれは人間誰だってやっていることではないでしょうか。だからこそ 隔離をするのではなく、統合することが大切なのです。統合するほうがリスクは多少増 えるでしょうが、それだけの価値はあると思います。なぜなら、人生がより充実するか らです。きちんとしたサービスや支援が得られれば、生活の質はより高くなります。

ビヤタ・メリング

 自殺につきましては、日本からある新聞社の方が来られまして、自殺研究所に一緒に 行ったことがあります。なぜデンマークは福祉国家で老人の自殺率が多いか。その自殺 研究所の答えは、デンマークは福祉国家になる前から、これぐらいのパーセンテージの 人が自殺していたということでした。伝統といったらこれは大変言葉が悪いのですが、こ ういう国だったという答えで片付けられました。つまり、あまり自殺は福祉には関係な いというのが自殺研究所の方からの答えでした。

 それに対して、特に予防などの措置がなされているとは聞いておりません。

千葉

 精神障害者の件に関してちょっと触れますと、デンマークはまずノーマライゼーショ ンが知的障害者の分野から行われまして、精神障害のほうも、例えば1980年代には国立 病院で1,500床ぐらいあったのですが、現在はわずか60人から100人ぐらいしかいませ ん。これぐらい精神障害の方が、ノーマライゼーションの理念の下に在宅で生活してい ます。そして地域精神医療班というグループが、その人たちのケアにあたっております。

 税率についてですが、税率は大体デンマークでは45%から60%の間というのが平均で す。あとは間接税として25%の消費税がありますが、実際には、例えばミルク1リッ トルの値段が、内税を含めても日本の1リットルよりも安いというのが事実です。

 それから、先ほど八代先生から、地方分権やノーマライゼーションが進んで、何か変 わったことはなかったかというご質問がありました。例えば知的障害者の場合、インテ グレーションとして、それぞれ一般の住民の所に生活をするようになってきましたが、し かしそこで新たな社会隔離が起きました。そして、現在では知的障害者たちだけが案外 和気あいあいとしてやっていける、そういう環境、文化があってもいいのではないかと いう考え方が持ち上がっています。それを「サブカルチャー」と呼んでいますが、1つ の中に違った文化があってもいいのではないか。これは差別とかそういうものを抜きに した、まず人間としての平等性を尊重した上で、それぞれの文化があってもおかしくな いのではないか、そういう考え方なのです。

八代

 ありがとうございました。まだ時間はちょっとありますがご発言はありますか。会場 からどうぞ。向こうの眼鏡をかけた男性の方、聴覚障害の方です、どうぞ。

質問者

 地方分権が進むのはいいことだと思いますが、地方によって、豊かな地域も貧しい地 域もそれぞれあると思います。豊かな地域ではいい福祉サービスができると思いますが、 貧しい所ではいいサービスができない、そういう面についてデンマークではどのように 対策をされているのか、お伺いしたいと思います。

千葉

 国が小さいということを、1つ頭に置いていただきたいと思います。その中に273の地 方自治体がありますが、先ほど私が申しましたように、国はまず福祉のガイドラインの 大きな枠を作ります。そうしますと、その枠内で各自治体は好きなように、いろいろな 施策を行います。そこで豊かな町、あるいは貧しい町があった場合に、その国のガイド ラインのとおりの福祉が行われているか、行われていないか、そういうことがわかって くるわけです。そうしますと、財政の面で、地方交付税などを通じて調整が行われます。 ですから自治体間で経済的な地ならしが国によってなされているのです。

八代

 それでは続いて、今日ずっと朝から司会をされた成瀬さんが、どうしても質問したい とのことですから、お願いいたします。

成瀬

 ありがとうございます。具体的な問題提起をさせていただきます。障害者プランは、多 くの省庁が力を合わせて作成したという点で画期的なプランでありますが、ガイドライ ンが統一されていないために不都合が生じてしまいます。例えば「ハートビル・マーク」 と「シルバースター・マーク」はそれぞれ建設省と厚生省の基準を満たしていると与え られる標徴です。ところが、ハートビル・マークのホテルでは車椅子でトイレに入るこ とができますが、シルバースター・マークのホテルでは必ずしもそうはいかない。それ ぞれ基準が違うからです。

 次に、JRが開発した「人にやさしい券売機」について申し上げます。画面に表示さ れる行き先を指で示すと金額が表示され、その金額を入れると切符が出てくるという仕 組みです。視覚障害者が切符を買うことができないことを障害者団体が指摘し改善を求 めました。その結果、数字の押しボタンを付加して多少改善されました。抗議に対する JRの答えは「運輸省のガイドラインはクリアしている」というものでした。この券売 機は最近いくつかの駅に設置されましたが、足許部分が凹んでいないため車椅子のステッ プがぶつかって近寄れないので手が届かず、車椅子使用者にとっても使いにくい機械で す。もしも、運輸省の基準でなく車椅子使用者の手が届く範囲を考えて作られた別の省 の基準を使っていれば、このような不都合は起きないでしょう。省庁ごとに基準がこと なっているから困るのです。せっかくプランづくりに各省庁が力を合わせたのですから、 たくさんある「物差し」を一つにしていただきたい。基準について、みんなで考えよう という問題提起です。よろしくお願いします。

ジュディ・ヒューマン

 ワシントンにおいてはメトロという地下鉄のシステムがあるのですが、すべての駅で 障害をもつ人もアクセスできるようになっていますけれども、古いシステムのほうでは そうなっておりませんで、なかなか切符を買うのが難しい状況です。

ベンクト・リンドクビスト

 実はここに来るときに、ストックホルムの空港を経由したのですが、通常のカウンター ではチェックインができませんでした。というのは、カウンターに1つの機械があり、ボ タンがいくつか付いていて、いろいろ質問されるのですが、私は目が見えませんから全 く使えなかったのです。これではどこにも行けないということになってしまいます。こ ういう新しいチェックインの機械は、やはり私たちのニーズに合わせて、直されなけれ ばならないと思います。このようなことは、新しい機械を作るメーカーが常に冒す間違 いなのですが、例えば自動現金引出機にしても、私は目が見えませんから、機械でボタ ンを押しながら使用するのは大変難しいわけです。日本の会社に、是非我々でも使える ようなものを作っていただきたいと思います。

ジュディ・ヒューマン

 アメリカではATMという自動現金引出機は、点字でも使えるようにしなければなら ないことになっています。

ベンクト・リンドクビスト

 それではお金はアメリカで引き出すことにしましょうか。

八代

 ありがとうございました。確かに我々には一律に当てはめられる標準はなくて、今日 基準規則の話も出ましたが、個々の我々の生活の中におきましては、最大公約数的に切 られてしまうと、それ以下の人には困った事態になることがままあります。同じ車椅子 使用者でも十人十色です。同じ視覚障害者においてもまた違いがあると思いますし、そ れぞれの障害をもっている仲間たち1人ひとりにすべてを合わせるというのには、なか なかお金もかかるだろうと思います。

 そこで、今後、この障害者プランが地域の中で、どのように育っていくかを考えると きに、やはりたとえ小さな村でも、村民であると同時に県民であり、県民であると同時 に国民であるわけですから、国がしっかりとガイドラインを立てていく必要があります。 そして、それが正しく地方自治体の中に流れていくわけですが、その流れていく過程を 私たちがしっかりと見つめておくのです。障害者基本法の中に、障害者施策を考えるに は、必ず当事者が国の施策の中にも入っていなければならないとあります。もちろん地 方公共団体も、地方障害者協議会を設置するよう努力するとともに、そのメンバーには 必ず当事者が入って、一緒に考えていく必要があります。そうすれば、その過程におい て、物差しの違いも最小限にできるでありましょう。まさにこれからは国のガイドライ ンに沿って、県が、町が、村がどうこの障害者プランを活かしていくかということが大 切です。今年は重要な初年度であるという意識を持たなければならないと思っておりま す。

 併せて平成8年度予算では、厚生省が特段の予算を付け加えております。もうこれで 厚生省の役目は終わったというぐらいになりたいと思います。これからは建設省の問題 であり、運輸省の問題であり、通産省の問題であり、特にジュディさんが言うように、教 育、文部省の問題です。大蔵省がいまテンテコマイしている状況をいいチャンスとして、 正しく私たちの税金が使われるような施策を、この障害者プランの中に、少しでも活か していけるように、我々は運動を通じて、国に、あるいは地方公共団体にプレッシャー をかけていく必要があります。そのためには組織がしっかり強くなければいけません。1 人や2人では駄目であって、障害者別に集まっても駄目であって、お互いにみんなが手 を取り合って、大きな強い力になっていくことが大切だと思います。

 ベンクト・リンドクビストさん、ジュディ・ヒューマンさん、ビヤタ・メリングさん、 千葉忠夫さん。こういう世界を眺めながら、我々よりはるかに先の考えをもって走って いる皆さんの話を聞いて、私たちも新たな刺激を受けることができたと思います。太田 君の話ではありませんが、これからの運動に希望が沸いてきたと、こういう思いだろう と思います。もう1度、シンポジストの皆さんに、長時間にわたってのお疲れに対し、拍 手でお礼申し上げて、このシンポジウムを閉じさせていただきたいと思います。